法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

驚きと歓声で迎えられた「iPhone 6」「Apple Watch」

 Appleは9月9日、米クパチーノのFLINT CENTERにおいて、新製品発表会を開催し、「iPhone 6」「Apple Watch」「Apple Pay」などの新製品及び新サービスを発表した。それぞれの製品の内容については、すでに本誌の速報記事に掲載され、発表会の映像も公開されているが、ここでは発表会場の様子やハンズオンでの製品の印象などを踏まえながら、紹介しよう。

iPhone 6およびiPhone 6 Plus
Apple Watch

節目に使われてきたFLINT CENTER

 Appleと言えば、今や世界中の人が「iPhoneを作っている会社」と答えるだろうが、Appleはパソコンをはじめ、コンピューターを中心としたさまざまな製品やサービスを生み出してきた企業としても知られる。

 今回の発表会が催されたFLINT CENTERは、30年前にスティーブ・ジョブズが初代Macintoshを発表し、1998年には初代iMacを発表したところとして知られている。同社CEOはプレゼンテーションの冒頭に、このことに触れながら、今回の発表がAppleにとって、これまでと同じような節目となるものであることを紹介した。これまでの発表会では、冒頭に同社の販売実績や市場動向などが説明されてきたが、今回は発表する製品が多いため、それらは割愛され、すぐに製品とサービスのプレゼンテーションがはじめられた。

iPhone 6とiPhone 6 Plusの2モデルを発表

 新製品の紹介は、まず、iPhoneからはじめられた。昨年、Appleははじめて2つのiPhoneを発表し、この1年間でもっとも売れたスマートフォンになると共に、顧客満足度も98%を記録し、もっとも愛されているスマートフォンになったことを紹介した。現在、さまざまなメディアや調査において、iPhoneは「ベストなスマートフォン」と評されるようになったが、その始まりは2007年に発表した初代iPhoneで定義されたものであり、代を追うごとに、着実にiPhoneは進化を遂げてきたことを説明した。ティム・クックCEOが「今回発表するiPhoneは「iPhone史上『最大』の進歩」」と語ると、事前に画面サイズが大きくなると噂されていたことから、「最大」というキーワードに反応し、会場内からは笑い声と共に大きな歓声が上がり、スクリーンに紹介ビデオが流れた。

 続いて、ステージにはVice Presidentのフィリップ・シラー氏が登場し、iPhone 6のプレゼンテーションがはじめられた。今回のiPhoneには4.7インチのディスプレイを搭載した「iPhone 6」、5.5インチのディスプレイを搭載した「iPhone 6 Plus」という2つのモデルがあり、デザインも以前とまったく違い、ガラスの前面から側面にかけて、曲線を描き、継ぎ目のない形状に仕上げている。筐体はステンレススチールを採用し、背面にはAppleのロゴがあしらわれている。

 iPhoneの開発チームは今回のiPhone開発にあたり、当初から2つのディスプレイサイズを検討していたが、どんなディスプレイでもよかったわけではなく、これまでのRetina Displayを進化させた「Retina HD Display」を採用したという。Retina HD Displayは非常に明るく、広いsRGBを再現することができ、イオン強化型のガラス、極薄のバックライトで構成される。液晶パネルはデュアルドメインピクセルによるIPS液晶で、広い視野角と正確な色再現を可能にする。

 従来のiPhone 5sに搭載されていた4インチのディスプレイが1136×640ドット表示(326ppi)に対応していたのに対し、4.7インチディスプレイを搭載したiPhone 6は1334×750ドット表示(326ppi)、5.5インチディスプレイを搭載したiPhone 6 Plusは1920×1080ドット表示(401ppi)を実現している。iPhone 5sに比較して、iPhone 6はピクセル数が38%増加、iPhone 6 Plusは185%増加した計算になる。ディスプレイサイズを大きくしながら、ボディの厚みはiPhone 5sの7.6mmに対し、iPhone 6は6.9mm、iPhone 6 Plusは7.1mmと薄く仕上げられている。

