【デジタルマーケティングNEXT2009】

ドコモやローソンが語るケータイソリューション最前線


 日本能率協会は、11月11日~13日までの3日間、企業のマーケティングを支援するITソリューションの展示会「デジタルマーケティングNEXT2009」を東京ビッグサイトで開催した。展示会場内に設けられたセミナーブースでは、営業・販売促進活動へのIT活用について最新の動向や事例が紹介され、携帯電話業界からも数社が登壇し講演を行った。

ドコモのiコンシェルは自然なプッシュ型マーケティング

NTTドコモ 法人事業部 モバイルデザイン推進室の加藤裕一氏

 NTTドコモ 法人事業部 モバイルデザイン推進室の加藤裕一氏は、「モバイルを活用した先端的マーケティングソリューション」と題し、従来のマーケティングツールと比較した場合の携帯電話の特性や、同社が用意しているマーケティングソリューションの説明を行った。

 日本では、誰もが1人1台の携帯電話を持つ。その大半が第3世代携帯電話(3G)であり、しかも電子マネーや定期券などとしても使われるなど、携帯電話が通信・情報のインフラとしてだけでなく、今や“生活のインフラ”として浸透しつつある。

 このような状況について加藤氏は「日本の携帯電話市場は世界的にも注目されている。欧米ではモバイルインターネットの普及率は40%と言われているが、当社のiモードの契約率は90%以上。おサイフケータイのようなアプリケーションも普及しており、海外の事業者からは『信じがたい状況』と言われる」と述べ、世界に類を見ない革新的なサービスを実現する環境が整っていると強調する。

 また、テレビやパソコンといった他の情報機器が、主に「一家に1台」の形で浸透しているのに対し、携帯電話は「1人1台」所有する機器であることに加え、ユーザーは常に身につけており、しかも常時電源がオンであるという特徴がある。機器の使われ方としては、パソコンは比較的明確な目的を持って能動的に何かを調べるため「PULL(プル)型」の情報アクセスに向いているのに対し、携帯電話はメールの着信やバーコードなどをトリガーとして利用する「PUSH(プッシュ)型」のアクセスに適しており、はっきりした利用目的があるというよりも、感覚的な動機によって使用されることが多いとしている。

 このような特性を持つ携帯電話は、一般消費者向けのマーケティング活動が特に重要視される小売業・サービス業において特に有効に活用できるという。メールマガジンやクーポンの配布による店舗への誘導、携帯サイト等を利用した来店客向けの情報配信、ポイントなど会員専用サービスの提供による再来店の促進といった具合に、消費者と企業との間で発生するコミュニケーション全てのサイクルに渡って活用できるのがその理由だ。

Webサイトを軸にした情報配信という点では共通するが、そのトリガーがPCは「PULL」であるのに対し携帯は「PUSH」携帯マーケティングの大規模かつ先進的な事例として紹介されたマクドナルドの「かざすクーポン」

 先進的な事例として紹介されたのは日本マクドナルドの「かざすクーポン」で、今年8月現在で既に450万人の会員に利用されているという。来店客に対してはクーポンによる魅力的な価格を提供できる一方、オーダー情報や電子マネーとの連動などによって店舗スタッフの省力化を図ることができる。また、その週の売れ行きを見て即座に次週のキャンペーン商品を変更できるなど、紙のクーポン券では不可能だった新しいマーケティング戦略が可能となった。

 携帯電話はPUSH型のメディアであるため、売上を伸ばしたい企業としてはユーザーとのアクセス機会を増やすため、頻繁にメールマガジンなどを配信したくなりがち。しかし、加藤氏は「PUSHに適しているが、あまりにPUSHを送りつけすぎると、ただのスパムになってしまう」と指摘する。

 このような問題を解決しながら、さらに質の高いサービスを提供できるのが、2008年冬の新機種から搭載された「iコンシェル」である。着信音によって強制的にユーザーの注意を引きつけてしまうメールとは異なり、待受画面に自然な形で情報を表示して、ユーザーにさりげなく「気付き」を与えられることが特徴。しかも、ユーザーを性別、居住地域、興味関心分野などでセグメント化し、最適な情報を本当に届けたいユーザーにだけ配信することが可能となっている。

iコンシェルは自然な形での情報配信が可能新機種では位置情報に応じたマーケティングも可能になる

 単にメッセージを表示するだけでなく、トルカ機能を利用したクーポン券を更新したり、スケジューラー上の新規予定として反映させたりできる。先日発表された新機種ではオートGPS機能によってユーザーの現在位置に応じた情報の配信が実現され、ユーザーの購買意欲をより喚起する効果的な販促活動が行えるようになった。

