【ワイヤレスジャパン2012】
ファーウェイ閻社長、UXの重要性を強調


ファーウェイ・ジャパンの閻力大氏。2005年の日本法人創立に伴って来日したという。講演は英語で行った

 「ワイヤレスジャパン2012」で30日、ファーウェイ・ジャパン(華為技術日本株式会社)代表取締役社長の閻力大(エン・リダ)氏による講演が行われた。「ユーザー・エクスペリエンス向上によるMBB(モバイルブロードバンド)市場の育成」と題し、徹底したユーザーエクスペリエンス(UX)志向での技術開発こそが、モバイル市場において重要であると訴えた。

通信速度、遅延の改善もユーザーエクスペリエンスに直結

 閻氏はまず、モバイル市場の急速な発展の背景に、「共有(シェア)」の存在が欠かせないと語る。人間が生きていく上で、自分の感覚や行動を他人と共有したいという欲求が根源的にあり、その実現に向けた思い、モチベーションが、モバイルの発展を促していると指摘する。

約60億とされる携帯電話利用者。今後は規模以上にサービス品質が追求されるように

 モバイル市場はここ20年ほどで急速に立ち上がった市場だ。1990年前後には極めて小さかった市場にも関わらず、2012年の現段階では全世界で約60億のユーザーがいるとした。だが、地球の人口数を踏まえれば、ユーザーの伸び率は鈍化することが予想される。それゆえ、今後20年はモバイルサービスの“品質”が重要になっていく。より具体的には、現在は10億程度とされるMBB(モバイルブロードバンド)のユーザー数の割合をいかに高めていくかが鍵だと閻氏は分析する。

 通信サービスにおける速度は、ユーザーエクスペリエンス(UX)を左右する要素の1つ。ファーウェイの研究機関の調査によれば、約60%のユーザーがUX向上の対価を支払うことに前向きであるという結果が出ており、あらゆる面からUXを向上させることが、携帯電話市場に直接的な利益をもたらすというのが閻氏の主張だ。

 UXには、セットアップにかかる時間、ユーザーサポートの迅速な対応などさまざまな側面が含まれるが、中でも通信速度や遅延の改善は中核的な予想だ。つまり、これらの技術的要素をアップデートしていくことも、UX向上にとって欠かせない。このことから、閻氏は「ウルトラブロードバンド」「待ち時間ゼロ」「ユビキタス接続」の3つが求められると指摘する。

 ウルトラブロードバンド、つまり超高速のモバイルブロードバンド環境については、1Gbps接続を目安とした。映像配信サイトで考えた場合、人間の目の解像度を550dpiとして逆算すると、4インチ画面のスマートフォンでは4Mbps、10インチのタブレットでは16Mbps程度の帯域がそれぞれ必要になり、さらに最繁時には1サイトあたり400~600名前後のユーザーが同時接続することを考慮すると1Gbps相当の回線が必要になるという。

 待ち時間ゼロの実現に向けても、人間の触覚・聴覚・視覚の反応時間が117~150ミリ前後であることを考慮すべきという。UMTS(3G)のRTT(Round Trip Time。リクエストから応答までの時間)は、これら人間の生理的反応時間よりも遅いため、この観点からもHSPA+やLTEが必要とした。

通信速度1Gbpsを達成できるかが試金石に遅延の改善も、ユーザーエクスペリエンスの重要なポイント

OSだけじゃなく、回線サービスもオープンに?!

 このようにUXの改善を進める中で、最終的には何らかのかたちで収益化が必要になる。まず、通信の品質を高めることで、特にQoSの概念を持ち込み、ユーザーに提示する形式が考えられる。「オンデマンド・パイプ」と表現されるような、通信量に応じた自動調整を可能にするネットワークインフラの充実に加え、料金プランそのものを多様化させたり、課金の一本化も重要だという。

ヨーロッパで発表された「Joyn」。キャリアをまたいだサービスとして期待される

 また、ヨーロッパでは複数の携帯電話キャリアのコラボレーションなども模索されている。その1つが「Joyn」だ。ボーダフォン、テレフォニカ、オレンジ、Tモバイルなど現地主要キャリアが統一的に手がけているコミュニケーションプラットフォームで、RCS-e(Rich Communication Suite-enhanced)とも呼ばれる。SIMカードと連動した認証などが可能という。

 通販、オークション、映像配信などを手がけるネットサービス各社(閻氏はOTT、Over The Topと表現していた)との連携も考えられる。これらの事業者に対して、一定の回線品質を保証(SLA)する代わりに、商品販売などの手数料を通信事業者にも分配してもらおうという方策。すでにAmazonの電子書籍リーダー「Kindle」でも同様の事例があるとのことで、閻氏もこれを「Win-Winな関係」だと評した。

 また、閻氏は、端末OSだけにとどまらず、回線サービスについてもオープン化を模索すべきだと語る。iPhoneがアプリ開発を外部の事業者にも開放したことで、結果的にiPhoneがますます利用されるようになったように、回線についても同じ考えを持ち込むべきだという。

 1つの例として提示されたのが、パケット定額サービスにおける通信量上限の仕様について。サービスの契約によっては、規定の通信量を超えると、その月内の通信速度が制限されたり、通信自体ができなくなるケースがある。

 仮にこの情報をオープン化できれば、あるアプリを使っている最中に上限値に達したとき、その旨をユーザーに通知して、追加料金を支払って制限解除するかを尋ねることも可能になる。もし承諾されれば、通信事業者にとってもアプリ開発者にとっても有益であり、これもまたWin-Winな事象と言える。

ネット上で通販事業などを手がける各種企業に対し、通信品質を保証する一方で、収益配分する方法も回線契約に関する情報をオープン化できれば、例えばアプリ上でパケット上限緩和の追加料金支払いを行えるようになる

 閻氏は最後に、モバイル業界各社と協調して各種フォーラムの設立なども積極的に行っていることを紹介。「世界でも最先端の市場である日本に対して、これからも貢献していきたい」と語り、講演のまとめとしている。




(森田 秀一)

2012/5/31 09:26