スタパ齋藤の「スタパトロニクスMobile」

iPhoneでサーモグラフィー♪

iPhoneでサーモグラフィー♪

 いつ見ても「オモシロいな~」と思うのがサーモグラフィーによる画像です。サーモグラフィーとは、物体が放つ赤外線を分析・表示する「熱の分布を可視化する装置」ですな。青い部分は温度が低く、赤い部分は温度が高く、白い部分はもっと温度が高い、といったことを示すおなじみの画像が得られる装置です。

サーモグラフィ画像の例。左がクルマのエンジン、右が何かの配線ボックスのようです。そういった対象のどこからどの程度の熱が放たれているのかを見られるのが、サーモグラフィーです。

 温度分布が可視化される様子は、いつ見ても興味深いです。見るたびに一瞬「やっぱりサーモグラフィーが欲しい!」と思うんですが、激安でも10万円オーバー、30万円40万円は当たり前、みたいな業務用ハードウェア。普通はそうそう仕事に役立つものでもありませんし、興味だけではなかなか買えません。

 先日も、某電器メーカーへ取材に行ったときに、技術者がNECロゴのゴツいサーモグラフィーを使っているのを目撃しました。そのサーモグラフィーは、一式が専用ハードケースに入っていて、いかにもお高そうです。

 その横に、別のサーモグラフィーを扱っている技術者がいました。見ると、iPhoneにサーモグラフィー映像らしきもが表示されています。さらに見ると、被写体の動きと画面の動きが連動していますので、明らかにiPhoneがサーモグラフィーとして機能しています。どうやって? 直接訊こうとしたところ、「じゃあサイトウさんコチラに立ってください~」と(サーモグラフィーの被写体として)呼ばれました。

 結局、iPhoneのサーモグラフィーの件を訊くチャンスを逃して取材終了。帰宅後に調べてみたら、技術者が使っていたのは、どうやらFLIR(フリアー)の「FLIR ONE」という「iPhoneをサーモグラフィーとして使うためのユニット」だということがわかりました。同時にAmazonで3万4992円で売られていることもわかったので「安っ!」と思って光の速さでポチっと購入しました。

FLIRの「FLIR ONE」。ポケットサイズの小さなモジュールで、iOS版はLightningコネクタを装備するiOS端末で使えます。USB On-The-Go(OTG)対応のAndroid端末で使えるAndroid版もあります。

 ちなみに今回購入した「FLIR ONE」。現時点で「最新世代のFLIR ONE」です。前の世代も製品名は同じですが、形状や対応機種が異なります。

 早速使い始めてみましたが、何はともあれ「オモシロ~イ♪」ですっ!! iPhoneで写真を撮る感覚で、身の回りのほとんどのモノの表面温度分布を可視化できまくり♪ コレはどうなんだろう、じゃあアレはどうなんだろうと、興味の赴くままにナンでもかんでもサーモグラフィー映像にして観察できます。

 てなわけで以降、「FLIR ONE」の機能や使用感について書いてみたいと思います。なお、「FLIR ONE」にはAndroid版とiOS版がありますが、この記事ではiOS版の「FLIR ONE」をiPhone 6s Plusに接続して使っています。詳細情報が掲載されている「FLIR ONE」のメーカー製品紹介ページはコチラです。

どんなモノ? どう使う? どう見える?

 まず、「FLIR ONE」の概要をザッと見てみましょう。サイズは横72×縦26×厚さ18mmで質量は78g。内蔵バッテリー(容量350mAh)で動作し、USB充電して使います。試してみたところ、USB充電中も使用できるようです。バッテリー持続時間は公称されていませんが、実際に使ってみると1時間弱使えるという感じ。サーモグラフィー・タイムラプス撮影など本格的な連続使用には、別途モバイルバッテリーなどが必要かもしれません。

