第523回:ヘテロジニアスネットワーク とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「ヘテロジニアスネットワーク」とは、日本語で言えば“異種混合ネットワーク”という意味になる言葉です。ヘテロジニアス(Heterogeneous)とは、「異質の、異種の」を意味する英単語です。

 かつて、同じメーカーで同種のプロトコルのみで構成されるのが主流であったころ、オープンで多種多様なメーカーのさまざまなプロトコルで構成されるネットワークが出始め、後者を説明するコンピュータ用語として「ヘテロジニアスネットワーク」が使われました。

 現代の携帯電話・移動体通信業界の用語としては、一般的な携帯電話のネットワークを「ホモジニアス(均一的)」と定義して、そうしたネットワークとは異なる、LTEやLTE-Advanced以降の世代で実現したいネットワーク形態を指す言葉となっています。

ヘテロジニアス無線アーキテクチャの一例

 では、近い将来の無線ネットワークを考えて見ましょう。

 現在利用されている、あるいは近い将来での導入が想定される無線通信方式には、HSPA+、WiMAX、WiMAX2、LTE、LTE-Advancedなどがあります。さらに、移動体通信ではないものの、Wi-Fi(無線LAN)などで利用されるIEEE 802.11 a/b/g/n、それらに続く新規格も登場する可能性があります。

 こうして、それぞれ長所・短所をあわせ持つ方式・機器が存在する一方で、日に日にデータ通信量が増加し、逼迫傾向にある電波については、その帯域を有効活用する必要があり、その解決手段が検討されています。

 2009年にKDDI研究所が提案し、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2009」という展示会でも披露した「ヘテロジニアスネットワーク無線ネットワークアーキテクチャ」は、そうした状況を解決する1つの手法と言えます。

 あるネットワークの事業者が、たとえば電話回線網やインターネットに接続する「共通コア」をつくります。共通コアには、回線を通るゲートウェイと、その時々で通信するために適切な無線方式はどれか、検討して割り当てるリソースマネージャーが存在します。

 回線としては、LTE、WiMAX、Wi-Fiなどがあり、端末で利用するアプリケーションにあわせて、どの回線を使うか決めます。たとえば、下り通信では、そのとき空いていたWiMAXを、上り通信量が多い場合はWi-Fiを、といった具合に上下別々の割り当ても行い、時間帯や用途によってネットワークの利用効率を分散化、効率化します。

ヘテロジニアスネットワークの一例。異なる種類の無線が複数存在し、リソースマネージャーが状況に応じて適切なネットワーク使用を割り振る

異種セルサイズの利用

 一方、「ヘテロジニアスネットワーク」は、これまで説明した内容と異なり、LTEやLTE-Advanced以降の世代で実現したいネットワークの形態を指す言葉として使われることもあります。たとえば、「基地局の大きさが異種、均一でない」という意味を重視した場合です。

 「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2011」でNTTドコモが展示した「LTE-Advancedのヘテロジニアスネットワークシミュレータ」が、このタイプに当てはまるでしょう。

 携帯電話・モバイルデータ通信の基地局には、数kmの範囲をカバーする「マクロセル」、数百m単位でカバーする小型基地局「マイクロセル」、屋内など限られた範囲をカバーする「ピコセル」、個人の家程度の範囲をカバーする「フェムトセル」などが存在しまます。利用者が多くなればなるほど、そして通信量が多くなるほど、利用できる電波の帯域が増えないのであれば、1つの基地局がカバーする範囲(セル)は、どんどん小さくしなければ対応しきれません。

 しかし、携帯電話では、無造作に基地局を次々と作ってしまうと、隣り合う基地局同士で電波の干渉が起きる可能性があり、通信品質が低くなって、圏内のはずなのに、たとえば携帯電話のディスプレイに表示されるアンテナマークの本数がゼロに近くなったり、圏外表示となって通信できなくなる可能性があります。

 こうしたケースへの対策として、電波を発する方向や出力をコントロールして、より小さい範囲をカバーするピコセルやフェムトセルで通信できる場所はそうした小型基地局にまかせ、そうでない場所はマクロセルがカバーする、といった形にします。こうして、セル(1つ基地局、1つのアンテナがカバーするサービスエリアのこと)の大きさが異なっても、電波を調節することで、さまざまな大きさのセルが混ぜ合って利用できるようなネットワークを「ヘテロジニアスネットワーク」と呼びます。

 ちなみに、複数の基地局が協調して送受信を行う無線技術は「CoMP(Coordinated multipoint transmission and reception)と呼ばれます。2011年3月に仕様が公開されたLTE-Advanced規格「3GPP Release 10」への採用は見送られましたが、2011年7月現在、その次の改定版「Release 11」での採用されるよう検討が続けられています。

 




(大和 哲)

2011/7/12 12:29