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離島が抱える課題を情報発信とマーケティングで解決

KDDIが離島を応援する背景

 KDDIが12日に発表した離島応援プロジェクトの新たな施策「しまものラボ」。同日には、鹿児島県喜界島の喜界町役場において発表会が開催された。

喜界町 副町長の嶺義久氏
喜界町商工会 会長の朝崎福利氏

 発表会の冒頭、喜界町 副町長の嶺義久氏が挨拶。同氏は、「喜界島は奄美群島内でも黒糖に関するもの、在来の柑橘類、タンカン、マンゴーなどの果物類、白ごま、そら豆など、多数、高品質な農産物やその加工品を産出している。外貨を稼ぐ手立てとして、原料や島で加工した品物を販売している」と島の魅力を表現する一方で、「その方法は生産者が独自に試行錯誤で行っている。どうしても南海の離島という条件から、販売ルートの開発や商品のイメージアップにつながるパッケージのあり方など、発信力に弱い」という課題があると語った。

 同氏は、今回スタートした「しまものラボ」に対し、「本講座で島外の人たちにどのように購買意欲をかきたてるかを具体的にご教示いただけるものと考えている。町としても積極的にバックアップしていきたい」と期待を示した。

 喜界町商工会 会長の朝崎福利氏も「商工会では産業の枠を超えた新商品の開発や販売開拓の事業等を積極的に推進している。その中で『しまものラボ』という販売力強化につながる本機会は、非常にありがたい。近年、喜界島はさまざまなメディアに取り上げられており、そのような機運も生かしつつ、島の特産品の発信、販売拡大につながればと思う」と述べた。

7000人の飯田橋オフィスで人口7000人の喜界島をサポート

KDDI 理事 九州総支社長の三井智氏

 また、KDDI 理事 九州総支社長の三井智氏は、これまで同社が行ってきた離島向けの施策を振り返りながら、今回の「しまものラボ」の狙いを説明。同氏は、「KDDIでは『人々の思いをつなぎ、笑顔を届ける』ことをテーマに、情報通信の会社としてCSR活動を積極的に行ってきた。2014年3月から『沖縄離島15の春』というプロジェクトをスタートした。15歳を迎え中学校を卒業する皆さんにITリテラシーを学んでいただき、ネットによるいろんな事件・事故に巻き込まれないようにしようと、このプロジェクトを発足した。このプロジェクトを通して、それぞれの離島の方々が抱えている問題を知ることになった。離島は、なかなか情報の発信が行えなかったり、若い方の働く場が無かったり、良い商品があり、魅力的な場所があるのに、うまく情報発信ができないという問題を抱えていらっしゃる。これについて、KDDIが持つリソースを使って、どうにかお手伝いできないかと考えてきた」と振り返る。

 そこで、2015年12月に離島を応援する「しまものプロジェクト」を発足。「情報発信」と「マーケティング」の2つを柱にし、実際に良いものをいかにして情報発信していくか、また、自分たちが持っている商品をいかにアピールし、さらに良いものに育て上げていくというマーケティングのノウハウを伝えていくことにした。2015年12月17日、第1弾として、au WALLET Marketでの島の産品販売する「しまものマルシェ」をスタート。2500のauショップでそれぞれの島の商品を紹介することにも取り組んできた。その結果、リピーターも生まれ、好評を得ているという。

 三井氏は、「この活動を通して、実際に販路が広がった、売り上げも伸びたと喜んでいただいている。福岡県の能古島にある『NOCOHACHI』という商品は、しまものマルシェで取り扱うことで売上が約10%増となり、安定した売上の確保につながった」という事例を紹介。

 第2弾となる「しまものラボ」は、「自分たちが持っている商品を知り、自分たちの持っている商品の強みをいかにアピールしていくか、ICTを使ってそれをどう実現するかというノウハウを理解していただくというプロジェクトになる」(三井氏)。5回構成の講座の前半では、自分たちの商品の強み・弱みを知り、弱みをどう改善し、強みをどうやって伸ばしていくかを考える。後半では、商品のウリをどのようにアピールしていくのかを学ぶ。

