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ミュウツー登場の横浜「Pokémon GO」リアルイベント、携帯各社の対応は

Pokémon GO PARK

 人々を動かすゲームを提供するナイアンティックと、日本の誇る人気コンテンツ「ポケットモンスター」がタッグを組み、世界を席巻したスマートフォンゲーム「Pokémon GO」の公式リアルイベントが横浜で開催された。

 リアルイベントは2種類あり、ひとつは8月9日~15日、誰もが参加でき、普段は見かけないレアなポケモンが登場する「Pokémon GO PARK」。もうひとつが、終盤の8月14日に横浜スタジアムで当選者のみ参加できた「Pokémon GO STADIUM」だ。

Pokémon GO STADIUM

 どちらのイベントも「スマートフォンの繋がりやすさ」がプレイ環境に大きな影響を与えており、ネット上でもさまざまな反響があった。イベントの模様はもちろん「ケータイ Watch」記者が見た現地の様子、そして携帯各社の対応をお伝えしたい。

来場者は200万人

 ポケモン社が横浜みなとみらい地区で開催するポケモンのイベント「ピカチュウだけじゃない ピカチュウ大量発生チュウ!」は今年で4年目。過去3年間の来場者はあわせて517万人(うち2014年は142万人)だったとのことだが、今年はPokémon GO公式初のリアルイベントが開催されることもあって、来場目標は1.5倍に設定していた。

 そして「Pokémon GO PARK」と「Pokémon GO STADIUM」の来場者数は200万人を超えた。ごく単純に考えれば、1日あたり約28.6万人が訪れたことになる。

 首都圏周辺で開催される短期のイベントの来場者数を見ると、たとえば2017年のニコニコ超会議は15万4000人(2日間)、今夏のコミックマーケット92が50万人(3日間)。ちなみに桁違いなのはいわゆる花火大会で、開催日がおおよそ1日で50万~100万人規模の大会は少なくない。その中でも日本一の人出を記録するという江戸川花火大会が139万人とされている。

桜木町駅前、繋がりません!

8月14日午後の桜木町駅前の様子

 筆者はイベント終盤の14日、家族を伴って「Pokémon GO PARK」に向かった。まず到着したのは、雨模様のJR桜木町駅。会場最寄り駅のひとつで、駅前ではピカチュウたちがまず出迎えてくれる。

Pokémon GO、遊べません
マップも読み込めない

 ところが、肝心の「Pokémon GO」はプレイできない。いや、Facebook、Twitterといったアプリを使って投稿を試みるも失敗が続く。このときドコモ回線を利用していた筆者自身の体感としては大規模な花火大会のときと同じように思え、Pokémon GOのサーバー側というより携帯電話のネットワークが輻輳に近い状況となっていたのでは、と考えたが、ユーザーの立場から断定するのは難しい。また、そもそもスマートフォンゲームのために訪れて、こうなるのはかなり辛い気持ちになった。同行した家族のうち、6歳の子供は文字通り肩を落としてしょんぼりしてしまい、父としては何とかせねばと慌ててしまう。

みなとみらい地区へ移動する道も混雑

 その後、駅前から少し移動し、横浜ランドマークタワーの入口(地上2F)あたりになると繋がりやすくなってプレイを再開できた。そのまま徒歩でみなとみらいへ移動してみると、途中、繋がったり繋がらなかったりといった不安定な状況が続いたが、桜木町駅前と比べると「Pokémon GO PARK」の本会場となるみなとみらい周辺(カップヌードルミュージアム、赤レンガ倉庫)は携帯各社の対策のおかげか、ずいぶん繋がりやすいように感じられた。おかげで、目当てのひとつだった「バリヤード」(欧州限定ポケモン)や、レアな「ヨーギラス」を無事にゲット。ただ、滞在時間の短さや、電波環境が安定しないこともあって「アンノーン」をひとつも入手できなかったのは多少悔やまれるところだ。