 また、iコンシェルのもうひとつの効果として、ユーザーのメールアドレスによらない情報配信が可能というポイントがある。迷惑メール着信の防止や、環境の変化などにより、携帯電話のメールアドレスはPCのアドレスに比べて変更される頻度が高いと言われる。このため、携帯メールマガジンの会員は、入会からの時間の経過に伴いメールが不達になる可能性が高くなるが、iコンシェルであればアドレスが変更されても継続して情報を届けることが可能となる。

「プレミアクラブ」の会員を対象としたアンケートサービスを今後は社外にも拡販する

 このほか、ドコモユーザーが誰でも入会できる無料会員サービス「ドコモプレミアクラブ」は、入会することで月々のドコモポイントの加算率が上がるため、4800万人という膨大な会員数を得ているが、この会員向けにアンケートを実施するサービスの「プレミアパネル」を、11月より社外にも積極的に提供するという。

 ドコモプレミアクラブは、ドコモ自身がユーザーの満足度を調査する目的で当初開始され、これまで特に外販には力を入れてこなかったということだが、会員資格がドコモの契約と結びついているため、なりすまし会員が少なく会員属性のセグメント化もきちんと行われているなど、精度の高い調査が行えるというメリットがある。このため、サービス価格や販売体制を見直し、今後は外部の市場調査やプロモーションにも利用してもらえるよう展開を図っていく。

 

ユーザーが無償でリサーチ活動を支えてくれる「謎のローソン部」

「謎のローソン部」では「ち☆ひろ」のニックネームで呼ばれるローソン 商品・物流本部 商品統括部の高橋千宏氏

 ローソン 商品・物流本部 商品統括部の高橋千宏氏は、同社の携帯サイト「謎のローソン部」の“部活”内容を紹介した。

 「謎のローソン部」は、コンビニエンスストア・ローソンのファンのためのコミュニティサイトで、会員(“部員”と呼ばれる)は現在約2万人。会員の居住地は全国にわたっており、男女比はおよそ4:6、年齢層は未就学の子供~お年寄りまでと、コンビニエンスストアの顧客層をほぼそのまま反映した、マーケティングリサーチに十分適した規模の組織となっている。

 例えば近年、朝食を自宅で食べず、出勤途中に食べ物を購入して会社のデスクで食べる「席朝族」と呼ばれる人が増えていると言われる。そのような層に売れる商品を開発するため、部員に対して朝8時に「今日の朝ご飯は何を食べましたか」とメールを配信する。すると部員からは「今日は朝ご飯をまだ食べていないので、これからローソンに行きます」「昨日カレーを作りすぎたので朝からカレーです」「今日はコーヒー飲むくらいしかできません」などと、さまざまな返信が携帯メールで返ってくる。

 ここで興味深いのは、企業と消費者という関係の上で行われるリサーチというよりも、日常会話の延長のような形でコミュニケーションが行われているという点である。高橋氏は、「謎のローソン部は、元々商品の開発をしたくて作ったわけではない。ローソンがお客様に伝えきれなかったことを伝える場所、というのが重要な要素」と説明する。

 “部長”である高橋氏(サイト内では「ち☆ひろ」のニックネームで呼ばれる)の元へは、部員から毎日のようにメールが寄せられる。ある時、「ローソンの『焼き鮭ハラミ』おにぎりの具の鮭には、どうして骨が付いてないんですか」という質問が届き、高橋氏は部員に代わってそのメールを持って社内のおにぎり担当者に尋ねた。すると「工場でひとつひとつ全部手で取っている。人がやることで見逃しもあるので、その作業を複数回行っている」ということだった。その答えとプロセスをサイトで発表することで、部員の疑問に思っていたことがひとつ解消される。

消費者が「わざわざ言うほどのことでもないけど……」と思っていることを吸い上げて企業の価値に変え、消費者に伝えきれなかったことを伝える場所として機能する新商品の発売日、夕方18時に感想を求めるメールを出したところ、わずか2~3分の間に続々と返信が寄せられた

