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冬休みに電子書籍で読みたい、シブいノベル

【Nexus 6】

 SIMロックフリー端末として「Nexus 6」を使いはじめて以来、電子書籍のサービスも「BOOK☆WALKER」を中心にずっと利用している。たまに読む、という感じではなく、常に何かを読んでおり、読みたい本がなくなると落ち着かなくなるという、活字中毒の様相を呈している。

 「BOOK☆WALKER」のWebサイトでは、購入した書籍が380冊と表示されていたが、冊数が増えがち(?)なコミックが63%で236冊、ライトノベルが26%で96冊、文芸が11%で40冊といった割合。コミックは実はPCかタブレットで読んでおり、スマートフォンでは小説・ライトノベルが中心だ。かつて紙の本で買っていたライトノベルもたぶん300冊ぐらいがまだ部屋にあるが、電子書籍で、特に近年は購入するライトノベルを厳選する傾向にある。

 「Nexus 6」のような6インチクラスの画面は文庫版と似たようなサイズで、電子書籍も捗ると、これまでも何度か書いてきたが、電子書籍にしてもVRコンテンツにしても、どういう面白い作品があるのか、が根本的なところ。電子書籍に関しては紙の本という既存の媒体のクローンのような状況なので、面白い作品があるかどうかという供給不足については、あまり心配する必要はない。どちらかというと自分に合う作品をどうやって見つけるかが問題で、本屋の平積みと店員のセンス、みたいな自然なレコメンド環境を享受しづらいというのが電子書籍ストア全般の課題だろう。

 もっとも、東京の神保町や秋葉原にあるような“趣味人向けの本屋”ではこうした幸せな環境も用意されているが、ごく一般的な本屋ではライトノベル、ノベルス、文芸でまったく別の棚、場合によっては別のフロアで販売していることも少なくない。アニメの原作の求めてライトノベルの棚に行っても「西尾維新の物語シリーズはノベルスなので違うフロアです」みたいな状況だ。旧態依然とした書店では、版型や棚の管理を重視して、読む人の興味・関心をつないでいくような棚が作られていないのである。

 そんなことから、今回は少し傾向を変えて、「Nexus 6」購入以降に電子書籍として楽しんで読んできた作品そのものを紹介してみたい。いずれも紙の本でも購入できるハズで、作品そのものに電子書籍ならではという要素はないわけだが、前述のように面白い作品、自分にあった作品に出会うことが根本的な部分だろうと思う。何かを面白がっている人の話というのは面白そうに聞こえると思うので(笑)、楽しかったです回顧録である。敬称は省略。

「辺境の老騎士」

 著者は支援BIS、イラストは笹井一個。出版はKADOKAWA/エンターブレイン。未完と思われるが、既刊は3巻。

 今や新人発掘サイトの中心になっている小説投稿サイト「小説家になろう」発の作品。投稿サイトの作品はしがらみや制約が少ないせいか、世界観や設定に著者のこだわりが強く反映されている場合が多く、この作品はファンタジー色の強い世界で「初老の騎士」が主人公である。

 “異世界転生モノ”ではないが、食事やグルメな描写も特徴で、“異世界メシ”要素は十分以上。主人公はかなり強いキャラなので、旅の先々で問題を解決していく冒険譚が頼もしく、楽しい。一方、王国や軍といった組織とのやり取りや駆け引きもあり、一筋縄では事が運ばないところに読み応えもある。テンポもよく、夢中になって読んだ。

「血と霧」

 著者は多崎礼、表紙イラストは中田春彌。出版は早川書房/ハヤカワ文庫JA。全2巻。

 スチームパンクのような雰囲気だが、血液に明確で特殊な力があり、血の優良な一族が都市を支配しているという世界。1巻のイラストにある渋いオジサンが主人公で、ある少年の捜査や出会いを通じて明らかになる陰謀に巻き込まれながら、自分の過去にも否応無しに向き合っていく。