 このディスプレイの大型化により、iOS 8の標準アプリも表示が変わり、メッセージアプリ「iMessage」で顔写真をいっしょに表示したり、iPhone 6 Plusでは横向きに構えることで、メッセージ一覧とメッセージをいっしょに表示することが可能になっている。天気予報や株価、メール画面なども見やすく、メール作成などで利用するソフトウェアキーボードには新たにコピー&ペーストのためのキーも備えられている。ちなみに、このホーム画面や標準アプリの横画面表示はiPhone 6 Plusのみに提供される。

 ディスプレイサイズが大きくなったことで、操作性への影響が懸念されるが、この点についても改良が図られている。昨年のiOS 7ではWebページ閲覧時、左右にスライドすることでページを切り替える操作を導入したが、今回のiPhone 6ではガラス面をなめらかな曲線に仕上げることで、これらの操作をより快適に使えるようにしている。また、新しい操作として、Touch IDボタンをダブルタッチすることで、全体表示を下方向にスライドさせる動作が採用されている。この操作により、画面上部に表示されているアイコンなどにも容易にアクセスすることが可能だ。これまでのiPhoneでは一貫して、本体上部に備えられていた電源/スリープキーは、本体右側面に移動しており、片手で持ったときでもすぐに操作することが可能だ。

 iPhoneにはすでに130万を超えるアプリが提供されており、解像度が変更されたことで、対応が気になるが、これらのアプリは「Xcode」と呼ばれる統合開発環境で開発されており、自動的に再レイアウトすることが可能だという。新しいサイズのディスプレイに最適化されていない従来のアプリについては、iOS 8が異なる画面サイズに表示できる機能を備えており、問題なく利用できる。

 プロセッサーについては、新たに開発された64bit設計の「A8」が採用される。20億00万のトランジスタを内蔵し、20nmプロセスで製造されるもので、従来のものに比べ、13%の小型化に比べ、CPUは25%アップ、GPUは50%アップの高速化を実現する。CPUは初代iPhoneの50倍、GPUは84倍の高速化が図られている計算になる。エネルギー効率は50%以上、改良され、ユーザーはより長い時間、利用することが可能だ。一般的なスマートフォンは利用開始時こそ、高いパフォーマンスが得られるものの、電力消費や熱対策のため、パフォーマンスが抑えられるのに対し、iPhone 6は利用開始時から数十分後でも変わらないパフォーマンスが確保されているという。特に、処理の重いゲームなどを楽しむときに適している。

 また、Appleは今夏、「METAL」と呼ばれる新しいグラフィックライブラリを導入し、3Dゲームを開発しやすくしている。従来のiOSでの3DゲームはOpenGLを利用していたため、オーバーヘッドが大きかったのに対し、METALではよりチップに近いところで開発できるようにして、より美しく、高品質なグラフィックの3Dゲームを制作できるという。すでに、Electronic ArtsやDisney、SQUARE ENIXなど、多くのベンダーがこの環境を利用したゲームを開発中だそうだ。今回はその内の1社として、SUPER EVIL MEGACOPが紹介され、CCO(Cheif Creative Officer)のステファン・シャーマン氏が登壇し、同社の「VAIN GLORY」という3Dゲームのデモンストレーションが行われた。

 今回のiPhone 6に搭載されるA8チップは、他の実利用のパフォーマンスも改善されている。iPhone 6とiPhone 6 Plusで内蔵するバッテリーサイズが異なるため、若干の違いがあるが、iPhone 5sに比べ、確実に同等以上の連続利用を可能にしている。

