インタビュー
「ARROWS M01」「ARROWS M305/KA4」に見た富士通の本気
「ARROWS M01」「ARROWS M305/KA4」に見た富士通の本気
本質的な使いやすさとカスタマイズ性を追求した2モデルが狙うもの
(2015/3/27 07:00)
大手キャリア向け端末としてARROWSシリーズを開発してきた富士通が、2014年末からオリジナル端末となる「ARROWS M01」をMVNO向けに提供している。イオンスマホでいち早く採用され、続いて楽天モバイル、NifMo、そして3月21日には家電量販店など計14社での取り扱いも発表された。
さらに、同社はM01と似たスペックのSIMフリーモデル「ARROWS M305/KA4」を法人向けにBTOオプション付きで販売するなど、ここに来てMVNOとSIMフリーに関わる積極的な展開が目立ってきている。キャリアビジネスとは違う独自の端末が生まれた理由と、その狙いはどこにあるのか。また、一見似た外観をもつ2機種にどんな違いがあるのか、同社ユビキタスビジネス戦略本部 モバイルプロダクト統括部の今村氏と、同タブレットプロダクト統括部の磯部氏にお話を伺った。
キャリアモデルよりもシンプル、使いやすさをアピールしたい
――まずはコンシューマー向けの「ARROWS M01」について伺いたいと思います。M01はMVNO各社で順次採用されていますが、このようなSIMフリー端末、オープンマーケットモデルを開発した経緯を教えていただけますか。
今村氏
いろいろなMVNO事業者が登場してユーザーの選択肢が増えてきたので、その中でもキャリアのモデルではない我々の端末をユーザーに見せていきたい、という気持ちで始めました。キャリアのビジネスはしっかりやりつつ、富士通ブランドの端末を世の中に出して、それをユーザーに届けるという1つのチャレンジでもあります。タイミング的にはタイムリーに出せたかなと思いますし、これはチャンスだと捉えています。
――キャリア向けの端末とはコンセプトからして異なるのでしょうか。
今村氏
キャリア向けのモデルはどんどん新しいことにチャレンジしていくもので、サービスも含めた開発が非常に大きいんです。しかし、MVNO向けは低価格でもきちんとしたものをユーザーに届けることが重要になってきます。基本機能がしっかりしていて、なおかつコスト的にもユーザーの負担の軽いものを、というところでキャリア向けとは違います。
電話、メール、ブラウザなど基本的なものはしっかり使えるけれど、それ以上はそんなに必要ないというユーザーがターゲットですから、使いやすさはきちんと考えながら、高機能なところはそぎ落として、コストとのバランスをきちんと作っていくという考え方です。
――そういったコストバランスを考える中で、実装する機能面で工夫や葛藤などもあったのではないかと思うのですが。
今村氏
商品企画としてはできる限りの機能入れたいんですが、どこまで機能を入れるのか、というところでせめぎ合いがあったのと、今回電池もちを重視してバッテリー容量を大きくしたので、サイズ的に厚くなってしまうところも賛否ありました。厚みがあってもホールド感をよくすることで、ネガティブにならないように作っていくのは、すごくこだわったところですね。
それから、防水は基本中の基本。そこは海外メーカーとは違うところだと思っています。ずっと国内マーケット向けに開発していたので、防水とストラップホールはあって当たり前で、これらは迷うことなく盛り込みました。
――他社のSIMフリーモデルなどの動きを見ると、ある意味、型落ち製品みたいなものを安価に提供しているように感じるところもあります。M01は新たに開発したモデルということで、それらと比べるとちょっと違いますよね。
今村氏
マーケットに合ったものをきちんと出さないと、と思ったのでゼロから考えたというのはありますね。法人マーケットにも提供するにあたり、富士通のブランドをアピールしたいとも考えました。
――後ほど詳しく伺いますが、外観は法人向けの「ARROWS M305/KA4」と良く似ています。
今村氏
発表・発売は同じくらいの時期になってしまいましたが、企画としては両方別に考えていて、その後共通化できるところは共通化しようということで進めてきました。コンシューマーとビジネスの各マーケットで特化しなければならないところはキープしつつ、合わせられるところは合わせようと。
――端末スペックを決めるにあたってはMVNO側から要望があったりしたのでしょうか。
今村氏
今回の端末開発は全て我々が主導しています。MVNOの方と話をしても、スペックについてはそれほど強い要望はお持ちでなくて、どちらかというと、その上に乗るアプリをこうしてほしい、という声はいただきます。どう売っていくか、どうサービスしていくかという方向性で、端末はこうあるべき、みたいなものはありませんでした。ARROWSブランドの安心感がほしいという感じですね。
――発売後の市場の反響はいかがでしょう。どういう層に一番売れていますか?