 ページ数に比してどんどん話が進んでいき、なおかつ必要な描写や情景は頭の中にしっかり入ってくるという、恐ろしく無駄のない描写に舌を巻く。

 この世界での“血の評価”は運命を決定づけるほどに無慈悲なもので、多くの人が翻弄されているが、それに抵抗したり、別の生きる意味を見つけ出していく様は、とても血の通った人間臭い展開。設定と物語がガッチリと噛み合っている魅力がこれでもかと感じられた。

「彼女は一人で歩くのか?」(Wシリーズ、第1巻)

 著者は森博嗣、表紙イラストは引地渉。出版社は講談社/講談社タイガ。「Wシリーズ」の1巻で、タイトルは毎巻異なる。既刊4巻で未完、刊行中。

 人工細胞で作られ、人間との差がほとんど分からないという「ウォーカロン(walk-alone)」があらゆるところに増えたという未来のSF。地球や日本が舞台の中心なので情景に突飛なところはないが、人工生命体や人工知能の存在がどういう影響を人類に与えるのか、物語の設定ならではの要素もありつつ、非常に示唆に富んでおり、「今でもあり得る」とリアリティを感じながら読める。

 一方で、小難しい描写や話題が続くのかと思いきや、爆破事件に巻き込まれたり落ちる飛行機から脱出したりと、妙にアクションシーンが多く、良い意味で裏切られた印象も。著者は工学博士で主人公も博士と、理系的な(?)無駄のなさでテンポよく読み進められる。巻ごとにタイトルが違うが、連動するように内容もひとまとまりになっているので、1冊が終わるころには「この問題は解決するんだな」という予見性は高く、ブツ切れでは終わらない。

 いつの間にか常識になっていたことが覆るかもしれないという、世界の謎が明らかになっていく展開が基本で、人間関係の発展にはあまりフォーカスされないのだが、ウォーカロンではなく人間として登場するヒロイン(?)のウグイとの関係が、ライトノベル並にプラトニックで発展しないのだが、4巻までくるとさすがに、びみょ~に進展しているのが、すごくもどかしくて悶えるところ(笑)。

 このWシリーズは購入にあたって注意点がひとつ。紙の本では背表紙に数字があるのでそこを見れば問題にならないが、タイトルに巻数が含まれていないため、電子書籍ストアではシリーズとして認識されない場合がある。紹介文にも「第○巻」という一言があったりなかったりで、パッと見では判別しづらい。正しくは公式の紹介サイトなどで確認しておきたい。1巻「彼女は一人で歩くのか?」、2巻「魔法の色を知っているか?」、3巻「風は青海を渡るのか?」、4巻「デボラ、眠っているのか?」の順番である。

「大人向けライトノベル」ってのがあるんです

 前述のように電子書籍ストアでもレコメンドは継続的な課題と感じるが、良いところは、作者の名前やレーベルなどで過去作を一気に検索して把握できることだろう。ひとたび気に入った作家やレーベルがあれば、簡単に全容を把握できるし、在庫を気にせずすぐに購入できる。お気に入りのSF作家の名前で検索したら、実はSFじゃない作品が、耳馴染みのない出版社から出ていた、などということも即座に分かる。もちろん、電子書籍版が配信されていれば、ということにはなるが。

 アニメ原作とかで話題だけど、ライトノベルはなんだか子供向けっぽくて……でも文芸コーナーの小説はどこから手を付けたものか……。という場合なら、各社が最近相次いで設立したデミライトノベルとでもいうべきレーベル単位で探すのもいいかもしれない。ハヤカワ文庫JAは昔からそうした傾向はあるのと、ノベルスがそうした領域を受け持っていたはずだが、新たに始まっているノベルゼロ、講談社タイガ、ミューノベルなどは大人向けライトノベルを標榜するレーベルで、ライトノベル的な洗練や一歩踏み込んだ世界設定、必要なら暴力描写もあり、読み応えがある。ハマれるタイトルを見つけられれば、混んでいる定食屋の不意の長い待ち時間にもイライラせずに楽しく過ごせる。帰省時の長距離移動にもオススメだ。