 次に、A8といっしょに搭載されるモーションコプロセッサー「M8」が紹介された。M8には加速度センサー、ジャイロスコープ、電子コンパスが内蔵されており、フィットネスアプリケーションなどで利用できるが、M8では歩いているのか、走っているのか、サイクリングをしているのか、どれくらいの距離を移動したのかがわかるうえ、標高を計測することにより、階段を何段上ったのかなどもわかるという。これは内蔵されている気圧計を利用し、高度を測っているためだ。すでに、NIKEはM8に対応したランニングアプリケーションを開発しているそうだ。

最大150MbpsのLTEに対応、VoLTEやWi-Fi callingも

 モバイルネットワークについては、iPhone 5sに引き続き、LTEに対応する。Category 4準拠により、最大150Mbpsに通信が可能で、キャリアアグリゲーションにも対応する。対応するLTEのバンドについては、従来の13バンドから20バンドまで拡がり、世界で販売されるスマートフォンのうち、もっとも多くのLTEバンドをサポートすることになった。現在、200社以上の通信事業者のLTEネットワークに対応し、ローミングでも快適に利用することができる。

 LTEに関連した技術として、VoLTEにも対応する。データ通信専用のLTEネットワークに音声データを流す技術で、米Verizon、米AT&T、T-Mobileなど、各社のサービスで利用することができる。VoLTEについては、すでに国内でNTTドコモが導入し、auやソフトバンクも導入の意向を示しているが、今回のAppleの発表では特に言及されなかった。ただ、VoLTEは各社のネットワークでの接続試験や調整が必要になるため、今後のアップデートで国内でも利用できるようになると見られる。

 Wi-Fiについては、最新のIEEE802.11acに対応し、従来よりも3倍の高速化が可能だ。これに加え、新たに「Wi-Fi calling」に対応する。Wi-Fi callingはWi-Fiに接続されているとき、その回線の音声通話をWi-Fi経由で利用できるというもので、米T-Mobileと英EEが提供する。プレゼンテーションでは詳しく触れられていないが、Wi-Fi callingに対応すると、ローミング中に渡航先のWi-Fiに接続すれば、契約元の国内通話料金で利用できることになるため、各社の国際ローミングサービスに大きな影響を与えそうだ。

 カメラについては、背面に8MピクセルのiSightカメラを搭載する。自然な色合いで撮影できるTrueTone Flash、F値2.2の5群5枚レンズを組み合わせたもので、新設計のカメラになる。注目すべき点としては、一眼レフなどでも採用される位相差方式によるオートフォーカスで、2倍の速度の高速フォーカスを可能にする。この他にも新しいトーンマッピングやノイズリダクションが搭載され、美しい写真を撮ることができる。パノラマ撮影では新しいジャイロスコープにより、つなぎ目のない美しい最大43Mピクセルの写真を撮ることができる。

 A8チップに内蔵された画像処理エンジンも新設計となり、顔認識機能やバーストモードによる撮影などに対応する。これらのカメラに関連するスペックや機能はiPhone 6とiPhone6 Plusで共通だが、Image Stabilization(手ぶれ補正)についてはiPhone 6が電子式であるのに対し、iPhone 6 Plusは光学式を採用しており、暗いところでも美しい写真を撮影できるようにしている。動画撮影については、1080pで30fpsに加え、60fpsに対応し、スローモーション撮影も120fpsに加え、240fpsに対応する。最近、少しずつ注目を集めているタイムラプス撮影の機能も備える。

 本体前面に備えられたFaceTimeカメラも新設計となっており、F値2.2のレンズを組み合わせることで、従来よりも81%以上、明るく撮影することができる。最近の自撮りの普及を踏まえ、FaceTimeカメラでも顔認識に対応するほか、バースト撮影を利用したコマ撮りも可能だという。明暗差のあるところでの撮影に強いHDR撮影は、従来のような複数回ではなく、一度の撮影で可能にしており、動画撮影でも利用することが可能だ。

