ケータイソリューション探訪

IP電話網とPHS網を融合、「楽天モバイル for Business」


 楽天グループのフュージョン・コミュニケーションズが「楽天モバイル for Business」という法人向け電話サービスを提供している。専用のモバイル端末からIP電話並みの通話料で音声通話ができ、パケット通信も利用できるサービスだ。サービスの概要と導入メリットについて、同社・取締役執行役員 営業部長の井上好永氏に話を聞いた。

フュージョン・コミュニケーションズ株式会社 取締役 執行役員 営業部長 井上好永氏

――まず、楽天モバイルのサービスの概要を教えてください。

 楽天モバイルは、弊社が従来から提供しているFUSION IP-Phoneとウィルコムさんの通話・通信を組み合わせたサービスです。ブロードバンド回線を利用するIP電話は、NTTのアクセスチャージを抑えられるため、通常の固定電話に比べて通話料を安くできます。楽天モバイルは、フュージョンの網とウィルコムさんの網を相互接続することで、モバイル端末からの通話もIP電話と同等の通話料を実現しました。具体的には、固定電話宛には3分8.4円、他社ケータイ宛には1分16.695円、国際電話はアメリカへは1分8円で通話できます。

――無料で通話できる範囲が多いことも特長ですよね?

 「5つの無料」と謳っていますが、楽天モバイル同士の通話、FUSION IP-Phone(提携先事業者を含む)宛ての通話、070番号への通話が無料で、メール・ブラウジングの基本料とウィルコムドメインでのメールの送受信も無料です。つまり、もともとFUSION IP-Phoneで無料で通話できる範囲に加えて、ウィルコムさんが通常のサービスにおいて無料にしている部分も、そのまま無料で利用できるようにしています。

――ウィルコムの通常契約のPHS端末からFUSION IP-Phoneに電話をかけた場合は?

 その場合は有料通話になります。楽天モバイルに加入していただくと、そこが無料になることは確実なメリットと言えます。楽天モバイル端末にはIP電話の050番号とPHSの070番号の2つの番号が付与されます。外出先にいても社員同士の通話を無料にすることができます。

――2つの番号の使い分けは?

 実際に電話をかけるときに意識する必要はありません。楽天モバイルから070番号に発信した場合には、相手には070番号が表示されます。それ以外の090、080のケータイ番号や、03などの固定電話番号にかけると、相手には050番号が表示されます。

――ウェブやメールを安く利用できることも、他社サービスに比べると利点と言えそうですね。

 パケット通信は1パケット0.084円課金で上限額が2800円なので、他社よりもかなり安く設定しています。メールは会社で使っているメールアカウントも設定できますが、標準で付与するウィルコムのメールアカウントを用いれば無料で利用できます。

――導入企業は、実際にどのメールを使われていますか?

 ウィルコムドメインだけを使って通信費を節約されている企業も多いようです。会社に届いたメールをウィルコムドメインに転送する設定にしておけば、全文を受信してもパケット代は無料ですので、大きなコスト削減を望めます。

――導入費用はどれくらいかかりますか?

 通常、企業がIP電話を導入する場合、ブロードバンド回線に接続するためのゲートウェイやルーターが必要となります。楽天モバイルは、端末自体がその役割を果たしますので、最低限必要となる初期費用は契約事務手数料(2100円)と端末の代金だけです。2009年4月のサービス開始以来、キャンペーンとして一部の端末は無料で提供しております。

――端末はウィルコムの通常のラインナップから選べるのですか?

 WS009KE(nine+)、WX330J-Z E、WX330J-Z、WX330Kなどからお選びいただくことができ、キャンペーンで無料の機種もございます。スマートフォンもお選びいただけますし、最新機種のHYBRID W-ZERO3は取り扱いを検討しています。(2010年4月現在)

――主にどういった企業をターゲットにされていますか?

 通話料が安いことが最大の利点ですので、ある程度通話をされる企業を対象にしています。ケータイからの通話料は高いので、できるだけ通話時間を短くしようと考える人が多いでしょうが、楽天モバイルは社員間の通話が無料になり、社内がFUSION IP-Phoneであればそこへの通話も無料です。固定電話や国際電話への通話も固定電話から発信する場合よりも安いので、通話時間を気にせずにご利用いただけます。

――1カ月にどれくらい通話すると得になるのでしょうか?

 最近、基本料金が安いケータイのプランが増えていて、法人向けでも月額基本料金980円のプランがあります。ただし、通話料は21円/30秒ですから、例えば、60分電話をすると2520円になります。基本料金と合わせると3500円ですよね。楽天モバイルは60分電話をしても、3分8.4円×20=168円です。基本使用料(月額2310円)を合わせても2478円で済みます。長い電話をかけることが多ければ多いほど得になると考えていただけたらと思います。

――楽天モバイルを導入すると、固定電話が要らなくなる?

 固定電話は、ほどんど使わなくなってしまうでしょうね。最近、導入されたお客様の例ですが、本社にだけ固定電話のFUSION IP-Phoneをを設置し、営業所などの拠点は楽天モバイルだけにして、社内の内線環境を構築し、「大幅にコスト削減をした」、と喜んでいただいています。楽天モバイル端末は事業所用コードレスに対応している機種もございますので、オフィスの内線電話機としてもご利用いただけます。

――ターゲットにしている法人の規模は?

 主に中小の法人向けにサービスを展開しています。と言いますのは、他社の大手企業向けサービスは、契約回線数に応じた割引を行うケースが多いようです。その恩恵を受けられない中小規模の企業にとっては楽天モバイルの強みを発揮できます。しかし、実際には通話料が安いことを評価いただき、比較的大きな規模の企業にも導入いただいております。

――モバイルの通信事業者が複数ある中で、ウィルコムと提携した理由をお聞かせください。

 弊社には移動の通信網がなく、ウィルコムさんは固定の通信網を持っていらっしゃらない。それぞれの弱点を補完し合える関係にあったことが最大の理由です。そもそもお互いに競合しない関係にあり、話を進めやすかったということもあります。また、企業の内線化において、Wi-Fiを利用するサービスもありますが、コスト的にも技術的にも導入するにはそれなりに大変。PHSの技術は20年くらい培われたものなので、導入しやすく、説明しやすいことも利点と捉えています。

――法人向けサービスでは、セキュリティを気にする企業が多いと思いますが、どのようなサービスを利用できますか?

 端末自体にロックをかける機能があるほか、「リモートロック代行サービス」(1回525円)を提供しています。ネットワーク上でできるセキュリティをさらに強化したいと思っています。ウィルコムからこれから出る新しい端末の機能を活かしていくという流れになると思います。

――サービス名に「楽天」を冠した理由は?

 楽天グループとしてモバイル事業を展開していく中で、将来的には対象がコンシューマーにも広がっていくと想定しています。「フュージョン」という名前は、ご存知ではない方も多いのではないかと思います。営業所からも「楽天というブランドがあるほうが話がしやすい」という声が上がっています。

――将来的には「for Business」だけでなく、コンシューマー向けにも提供する計画ですか?

 具体的な予定はありませんが、将来的な展開として検討しています。

――ウィルコムは会社更生法が適用され、PHS事業からXGP事業が切り離されて別会社が行うことになりました。それを受けて、御社として新しい仕組みの導入などは考えておられますか?

 楽天モバイルは音声を主体としたサービスです。ウィルコムさんのPHS事業はこれからも継続されますし、今後もウィルコムさんと組んで、利用料金をより低廉にしていきたいと考えています。パケット代が安いことも強みになると思うので、そこを利用してビジネス上で便利になるようなサービスも考えていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

(村元正剛)

2010/4/19 06:00