ケータイ用語の基礎知識

第712回:RAW撮影・RAW現像とは

 デジタルカメラやスマートフォンのカメラで撮影した際には、内蔵されたイメージセンサーが捕らえた光の情報から画像が作られます。デジタルカメラ内部で、ほとんど調整を行わずに、イメージセンサーが捕らえた光情報をそのままデータ化したものは「RAWデータ」と呼ばれます。「RAW」は、「生」や「未加工」を意味する英単語から来ています。

 「RAW撮影」とは、デジタルカメラの画像ファイル形式の中でもRAWデータで記録を残すような撮影のことを言います。また、RAWデータを調整してJPEGなどの形式に変換することを「RAW現像」と言います。デジタルカメラの中でも、絵造りにこだわりたい中級者以上向けのカメラなどには、撮影時に、RAWデータとJPEGデータの両方を記録できるモードが存在し、後でパソコンやタブレット上などで加工し、好みの絵造りをすることが可能になっている機種が多くあります。

 2015年6月現在、スマートフォンのカメラ機能で撮影したデータは、JPEG形式でのみ保存できるのが一般的ですが、中にはRAW撮影モードを搭載した物も、登場し始めています。たとえばデジタルカメラにAndroidスマートフォンの機能を搭載したことで知られるパナソニックの「DMC-CM1」もそうですし、au向けLG製スマートフォン「isai vivid」もそうです。

DMC-CM1
isai vivid

 RAW画像をディスプレイに表示したり、JPEG画像ファイルに変換するためには、専用のアプリケーションが必要となったり、先述したように「現像」と呼ばれる作業が必要となったりします。その際に写真の雰囲気・トーンを変えたり細部を浮かび上がらせたりといった写真の加工をすることが可能です。そのためRAWデータで撮影する機能は、写真を使って何かを表現したい場合や、失敗の許されない写真を撮影したい場合、非常に使い手のある機能なのです。

 また「現像」も、パソコン向けソフトウェアが中心でしたが、スマートフォンやタブレット用にも「現像」できるアプリが最近では提供されています。たとえばアドビの「Adobe Lightroom」というアプリがあります。Android用では「Raw Droid」、iPhone/iPadでは「Photogene」といったアプリも使われています。

「撮影」「現像」2つのプロセス

 デジタルカメラやスマートフォンの写真撮影で使われているJPEG形式の画像ファイルは、カメラ機能が内部で、撮影した際に色調補正処理などを行っています。一方、RAW撮影した場合作られるRAWデータは、そうした処理が行われていません。撮影後、色調補正やホワイトバランスの調整を人の感覚で行うことになります。

 このRAW画像の色調補正などを行うことを「RAW現像」、あるいは単に「現像」と呼びます。昔存在した、フィルムなどを使うタイプのカメラでは、撮影した画像を絵として取り出すためには、撮影した場所でなく暗室で、フィルムを薬品に漬けて光の当たった部分・当たらなかった部分を洗い出して画像を作り出す工程が必要で、このことを「現像」と呼んでいました。RAW画像でのカメラで撮影したデータを、パソコンやタブレットなどに展開して絵を調整するという作業も、フィルム写真の工程になぞらえて「現像」と呼んでいるわけです。

 デジタルカメラのRAW現像では一般的には、RAW画像→JPEG形式への形式変換などを行うのですが、その際に、写真データの、たとえば背景色の色味や明るさを変えたり、あるいは陰になって暗く隠れてしまった撮影対象をはっきり出させるといった調整が可能となります。

 JPEG画像でもアプリをつかって色味や明るさを変えるということは不可能ではないのですが、JPEG画像はファイルサイズを小さく圧縮するために、人の目には不自然に写らないように、画像をカメラ内で加工しています。たとえば、写真の中で影になって暗くなっている部分が本当はグラデーションが非常に細かく変わっているのに、色情報を間引きして黒く塗りつぶす、というような処理が行われます。この結果、明るさやホワイトバランスを調整する際に、加工した部分が目立つことがあります。

 RAW形式の撮影データはJPEG形式ファイルと異なり、撮影した画像をほぼ加工せずに持っており、JPEG画像では黒つぶれ白飛びになっている箇所もイメージセンサーが感知した光の情報をそのまま残っています。ですから画像の色味や明るさなどの調整行ったときに、ディテールを保って画質を劣化させることなく、JPEG画像では黒つぶれになってしまった日陰部分もはっきり明るく、復元することが可能なのです。また、RAWデータさえ保持しておけば、このような色調整を何度でも画像を劣化させることなく繰り返し何度も行うことも可能です。

 ただし、RAWデータは、イメージセンサーが得た情報を全て載せているため、大きなファイルサイズになります。

 たとえば、DMC-CM1で撮影した場合、最もサイズの大きなモードで、JPEG形式の場合で8MB程度となるところ、RAWデータの場合は約22.5MBにも膨れ上がります。

 現在のスマートフォンでは32GBや64GBの内蔵ストレージ、あるいはmicroSDカードといった補助ストレージを使えるため、ファイルサイズはさほど気にならないかもしれませんが、同じ画素数であればJPEGのみで撮影した場合に比べて、同じ撮影枚数でも数倍のペースでストレージ容量を消費することは知っておいていいでしょう。ストレージに書き込む時間が必要となることから、機種によっては撮影時のレスポンスが鈍くなる場合もあることも考えておく必要があります。

 なお、このRAWデータですが、「ほぼイメージセンサーが得た情報を無加工で」保持しますが、カメラのイメージセンサーに依存したデータ形式にしてしまうと機種ごとにデータ形式が異なってしまうことになり扱いづらくなってしまうため、実際にはメーカーごとにある程度データの格納順序などは決めてフォーマットを作っています。たとえばキヤノン製のデジタルカメラであれば「CR2形式」、パナソニック製のデジタルカメラでは「RW2形式」というふうにです。

 パソコンやタブレット・スマートフォンで自分のカメラのRAWデータを現像したいとなった場合は、アプリがその機種のRAWデータに対応しているかどうか確認する必要があります。たとえば先に挙げたアドビのLightroomの場合、どのカメラのRAWデータをLightroomのどのバージョンで使えるか、サポートページに記述されています。DMC-CM1の場合なら、パナソニック製デジタルカメラDMC-GM5、DMC-LX100などと共にLightroom5.7以降で対応している、というようなことがわかります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)