 ラインナップについては、ボディカラーがsilver、gold、spacegrayの3種類で、容量は16GB、64GB、128GBの3つが用意される。米国での価格はiPhone 6が2年契約で199ドル、299ドル、399ドル、iPhone 6 Plusが299ドル、399ドル、499ドルとなっている。従来のiPhone 5s/5cも容量の少ないモデルが併売される予定だ。発売は9月19日で、米国をはじめ、日本を含む9つの国と地域で発売される。予約は9月12日開始となっている。それ以外については、2014年中に115の国と地域に発売される予定だ。

 iPhone 6に搭載されるiOS 8については、9月17日から従来のiPhoneにも配信され、iPhone 4s以降、iPod touch(第5世代)、iPad2以降が対象となる。

NFCを利用した決済サービス「Apple Pay」

 ステージ上には再びティム・クック氏が登場し、新しいサービスについての説明をはじめた。スクリーンにくたびれた財布の写真が映し出されると、場内からは歓声と拍手が巻き起こった。

 今日、米国では毎日、120億ドルものお金が支払われ、4兆ドルの決済が行われ、2億回ものトランザクションが反映されている。具体的な利用シーンとして、お買い物をするときの映像が流された。商品を買ったお客さんはカバンの中から財布を取り出し、カードを店員に渡し、IDカードを見せ、店員がレジのカードリーダーにクレジットカードを通し、レシート共にお客さんにクレジットカードを返し、お客さんがクレジットカードを財布にしまい、品物を受け取るという流れを見せた。

 決済は非常に手間のかかる作業であることを紹介しつつ、そのベースとなっているクレジットカードは前面のクレジットカード番号、50年以上前に考えられた背面の磁気テープのセキュリティに依存し、わずか数桁のセキュリティコードでしか守られていないことを挙げた。これまでの各社の決済サービスはビジネスモデルの構築が最初に考えられていたが、Appleとしてはユーザー体験に注目し、新しい決済サービス「Apple Pay」を考えたという。ここで再び同じシチュエーションとして、iPhone 6のTouchIDに指を当てたお客さんがレジ横のリーダーに先端部を近づけるだけで決済が完了する映像が流されると、場内からは再び歓声と笑い声が巻き起こった。

 続いて、壇上にはVice Presidentのエディ・キュー氏が登壇し、モバイル決済サービス「Apple Pay」の詳しい説明が行われた。

 今回のiPhone 6には非接触ICのNFCアンテナが上部に備えられ、指紋センサーのTouch ID、新しいA8チップにはセキュアエレメントが搭載され、iOSには従来からPassbookというアプリが提供されている。現在、iTunesでは決済のため、クレジットカードを登録しているが、Apple Payではこのしくみを利用する。クレジットカードを新たに追加したいときは、iPhone 6のカメラでクレジットカードの写真を撮り、金融機関でそのクレジットカードが本人のものであると確認されると、Passbookに登録される。支払いに使うときはPassbookでカードを選び、Touch IDに触れるだけという簡単な操作で済む。セキュリティについては、端末にクレジットカード番号を格納することもなく、支払先の店舗にも番号を伝えることがない。

 実際のやり取りに使われるのはその端末に割り当てられた固有の番号で、支払時には一回のみの決済番号を利用し、セキュリティコードも動的なものが割り当てられる。もし、iPhoneをなくしてしまったときも端末を利用できなくすることで、クレジットカードの悪用を防ぐことが可能だ。また、プライバシーも考慮されており、Appleはユーザーがどこで何を買い、いくら支払ったかという情報は一切、収集せず、支払先には名前やクレジットカード番号、セキュリティコードが渡ることもないという。Apple Payは当初、米国のみでサービスが開始され、American Express、マスターカード、VISAが対応する。利用できる場所はデパートのmacy'sなどをはじめ、SUBWAYやマクドナルドといったファストフード店、Apple Store、Disneyなどを予定している。オンラインショップやオンラインサービスでも利用できる予定で、レストラン予約サービスのOpenTableでは予約から決済までをiPhone 6で可能にする。