こ、このシルエット……バリヤードさん!
たくさん来日されていたようなので、弊家にもお迎えしました

Pokémon GO STADIUM、万全の体制に

 一連のイベントで、クライマックスと言えるのが横浜スタジアムで開催された「Pokémon GO STADIUM」だ。

開場前の横浜スタジアム
取材陣は一足先に中へ

 2015年9月に「Pokémon GO」が発表された際、そのプレイ内容を予告する映像が公開されたが、その中で最も興奮を呼んだのが、多人数でボスポケモンに挑むレイドバトル。今夏ついにそのレイドバトルが導入され、7月に米シカゴで開催された「Pokémon GO Fest」で“伝説のポケモン”(英語ではレジェンダリー、Legendaryと呼ばれていた)が解禁されたこともあって、「Pokémon GO STADIUM」では新たな伝説のポケモンが出現するとの期待が高まっていた。

【Pokémon GO発表時(2015年9月)のプロモーションムービー】
イベントへの参加方法

 「Pokémon GO STADIUM」は14日18時開始予定で、参加できるのは抽選で選ばれた人のみ。参加者にはQRコードが現地で配付され、それを読み取るとイベント開始という流れ。さらに15分ごとに参加者は入れ替わるという仕組みだった。

スタジアム内に特別なポケストップ
タップするとQRコードを読み取るよう案内。これは自分の番が来るまで絶対に読み取らないよう案内されていた
会場での案内

 1回目のイベントは、予定よりも15分ほど早く開始され、横浜スタジアムの映像ビジョンには、事前に公開されていた予告映像が流れる。既に見たことがある映像か……と油断していると、映像が切り替わり、その日登場した伝説のポケモン「ミュウツー」が現われる。会場にいた人からはどよめきと歓声。ネットなどでの予想では、既に登場していた「ルギア」の対とも言える「ホウオウ」が出現するのでは? との声もあったが、「ミュウツー」を予見した人は少なかったようで、大きな驚きを与えたようだ。

シルエットが見えた瞬間、大きな歓声
ついにミュウツーが!
【Pokémon GO STADIUMでのミュウツー登場時の様子(約28秒)】
プレイエリアに進む直前の参加者も喜ぶ
参加者が徐々にプレイエリアのフィールドへ
ミュウツーとのバトル直前
司会進行は足立梨花(右)と荘口彰久(左)
QRコードを読み取るとジムが現われ、そこにミュウツーの姿

 通常、街中で遭遇する伝説のポケモンはかなりの強敵。倒すのも難しければゲットするのも難しい。倒す際にはある程度の人数が必要で、最近では、そのために現場へ集う人同士でコミュニケーションが発生し、新たな出会いに繋がったとも聞く。ただ「Pokémon GO STADIUM」は十分な人数がいるため、5万弱ものCP(ポケモンの強さを表わす数値)を持つ「ミュウツー」であってもすんなり倒せた。しかもレイドバトル専用のモンスターボールは50個ほどプレゼントされ、なおかつ、普段の伝説のポケモンなら高難易度な捕獲の場面も、このイベントに限ってはボールが当たりさえすればゲットできる、という難易度に緩められており、事実上、来場者へのプレゼントといった格好。ちなみに「ミュウツー」はイベント後、一定の条件を満たしたトレーナーが参加可能な「EXレイド」に登場する予定だ。

CPがすさまじい……。勝てるかどうか正直心配になる
倒せました!
ゲットできました!

