インタビュー

ファーウェイのモバイル戦略

ファーウェイのモバイル戦略

重要なのは失敗しないこと

 10月1日から5日間の日程で幕張メッセにて開催されたIT・エレクトロニクスの展示会「CEATEC JAPAN 2013」。会場の内外でひときわ大きな看板や広告を掲げて大々的にアピールしていたのが、中国に本社を置くファーウェイだ。日本のモバイル市場では同社の名前が目立つことは多くないが、イー・モバイルの「Pocket WiFi」をはじめとするモバイルルーターのほか、ドコモのタブレット「dtab」や「フォトパネル」、ソフトバンクの「PhotoVision」など、これらはすべてファーウェイが開発・製造したもの。

 スマートフォンについては、最近では2013年にイー・モバイルから「STREAM X GL07S」を、2013年にドコモから「Ascend D2 HW-03E」をそれぞれリリースしており、今回のCEATECでは世界最薄のAndroidスマートフォン「Ascend P6」を披露し、注目を集めたばかり。日本メーカーのスマートフォン撤退が相次ぐ中、日本市場との関わりを一段と深めているように見えるファーウェイは、どういった戦略を進めていこうとしているのか、ファーウェイ・ジャパン 副社長の呉波氏にお話を伺った。

ファーウェイ・ジャパン 副社長の呉波氏

優れた日本の技術を世界へ展開していきたい

――ファーウェイは、グローバルの中で日本市場をどう捉え、どう攻めていこうと考えているのでしょうか。

 まず当社の事業についてお話ししますと、世界140カ国以上で事業を展開し、全世界に16カ所のR&Dセンターと、ファーウェイが持つネットワーク事業、エンタープライズ事業、端末事業の3つのビジネスグループは、すべて日本でも展開しています。

 端末事業については、2007年に日本市場に初めて参入し、日本においてこの端末事業は最も重要で戦略的なものとして位置づけています。しかしながら、ファーウェイとしては、日本市場に“攻めていく”というスタンスではないんです。

 統計によりますと、フィーチャーフォンについては日本市場で第5位の端末メーカーであり、海外ベンダーの中ではNo.1です。スマートフォンについては9位となっていますが、「Wi-Fi WALKER」や「Pocket WiFi」といったWi-Fiルーターは4年連続1位の出荷台数を記録しています。ドコモ、ソフトバンクに提供している「フォトパネル」、「PhotoVision」といった製品も、2年連続で出荷台数1位です。また、8月に発表された日本の雑誌のアンケートでは、当社製のタブレット「dtab」のユーザー満足度がAppleのiPad、iPad miniに次いで3位となっています。

 ここで言いたいのは、当社がこれらの製品で採用している主要部品が、ほとんど日本メーカーのものであるということです。グローバル戦略の一環として、優れた先進的な技術を積極的に取り入れています。今のところ海外向けモデルとしている「Ascend P6」のディスプレイパネルも、ジャパンディスプレイの製品を採用しています。単に日本市場で日本の技術を取り入れて使っているだけでなく、ファーウェイというプラットフォームを通して日本の技術を海外にも紹介している、というわけです。

――「Ascend P6」は日本市場でリリースする予定はありますか? LTEには対応していないようですが、日本向けではどういった仕様になるでしょうか。

 それについて今申し上げられるのは、もし日本で発売することが決まったら1番にお知らせします、ということだけです。日本では3Gのみのスマートフォンというのは少なくなっています。ですので、日本で出すのであれば必ずLTE対応でなければならないと考えています。

――防水対応など、日本向けの仕様として難しいと感じているようなところはあるでしょうか。

 ドコモからリリースしている「Ascend D2 HW-03E」は日本仕様の機能を搭載したオールインワンの端末です。防水、FeliCa、ワンセグ、NOTTVなども搭載しています。KDDIのWi-Fiルーター「Wi-Fi WALKER WiMAX2+ HWD14」ではワイヤレス充電できるQiにも対応しました。さらにソフトバンク向けの「PhotoVision TV 202HW」では、スマートフォン以外で初めてフルセグと防水にも対応しています。このように、技術的にも日本独自の仕様もしっかり実現できています。

――近頃では日本のマーケットで誕生した「おサイフケータイ」などのビジネスモデルを世界展開しようという動きがあります。御社でも日本市場で得られた経験値を海外に応用するようなことを考えていらっしゃいますか?