 モバイル決済サービスについては、すでに日本ではおサイフケータイが広く普及し、最近ではアジアや欧米でも少しずつ同様のサービスが拡がろうとしている。Apple Payは今年10月から米国でサービスの提供を開始し、その他の国と地域にも拡大したいとしているが、どのように展開されていくのかが興味深いところだ。

おなじみのフレーズとともに発表された「Apple Watch」

 Apple Payのプレゼンテーションが終わると、ステージにティム・クック氏が再登場し、「One more thing...」というおなじみのフレーズがスクリーンに映し出されると、場内は大きな歓声と拍手が沸き起こった。同氏は「これはAppleのストーリーの次の章であると言っても過言ではない」と話し、新しいウェアラブル端末「Apple Watch」を紹介をスタートさせた。

 まず、スクリーンにはApple Watchのデモ映像が流され、全体のデザインや細かいディテールなどが次々と映し出された。デモ映像が終わると、場内はこの日、一番の大歓声と拍手と共にスタンディングオベーションで迎えられた。

 Apple Watchは世界でもっとも優れた腕時計を目指して開発されたもので、カスタマイズができるだけでなく、時刻の誤差も50ms以下を実現し、iPhoneと連動して動作する。AppleはこれまでもMacintoshでのマウスの採用、iPodでのクリックホイール、iPhoneのマルチタッチスクリーンなど、革新的な操作デバイスを提供してきたが、今回のApple Watchでも新しい操作デバイスに取り組んでいる。たとえば、iPhoneのタッチ操作をそのまま小さいサイズに当てはめると、ピンチ操作では指先で小さな画面が隠れてしまい、ユーザーは操作することができない。

 そこで、本体側面に腕時計のリューズに似せた「デジタルクラウン」と呼ばれるデバイスを装備し、これを使って操作することにしている。デジタルクラウンは内部に備えられた赤外線LED(フォトダイオード)で回転の動きを検出するしくみになっており、画面のズームイン/アウト、スクロールなどの操作ができる。ホームボタンと同様の役割もあり、何か操作をしているときにデジタルクラウンを押すと、最初の時計の画面に戻ることができる。

 続いて、デザイナーのジョナサン・アイブ氏のナレーションによる機能紹介ムービーが流され、Apple Watchの多彩な機能が紹介された。Apple Watchは自分が身につけるものとして、持つ人が個性を主張できるものに仕上げようとしたという。まず、腕を動かすと、Apple Watchがそれを検出し、画面をONに切り替え、デジタルクラウンを使うことで、さまざまな操作をすることができる。アプリは軽快に動作するように作られており、メッセージを受信したときに簡単に返信できるようにしたり、登録されている連絡先に簡単にコンタクトを撮れるようにしている。Apple Watch同士で、手書きのアイコンを送り合ったり、着信時の通知も表示することが可能。

 ディスプレイはFlexible Retina Displayと呼ばれるものを採用し、単結晶のサファイアガラスで覆われており、画面にキズを付きにくくしている。ディスプレイはタッチ操作に対応するが、スマートフォンのようにタッチをするだけでなく、画面を少し押すという操作が加えられている。本体に内蔵された「TAPTIC ENGINE」により、Apple Watchを細かく振動させ、ユーザーに情報を伝えることもできる。背面には心拍センサーが備えられており、内蔵されたジャイロスコープと加速度センサーなどを組み合わせ、ユーザーの活動状況を記録することができる。同じく背面に専用の端子を装着することで、電磁誘導式の非接触充電を可能にしている。

 また、ユーザーが毎日使うことを考え、文字盤などのデザインを自由にパーソナライズすることができるが、バンドも好みに合わせ、交換できるようにしている。従来の時計のようなバックルタイプ、メタルバンドなどのほかに、磁石を内蔵して、折り返して固定するバンドなども提供される。

