【WIRELESS JAPAN 2011】
ソフトバンク松本副社長、日本型携帯ビジネスの優位点を解説


 「WIRELESS JAPAN 2011」で25日、ソフトバンクモバイル 取締役副社長の松本徹三氏による基調講演が行われた。「モバイル通信の将来像とソフトバンクの戦略」と題し、ユーザー視点に立ったサービス開発の重要性、海外市場と比較しても優位な日本型携帯電話ビジネスの意義を語った。

インターネット屋が2兆円借金して携帯電話会社になった理由

ソフトバンクモバイル 取締役副社長の松本徹三氏

 「これからお話しする内容は、海外で講演する内容とまったく同じ」と切り出した松本氏。「日本の方々はどうしても『国内市場まずありき、その上で海外市場』と考えてしまうが、スマートフォンに代表されるように日本と海外市場の差が少なくなっている。また、すべてのコストをグローバルで考えなければならない時代」と補足し、国内対海外という構図を抜きにビジネスを考えるべきだと強調。本論を進めていった。

 ソフトバンクは2005年にボーダフォンから事業を買収する形で携帯電話ビジネスに参入したが、それ以前はポータルサイト「Yahoo! JAPAN」やADSL事業といった固定回線向けインターネットサービスを主力としていた。それゆえに松本氏は「ソフトバンクは単なるネットワークオペレーターではない。ネットワークオペレート業務を含めた“トータルバリュー”を提供する会社だ」と明言。かつては固定電話を主力としていた他の大手2キャリアとは決定的な違いがあるとアピールする。

 また、徹底的な顧客視点にも自負を見せる。松本氏は「すべてのビジネスは、お客様からお金をいただくことで成立する。それなのに(顧客が欲しがっていない機能を)『うちの持っている技術だからなんとか活かせないか』という理由で押しつけていては上手くいかない」と説明。顧客が望むサービスの提供に注力すべきとした。

 松本氏は、携帯電話ビジネスにおける顧客ニーズは「どんな端末を買って、いくら払えば、どんなことができるのか?」、この一点に集約されると語る。この要素の集合体が“料金”という価値であり、ネットワークオペレーターはその対価として料金を回収できる。その上で、回収した料金をコンテンツプロバイダーと分け合ったり、端末の調達先へ代金として支払う。

 つまり、日本における携帯電話ビジネスでは、ネットワークオペレーターがその中心的存在であり、すべての商流をコントロールできる魅力的な役割だと説明する。それこそが「市場価値2兆円のソフトバンクが、2兆円の借金を背負ってまでボーダフォンを買収した理由」(松本氏)だ。

 ネットワークオペレーターが統一的な開発を行うことで端末の進化スピードが高速化し、ユーザーサポート窓口はネットワークオペレーターに一本化されるなどさまざまなメリットがある。このエコシステムを先駆者として構築したNTTドコモを松本氏は高く評価。「世界で最も進んだ理想的なエコシステムだと信じている」とまで断言した。


ユーザーのニーズは「どんな端末を買って、いくら払えば、どんなことができるのか?」の一点に集約されると指摘ネットワークオペレーターが中心の日本型携帯電話ビジネスには、利点も多いという

 さらに本来なら5万円程度する端末を2万円前後の価格で手軽に買うための施策を盛り込んだことで、高機能端末が普及しやすくなるといった利点もあった。欧米はこの逆で、従来の携帯電話はシンプルなため安く販売できていたが、スマートフォンのように高機能化していくことで結局高価になり、買いづらくなってしまう。松本氏も「制度の微調整はもちろん必要」としながらも、日本型の端末販売モデルは国際的にも十分通用すると指摘した。

マイクロビリングに活路、“土管屋”を恐れるな

 ソフトバンクでは、ARPU(1契約あたりの通信料収入)のうち、データ通信料金が約60%を占めている。松本氏はSNS「mixi」におけるPCとモバイルのアクセス比率を例示し、ソーシャルゲームの導入以降急速にモバイルアクセスが増加していることに言及。携帯電話やスマートフォンからのインターネットアクセスが減ることはもはやないだろうと予測する。

 一方で、パケット通信定額サービスを導入しているネットワークオペレーターにとっては、データ通信量が増加しても収料金入が頭打ちになる可能性もある。無料サービスが当たり前のPCの世界であれば、これを広告収入によって補完するのが一般的だ。

 しかし松本氏は「モバイルの世界は毎月請求書が来るのが当たり前。ネットワークオペレーターは毎月、利用者からお金をいただいている。この時に、本を買ったりゲーム内アイテムを買ったときの請求を一緒にさせていただく。このマイクロビリングのシステムが、ネットワークオペレーターの最大の武器」と説明。困ったときのユーザーサポートを日頃から行っていることも含めて、ネットワークオペレーターと顧客の密着度が、PCインターネットとの大きな違いだという。


ARPUの60%をデータ通信料が占める広告収入だけでなく、課金代行も重要に

 また、欧米のネットワークオペレーターの間では、スマートフォンOSの開発企業であるアップルやGoogleにマイクロビリングの領域すら奪われ、いわゆる“土管屋”になってしまう懸念が囁かれているという。しかしこの点についても松本氏は「総合価値をクリエイトすることが重要」と意に介さない。「企業間の分け前の話ばかり気にしていて、トータルの価値を損なってはならない。企業がより多くの分け前を得るために、ユーザーに我慢してもらうというは邪道」と強く反論。スマートフォンのアプリ課金で先行するアップルには自由に行動してもらい、必要であれば将来的に企業間調整すべきとした。

 松本氏は、スマートフォンの定義であり、強みといえる部分はずばりOSを採用していることにあると指摘する。「一般的な携帯電話は半年もすれば0円端末になってしまうが、OSの概念を導入したスマートフォンなら、時間が立てば立つほど対応アプリが増え、むしろ魅力が高まる」と、OSの登場によってアプリ開発の裾野が広がった影響は極めて意義深いと語った。

 このほか、ソフトバンクでは2年間で1兆円のネットワーク設備投資をすでに表明している。LTEについても2012~2013年ごろの本格導入を目指すが、当面は後方互換性も確保されたHSPA+を積極的に活用していく。また、700~900MHz帯の電波利用免許獲得にも意欲を見せている。

 その上で松本氏は「これだけやっても恐らく電波は全然足りない(データトラフィックが増大する)。Wi-Fiにオフロードさせるしか方法がないだろう。(3GとWi-Fiを)車の両輪として活用していかねば」と説明し、トラフィック対策が不可避であることを伺わせた。


ソフトバンクのネットワーク増強計画将来的には、3GとWi-Fiを組み合わせたトラフィック対策が欠かせなくなる



(森田 秀一)

2011/5/25 21:45