 日本のICT(情報通信技術)は世界でガラパゴスと呼ばれていました。私は、このガラパゴスという言葉には2つ意味があると思っています。

 1つは、日本の技術が最も先進的であるということ。もう1つは、日本の技術は全世界の中で独自のものであるということです。しかし、たとえばグローバルではNFCと呼ばれ、日本ではFeliCaと呼ばれていることからもわかる通り、日本標準と世界標準には違いがあります。したがって、メーカーも日本向けとグローバル向けとで分けて考えるようになっています。

 我々は、先進的な技術と優れたユーザーエクスペリエンスを実現する“カッコイイ”端末を日本市場に提供していきたいと考えていますが、それと同時に、日本製の部品を使った製品を世界へ展開させたいと考えています。

 日本の部品をファーウェイを通じて世界へ広げるという活動は、実はAppleでも同じようなことをしているんです。たとえばiPhone 5/5s/5cのLightningというインターフェースは、まさに日本のメーカーが作った日本の技術なんですね。ファーウェイとしては、謙虚な姿勢で学び、日本のパートナーと一緒に成長していきたいと考えています。

――日本独自のおサイフケータイのような使い方は、海外でも受け入れられるでしょうか?

 私が中国でNFC対応のSIMカードを初めて持ったのが数年前でした。そのSIMカードを差し込めばケータイがNFC対応になるというもので、地下鉄に乗ったり、買い物に使ったりできます。個人的には、日本は最も非接触ICの応用範囲が広い市場と思っていますが、機能と特徴は全世界でだんだん似通ってきていると思います。

 NFCの利用を世界へ広げていくという活動は、我々1社だけでできることではありませんので、通信事業者やメーカー各社などが一緒になって宣伝していくべきだとは思います。

――日本ではMVNO(仮想移動体通信事業者)の存在感が増しています。今後、これらMVNOに向けた端末の供給はありえそうですか?

 MVNOに関しては、一部の国では広がりが非常に遅く、一部の国では速いという状況にあると認識しています。日本のMVNOはまだ初期段階ではありながら、順調に広がりつつあると思っています。どの企業に対してもオープンな姿勢で協業を考えていきます。

ミスさえしなければ、勝つチャンスは大きくなる

――今夏にはドコモがツートップ戦略を採用するなど、端末メーカーを絞る方向にあります。こういった戦略は販売数に大きな影響があると思いますが、御社としてこの状況はどのようにお考えですか。

 メディアからは販売目標の数値をよく聞かれるのですが、我々は市場シェアに関しての目標は設定していません。過去10年間の端末メーカーの歴史を振り返ってみると、1位の座は1社がずっと独占しているわけではなく、撤退しているかほとんど衰退しているといった状況にあったりします。

 現在1位のメーカーのスマートフォンは現段階ではよく売れているかもしれませんが、それがいつまで続くかが問題になってきます。その製品の核となる競争力を失ってしまうと、一度は1位になったとしても、あっという間に消え去ってしまいます。

 たとえば、ゴルフの場合、たくさん練習すれば上手に打てるようにはなるんですが、実際にプレーしてみると、一番重要なのはミスをしないことなんですね。これを端末メーカーに当てはめてみると、自分たちがミスするかどうか、ということで勝敗が決まってくるのだと思います。

 我々は、端末メーカーとして、あくまでも先進的な技術、優れたユーザーエクスペリエンス、この2つにフォーカスしています。エンドユーザーに対しては、絶えずユーザーエクスペリエンスを向上させられるような製品を提供していきたい。ミスさえしなければ、勝つチャンスがそれだけ大きくなるはずです。

CEATEC会場内ではファーウェイの広告が多数見受けられた

――ユーザーの端末選びにはブランディングも重要になります。今回のCEATECではかなり大がかりに広告を出されていますが、日本でのブランド展開はどのようにお考えですか?