 腕時計のムーブメントに相当する部分は1種類だが、ケースとバンドの違いにより、「Apple Watch」「Apple Watch SPORT」「Apple Watch EDITION」がラインアップされる。Apple Watchはポリッシュしたステンレスケースを採用したベースモデルになる。Apple Watch SPORTは酸化皮膜処理を施したアルミケースを採用し、カジュアルなナイロン製バンドと組み合わせて利用する。Apple Watch EDITIONは18金仕上げのケースで、標準的な金よりも2倍の硬度を実現している。

 解説ムービーが終わると、ソフトウェア開発を担当したケビン・リンチ氏が登壇し、Apple Watchのデモンストレーションを行った。タイル状にアイコンが並んだアプリ一覧画面は上下左右にスクロールさせることができ、デジタルクラウンを操作することで拡大や縮小もできる。文字盤は出荷時に多くのパターンが用意されており、テキストを利用したウェアラブル端末らしい文字盤は文字のカラーや配置するアイコンなども自由に変更することができる。アプリを使い、地図を表示したり、株価の確認、iPhoneの音楽再生のコントロールなどもできる。iMessageを利用したコミュニケーションも可能で、メッセージの返信は画面に表示されたいくつかの選択肢をタップするだけで答えたり、アニメーションする絵文字をカスタマイズして、返答することも可能だ。Siriの音声認識による検索にも対応し、行き先を検索して、Apple Watchの画面に地図を表示しながらのナビゲーションも利用できる。Apple Watchに対応した開発ツール「Watch Kit」も提供され、すでにいくつかのサードパーティ製アプリが開発されている。

 Apple Watchは今回発表されたiPhone 6とiPhone 6 Plusと組み合わせて利用するが、iPhone 5/5s/5cにもアップデートで対応する。2015年はじめに発売される予定で、価格は349ドルからということが明らかにされた。ただし、連続利用時間など詳しいスペックは明らかにされていない。

 プレゼンテーションがすべて終了し、Appleが取り組んでいるiTunes Festivalが紹介され、今回はU2が生演奏を披露した。その後、今回演奏されたU2のアルバムが5億人を超えるiTunesユーザーに無料で先行配信することが発表され、来場者を大きく驚かせた。

ハンズオンで試したiPhone 6とApple Watch

 発表会終了後、FLINT CENTERに隣接したハンズオン(タッチ&トライ)コーナーがオープンし、今回発表されたiPhone 6、iPhone 6 Plus、Apple Watchを試すことができた。ただし、今回は来場者がたいへん多く、入場が制限されたため、かなり限られた時間しか試すことができなかった。また、Apple Watchは開発中ということもあり、腕などに装着することができるものの、実際の操作はスタッフが行っており、実際の使用感を十分にお伝えできないことをお断りしておく。

 まず、iPhone 6についてだが、スペックからもわかるように、従来のiPhone 5sよりもひと回り大きく、デザインも一新されている。特徴的なのは本体側面の形状で、従来のiPhone 5sはボディ周囲をカット加工することで、角張った持ち味で仕上げられていたのに対し、iPhone 6は側面がラウンド仕上げになっているため、非常に手のあたりがよく、持ちやすいという印象を得た。ちなみに、ボディのデザインはiPhone 6 Plusも共通で、ディスプレイサイズの違いにより、ひと回り大きくなっている。

 ディスプレイサイズについては、従来のiPhone 5sよりもiPhone 6でひと回り、iPhone 6 Plusでは解像度的にもひと回り以上、大型化したため、格段に視認性がよくなっている。元々、iPhoneはシンプルなユーザーインターフェイスで、はじめてのユーザーにもわかりやすいスマートフォンとされてきたが、他のスマートフォンに比べ、画面があまり大きくないため、本来、おすすめできるはずのシニアユーザーにはちょっと手を出しにくい印象もあった。しかし、今回のiPhone 6はそういったユーザーにも安心して視認性を確保しており、さらに幅広いユーザー層に受け入れられるモデルになるかもしれない。