 横浜スタジアム周辺は、ポケストップや他のポケモンなど「Pokémon GOをプレイしたくなる何か」は表示されないようになっていたようだ。また、会場内でもミュウツーと戦うとき以外にはスマートフォンを利用しないよう、参加者へ何度もアナウンス。ドコモはスタジアム内に基地局を設置したとのことで、ソフトバンクもWi-Fiのアクセスポイントを、横浜スタジアムのフィールドに降り立った来場者に向けて電波が届くよう多数設置していた)。こうした取り組みによって、一定の通信品質が確保されたようで、「Pokémon GO STADIUM」は最後まで滞りなくプレイできた。来場者の中には、7月に行われたシカゴのイベントの様子を見聞きして無事開催されるか心配し、つつがなくイベントが進行したことに、歓びもさることながら安堵の気持ちを抱いた人もいた。

神奈川県から参加した4人。レベルは35~39でこの1年続けてプレイしてきたという
同じくナイアンティックが提供する「Ingress」をプレイする方も。お子さまは前日にプレイしはじめ、レイドバトルへの挑戦などで一気にレベル17になっていたという。今回のイベント全体への採点は10点満点中、7~7.5点とやや辛口
東京の男性と名古屋からの女性でともにレベル40とのこと。千葉から来た友人とともに参戦。今回のイベントは「10点満点」と高評価。初回入場組で「ネタバレに触れずミュウツーと知って大興奮した」
男性のほうはレイドバトルのメダルも金に達しているなど、すさまじい実績を誇るガチトレーナーだった

「コミケより難しかった」

 200万人以上が訪れた「Pokémon GO PARK」と「Pokémon GO STADIUM」は、その通信環境の違いが強く印象に残った。誰もが参加できた「Pokémon GO PARK」は会期前半と比べ、後半はレアなポケモンが登場するエリアや時間が拡大したとされ、人が分散するよう配慮されたが、それでも最後まで繋がりにくかったようだ。

 携帯電話会社側の対応を聞くと、たとえばNTTドコモは、本会場であるみなとみらい周辺に8月11日の昼から車載基地局を展開した。auは運用上、アラートが鳴るほどではなかったとのことで、近隣にある基地局の電波をチューニングすることで対応したとのこと。一方、ソフトバンクはもともと「Pokémon GO」のスポンサー企業でもあり、当初から車載基地局を展開したほか、他社ユーザーでも利用可能なWi-Fiスポットをみなとみらい周辺に設置しており、他社と比べ、手厚い対応になったようだ。

 ソフトバンクの取り組みは、いわばプロモーションとしての切り口がきっかけと言えるが、筆者の周囲、あるいは会場で幾人かに話を聞いたところ、「ドコモは繋がりにくい」「MVNOだと厳しい」「auもちょっと厳しい」「ソフトバンクは繋がりやすかった」といった声が散見された。これをもって繋がりやすさそのものの評価とするのは早計だが、少なくとも対応の姿勢については、3社それぞれの違いがあり、中でもソフトバンクがその立場もあって最も注力していたと言えそうだ。

ソフトバンクが横浜スタジアム内に設置したWi-Fiのアンテナ
こちらは臨時基地局
左からソフトバンクWi-Fi推進1課の桜井信氏、位置情報事業推進課の一石起強氏、Wi-Fi運用課担当課長の中嶋雅光氏
フェンスからフィールドに向けられたWi-Fiのアンテナ

 ソフトバンクのWi-Fi担当者によれば、こうした大規模イベントでWi-Fiを設置することはコミケのほか、フジロックなどの音楽フェスなどで経験済。仮に複数のWi-Fiアクセスポイントがあり、弱い電波に繋がったとしても、アクセスポイント側から切断して、より強い電波に繋がるような仕組みも採り入れられていた。今回も対策したエリアでは10Mbps程度の通信品質を維持できたとのこと。ちなみに通信のピークは毎日15時ごろで、一番、人手が多かった時間帯だろう。なお、ソフトバンクではWi-Fiだけではなく、携帯電話のネットワークでも予定を前倒しして2.5GHz帯を運用し、より繋がりやすい環境を作ったという。ソフトバンクユーザーのみならず、他社ユーザー向けのフリーWi-Fiも用意していたが、より周知を図るための取り組みが必要だったと振り返る。

