【2015 International CES】
“デジカメ×スマホ”な「LUMIX CM1」がもたらす新たな体験
担当者に聞く、パナソニックの挑戦
(2015/1/14 13:36)
パナソニックが昨年、独ケルンでの展示会「フォトキナ」で披露した「LUMIX DMC-CM1」(以下、CM1)は、カメラ業界で大きな話題を集めた。同社は「2015 International CES」で、CM1の北米展開を発表。日本での発売にも、期待が集まっている。
カメラの性能は折り紙つきで、プレミアムコンパクトデジカメが採用する1インチセンサーを搭載。画像処理用には「ヴィーナスエンジン」を備える。ライカレンズを採用しており、静止画だけでなく、4Kの動画撮影にも対応している。
一方で、この機種にはAndroidスマートフォンという側面もある。通信はLTEに対応。4.7インチのフルHDディスプレイを搭載し、CPUもSnpadragon 801と高いスペックを誇る。電話にも対応しており、ケータイとしても利用可能だ。詳細な機能は、本誌のブースレポートを参照していただきたいが、まさにデジカメとスマートフォンを融合した1台に仕上がっている。
こうした独創性の高さが評価され、CESでは、米メディアのAndroid CentralやReviewed.comの賞を獲得。海外のユーザーからも、高い関心を集めていることがうかがえる。では、この機種はどのような経緯で生まれたのか。企画から開発までを担当した、パナソニックシステムネットワーク ネクストモバイル商品開発推進室 井端勇介氏と、パナソニック AVCネットワーク社 イメージングネットワーク事業部 コンシューマービジネスユニットの櫻井郁弘氏に、その成り立ちを聞いた。
デジカメ部門、スマホ部門がタッグ
――最初に、皆さんがどのようなプロダクトに携わっていたのかというところからお聞かせください。
櫻井氏
私は約8年ぐらい前に、LUMIXの商品企画をやっていました。今から3年ほど前にパナソニックモバイルコミュニケーションズ(PMC)に移り、スマートフォンの商品も企画しています。ところが、一昨年、スマートフォンの国内事業は撤退してしまいました。その後、デジタルカメラ部門に戻ってきた形になります。
CM1はスマートフォンとカメラを融合した商品ですから、それぞれの事業部のメンバーを知っていて、非常にやりやすかったですね。
井端氏
私は、ずっと携帯電話、スマートフォンの商品企画をやってきました。一番最初に担当したのは3Gの第一号商品(P2101V)です。そこからは、基本的に新しいものだったり、ちょっと変わったもの、尖ったものを担当してきました。ムービースタイルの端末だったり、ワンセグ、HSDPA、防水それぞれの一号機だったりをやっています。基本的には、初モノ担当ですね。最後のほうはLUMIX Phoneを担当していました。今回の商品とは入り口が違いますが、デジカメ部門とはそのときからの付き合いです。
櫻井氏
流れとして国内スマートフォン事業の撤退があり、我々として何ができるのかを考えました。世の中の変化を見ると、どんどんコミュニケーションが変化しています。今は画像中心でSNSにアップして共感を得るということも増えています。そこでは通信とカメラの親和性があるというところから、今回の企画がスタートしています。
――あくまでも、基本はカメラということですね。
井端氏
今は写真や動画を使ったネットワークのコミュニケーションが非常に伸びています。その中で、よりキレイな写真を求める声は少なからずあります。カメラにもWi-Fiが入ったりして、ネットワークは進化していますが、まだまだスマートフォンとは同じレイヤーにたどりつけていません。その溝を埋めるカメラとしてCM1を提案しました。
――現状では、欧州でSIMフリー端末として販売されています。スマートフォンのように、オペレーター(通信事業者)に納入するという方向性は考えていなかったのでしょうか。
井端氏
それを考えないところからスタートしました。議論がなかったわけではありませんが、一昨年、日本のスマホ事業を休止した直後ということもあり、欧州での同事業も終息しています。すぐにまた同じところでやるというのは、ビジネス的にも難しいですからね。また、もともとのコンセプトが「キレイな写真をネットワークで使いやすくしたい」というものですから、カメラ部門でコミュニケーションをしているお客様や流通で勝負したいという思いもありました。
櫻井氏
従来はキャリアさんとお話をしながら商品を作ってきましたが、今回はお客様のヒアリングを重ねていっます。キャリアさんとではなく、我々自身がビジネス切り開いていく必要がありましたからね。
――デジカメだとポストペイドで毎月料金を払う形がなじまないので、SIMフリーにしてプリペイド市場で勝負しようという思惑はあったのでしょうか。
井端氏
ポストペイドかプリペイドかは検討のメインではありません。キャリアビジネスではなく、自分たちのコンセプトをぶれさせず提供することが大切です。ポストペイドで使っていただいても、まったく問題ないと思っています。
ELUGAの魂
――なるほど。ちなみに、今回、OSにはAndroid 4.4を採用しています。通信機能を載せるということでは、その他のOSの選択肢もありそうですが、なぜAndroidになったのでしょうか。