 「謎のローソン部」の当初の目的は、このような「わざわざお客様センターに電話して聞くほどのことではないが、ローソンに対して思っていた疑問」を、「納得」に変える場所だったのだという。

 現在では、サンドイッチやカップ麺などの商品開発を部員と共に行ったり、新商品の味の評価を部員に依頼したりすることもある。しかし、部員に対してプレゼントやポイントなど、何か報酬を出すことは一切ない。それは「部活動だから」(高橋氏)ということで、部員は発売日に自分のお金で新商品を買い求め、ローソン部に感想を寄せている。実際にそのようなやりとりの中で商品が改善され、ある時は「サンドイッチの売上が2割向上した」ということもあったというが、あくまで高橋氏は、部活の最大の成果は売上が上がったことではなく「みんなで作ったサンドイッチができたのが一番よかった」と話す。

 なぜこのようなマーケティング活動がうまく回っているのか。その問いに対して高橋氏は「お客様の声を聞く覚悟はありますか」と答える。「リサーチ活動はいろいろあるが、具現化しようと本当に思っているのか。本当にこちら側が『何とかしないと』という気持ちがあれば、お客様も本音の声で返してくれる」といい、ユーザーの心をつかむためには、何か秘策を求めるよりも、真摯で豊かなコミュニケーションを普段から行うことが重要との考えだ。そのためのひとつのツールとして、ユーザーの気持ちに近い携帯電話というメディアは有用であるとの見方を示した。

 

利便性に厳しい「きっかけ買い」ユーザーが集まるのが携帯ECサイト

モバイルマーケティングソリューション協議会理事長の深田浩嗣氏

 携帯電話を利用した広告・販促活動に関わる企業で構成されるモバイルマーケティングソリューション協議会の深田浩嗣理事長は、モバイルサイトにおける商品やサービスの販売について、特徴や全体の動向を説明した。

 画面が小さく商品に関して得られる情報の限られる携帯電話だが、「洋服など割と高い商品も売れている」といい、PC向けのECサイトと比較しても、市場全体では販売される商品の価格帯はあまり変わらないという。しかし、商品購入に至るまでのユーザーの心理は大きく異なっており、それを意識したサイト設計、マーケティング戦略を用意する必要がある。

 深田氏は「PCサイトの場合、価格はどうか、スペックはどうか、他のユーザーのレビューは、などといろいろ情報収集した上で『賢い買い方』をするが、携帯サイトではあまりそういうことをしない」と述べ、総合的に見て良い商品かという部分よりも、何かのグッズなど商品のブランド認知がもともと高かったり、圧倒的に価格が安かったりと、1点明確な訴求ポイントがある商品や店が人気を集める傾向があると指摘。「PCが『納得買い』なのに対し、携帯は『きっかけ買い』」と比較する。

 また、ユーザーが価格比較サイトを利用して能動的に商品情報を調査するわけではないので、サイトへアクセスするきっかけがどのように与えられるかがカギとなるが、メールマガジンによる誘導がかなりの割合を占めており、「平均してだいたい半分、多いサイトでは7~8割」が、店舗の発行するメールマガジンによってやってくる顧客だという。

PCが「納得買い」のメディアなのに対し、携帯は商品情報に接触してから購入決定までの時間が短い「きっかけ買い」のメディア

 特にPCサイトをこれまで運営したショップが携帯サイトへ進出すると、意外な点で客を逃がしてしまっていることも多く、会員登録にあたって空メールの送信を利用するのではなくメールアドレスの手入力を求めていたり、職業や誕生日など商品購入自体に不要な属性情報を取りすぎていたりと、細かな部分でユーザーの利便性を損なうサイトを作ってしまっているケースが散見されるという。

 携帯サイトのユーザーは「商品をカート入れてから、最後に『お買い物ありがとうございます』の画面が表示されるまでの間に、7~8割が(買い物を途中でやめて)離脱する」(深田氏は)という非常にユーザビリティに厳しい層であるが、逆に、サイトの作り方を見直しただけで、価格や販促手法に変化を加えなくても売上を大幅にアップした例もあるといい、PCサイトとは異なるノウハウがあることを認識するのがまず重要との考え方を示した。

 

(日高 彰)

2009/11/13 20:13