 さらに、同氏は「auスマートパスに商品モニターというサイトがある。お客様は通常の価格よりも安く商品を購入することができ、その代わりにアンケートに答えていただくということで、ストレートな消費者の声を収集できる。これをうまく活用しながら、喜界島の皆さんが持っている商品をさらに魅力的なものにしたい。あわせて飯田橋にある本社で『KDDI離島応援マルシェ』という形で直売会を開催していきたい。社員7000名+近隣の企業の方、住民の方にご参加いただき、直接島の商品に触れて、率直な意見をいただきながら、さらなる商品力アップにつなげたい」と、KDDI全体で人口7000人の喜界島をサポートすることを約束。

 三井氏は、「KDDIはICTを活用し、今後も離島の皆様の活性化につながる取り組みをやっていきたいと考えている。最近では人工知能やARなど、いろんなICTの技術が進み、今のICTの技術を使えば、魅力的な商品を日本だけでなく世界に向けて発信できる。大きなコストをかけず、自分たちの魅力的な商品を発信できるという環境をうまく活用し、島の発展につないでいただきたい」と抱負を述べた。

魅力の再発見と伝える工夫

NPO法人 離島経済新聞社 統括編集長の鯨本あつこ氏

 一連の離島向け施策をコーディネートするNPO法人 離島経済新聞社 統括編集長の鯨本あつこ氏は、「冬場は島の観光客が少なくなり、商品の売れ行きがあまりよくないという悩みを持っていた。『しまものマルシェ』に出品することで、冬場の売上アップにつながり、通常では雇わないパートさんを冬場も雇用できたという話がある。全国展開をすることによってスタッフのモチベーションアップにつながったという話もあった」と、これまでのプロジェクトの動向を紹介。

 鯨本氏は、「日本には約400の有人離島がある。都市部と物理的に離れているが、最近では離島とついていることが逆にブランド価値につながるという面もある。物理的に離れているが今はインターネットでつながっている。しかし、情報発信しようとしても、ものすごい量の情報があるので埋もれてしまう」とした上で、「自分の商品のウリと課題を知ることで、本質を探る。その本質を探る中で、どんな魅力があるのか、どんな人が喜ぶものなのかということを明らかにし、その上で本当に届けたい人へ届ける言葉を見つけていく」のが今回の講座の目的だと説明する。

通信環境の改善がチャンスに

KDDI CSR・環境推進室長の鳥光健太郎氏

 プレゼンテーションの終了後に行われた質疑応答では、KDDI CSR・環境推進室長の鳥光健太郎氏が「発案自体はKDDIと離島経済新聞社でこのプロジェクトを開始するにあたって、いろいろな情報を集め検討した結果、町や商工会のバックアップもあるということで、喜界島にラボを開設することにした」と喜界島を選んだ理由を説明。

 副町長の嶺義久氏は「喜界島はこれまで光ブロードバンドが来ていなかったが、今年の2月1日にそれが可能になり、いろんな情報を高速で発信できるようになった」と、島の通信環境の変化が大きなチャンスにつながった背景を語った。

 喜界島以外での実施や、観光など他のテーマに関する講座の可能性については、「今のところ具体的な内容は決まっていない」(島光氏)としながらも、プロジェクトの状況を見ながら、さまざまなサポートを行っていくとしている。

第1回の講座も開催

 12日の発表会終了後には、プロデューサー/ブランドコンサルタントの松田龍太郎氏を講師に迎え、「しまものラボ」の第1回講座が開催された。同氏はさまざまなアイデアをいかに結びつけて新たな価値を生み出し、それをどのように消費者に伝えるのが効果的なのかを解説していた。

第1回の講座の様子
講師の松田龍太郎氏