今村氏
予想よりも購買年齢層は高いですね。イオンスマホは一番早く販売を開始しているので、そこに引きずられているところがあるとはいえ、年齢層が高いと思います。ARROWSだけがそういう層に選ばれているわけではなさそうですが。
――富士通では初心者・お年寄り向けの「らくらくホン」や「らくらくスマートフォン」シリーズを開発してきました。そこでのホームアプリの開発ノウハウや音声の聞きやすさへの配慮、こだわりなどを受け継いでいるのがポイントとなるでしょうか。
今村氏
そういう部分もあると思います。地道にやっているところはキャリアモデルよりも訴求しやすいかもしれません。というのも、キャリアモデルはそのキャリアのサービスとひもづいているところがありますし、常に最先端の機能を載せていくイメージが強いわけです。我々が重視している基本機能の使いやすさ、快適さみたいなものは、製品カタログで紹介すると後ろの方にある感じですが、M01はARROWSブランドとして我々がこだわっている部分を中心に言えるいい機会ではないかと考えています。
――M01におサイフケータイや指紋認証などの機能を搭載しなかった理由は?
今村氏
おサイフケータイについてはそれに付帯するサービスが必要になります。我々メーカーだけではなく、サービスを提供する側の問題をクリアするというハードルもあったので、今回は搭載していません。
指紋認証はコンシューマー向けとしての必要性とコストを見て、今回は省略しました。世の中でセキュリティの重要さがもっと認知されるようになればやりたいのですが。Mobile World Congress 2015で出展した虹彩認証についても、こだわりとしては、聞きやすさなどと同じくらいのウェイトでやっているので、いずれ新機種に載せたいとは思っています。
――国産ということで、サポートに期待されるユーザーも多いのではないかと思います。
今村氏
サポートについてはパソコンビジネスをやっているので、そのベースをスマートフォンに転用しています。サポート窓口の電話などに問い合わせてもらえれば対応いたします。もともとPCでやっていたことですから、ユーザーにご不便やご迷惑をおかけすることはありません。
――キャリアの新モデルはだいたい半年に1回ほどのペースで発表されていますが、このシリーズはどのくらいのペースで新製品を出していくイメージですか?
今村氏
現時点で決まっているサイクルのようなものはありません。市場の状況を見ながら対応していくことになると思っています。ニーズが高まってきたら時間をかけずにすぐ対応できるように準備しておく、といったところです。
法人市場に「ARROWS M305/KA4」を加えて“オール富士通”を目指す
――次に法人向けのM305/KA4ですが、外観を見るとM01とほぼ同じようです。特徴はどんなところにあるでしょうか。
磯部氏
法人向けとしては、デザインとして派手ではなく、片手で持って使いやすい、というところが担保されていて、“聞きやすい・見やすい”の2つがちゃんとしていれば、商品として成り立つだろうと考えました。このあたりは、有機ELディスプレイにして、「スーパーはっきりボイス4」で聞きやすくするなど、ベースの機能にはしっかり配慮しています。
電池はきちんと日持ちする容量にして、交換できるようにしたのでちょっと厚みが出てしまいましたが、端末のホールド感は悪くないと思っています。会社で使う以上は紛失してしまうと個人情報漏洩につながりかねないので、指紋認証機能も搭載しました。
――外観は似ていても色や表面加工など微妙に異なっているところがあります。これはコンシューマー向けと法人向けとでニーズの違いを意識したからでしょうか。
今村氏
コンシューマー向けはどちらかというと機能的なものは排除して、見た目、ファッション的に優れているように見せる、というの部分があると思います。法人向けは、より機能的に、滑らないようにという点に比重を置いています。ボディカラーもコンシューマー向けは明るめにして、少し派手な方向性にしていますが、法人はどこに持って行っても目立たないブラックにしていますね。
傷が目立ちにくく、滑りにくいようにシボ加工を施しているのは、今回法人向けとして展開する上で、例えば医療分野の管理用端末やレストランのオーダー端末に使ってもらうことも考えているためです。防水・防塵性、耐薬品性のほか、運送業を考慮した手袋操作もできるようにしています。この辺はコンシューマー向けのM01にはありません。
――それ以外に違いは?