 また、iPhone 6 Plusについては5.5インチと画面サイズが大きいため、ボディ幅も77.8mmとワイドになり、長さも158.1mmとiPhone 5sよりも30mm以上、長い。そのため、画面上部のアイコンを操作するには、iOS 8で採用されるダブルタッチによる画面の表示位置を一時的に下げる操作なども上手に活用する必要がありそうだ。ただ、ボディの厚みが非常にスリムであるため、大きいボディながらも持ちやすく、扱いやすい形状に仕上げられたという印象だ。

 ちなみに、ハンズオンの会場でNTTドコモの加藤薰代表取締役社長を見かけ、コメントを求めたところ、「iPhone 6のサイズ感が非常にいい。持ったときの軽さというか、バランスがいい。でも、iPhone 6 Plusの回転する画面も見やすくていいね」と笑顔で答えていた。

 同じく会場内でKDDIの田中孝司社長を見かけ、今回の発表内容について、コメントを求めたところ、「いやぁ、Apple Watchでしょ!」と開口一番に答えるなど、かなり気になっている様子だった。

 Apple Watchについては、まだ開発中のため、あまり触ることができなかったが、実物を腕に装着することはできた。普段、筆者はステンレスケースのアナログ腕時計を利用しているため、腕時計が重いことに慣れているのかもしれないが、今回のApple Watchを腕に装着したところ、非常に軽く、フィット感が良かったことが印象的だった。ケースのサイズは42mmのステンレスケース38mmのアルミニウムケースがあるが、一般的な腕時計のメンズとレディースというサイズ感の違いではなく、どちらと言えば、メンズとボーイズのような違いと言えそうだ。一般的な薄型の腕時計に比べ、ケースそのものは少し厚みがあるため、存在感はある程度、主張されているが、ケースのデザインや周辺の仕上げはまさにアップルらしい仕上がりであり、高級感と上質感のある製品に仕上がっている。

 画面表示はプレゼンテーションでも披露されたように、非常に多彩で、見ていても触っていてもかなり楽しめそうのだ。ディスプレイのコントラストも高く、視認性も非常に優れている。

 デジタルクラウンについては、写真などで見る限り、一般的な腕時計のリューズ(竜頭)と同じようなものと捉えられそうだが、実は径が大きく、指先での操作はしやすい印象だ。デジタルクラウンは本体の右側面に備えられているため、左腕に装着することだけを想定されているようだが、右腕には天地を逆に装着すれば、デジタルクラウンが手の甲の側になるため、ほぼ同じように操作できる。もちろん、画面はユーザーが装着した向きに合わせ、自動的に回転する。このあたりはスマートフォンのエッセンスが継承されており、既存の腕時計とは違った使い勝手を実現している。

 他社も含め、昨年来、ウェアラブル端末が数多くリリースされ、なかでも腕時計型はもっともユーザーに近いということで、市場的にもユーザー的にも非常に期待されている。ただ、これまでのウェアラブル端末はあくまでも「腕時計の形を模したもの」や「腕時計のようにつけられるもの」という印象が強く、普段の腕時計を外してまで使おうという人は必ずしも多くなく、広く普及するに至っていない。しかし、Apple Watchはどちらかと言えば、AppleのデザインセンスとDNAを活かした「腕時計」を作ったという印象で、そこにコンピューターのテクノロジーを盛り込んだ製品として、仕上げられている。同時に画面内も外見も十分にパーソナライズできるように作り込まれているところも期待できるポイントだ。

 腕時計は身につけるもののなかで、人によって、さまざまな価値観と考え方、捉え方があるため、一概には言えないが、Apple Watchの仕上がりの良さは腕時計の好きな人たちにも十分に興味を持ってもらえそうな製品と言えそうだ。かつて、iPhoneが登場したとき、Appleは「電話を再定義する」としていたが、今回のApple Watchは「腕時計を再定義する」ことになるのかもしれない。スタンディングオベーションで迎えられたApple Watchが市場にどのように受け入れられていくのかが注目される。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。