クラウド(cloud)×クラウド(crowd)

 KDDI総研 藤原正弘
 KDDI総研総務企画部。専門は情報通信全般の社会・経済分析ということになっていが、昨今クルマの情報化に関わる時間が増えている。


 最近、バス停に「次のバスが来るのは何分後」という表示が出ていることがある。地下鉄だと、かなり前から、次の列車が「2つ前の駅まで来た」「1つ前の駅まで来た」という運行情報をホームの掲示板に表示しているし、最近では遅延情報をTwitterで流したりもしている。確かに、バスのように道路事情に左右される交通機関だと、到着時刻が表示されると、待っている人のイライラ感が解消される効果があるだろう。しかし、バス停まできて、次のバスが20分後だと分かってもあまり嬉しくはない。

 日本のように時間に正確な交通機関だとそこまでニーズは高くないかもしれないが、ニューヨークの地下鉄のようにダイヤがあるんだかないんだかわからないようなところでは運行情報の表示の必要性は高まる。今でも、次に来る列車と、次の次に来る列車が何分後に来るかという表示はホームの掲示板に出ているようだが、実際に運行している列車の時間間隔のばらつきが大きく、ホームに降りてみて「えっ、うっそー」ということも少なくない。

 そこで、何とかしようと考えたのが、DLPモバイルという会社だ。彼らは、昨年の夏、Next Train NYCというスマートフォンアプリを開発した。$1.99の有料アプリだ。30日間の運行状況をもとに、次に来る列車が何分後に到着するかを予測する。恐らく電波が届くところでデータをアップデートしておくのだろう。電波状況の悪い地下鉄のホームでも表示できるというのがこのアプリの売りらしい。ところが、Androidマーケットのダウンロード数を見てもさほど伸びていない。予測精度に問題があるのだろうか。

NEXTTRAIN

 そこで、新規参入の余地があると思ったのか、今年の夏には新たなアプリが登場した。DENSEBRAINが開発したアプリは運行システムなどの既存のシステムとは関連を持たない自立したシステムだ。つまり、何人もの乗客の位置情報の変化でもって、その乗り物の動きを予測できないか、というクラウド(crowd:群集)のデータを活用するクラウド(cloud:雲)なシステムのアイディアだ。これが予測できれば、駅で待っている人だけでなく、どこにいる人にでも、予測した時刻を通知できるはずだ。

 そうしてできたのが「NEXTTRAIN」という無料スマートフォンアプリ。このアプリを搭載したスマートフォンがセンサーとなって位置情報を収集し、クラウド側で地下鉄の運行状況が計算される。また、このアプリを使って、どこにいても、利用したい路線の駅の列車到着予想時刻がわかる。地下なのでGPSは難しく、駅で捕捉する基地局の位置情報を分析して運行状況を計算するという。

 このアプリをインストールした人は、自らセンサーとなって、運行状況報告の一端を担うと同時に、利用者として運行状況をチェックするユビキタス人。DENSEBRAINでは、利用者が増えれば増えるほど予測の精度があがるので、どんどんクチコミで広げてね、と宣伝している。

2011/7/27 09:00