 サーモグラフィーとしては、撮影温度範囲は-20~+120°Cで、この範囲の表面温度を可視化できます。最小で0.1℃の温度差を検知できるそうです。得られる映像の解像度はVGA(640×480ピクセル)。このサイズの静止画や動画、タイムラプス動画のサーモグラフィ画像を撮影できるほか、パノラマのサーモグラフィー静止画も撮影できます。

iOS版「FLIR ONE」。カメラは2つあり、左が可視光線カメラで、右が赤外線カメラ。本体の左側に電源ボタン、右側に充電用microUSBコネクタ、上にLightningコネクタ(Android版はUSBコネクタ)があります。付属ケース(というかセミハードジャケット)を使えば、「FLIR ONE」のカメラや端子を保護して携帯できます。ケースにはストラップホールも付いています。
iPhone 6 Plusに接続した様子。カメラはアチラ向きでもコチラ向きでもOK。前述のケースは「FLIR ONE」を端末に接続した状態でも被せることができます。

 使い方はカンタンで、専用アプリをインストールしたiPhoneに、充電した「FLIR ONE」を接続。「FLIR ONE」の電源を入れてアプリを起動すれば、画面にサーモグラフィー映像が現れます。

 ちなみに、アプリは「FLIR ONE」アプリ「FLIR Tools」アプリを使っています。「FLIR ONE」アプリはサーモグラフィー映像のライブビュー表示~撮影~後の加工(温度表示の有無や表示色の変更など)が行える、わりとシンプルなアプリです。「FLIR Tools」アプリも同様にライブビュー表示や撮影、加工に対応しますが、複数箇所の温度表示やグラフ表示など、より高度な表示~加工ができるアプリです。なお、「FLIR Tools」アプリではサーモグラフィー静止画のインポートにも対応しており、「FLIR ONE」アプリで撮った静止画を処理することもできます。ほかにもいくつか純正アプリがあり、「FLIR ONE」向けのサードパーティ製アプリも存在するようです。

左が「FLIR ONE」アプリの表示例、右が「FLIR Tools」アプリ。「FLIR Tools」アプリではより細かな操作ができますが、その分、操作感が少々複雑です。「FLIR ONE」アプリはシンプルでわかりやすい感じ。撮影は「FLIR ONE」アプリで、その後の処理は「FLIR Tools」アプリ(インポート機能使用)で、と使い分けるという手もあります。

 で、あとはこれらアプリを使って思うままにサーモグラフィー映像を観察していきます。とりあえずライブビュー映像だけで「へえぇ~っ!」などと感心できちゃう楽しさがあります。もちろん、撮影して記録・考察・研究することも可能です。

カメラアプリのような感覚でサーモグラフィーのライブビューを見ることができます。撮影も可能。撮影後、可視光線画像と赤外線画像を見比べることもできます。
見やすいように、写真内の左側が可視光線画像、右側が赤外線画像として合成してあります。左写真はキーボードですが、キーボードコントローラー基板とUSBハブおよびUSBドングルの部分が熱を帯びているようです。左はコンロ。しばらく前に加熱した鍋に熱が残っている状態が可視化されました。
猫って目とその周りが温かくて鼻は冷たいんですネ。道行く人はこのように映ります。夜間でも人体などの熱源がハッキリと浮かび上がって興味深いです。

 う~んオモシロい! 何を見ても愉快だし興味深いです。ちなみに、「FLIR ONE」のサーモグラフィー映像は一般的なそれよりもクッキリして見えます。これは2つのカメラのうち、可視光線カメラで撮影・抽出したモノの輪郭と赤外線映像を合成(MSXブレンディング)しているからだそうです。

 なお、「FLIR ONE」は約30m先までの人物の温度を検知できるそうです。暗い環境では上記の「抽出したモノの輪郭を合成」することができなくなりますが、暗闇で動く生物を見つけたり、夜間に熱源を探ったり、サーモグラフィーならではの活用もできそうです。

どんな発見があるのか?

