【WIRELESS JAPAN 2011】
ドコモ山田社長、スマートフォン強化施策や4G戦略を語る


NTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏

 「WIRELESS JAPAN 2011」初日の25日、NTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏による基調講演が行われた。「新たな成長に向けたドコモの取り組み」と題し、スマートフォンを中心としたビジネス強化施策を説明。その上で、次世代通信サービス「Xi」や、さらに次世代の技術である「LTE-Advanced」へ注力する姿勢を示した。

災害対応を強化、基地局の大ゾーン化・無停電化推進へ

 講演冒頭、山田氏は東日本大震災への対応状況について改めて言及。5月24日時点では、福島第一原子力発電所30km圏内を除いた被災地域にある307基地局のうち、95%にあたる292局で応急措置を含めた復旧が完了したと報告した。また、原子力発電所周辺では68の基地局があるが、いわき市に高性能アンテナを敷設し、隣接する基地局の電波到達範囲を広げることで応急的ながら通信を可能にしている。

 震災直後にはさまざまな混乱もあったが、山田氏は「復旧エリアマップ」に一定の効果があったと指摘する。基地局の復旧状況を細かく伝える内容となっており、3月20日の公開から約10日間で20万アクセスを記録したという。

 今後は、大地震を含めた災害時対応をより強化していく。具体的には、大ゾーン基地局の常設を挙げた。通常の基地局とは別に、耐震が確保された強固なビル上へ全方位送信が可能な高出力アンテナを敷設しておき、必要に応じて稼働させる仕組み。大ゾーン基地局1つあたりの電波範囲は半径7kmほどで、各都道府県に2カ所程度の割合で設置。これにより人口の約35%をカバーしたいという。

 また、各基地局の無停電化ないし24時間バッテリー稼働のサポートにも取り組む。山田氏は「都道府県庁や市町村役場など重要施設の通信を確保するために実施したい」と説明。ビル型基地局約800カ所には発電用エンジンを、鉄塔型基地局約1100カ所にはバッテリーを増設する。このほか、通話回線網ではなくパケット通信網を利用した音声メッセージサービスについても、2011年度内の提供を目指しており、これらを総合した投資額は230億円程度となる見込みだ。


東日本大震災からの復旧状況「復旧エリアマップ」を公表

災害対応の強化として「大ゾーン基地局」の導入を計画自家発電用エンジンや24時間駆動用バッテリーの配備も進める

スマートフォンの一層の充実を

 続いて山田氏は、講演の本題である成長戦略へと話題を移した。山田氏は「変革とチャレンジ」をキーワードとして挙げ、その上で顧客満足度の向上に力を注ぐと表明。より具体的にはスマートフォンビジネス全般の強化を目標に掲げた。

 山田氏は「(第三者企業による)お客様満足度調査で1位を頂戴できるようになっており、これを継続することが重要。しかしスマートフォン時代における顧客満足度はまた変わってくるだろう」と説明。特に、コールセンターなどでの対応が決して万全ではなかったとし、これを改善。顧客ニーズの変化に対応した上で、満足度調査の結果を向上させる狙いだ。

 また、スマートフォンそのもののラインアップも強化する。夏モデルの一部機種で搭載したテザリングは顧客からの要望が非常に多かった機能という。7月23日には、同じく注目度の高いモバイルSuicaのスマートフォン対応がスタートする予定で、山田氏もその販売促進効果への期待を示した。一方、SIMロック解除にも継続的に取り組んでおり、すでに200件ほどの利用があったことを報告した。

 ドコモの2010年度スマートフォン販売台数は約252万台。2011年度にはこれを約600万台へ伸張させるため、端末自体の機能強化、社内体制の整備も実施していく。その先の2012年度には、新規販売端末のうち、スマートフォンの占める割合が過半数を超えることも展望しているという。


顧客満足度の向上を優先課題に挙げる2011年のスマートフォン販売目標は600万台

 ただ、ここで課題になるのが「iモード端末を使っていたユーザーがスマートフォンへ移行した場合、これまで使えていたiモード関連機能が使えなくなって不便」という声への対応だ。「spモード」によってiモードメール相当機能の利用は可能になっていたが、夏モデルではiチャネルやメロディコールに対応を拡大させる。既存iモードサービスのスマートフォン対応は、今後も継続させる意向で、今冬発売予定のモデルではiコンシェルやコンテンツの課金・認証(月額課金)をサポートする計画だ。

 震災によってクローズアップされたエリアメール機能についても、今後は全スマートフォンで対応させる方針を表明。今冬リリースされるXi対応端末では、ETWS方式による緊急地震速報の受信も可能となる見込みという。

 このほか、より新規性の高いサービスとしては「通訳電話」を挙げる。通話時の外国語リアルタイム翻訳をクラウド経由で行うという機能で、通話端末の性能に依存しないのが特徴。11月からはモニター向け試験サービスも開始する予定だ。


iモード系サービスのスマートフォン対応を強化iモードの強みである月額課金サービスは、2011年冬モデルで利用可能となる予定

LTEのさらに次、「LTE-Advanced」の時代を見据えて

 スマートフォンの台頭によって懸念されるのが、無線ネットワークの逼迫だ。山田氏は「2009年度から2010年度にかけて、データトラフィックは1.7倍に達した。2010年から2011年にかけては2.0倍にまで伸張するとみられる」と説明。これだけの通信需要に応えるために、LTE(3.9G)通信サービス「Xi」の必要性がさらに高まると解説する。今後はXiの通信可能エリアを広げ、端末についても秋にまずタブレットを、冬にはスマートフォンを発売する計画だ。

 一方、Xiのさらに次世代のサービスとして計画されているのが4Gだ。現在は「LTE-Advanced」と呼ばれる方式で、NTTドコモでは2015年の開発完了を目指している。通信速度は下り1Gbps、上り500Mbps。複数の周波数帯を束ね、最大100MHz幅で通信できるのも特徴という。NTTドコモの試験では、屋外における下り600Mbps、上り200Mbpsでの通信を実現しており、山田氏もトラフィック対策として大きな期待を寄せていた。


データトラフィックは爆発的増加が予測されている「Xi」をはじめ、無線ネットワークを強化することで需要に対応

LTEのさらに次世代規格である「LTE-Advanced」の特徴もう1つの技術革新策である「マルチバンド電力増幅器」。端末側の無線回路に導入することで、複数の周波数を一括して増幅することができるという。山田氏も「パッと見は非常に地味だが、大変画期的な技術」と補足する

 このほか、山田氏は今後期待できる成長分野として、スマートフォンとITS(Intelligent Transport Systems=行動交通システム)の連携などを挙げる。また、「ドコモ送金サービス」のリニューアルによる決済機能の強化、おサイフケータイの国際対応も一例として挙げている。

 端末の位置情報と契約者属性情報を結びつけ、個人識別データを一切排除した上で統計学へ活かそうという「モバイル空間統計」の研究も進める。街作り・防災計画などへの応用を検討しており、講演では実際に東日本大震災発生前後の人口移動データを例示。帰宅困難者が都内のどの区域に集中しているか、震災発生後数週間の都内昼間人口の減少具合などが分かったという。

 講演の最後、山田氏は「2000年から2010年にかけてモバイルの可能性を追求してきたが、次の10年はモバイルを核とした“総合サービス業”へ進化していきたい。そのためには金融や環境、医療などさまざまな問題へ取り組まなければ」と発言。より広範なビジネス分野へ進出する方向性を示し、しめくくりの言葉とした。


NTTドコモとしての成長目標モバイルを核とした総合サービス業への進化を目指す



(森田 秀一)

2011/5/25 15:38