 ブランドの確立というのは非常に長い年月を要するものだと思います。一夜にしてできあがるものではありません。特に日本でブランディングするためには長期間の“蓄積”というものが必要になるでしょう。しかし、ブランドの核は、競争力をもった製品であること、というのが重要になります。ブランドだけあっても競争力のある製品を出さなければ忘れ去られてしまいます。逆に優れた製品であってもブランド価値がないというのはよくありません。

 これまで我々は、Pocket WiFi、Wi-Fi WALKER、キッズケータイ、PhotoVision、Ascend、STREAM Xなど、キャリアと一緒に製品ブランドに力を入れていました。これらの製品ブランドは日本では受け入れられてはじめていますし、知名度も向上していると思います。しかし、今回のCEATECの広告では、ファーウェイという会社とそれらの製品を結びつけた形で出しています。

 CEATECという大きな消費者向けの展示会を通じて、これらの製品がファーウェイという会社によって作られている、ということをみなさんにメッセージとして発信していきたいんですね。日本のパートナー企業に対しても、彼らの部品を我々の製品の中に統合して日本の消費者に提供している、ということをしっかりしたメッセージとして出していきたいのです。

CEATECでは3G通信機能を内蔵したSDカードを出品。Nano SIMカードスロットを装備し、HSPA+(2100MHz)に対応する

――先進技術やユーザーエクスペリエンス、ブランディングなど、さまざまな要素が挙がりました。今後日本市場にこれまで以上に関わっていくにあたって、どこが一番のポイントになりそうでしょうか。

 やはり一番大事なのは、1つに限らず複数の要素がうまく組み合わされていることです。ファーウェイにはネットワーク製品、チップセット製品、端末製品の3つのカテゴリーがあり、それぞれにファーウェイ独自の優位性があります。特にチップセットは端末において非常に革新的な技術であると言えるでしょう。たとえば、昨年は日本市場で競合他社より1年ほど先行して150Mbpsの速度に対応したLTEのカテゴリー4のチップセット搭載のスマートフォンを発売することができました。

 このCEATECでは、カテゴリー5とカテゴリー6の技術を展示していて、近い将来、300Mbpsの通信速度を実現する端末を出す見込みです。どうして我々がこういった競争力のある端末とチップセットを作れるのかというと、ネットワーク製品も作っているからなんですね。どれだけ端末やチップセットの能力が高くても、それが活きるネットワークがなければいけませんから。

――最近は似たような端末が多く、驚きが少なくなってきたようにも感じます。“ウェアラブル”をキーワードにし始めているメーカーもありますが、こういったユーザーが驚くような新しい製品などを御社がサプライズとして用意していたりはしませんか?

 今日それを言ってしまったらサプライズではなくなってしまいます(笑)。決まったら真っ先にお知らせしますので、ご期待ください。ウェアラブルデバイスについても、もちろん研究は進めています。

 我々は有機的に日本市場に取り組みたい。これまではどちらかというとMBB(モバイルブロードバンド)の方で実績を上げてきましたが、それができたのは、製品技術においてうまく新しいものを作り出すことができたからなんですね。

 私は、日本に来る前の5年間、本社のある深センでグローバル向けのMBBのセールスを担当していました。2008年にMBB製品の1年間の出荷量が数千万台以上になり大成功を収めたので、MBB市場にファーウェイが参入したのは2006年ですが、当初数十万台だった出荷量が1~2年で数千万台に成長しているわけです。

 昔はノートPC用のPCMCIAカードがあり、これをUSBのインターフェースにしたものが1000万台以上の出荷量を記録しました。そして、このUSBデバイスをWi-Fiの分野に持ち込んで、有線から無線にした。これが今日の日本市場で販売されているWi-Fiルーターの原型となっているわけです。10年前だとディスプレイが小さくボタンが多かったものが、現在は2インチ以上のタッチ型カラーディスプレイに進化しています。

 とはいえ、次世代の端末がタッチパネルかというと、そうとも限らないでしょう。今のスマートフォンは手の指を通して端末と人とのインタラクションを生み出しています。が、次世代の端末ではどういったインターフェースになるかはわかりません。タッチスクリーンになってから長くたっていることもあり、たしかに新しい製品が出てきても驚きというのは欠けてしまっているのかもしれません。

――最後に、日本市場に対する意気込みを一言お願いします。

 市場にリリースしたとたん消費者の目が見開くような、びっくりするような、そういった新しい次世代の端末を作り出すことは、今の端末メーカー共通の目標です。ですから、ある端末メーカーが今市場をリードしていても、今後永遠にリードしていけるとも限りません。技術の進化、イノベーションをしていかなければ、1~2年で歴史の中に埋もれてしまいます。

 日本市場で販売しているファーウェイの製品は、日本で企画されたものが多いんですね。グローバル向け製品も、実は日本で企画・デザインされていたりもするんです。我々としては、あくまでもイノベーションにこだわって開発を続けていきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。

日沼諭史