インタビュー
「DIGNO M」開発者インタビュー
「DIGNO M」開発者インタビュー
片手での使いやすさ、薄さの感覚を追求
(2013/11/22 15:22)
auから23日に発売される「DIGNO M」(KYL22)は、デザインや片手での操作性などにこだわった京セラ製のAndroidスマートフォン。手にした時の薄さの感覚を追求したデザインは、内部の機構の変更にまで及び、片手での操作を考えたさまざまな機能も搭載されている。既存モデルのユーザーの意見を汲みながら大幅に刷新された「DIGNO M」について、京セラの開発担当者2名に話を伺った。
インタビューには、京セラ 通信機器関連事業本部 マーケティング部 国内第1マーケティング部 商品企画課の岡本勝裕氏、同 マーケティング部 デザインセンター デザイン3課の光永直喜氏にお答えいただいた。
片手での使いやすさを追求
――今回の「DIGNO M」について、位置付けやコンセプトを教えて下さい。
岡本氏
「DIGNO」シリーズとして発売したモデルで、これまでのユーザーからの要望を取り入れたモデルになっています。大画面かつ使いやすいことが評価されてきましたので、これらを最大限に活かすために、片手での使いやすさに力を入れました。また、ユーザーの評価において、デザインやカメラ機能について意見をいただいていたので、この部分の向上にも注力しました。
――内部の構造を見ると、液晶画面と基板で電池を挟んだ、液晶、電池、基板という順番の構造になっていますね。これはなぜでしょうか。
光永氏
デザインに大きく関わる部分ですね。端末を薄くすれば、これまでにない驚きがあると考え、それを実現するために採用した構造です。今回は、「DIGNO M」を持った時に手に当たる左右の両端(エッジ)を極端に薄く削いでいます。検討した中ではこれが一番効率のよい構造でした。
――今後、この形状は継続していくのでしょうか。
光永氏
決定していることはありませんし、どう進化していくのか分からない部分もありますが、スマートフォンの薄型化を実現するひとつの解として、成功しているのではないかと思います。
――電池交換は難しい形状ですが、交換の際の対応はどうなるのでしょうか。
岡本氏
電池交換のニーズは理解していますが、持ちやすさと天秤にかけて、今回は持ちやすさを優先しました。実際に交換が必要になった場合は、auショップなど店頭での預かり修理という対応になります。au向けモデルで電池が交換できない端末は初めてなので、ユーザーの評価を受けて、今後も検討していきます。
研磨に5日間、セラミックス「サーメット」を使用した電源ボタン
――電源ボタンが背面に配置されているのが特徴的ですね。
光永氏
従来のように側面に配置するには、非常に薄くなっているため、スペースがありませんでした。強引に配置しても、押しづらくなってしまいます。側面のシルエットに凹凸ができて美しさを削いでしまうよりは、あえて背面に配置することにしました。そのため、電源ボタンの場所を目で確認しなくても押せるよう、凹ませた形状でわかりやすくし、なるべく大きくしました。この位置がどうかという点は今後評価があると思いますが、開発している段階では、キーも大きく、いいのではないかと考えています。
岡本氏
画面が上を向いた状態だと、そのままでは電源ボタンを押せませんので、画面を2回タップ(2回目は長押し)すると画面が点灯する「トントON」という仕組みを入れました。ほかの方法も検討しましたが、2回タップが一番効率がよいと考えました。鞄の中などで誤検知しないよう、エンジニアがチューニングしています。
光永氏
電源ボタンのパーツに使われている素材は「サーメット」という京セラ製のファインセラミックスを使用した高硬度複合素材です。貴金属のような仕上げですが、セラミックスですので傷が付きにくいという特徴を持つ素材です。ただ、セラミックスは焼き物なので、収縮率などもあって複雑な形状はもともと難しく、また研磨の工程だけで丸5日もかかるので、作るのに結構時間がかかります。ほかの金属やジルコニアなども検討しましたが、非常に平滑で、メッキのような溜りもなく、高硬度でこの光沢感が出せる「サーメット」が最適だろうとなりました。
デザインにもこだわり、三辺からボタンを排除
――スマートソニックレシーバーの搭載も特徴ではありますが、端末全体を見た時の、一番のウリはどこになるのでしょうか。
岡本氏
デザインを含めた、“片手での使いやすさ”です。端末の重さは、発表当時はまだ暫定値で135gとしていましたが、その後の正式なスペックでは1g軽い134gに軽くなりました。これは、5インチディスプレイ搭載のスマートフォンでは最軽量で、何度でも触れたくなるようなデザインがウリになっていると思います。
――薄型、軽量でこのデザインだと、機構設計の面では辛そうですが……。
光永氏
端面(エッジ)の薄さは3mmで、なめらかにアールをつなげるには結構中身を絞らないといけないので、どれぐらいのアールなら許容できるのか、デザインと機構設計者との間で何度も話し合いがありました。
端末の上辺と左右の三辺の極細エッジを実現するために、イヤホン、micro USB、microSD、SIMカードなど端子・スロット類はすべて下側にまとめたのも苦労した点です。SIMカードがnanoSIMサイズなのも、サイズの面から採用しました。
――背面のパーツは、パッキンが付くのですか?
