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DeNA、「WELQ」問題で謝罪会見

 ディー・エヌ・エー(DeNA)は7日、キュレーションサービス「WELQ」に不適切な記事が数多く掲載されていた問題に関して、記者会見を開催。代表取締役社長兼CEOの守安功氏がユーザーや取引先、関係者、インターネットの利用者に向けて、「深く反省しております。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。取締役会長の南場智子氏も出席して謝罪した。

 守安氏は、「ヘルスケアのプラットフォームであるWELQで、根拠が不明確なまま、誤った判断に繋がりかねない記事を掲載した」と説明。ゲーム事業で急激な成長を遂げたものの、それも鈍化する局面を迎えて、新規事業を育成する必要性があった。メルカリやスマートニュースなどさまざまなスタートアップ企業が登場して成長を遂げるのを目の当たりにするなかで、キュレーションプラットフォームを展開する「iemo」「ペロリ」に出会ったことから、2014年9月に買収。

 ただキュレーションとしてメディア事業をするなかで著作権への意識や質の担保など、本来メディア事業として行わなければいけないことへの認識が、自身に欠けていたことが本件に繋がったと守安氏は説明する。

 なお、キュレーションメディアのうち、子会社が独立して運営していたという「MERY」についても記事の内容をひとまず自動チェックツールなどで調べたところ、医療面で信頼性に欠く可能性があるもの、あるいは引用の範囲を超えて著作権を侵害している可能性があるものが8割存在していたため、残り2割の記事の検証をするためにもいったん全て非公開となった。

 今後、第三者委員会による検証を進める。事実確認と原因究明、企業風土、コンプライアンス、組織運営の背景などを含めて調査をする。守安氏自身も調査対象になる。結果が判明次第発表され、関係者の処分も行われる。WELQの記事で健康被害を受けた人や、記事の出典などに懸念を持つ人からの問い合わせを受け付ける窓口を設置し、真摯に対応する。

 東京都からも呼び出しを受けて、一連の経緯と報告を行ったとのこと。

守安氏(左)と南場氏(右)

創業者の南場氏「愕然とした」

 同席した南場氏は、DeNA内でヘルスケア事業を担当する役員でもある。自身がリードしてヘルスケア関連の情報に特化したWebメディア「Medエッジ(メドエッジ)」を2014年8月に立ち上げた。学術論文などを健康に関心のある人へわかりやすく伝えることを目指したというが、ユーザー数に伸び悩み、事業としては終了。コンテンツの一部は今回問題になった「WELQ」にも移管されていた。

南場氏

 家族の闘病を支えるために社長職を2011年に退いた南場氏は、家族の闘病生活がスタートした時点でネット上でさまざまな情報を調べて、2011年の段階で「信頼できないと思った」という。

 今回「WELQ」で信憑性に乏しい医療関連の記事や、DeNAの手がけるキュレーションサイトで他者の著作権を侵害した疑いがあることについて「知ったのは報道を受けて」と率直に述べ、WELQで「ガン」というワードで検索して記事が出てきた際には、「いつから(医療という分野で)重要な情報を扱うようになったのかと愕然とした。経営者として不覚です」と悔やむ。

事業責任者、姿を見せず

 DeNAでキュレーションメディア事業を統括していたのは、村田マリ執行役員(MERYは子会社のペロリが運営し、中川綾太郎氏が取り仕切っていた)。iemoを起業し、DeNAによる買収後、そのままキュレーションメディアを任される格好となった村田氏だが、今回の会見には姿を見せない。

 シンガポール在住とされる同氏の姿がないことについて、守安氏は「社会的にも大きくお騒がせする問題。今回は会社のトップがきっちり話すのが一番良いだろうと判断した」と説明。問題にいたった経緯など全容が解明できておらず、責任の所在もまだこれから、という段階のためだ。

制作プロセス

 DeNA内でのキュレーションメディアには、記事執筆用のマニュアルが存在することが先行して報じられており、守安氏も「(マニュアルの存在を報じた)Buzzfeedのニュースで知った」とコメント。村田氏も報道で知ったと説明する。

 このマニュアルは、直接、Web上のコンテンツの盗用を推奨する文言ではないが、一部を改変することで著作権の侵害を回避するような内容と守安氏は判断。著作権を実際に侵害したかどうかは、記事一つ一つによって異なり今後の調査を待つ姿勢としたが、守安氏は「著作権者への配慮が欠けていた。痛切に反省している」と述べ、厳しい状況との認識を示す。

 著作権を無視し、ブログなどから写真や文章をそのままそっくり持ってくる例があったと指摘があるなかで、報道陣からは、かつてコンテンツを盗用して問題になった企業(WebtechAsia)のバイラルメディア「Buzznews」に関与していた複数人のスタッフが、DeNAに入社し、キュレーションメディア事業に関わっていたことについての質問もあがる。採用のきっかけは村田氏の知人だったから、と守安氏が語った一方、南場会長は採用の経緯を明らかにした。

南場氏
「経営会議でも議論になった。過去に問題を起こした若い人物。ネット上で大変炎上したが、心を痛め大きく反省し、お詫びしているのであれば、もう一度チャンスを与えてみようじゃないか、私に会わせてもらえないかと発言して実際に会って確認した。(採用後)しっかりと当社として教育できたのか、考え方、やり方を、つまびらかに知らないけども、結果として同じような過ちを当社が犯してしまった。ただ、その個人が直接関与していたがどうか、そこはまだ明らかになっていない」

守安氏肝いりのはずが……

 信頼性に欠ける医療情報、盗用・改竄の疑いがある多くの記事と著作権侵害を薦めるかのようなマニュアルの存在、極めて安い原稿料でのクラウドソーシングへの発注――守安氏が次なる成長軸と期待して新興企業を買収し、DeNA内で新たに立ち上げたキュレーションメディア事業は、今回の会見だけでも、検索サービスの機能を踏まえたPV向上をひたすら狙い、安易で品質にこだわらないコンテンツの大量制作に突き進んだ現場の姿を垣間見せた。

 報道陣からは守安氏自身の進退について問う声も上がるが、守安氏は辞任する意志はなく、今回の事案へ真摯に取り組む姿勢を強調する。南場氏も「守安氏はサービスを愛して、ユーザーも大好き。それでいて(経営にまつわる)数字も大好き。ただ数字への強さが社内に伝わってしまう。(守安氏から)遠くに居る人間ほど数字マニアと感じるが、近くにいるとサービスを愛し、新しい価値を提供したい人だと認識するだろう。私の一存では決められないが、引き続き社長をやってもらいたいと思っている」と静かな口調ながら、力強く語る。

 しかし質疑の終盤、“サービスを愛する”と評された守安氏自身に「中身に全く興味がなかったようだ」という声が挙がる。これに守安氏も、キュレーションメディア事業において自身が関与したのはユーザーインターフェイスなどサービスの使い勝手の部分に留まり、メディア事業の中心たる記事の内容やその製作プロセスにはノータッチだったことを明らかにする。最初にローンチしたキュレーションメディアが女性向けファッション、そしてインテリアを題材にしており、守安氏がユーザー対象ではなく、「コンテンツに対して口を挟むことは適切ではないと考えた」ためだという。その上で同氏は「興味を示していなかったと言われればそうかもしれない」との言葉を残した。