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使えるアプリレビュー

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たった1000円でiPhone/iPadをハイレゾ対応に

 最近、音楽の“ハイレゾ”が注目されつつある。ちょっと前まではハイレゾといえば高解像度な映像やディスプレイのことを指していたが、今、ハイレゾでネット検索すると、音のハイレゾの話題が真っ先にリストアップされる。

 ハイレゾはHigh Resolution、つまり高解像度のことだ。映像やディスプレイにおける解像度は、主にピクセル数で定義されるが、音における解像度は、サンプリングレートとサンプリングビット数の2つの数字で定義される。

 たとえば、CDならサンプリングレートが44.1kHz、サンプリングビット数が16bitだ。これは音の波形を44,100分の1秒ごとに16bit(65,536段階)でデジタルデータ化(量子化)していることを意味する。音で「ハイレゾ」というと、一般的にCDを上回る解像度、だいたい48kHz/24bit以上の音源を指す。

 映像と同様、音も元々はアナログなので、デジタル化するときの解像度が高い方が再現性が高くなる。細部がよりはっきり描写され、バックバンドの楽器やコーラスの声ひとつひとつの輪郭がはっきり分離して聞こえる、というイメージだ。

 この解像度の高さをより忠実に楽しめるように、ハイレゾ音源ではMP3やAACといった不可逆フォーマットは使われず、FLACやWAV、DSDといった非圧縮もしくは可逆圧縮フォーマットが利用される。

 非圧縮や可逆圧縮フォーマットの音源自体は、以前からよく利用されていた。iPodやiPhoneでもCDから取り込んだ非圧縮音源を再生することはできる。しかし、ハイレゾ音源を楽しむとなると、これまでとちょっと違った機器やアプリが必要になる。ほとんど高級オーディオの世界なので、機材も高いものが多いが、そんなハイレゾ音源をスマートフォンで手軽に楽しめるように、という製品も登場しつつある。

iOSをハイレゾ音源対応にするアプリ「HF Player」

HF Playerの再生画面

 オンキヨーがApp Storeで配信している「HF Player」も、そんなスマートフォンでハイレゾ音源を楽しむための製品の一つだ。無料のアプリだが、標準で非ハイレゾ音源(iOS標準の音楽データ)がロスの少ない高品位な音質で再生できて、アプリ内課金で1000円の「HD Player Pack」を購入することで、ハイレゾ音源を取り扱えるようになる。

 対応するのは192kHz/24bitまでのFLACおよびWAVと5.6MHzまでのDSDとなっている。これ以上の品質のハイレゾ音源は流通していないので、ほぼフルスペックと言える。

 しかし、このHF Playerを使うだけでiPhoneやiPod、iPadでハイレゾ音源をハイレゾ品質で楽しめるわけではない。それ以外にもいろいろなものが必要になる。

 まず当然のことながら、ハイレゾ音源のデータが必要になる。非ハイレゾ音源であるCDからハイレゾ音源を取り出すことはできないし、SACDやブルーレイ・オーディオはコピーガードがかかっているので、個人使用目的でもリッピングは不可能だ。しかし「e-onkyo music」や「mora」などのハイレゾ音源配信サービスがDRMフリーのハイレゾ音源を配信している。

ハイレゾ専門の配信サービス「e-onkyo music」
e-onkyo musicで配信されている「亜麻色の髪の乙女」。5.6MHzのDSDレコーディングで、原音の魅力をハイレゾの限界まで楽しむことができる

 ハイレゾ音源のデータ容量は、フォーマットやサンプリングレートによるが、1分でだいたい30~80MBくらいになる。たとえばe-onkyo musicで配信されているチェリスト溝口肇氏の「Cello Bouquet」に収録されている「亜麻色の髪の乙女」は、曲の長さは3分2秒で、5.6MHz/1bitのDSD形式だと245MBだった。

 ハイレゾ音源は楽曲によってさまざまなフォーマットで配信されている。前述のCello Bouquetは5.6MHzのDSD形式でレコーディングされていることもあり、5.6MHzと2.8MHzのDSD形式でも配信されているが、同曲は96kHz/24bitと48kHz/24bitのWAV形式とFLAC形式でも配信されている。再生環境に応じてハイレゾの品質を選べるわけだが、HF Playerなら最高品質となる5.6MHzのDSD形式を選ぶことができる。