岡本氏
今回は液体の接着工法による圧着で、防水パッキンの代わりになっています。
片手操作を意識したUI
――ユーザーインターフェイス(UI)はどうでしょうか。
岡本氏
特にひとつ前のモデル「DIGNO S」のユーザーの声を反映し、「すべての機能をシンプルに、使いやすく」というテーマで見直しています。アプリトレイ(アプリランチャー)はこれまで横スクロールでページを移動していましたが、より操作の動作が少なくてすむ縦スクロールに変更しています。
アプリランチャーは右側にジャンル別の選択ができるタブとアイコンが並び、このアイコンは変更も可能です。カラフルで可愛らしいアイコンも用意しています。
カメラ機能も全面的に見直し、「マルチエフェクト」27種類のエフェクト(効果)を搭載しています。その中でも、2枚の画像を合成する「背景ぼかし」機能は、撮った画像をすぐに加工でき、自信のある機能です。
特徴的なホワイト、質感も“シルキー”に
――今回のカラーラインナップにブラックはありませんが、この3色になった経緯はどういったものでしょうか。
光永氏
ブラックは、検討段階では考えていました。今回はホワイト、ブルー、ピンクの3色にしました。ホワイトは事前の調査で幅広い層から支持をいただけることが分かったので、ホワイトを特徴的な色にしようと思いました。そのホワイトは、シルバーにも見えるような色にこだわっています。ブルーも評価が高く、3色のラインナップでもブルーは映えてきますし、ブラックを補間できると考えています。
一番のこだわりは、3色ともにつや消しに仕上げた点で、心地よいシルキーな質感にしたことで、形だけでなく手触りの良さや質感も追求できるのではないかと考えました。全体的に輝度(明るさ)を高めにした、金属調の質感の高いものを狙いました。
――薄さや形、色にもこだわったとなると、開発者の気持ちとしては、カバーは付けてほしくない?
光永氏
そうですね……エッジの薄さなども含めると、カバーを付けないで使っていただきたいところではありますね。
急速充電対応の卓上ホルダー、形状も改善
――auからラインナップされるカバーであれば、カバーを付けた状態でも卓上ホルダーを使えますか?
岡本氏
はい、使えます。卓上ホルダーはパッケージに同梱されます。
光永氏
卓上ホルダー用の充電端子は背面にありますし、“ベッドタイプ”の卓上ホルダーとしてはかなり細いものにしました。背面のキーも卓上ホルダーにセットした状態で使えるようにしています。
岡本氏
少し特殊な部分では、装着する際の位置合わせに、microUSB端子のくぼみを使います。
光永氏
卓上ホルダーに固定するための穴を本体に開けたくないというこだわりからですね。
岡本氏
急速充電対応の卓上ホルダーはこれまでも提供してきましたが、どうしても大きくなりがちなのと、卓上ホルダーを持ち運ぶ方もいるとも聞いていましたので、どれだけ小さくできるかというチャレンジの中でも、microUSBの穴を位置合わせに使うという方法が出てきました。
背面の端子の数も、弊社のノウハウとして、充電効率を見極めた上で、よりデザイン性の高いものにも応えられるよう、急速充電用の端子をこれまでの5つから3つに減らしています。
フル充電までの時間は、卓上ホルダーを使った2.7Aの急速充電で1時間50分と、共通ACアダプタの1.8Aを使った場合より約30分短縮できます。
――急速充電は2.7Aですが、もっと高くなっていくのでしょうか?
岡本氏
急速充電に対する要望があるのは認識していますし、検討はしていきます。
薄さを強調するデザインで驚きを
――そのほか、アピールポイントなどがあれば。
光永氏
フィーチャーフォンに比べてスマートフォンは、デザインにあまり差がないように感じています。そういった点から、今回は薄さにこだわっていますが、物理的な薄さには限界があるので、あえて“見た目の薄さ”を追求することで、エッという、信じられないような驚きを与えられないかなと考えました。
結果として、手に「DIGNO M」を持っているところを周りから見ると、あり得ないくらいの薄さに見え、中身がまるで入っていないような、なにか別のものを持っているような、そういう驚きがあると思います。店頭で手に持っていただければ、5インチの画面のスマートフォンとは思えないフィット感、心地よさも感じていただけると思います。
――薄さ、軽さはフィーチャーフォンの時代から取り組まれていますね。
岡本氏
薄さも軽さも京セラが取り組んできたひとつのアイデンティティなので、今後も取り組んでいきたいですね。
光永氏
軽さは特にそうですが、続けることで培われている技術もありますね。
――本日はどうもありがとうございました。