井端氏
コミュニケーションに使うためには、アプリが必要です。大きなものではFacebookなどがありますが、そのアプリを自分たちで制作するのは現実的ではありません。Andoridであれば、プラットフォームの持つ力を最大限活用できます。もう1つの理由は、長年Androidでスマートフォンをやってきたことで、そのノウハウも生かすことができました。
――つまり、ELUGAの魂が込められているということですね。
両氏
はい。
パナソニックの強み
――カメラと通信機能を持つスマートフォンの両方をやっている会社は非常に少ないので、なかなか他社が作るのは難しいでしょうね。
井端氏
通信機をずっとやってきたメンバーですから、それをきちんと商品化できる技術もあります。無線性能には一日の長があると思っていて、そのノウハウとスキルはきっちり入れ込みました。
櫻井氏
カメラと通信は出し惜しみをせずに投入しています。カメラと通信の融合という点では、技術面と人材面の2つがあります。まず技術面で言うと、カメラは一眼クオリティで、光学設計はデジタルカメラ事業部が行っています。歪みやフレアが起きないようにして、ライカのレンズも搭載しています。レンズ、エンジン、センサー、この3つがそろわないと、高い画質は出せません。また、サイズをここまで薄くできたのは、スマートフォンやケータイで培ってきた薄型化技術が生きています。この画質で、このサイズ感に収められたのは、双方の技術が生きたところです。
また、人の部分も大きかったですね。デジカメと通信はそれぞれ事業部として存在していましたが、文化も違えば考え方も違います。お互いの自負もあり、いい技術があっても、うまくいかないことがあります。そこは、デジカメ出身でスマートフォンのメンバーも知っていた自分が、うまくまとめることができました。
非常にアナログな話になりますが、大阪のデジカメ事業部には専用のプロジェクトルームがあり、何かあったらそこに皆が集まるようにしています。そこで、侃々諤々と昼夜議論をしています。同じ釜の飯を食うではありませんが、そういうところが今につながっています。
あくまでカメラ
――海外ではGALAXY Cameraのような商品もあります。こうした機種と比べた際の強みは、やはり画質ということでしょうか。
井端氏
私たちはこの端末を「カメラスマホ」だとは思っていません。LUMIXのブランドが示すように、あくまでもカメラです。そのため、我現時点での競合はいないと思っています。ハイエンドカメラに通信機能がついたものは、ほかにはないですからね。
――カメラという位置づけにも関わらず、CM1は電話機能も搭載しています。これはなぜでしょうか。
櫻井氏
そこは内部でも議論がありました。完全にデータ通信だけに特化するか、電話機能を加えるか。お客様はすでにスマートフォンを持っているので、そのプラスαを狙うのか、スマートフォンをこれに置き換えてもらうのかは検討を重ねました。結果として、置き換えを考えています。
――つまり、1台目の端末として使われることを狙っているということでしょうか。
櫻井氏
はい。今後は、色々なお客様に使っていただき、どういう使い方をするのかを見て、先々につなげていきたいと考えています。
――ちなみに、もう少しスペックを下げるなど、議論はなかったのでしょうか。
井端氏
出す以上は、圧倒的で誰が見ても分かる画質を表現したかったというのがあります。そうでないと、この機種の存在価値がありません。
――Snapdragon 801を搭載するなど、スマートフォン部分もハイエンドです。ここをもう少し下げるという案はあったのでしょうか。
井端氏
カメラは撮るだけなく、写真を見るためにも使います。そのとき、快適に動かないものは出したくなかった。写真はキレイでも、再生しようとしたら突然モッサリになるようではダメで、ハイエンドなカメラを提供するというコンセプトからもズレてしまいます。
櫻井氏
先ほどお話したように、1台目として置き換えていただきたいというところにも戻ります。中途半端な通信端末だと、それができないですからね。
――実際に欧州市場で発売して、反響はいかがでしたか。
櫻井氏
フォトキナではフォトキナスターという賞を、CESではReview.com、Android Centralそれぞれから賞をいただきました。非常にうれしく思っていますし、商品としての自信も持っています。お客様の反応も非常にいいと伺っています。また、フォトキナスターを取ったこともあり、さまざまな地域からお声がけいただいています。
井端氏
すでに使っているお客様からは、「買ってよかった」「手放せない」という声をいただいています。撮る写真のクオリティが普段の機器とは違うと言われているので、当初のコンセプトは実現できたと考えています。
――ちなみに、日本も含めて、今後欧州やアメリカ以外の地域にどう広げていくのでしょうか。
櫻井氏
日本でも商品を購入したいという声はいただいています。その内容も踏まえて、今後の流れを考えていきたいですね。
井端氏
まず欧州に導入したのは、そこがSIMフリー市場だからというのがあります。そこでまず成功事例を作りたかったんです。今は色々な地域でSIMフリー化が進んでいますから、(展開国は)まさしく今議論しているところです。
――本日はどうもありがとうございました。