磯部氏
BTO(Build to Order)オプションを用意しています。Androidには今までBTOというものがありませんでした。なぜなら、内部のハードウェアを変えるたびにシステム全体をビルドし直さなければならなかったからです。なので、BTO自体をやるのが技術的に難しかったのです。
それから、ODM(外部委託製造)ベンダーで作るような場合だと、お客様からオーダーがあってから作り始めるのが難しいんです。我々の場合は国内の自社工場で作っていますので、1~2週間あれば対応できます。それに十分見合う形でBTOが組めるのは、国産ならではの強みだと思っています。
――BTOのパターンはどうなっていますか?
磯部氏
実際はBTOのベースとなるパターンについては3種類に絞っています。メモリは1GBのものと2GBのものがあり、ストレージは8/16/32GBの3つありますが、1GB/8GB、2GB/16GB、2GB/32GBの3つのパターンから選んでいただけます。あとはNFCの有無が選べて、カメラを無しにすることもできます。
このカメラを無くすオプションですが、実はお客様と話をしていると、端末の自社での使用を禁止されるというよりは、端末を持って別の会社へ行った時に、カメラ付きは持ち込めないと言われることがあるそうなんです。
個人情報を扱うような会社は、カメラ付き端末はロッカーに保管する場合があります。お客様によっては、ドライバーとハンマーでカメラレンズを割ってから持って行く、というやり方もしているそうなので、そういう話を伺うと“カメラ無し”端末はニーズがあるはずだと考えました。
――BTOオプションではどういうモデルのニーズが高いのでしょうか。
磯部氏
今のところは、いろいろ試し買いをしていただいている段階で、BTOオプションでカスタマイズしていない一番安価なベース端末か、余裕を見てそれより1段上のスペックのものを選ばれることが多いようです。用途が定まっていない場合もメモリ2GBのものを選ばれることがありますね。法人であれば購入できますが、屋号があるなら個人事業主でも購入できます。
――ここまでBTOでカスタマイズできると、本体価格にも影響が出そうに思いますが。
磯部氏
お客様の一番の要望は、安さだったりもします。値段が高いだけで話に乗ってこないお客様もいますし。中国ベンダーに匹敵するほど価格を下げられていませんが、そこに近づけたものをベースモデルとしてエントリー向けに用意しておいて、あとはお客様のニーズに合わせてグレードアップするという考え方は、こだわるべき部分だと思っています。
この端末を企画した理由の1つでもあるのですが、我々としては“オール富士通”でプロダクト全体を提案していきたいんです。会社の仕組みの中に富士通のPCはあっても、スマートフォンがないとなれば、そこだけは他社に話をもっていかないとなりません。互いに親和性の問題が出れば、解決に時間がかかってしまいます。“オール富士通”でワンストップで提案できる状態にするのが、我々の重要な課題だと考えています。
――そうなると「通信も」という話にもなりそうです。
磯部氏
実は「FENICS II ユニバーサルコネクト」というネットワークサービスも用意しています。我々は元々ネットワークを売っていて、金融系に納めているソリューションもあります。回線、端末、システム全体をあわせた商談になれば、お客様への還元も可能になるかもしれませんし、もちろん端末の導入台数が増えれば量産効果的な価格メリットもご提案できるかもしれません。
しかし、ネットワークはあっても、正直なところキャリアの回線の値引率にはかないません。音声付きプランもキャリアが強くて、我々はなかなか参入できないんです。ただ、MVNOが出てきたり、今後のキャリア間同士の競争も含めて、マーケットが変わってくれば契約も多様化してくるはずなので、トータルで悪くないと思える時がくるものと信じてやっています。
――法人向けとしてはデュアルSIMの端末を考えても良いのでは?
