本日の一品
20分の1の値段でリファレンスに迫る AKG「K374」
(2013/2/13 06:00)
25年ほど昔、身分不相応な巨大なフロア型のモニタースピーカーや糸ドライブの合計数十kgもあるアナログレコードプレーヤーを長期のローンで買って、究極のオーディオ貧乏を経験した。最近は重さで勝負の世界からは足を洗い、デスクトップ上で小さな宝石のようなネットオーディオにハマりだし、DAP(Digital Audio Player)にも引き続き興味を持ち続けている。
“USBケーブルで音が良くなる!”と言われても、にわかに信じることのできない自腹実践論派の筆者は、早速、初めてその存在を知った“オーディオレベルのUSBケーブル”から100均のUSBケーブルまで、何種類も購入してみた。試用してみたが、出てくる音は変わったかもしれないけれど、自信をもって良くなったとは言えないと感じた。これには、その程度の貧弱な聴力の持ち主ということもあるだろう。
とどのつまり、USBケーブルの件は不況にあえぐオーディオ業界全体の新しいマーケティング啓蒙活動だと思えばそれはそれで良いだろうと割り切った。ライブに限りなく近いのが良いオーディオのゴールだなどと頑なに考えなければ、趣味のオーディオ世界は、“良い悪い”ではなく、“好きな音、嫌いな音”の世界だと割り切ることで極めて経済的で楽しい世界に没頭できる。
それでも、好きな音楽を超個人的に、それなりに楽しく聴くためには、ある程度の品質のヘッドフォンは必須アイテムだ。AKG社のヘッドフォンK3003は、数多くの支持者が言うように本当に素晴らしい再生機であるが、いかんせんその価格は高すぎる。世界に冠たるオーディオメーカーの老舗が、金に糸目を付けずに開発するとここまでのモノが出来上がるという技術力と現状ヘッドフォンで望み得る最高の音響を見せつけるには最適だが、気楽に好きな音楽を好きな音で楽しむにはかなり敷居が高い。
そんなリファレンス的オーディオ機器を開発したAKG社が、今度は同じDNAを感じる超お手ごろ価格の新商品を発売した。「K374」がその新しいヘッドフォンだ。今回筆者は、4種類のDAPとK3003、K374を切り替えて数曲を3時間ほどかけて聴き比べてみた。筆者はオーディオ評論家ではないので、再生音に対して、詩人のような形容を付加して表現することは得意ではないので、簡単明確にその再生音を言い当てる言葉を探してみた。
ポピュラーからROCK、JAZZ、クラシックまで、幅広く同じ数曲を聴き比べ、K374とK3003を比較して、一番の違いは、K3003の持つ“音の分解能力”だということに行き着いた。きっとオーディオ的に言うなら、「透明感」とか「ディテール感」とか、ある限りの形容詞を付けて表現するのが一般的なのだろう。
価格的にピンからキリまで、アンプ、スピーカー、ヘッドフォンなど、オーディオ装置と名のつくモノの特性の差はいろいろあるが、一番大きな差は「分解能力」だと思っている。K374はK3003に比べて明らかに分解能力は劣るが、20分の1という価格差を考えたら、何倍もお釣りが来る仕上がりだと思う。また音楽ソースの種類によっては、K374の方がより自然で力強く、音楽としてのノリは気持ち良い時すらあった。
昨今、多くのオーディオショップではヘッドフォンの試聴も可能なお店が多い。K374を購入しようとお考えなら、是非ともK3003も聴き比べてみてはどうだろうか。価格的に安い製品を買うことを最終目的に置いて、より高額で機能的にも上位にある商品を当て馬にして聴いてみることは極めて稀だが、K374が購入対象なら面白い試みだろう。
試聴の結果、それでも、貴方がもしK3003を購入する選択をしたなら、微々たる差に20倍のお金を支払っても納得できる良い聴力の持ち主であることを喜ぼう。所詮、オーディオとは10%の機能や品質のアップに10倍のお金を注ぎ込むものというのが20世紀からの言い習わしだ。まあ、聴力は年齢とともに衰えてくるので、大事なのは聴力よりも、いつまでも変わらぬ様に鍛錬できる“感性”かも知れないが。
製品名 | 購入場所 | 購入価格 |
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