キーパーソン・インタビュー

B2BからB2Cにシフトするファーウェイ


 ファーウェイは、スマートフォンの新モデル「Vision」とそれに付随するクラウドサービスの発表会にあわせ、日本のメディア関係者向けにグループインタビューの機会を設けた。インタビューに応じたのは、Huawei Device(ファーウェイの端末部門)のChief Marketing Officerのビクター・シュ氏。

日本市場に端末を供給する意味

ビクター・シュ氏

 同氏は、日本市場について「データカードやモバイルルーターなどで良い成績を収めているが、今後はさらに4G、LTEなど、あらゆる商品を日本市場に提供できればと考えている。日本のモバイルブロードバンド市場を我々から見ると、世界の最先端を走っている市場で、その中でオペレーションや製品開発などでいろいろと勉強させてもらった。そういった意味でも日本市場は非常に重要な市場だと考えている」と語る。

 発表会でも「B2P」というキーワードで触れられたが、同社では以前にも増してコンシューマー市場を大きく意識し始めた。「日本においては、今まで主要なオペレーター各社とお付き合いさせていただているが、これからいろんな領域でのパートナーとの提携、コンテンツプロバイダーとの提携、例えばDeNAとの提携についても話を進めているところ」(シュ氏)だという。

 とはいえ、日本だけに注力するというわけではない。同氏は、「具体的にビジネスの数字を申し上げると、引き続きグローバル戦略を推進していくことは変わらない。今後3~5年、モバイルブロードバンド製品で引き続きトップの位置をキープしていく。ホームデバイスでは、リーディングポジションをキープし続けることが目標。ハンドセットでは、5年以内にトップ3になることを目指す」と述べる。

 「その目標を実現するためには、いろんな戦略が必要だと考えている。具体的にはコスト戦略がその一つ、品質戦略もその一つ。製品のラインナップについても、今まではミドルレンジやローレンジが中心だったが、フラッグシップ製品がけん引する形でミドルレンジ、ローレンジと普及させていきたい。全領域の製品をを増やしていくことで目標を実現していきたい」(シュ氏)という。

コンシューマー市場を狙う

 コンシューマー市場を狙う上では、キャリアに販売を委ねるばかりではシェアを拡大することはできない。同氏は、「販売においては、グローバル市場で140か国以上、500オペレーターさんとお付き合いさせていただいているが、販売経路については、通常の販売経路、さらにeコマースも視野に入れて開拓していきたい。これから3~5年かけて今までの販売チャネルの売上シェアを現状の30%から45%まで押し上げることを目標としている」と説明する。

 また、コンシューマー市場の開拓で重要となるのがブランド戦略だ。同氏は「現状、我々はブランド認知においては低い水準にある。いろいろな調査を見ていると、グローバル平均で約20%ぐらいの数字が出ているが、今後は80%まで持って行きたい。各国における市場調査は不可欠。製品を通じたユーザー体験を増やすことで、我々のブランド価値を形成することも考えている」と述べる。

 同氏によれば、「IDEOSはファーウェイのサブブランドとしては考えていない。IDEOSは昨年出した製品の名称で、あくまでもファーウェイというブランドを訴求しながら、個々の製品に名称を付けるという形でコミュニケーションしていく」という。

 さらに、同氏は「実は日本市場の売上は、我々にとって中国、アメリカに次ぐ第3位の市場になっている。今後の戦略の中でも日本はトップ5に入るマーケット。日本は高品質を求める市場ということもあるので、日本で我々の製品が受け入れられるということは、その他の市場でも受け入れられる証明になると思っているので、非常に重要だと考えている。VisionやMediaPadは非常に良い製品だと自負している。こうした製品を通して、日本のコンシューマーにも良い市場体験を提供できればと考えている」と語り、VisionならびにMediaPadを日本向けに供給する計画であることを匂わせた。

 なお、Visionが対応する通信方式については、「1つはEV-DO、1つはUMTS」(シュ氏)としている。中国国内でも供給先のキャリアは未定とのこと。

北京市内をはじめ、中国国内に5カ所あるというファーウェイのブランドショップ。端末の販売も行うが、ユーザーに同社の製品を体験してもらうことを第一の目的としているという8/6(土)にはセリエAとコッパ・イタリアの優勝チームが戦うイタリア・スーパーカップが北京で開催される。ファーウェイは同大会をスポンサードしており、店内のポスターでもアピールしていた。ポスターには、取材時には未発表だったはずの「Vision」がなぜか登場している

10インチサイズのタブレット端末も計画

 スマートフォンにおいて重要な役割を担うOSについては、「今まではAndroid一本に絞ってやってきたが、その中で世界初の発表がいくつかあった。例えば昨年、世界初のAndroid 2.2をベースとするスマートフォンは、弊社から『IDEOS』という形で発表した。さらに、今年の6月にシンガポールで世界初のAndroid 3.2搭載のタブレット『MediaPad』を発表した。グーグル陣営の中ではソースコードを単純に受け取るだけでなく、この陣営に貢献していく立場にあると認識している」(シュ氏)と、自社のポジションの優位性をアピール。

 とはいえ、Androidのみに縛られるわけではなく、「その他のOSについては、OS自体がスマートフォンのバリューチェーンに非常に大きな影響を与えるもの。しっかり市場のトレンドを見て考えたいと思う」とする一方、「OSが変わっていようが、最終的にユーザーが気にするものは製品自体のUIやユーザーエクスペリエンスで、ここが最も重要」(シュ氏)とする。

 競争の激しい市場でどう戦っていくのかについて、同氏は、「UIを通していかにファーウェイのブランド、ファーウェイらしさを出していくのが大事。その中で、いかに美しく、簡単に使える、シンプルなUIを開発するのが目指すところ。クラウドと連携したUIの開発も念頭に置いている」と語った。

 クラウドサービスの160GBという容量は、一昔前のノートPCのHDD容量にも匹敵する。スマートフォンが急速に普及した結果、各通信事業者は帯域のひっ迫に直面している。中国のネットワークがこの負荷に耐えられるのか、との質問に対しては「問題になる可能性はある。ただ、中国はこの数年で3Gが普及してきた。少なくとも都市部においては現状のネットワークにおいても我々のクラウドサービスを提供することに全く問題はない。農村部ではそうはいかないかもしれないが、ファーウェイはインフラビジネスもやっているので、キャリアをサポートすることでコンシューマーの皆さんに我々のサービスを使っていただける」(シュ氏)と述べ、同社にとってインフラ事業とデバイス事業の両輪が重要であることを示した。

 このほか同氏は、タブレット端末のバリエーションについても言及。「シンガポールで7インチの商品を発表したが、今後、10インチのものも計画している。詳細は後日発表したい」と語り、全方位で製品開発に取り組んでいることをアピールした。




(湯野 康隆)

2011/8/4 08:00