磯部氏
検討しましたが、もう少し先かなと思っています。音声とデータを別にして、音声は3Gなど安い回線にするのは響くかもしれない、ということで検討し始めてはいますが、まだ具体化はしていません。
――今後BTOオプションで他のパーツが設定可能になることはありえそうでしょうか。
磯部氏
端末利用の価値につながるものは、スマートフォンのファンクションという意味ではそんなに多くないだろうと思っています。個人的には指紋認証と虹彩認証を切り替えるのはあったらいいなとは思いますが、技術的には難しいところです。
認証方式としては指紋・静脈・虹彩の3種類があるので、今後どういう風に製品と絡めていくかは課題ではあるんですけども、静脈と虹彩認証についてはまだ直近、目先のBTO製品に適用できるレベルではないですね。
――対応する周波数帯域を変えるのは難しいですか?
磯部氏
バンドに関しては意識はしています。M305/KA4は、実質的にはドコモ系のネットワークに合わせ込んで作っているところがあります。定額制のデータ通信を、ということで考えると、実質SIMフリーで使えるのはドコモ系しかないのが実情だからです。
ですが、将来的に他社がそういったサービスを追加してくる想定で、他のネットワークで使いたいといったニーズが出てきたらどうするか、というのは内部的には検討を進めています。しかし、まだどう実現するかを含め議論している最中です。
――ハードウェアのBTOだけじゃなく、ソフトウェア部分のカスタマイズも請け負っていますね。
磯部氏
これまではお客様が設定することを代行するのが一般的なキッティングでしたが、今回の端末では、「カスタムメイドプラスサービス」の中で、端末の一部機能の有効・無効などもソフトウェア的に切り替えられるようにしています。お客様が導入時に別途キッティングベンダーに依頼しなくても、我々の方でできる体勢を整えて、なるべくワンストップでご提案できるように、と考えました。
これで終わりにはしない
――Android端末では、OSのバージョンアップがあるかどうかは特に法人ユーザーが気にするところではないでしょうか。
磯部氏
我々としては、出荷した状態を担保しなければいけないと思っています。つまりOSのバージョンを変えることはありません。例えば100台導入した後にOSバージョンアップによって再度お客様が100台分の動作検証をしなければいけないのは、業務を止めることにもなりかねませんから。
セキュリティパッチ対応については優先度が高いと思っていますので、FOTA(ファームウェアアップデート)という形で継続的に提供していく予定です。
――VoLTE対応などが追加されたAndroid 5.1の話も出てきていますが、これを端末ごとに個別対応するようなこともないですか?
磯部氏
個別対応でできるほど簡単ではないんですよ。ゼロから開発するようなレベルで、カスタマイズではないんです。対応するとしても今後の新端末で、それに切り替えてもらうという考え方になると思います。
――Windows Phoneはいかがでしょうか?
磯部氏
検討はしなければならないでしょう。ビジネス化できるかどうか、冷静に判断して結論を出さなければならないと思います。
――法人向け、コンシューマー向けそれぞれの今後のロードマップがあれば教えてください。
磯部氏
まだすごく“柔らかい”状態ですし、現時点でお話できるところではありません。今回のモデルは半年スパンなどではなく、1年、1年半となるべく長く続けていきます。後継機もどこかで提供しなければいけないでしょうが、富士通としてトータルのラインアップの中でどういう風に作り、どう提供していくのかは、全体最適化の中で考えるところです。いずれにしろ、これで終わりではありません。
今村氏
コンシューマー向けもそうです。OSバージョンアップの考え方も法人向けと同じです。商品にはライフサイクルがあり、ずっと同じものを売り続けるのは限界がありますので、いずれ新しい機種を出すことになると思います。法人向けとは、もしかするとサイクルが違うかもしれませんが。
――本日はありがとうございました。