 サーモグラフィー映像を見ていると、頻繁に「あっ!」と気づくことがあります。たとえば機器の待機電力。僅かに流れる電流による熱から、待機電力が消費されていることを改めて知ることができます。

 また、「FLIR ONE」アプリでのサーモグラフィー映像は、必要に応じて表示色を9パターンから選ぶことができます。最高温部分や最低温部分のみを色づけ表示するパターンもありますので、「熱さや冷たさから何かを探る」という使い方もできます。アプローチ次第で、熱分布からさまざまなことを発見できるというわけです。

 ちなみに、「FLIR ONE」アプリでは熱分布の色分けは相対表示です。たとえばレインボーの表示パターンにした場合、赤や白の部分が必ずしも「触れると熱いと感じられる」わけではありません。青の部分が非常に冷たく、赤の部分が少し冷たい、という場合もあるわけです。

 なお、「FLIR ONE」アプリでは、中央のマーカー中心のピンポイントでの温度表示が可能です。マーカーは非表示にもできます。「FLIR Tools」アプリではマーカーを8点まで表示させることができます。

「FLIR ONE」アプリの表示例。色のパターンは9種類から選べます。マーカーを表示させると、その部分のピンポイントの温度がわかります。マーカーは消すこともできます。
「FLIR Tools」アプリの表示例。色のパターンは7種類から選べます。マーカーは最大8点まで表示させられますので、より詳しく温度分布を調べることができます。

 さて、サーモグラフィー映像を見て、具体的にどんな発見があったのか? 主には「あ~コレも確かにコンセントにつなぎっぱなしだから、待機電力を消費していたのか~」的なコトですが、実際のサーモグラフィー映像とともに、いくつか見てみましょう。なお、以下の各写真は見やすくするため、1枚の写真の中の左から可視光線映像、サーモグラフィー映像×2枚(異なる位置の温度)を合成してあります。

天井付近にある壁かけ扇風機です。サーモグラフィーで部屋中を観察していたら、7ヵ月以上使っていない(コンセントにはつながっている)扇風機の一部に熱がこもっていることを見つけました。待機電力です。触っても暖かさは感じませんが、電力が消費されているんですね~。
本棚の2箇所に熱源を発見。下はストロボのジェネレータ(電源)で、上はWi-Fiルータです。ルータは触ると暖かさを感じる程度の熱を帯びています。
本棚の端。中央左下にはAndroid端末型のFAX電話子機があります。上は電話機のACアダプタです。いつもは意識していない待機電力を気づかされました。
作業机に熱源発見。アップルのAirMac Expressと、小型のアンプから出ている熱でした。
「残った熱」から何かの痕跡を発見することもできます。可視光線映像では何もないテーブルですが、少し前に十数秒手を当てていました。サーモグラフィーではそういった熱も検知できます。

 普段は見えないし気にもならない「熱」。これを片っ端から可視化してくれるサーモグラフィーは、やはりオモシロく、そしていろいろな発見をもたらしてくれます。3万5000円弱で購入した「FLIR ONE」ですが、ワタクシ的にはかな~り満足♪ 仕事に役立てればすぐにモトが取れるあたりも含め、優れたコストパフォーマンスを感じております。もちろん、こういうハードウェアなどまったく必要でないし興味もないという方もあると思います。一方で、「サーモグラフィー、興味津々!」という人にとっては「イロイロと刺さるハードウェア」だと思いますので、ぜひジックリとチェックしてみてください。

スタパ齋藤

1964年8月28日デビュー。中学生時代にマイコン野郎と化し、高校時代にコンピュータ野郎と化し、大学時代にコンピュータゲーム野郎となって道を誤る。特技は太股の肉離れや乱文乱筆や電池の液漏れと20時間以上の連続睡眠の自称衝動買い技術者。収入のほとんどをカッコよいしサイバーだしナイスだしジョリーグッドなデバイスにつぎ込みつつライター稼業に勤しむ。