 グループ会社のスプリントからはシカゴでの経験のフィードバックはうまく得られなかったようだが、準備にあたっては、当初の想定がどんどん変更され、再設計を繰り返したという。ちなみに、実際に始まってみてわかったのは、あまりに参加者が多く、人間の体が電波を遮っていたということ。想定では80m程度、Wi-Fiの電波が届くはずだったが、人が壁になったため、20m程度になってしまい再調整したという。

 またソフトバンクのWi-Fi担当者は、「コミケより今回のほうが難しかった」とも評する。コミケでは開場前の2時間程度が通信のピークで、オープンするとスマートフォンを操作するよりも買い物にいそしむ人が多いよう。しかしPokémon GOは、1日中、ユーザーがポケモンをゲットするためにスマートフォンを操作し続ける。花火大会や音楽フェスなどと比べても、そうした「ずっとスマートフォンを使い続ける」のは、Pokémon GOならではの現象だろう。多くの人が詰めかけ、しかもそうした使い方をするのは、世界トップクラスの通信品質を誇る日本の携帯電話会社にとっても、未知の要素はあったのではないか……と筆者は感じた。

 5G(第5世代の携帯電話用通信規格)の時代になれば、これまでよりも劇的に多くのアンテナを使うことでスポット的に通信速度が高速化する、という仕組みも想定されているが、4G時代の今、こうしたイベントに参加する場合は、キャリアが対策エリアとしている場所であれば多少なりとも繋がりやすくなりそう。今回のイベントでは、少し離れた駅よりもみなとみらい地区のほうが臨時の対策が進められ、ストレスを少しは減らせたのではないか。

無事に終えたイベントが何よりの成果か

 日本でのイベントに先立ち、7月に米国シカゴで開催された公式リアルイベント「Pokémon GO Fest」では、会場内で携帯電話がほとんど繋がらなくなり、参加者から大きなブーイングが上がり、主催からの補償は有償コインおよび、強力なポケモンである「ルギア」が配付された。満足にプレイできなかったことは大きな影響を与えたが、現地を訪れた身としては、それでも2万人もの人が集まりながらなお、プレイ以外の面では混乱はあまりなく運営されていたと思う。

 今回の横浜はどうだっただろうか。クライマックスの「Pokémon GO STADIUM」では入退場で大きな混乱もなく、スムーズに進みすぎて取材陣としては物足りなさまで感じてしまったが、運営側としては、日中、Pokémon GO PARKで遊んでから訪れるケースも想定し、「Pokémon GO STADIUM」では短いプレイ時間でスムーズに進行すること自体が一番の目標だっただろう。そしてそれは実際に達成でき、成功だったと言える。

 もうひとつのイベント「Pokémon GO PARK」では、繰り返しになるが繋がりにくい場所が多々あったことで、大きなストレスを感じた人も少なくない。また会場のみなとみらいを繋ぐ道は限られている。こうした会場を選んだことは、交通にも悪影響を与えていなかっただろうか。一方で、これまでゲットしたことがない珍しいポケモンとの出会い自体は果たせた人も多くおり、トレーナーに強いストレスと満足感の両方を印象付けた。特殊なイベントへの対応は難しい面があるのかもしれないが、今後、似たようなイベントがあれば、ナイアンティックとポケモン社には実環境面で、携帯電話各社には通信品質の面で、より良い対応を期待したい。

 とはいえ、ローンチから1年を経て、少し落ち着きを見せてきたアプリが、1週間のイベントで200万人以上も動かした例は他に類を見ない。今後も、もっと珍しいポケモン、あるいはもっと強いポケモン、はたまた何らかの新機能など、トレーナーを刺激する仕掛けが盛り込まれるだろう。同じくナイアンティックが提供するゲーム「Ingress」では今年11月に国内でイベントが予定されており、「Pokémon GO」とあわせ、人と動かすナイアンティックの取り組みに引き続き注目していきたい。