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医療を変える「超聴診器」~VR・AI・IoTのスタートアップが登場した「KDDI ∞ Labo」第11期の成果
2017年5月19日 06:00
KDDIは、スタートアップ支援プログラム「KDDI ∞ Labo」の第11期の成果を披露した。もっとも優れた成果を残した「KDDI ∞ Labo賞」として「超聴診器」を開発したAMI株式会社が選ばれた。
「KDDI ∞ Labo」(ムゲンラボ)は、10期よりスタートアップ企業が持つアイデアを実際のビジネスにつなげていくアクセラレータープログラムと進化。11期では新たに4社が参加した。10期の参加企業からは4社が継続して参加し、半年のプログラム期間中に実証実験や事業連携につながるケースもでてきている。「KDDI ∞ Labo」に参加したスタートアップが発表した粒ぞろいのサービスの一部を紹介する。
AIが診断「超聴診器」で突然死を減らす
「KDDI ∞ Labo賞」を受賞したAMI社の「超聴診器」は、心音を抽出し、心臓病の診断をアシストする機能を搭載した次世代の聴診器だ。同社代表の小川晋平氏は循環器内科医として、心臓病による突然死を減らすために起業したという。
心臓の鼓動音から異常を判断する聴診器は、実は200年前の発明からほとんど進化していない。超聴診器では心筋の活動電位と録音した聴診音を合成して精度の高い心音を抽出する技術を開発。AIを活用して心臓病かどうかを判断する機能も搭載した。これにより、推定患者数が約100万人いる大動脈弁狭窄症の早期診断が可能になるという。
また、AMIでは遠隔医療サービスの提供も視野に入れ、クラウド型の健康診断サービス「クラウド健進」として展開する。将来的には小型化した「超聴診器」によって遠隔医療での聴診も可能とする計画だ。
VR動画をマルチプラットフォームで作成「VRize」、ユニークなVR広告も
VRize社は、VR(仮想現実)映像を作成するツールを手がけるスタートアップ。従来、エンジニアが3カ月~半年かけて開発していたVR動画アプリを、1/10のコストと時間で制作できるというシステム「VRize Video」を提供している。
「VRize Video」では、リビングルームのようなVR空間で動画を楽しめるようなVRアプリを作成可能。離れた場所のユーザーが同じVR空間で動画を鑑賞できる。
さらに、VR空間内に動画広告を表示するアドネットワーク「VRize Ad」も展開。VR空間内のテレビに動画広告を表示すると、その商品の3DモデルがVR内に現れるといったユニークな広告も開発している。
「KDDI ∞ Labo」期間中には、JALのサクラテラスでVR動画を配信する実証実験を行った。J SPORTS向けのスポーツ体験VRアプリも開発し、高い満足度を獲得したという。
ユーザー好みの作品を提案する「WATCHA」、ビデオパスにも採用
韓国から参加した「WATCHA」は、ユーザーが楽しめる動画を提案するレコメンドサービスだ。iOS/Android向けの無料アプリとして提供されている。ユーザーが鑑賞した作品をレーティングするだけで、AIがユーザーの好みを分析する。
現在は映画やアニメなど動画作品が対象。作品の登録時にもAIを活用し、あらすじやレビューといったソースからタグを抽出。精度の高い提案を実現するという。ユーザーの興味を表示する機能、相性診断も搭載している。
「KDDI ∞ Labo」の期間中に日本での展開を強化。1日の作品レーティング件数が6倍となり、auの動画配信サービス「ビデオパス」もWATCHAのデータが採用された。今後は書籍や音楽へと対象を広げ、グローバル展開を目指す。
光で天気予報をお知らせする電球型IoTデバイス「TeNKYU」
「TeNKYU」は、電球型のIoTデバイス。Wi-FiやBluetoothでインターネットに接続し、情報を「色」で伝える製品だ。電球ソケットに取り付けるだけと設置が簡単で、アプリで設定すればその後の操作不要、メンテナンスフリーと誰でも使いやすい製品とする。
当初は天気予報に対応。玄関に設置しておけば、出かける前に自然と天気を知ることができる。アプリの機能追加により、来客通知や波の高さ、ラッキーカラーなどさまざまな情報を知らせる機能に対応し、切り替えて使えるようになる予定だ。
第10期から継続したプログラム
「KDDI ∞ Labo」の第11期には、第10期から継続して4社のチームが参加。実証実験や事業連携などを行い、それぞれの事業を一段高いステップまで進めた。
スマート水田をいよいよ実用化へ「paditch」
笑農和(えのわ)が手がける「paditch」(パディッチ)は、水田の作業を効率化するサービスだ。大規模経営が拡大する将来、もっとも負担が大きい水管理を効率的に行う「スマート水門」の実用化に取り組んでいる。
田植え~収穫までの間に必要となる水管理。重い水門をタイミングよく、手作業で開ける必要があり、稲作農家にとって負担がかかる作業だ。「スマート水門」は、通信機能を搭載し、水門の開閉をアプリから操作できる。
プログラム期間中にはスマート水門のハードウェアを量産試作まで到達させ、実用化への目処を立てる。パートナー企業の全農の協力で、収穫期一括払いにも対応するリース販売で、農家への導入を働きかけている。
超小型衛星でのサービス展開を加速する「AXELGLOBE」
超小型衛星を開発・運用するAXELGLOBE(アクセルグローブ)は、50機の衛星で世界中を毎日観測するという構想を掲げる。その実現に向け、2017年に3機目の打ち上げを予定している。
同社が販売するのは衛星画像を解析した“意味のあるデータ”だ。例えば水田を毎日撮影すれば収穫時期や収穫量の予測が可能になり、石油プラントを撮影すれば経済動向や資源状況を知ることができるという。
プログラム期間中には、実証実験や事業連携を進めた。三井不動産は駐車場候補地の選定や料金設定に衛星データを活用。三菱日立パワーシステムズは、衛星データをもとにした発電所向けのサービスを検討している。
第12期は既存企業とスタートアップをつなぐプラットフォームに
KDDI代表取締役副社長の髙橋誠氏は、スタートアップを取り巻く環境が変化しはじめている現状を指摘。国を挙げてのスタートアップ支援が始まり、アイデアを事業化する段階をサポートするインキュベータープログラムが多数登場している状況を紹介した。
KDDIのインキュベータープログラムとして始まった「KDDI ∞ Labo」は、多くの大手企業をパートナーとして、スタートアップ企業の拡大を支援するプログラムへと変化した。第12期では新たなステップとして「スタートアップは既存企業と事業をおこせるか」という課題にフォーカスしていく。
第12期以降の「KDDI ∞ Labo」は「事業共創プラットフォーム」へ変化。12カ月間という長い従来より長い期間の中で、実証実験とその結果の評価を繰り返す。サービスを洗練させていく中で、パートナー企業との事業連携の可能性を探っていくプログラムとなる。