 ソニーのmoraは、もともと非ハイレゾ楽曲が中心の配信サービスだが、一部でFLAC形式のハイレゾ楽曲の配信を開始している。クラシックやジャズに強いe-onkyo musicと比べると、moraのハイレゾ楽曲ラインナップは、一般のヒット曲など幅広いジャンルに強いようだ。ちょっと変わったところでは、ブルーレイ・オーディオで販売されているFINAL FANTASYのサントラアルバムがmoraでハイレゾ配信しているのは、ゲームファンにとってちょっと嬉しいところだ。

 パソコンでダウンロードしたハイレゾ音源ファイルは、iTunesで転送すると、HF Playerで再生できるようになる。iOS機器にイヤホンを直結すると、iOS機器内部のアンプ回路を使うことになるが、スマートフォンのアンプ回路はハイレゾ前提で設計されていない(品質より小型化・省電力化が重視される)ので、この状態ではハイレゾ品質を十分に再現することはできない。

「FINAL FANTASY ORCHESTRA ALBUM」の「片翼の天使」(FF7のセフィロスの曲)は4分28秒で211MB
DSDはPCMに変換して出力することも可能。DoP形式は対応機器も少ないが、今後は増えていくことが予想される

 HF PlayerとAppleの「USBカメラアダプタ」を組み合わせれば、ハイレゾ音源をそのまま(PCMもしくはDoP形式のDSD)デジタル出力できるので、この機能でデジタルデータをアナログ変換する機器(DAC)にハイレゾ音源データを送ることで、ハイレゾ品質の音楽再生が可能になる。

 たとえばソニーのポータブルアンプ「PHA-2」は、DAC機能を内蔵していて、ハイレゾ音源データをUSB経由で受け取ることができる。PHA-2はハイレゾ対応を謳う製品なので、音もハイレゾ品質だ。ちなみにPHA-2の価格は5万4800円(12月11日時点のAmazonでの販売価格)。結構なお値段だが、これでもハイレゾデジタル対応のポータブルアンプとしては標準的な価格である。

 さらに最終的に音をだすイヤホンやヘッドホン、スピーカーも、ハイレゾに見合った品質のものが必要だ。こちらは完全にアナログ機器なので、個人の好みで製品を選ぶべきだが、ハイレゾ品質を楽しむなら、イヤホンであれば2万円以上のクラスが適当だろう。

 こうして音源データからイヤホンまでがハイレゾ対応になって、初めてハイレゾ品質を楽しむことができる。どこか一つでもハイレゾ品質ではない部分が混じると、そこがボトルネックとなってしまうので、機材をそろえるときには注意しよう。

ハイレゾだけじゃない「HF Player」

 HF Playerはただ単にハイレゾ音源を再生するだけではなく、オーディオメーカーのオンキヨーが手がけるだけに、こだわり機能を搭載している。

イコライザーの調整画面。タッチ操作で簡単に調整できる。ドラッグ中はピークの周波数とdB値が表示される

 まず定番機能のイコライザー機能は、タッチ操作で簡単にイコライザーの曲線を調整できるようになっている。海外のアーティストが設定したイコライザーデータがプリセットされているので、それらを参考にするのも良いだろう。

 自分で作ったイコライザーの設定データは、何種類も保存しておくことが可能で、設定データファイルをiTunes経由でパソコンにコピーすることもできる。耳の肥えている人にイコライザーを調整してもらって共有するのも面白そうだ。

 イヤホンやヘッドホンは、製品ごとに「低音が弱い」とか「独特のピークがある」などの個性があるので、そういった個性をイコライザーで補正するのも良いだろう。ちなみにオンキヨー製のイヤホン・ヘッドホンについては、イコライザーとは別に、最適化設定が用意されているので、組み合わせて使うときの相性は抜群だ。

オンキヨー製品のプリセット
イコライザー品質の選択画面

 イコライザーは内部演算を64bit精度のHDモードで行うかどうかを設定できる。このHDモード、設定画面で「HDモードはバッテリー消費量が大きくなる」と明言されている。「バッテリーはイイから音質を追求したい」というニーズにも答えてくれる、なかなかこだわった仕様だ。

 基本的な再生機能で見ると、標準の「ミュージック」アプリで可能なことは一通りHF Playerでも可能となっている。バックグラウンド再生もできるし、リモコンやコントロールセンターで再生/停止などを操作できる。iTunesから転送したりダウンロードした曲やプレイリストもそのまま再生可能だ。非ハイレゾ楽曲でもイコライザー機能を利用できるので、ハイレゾ音源を使わなくても、イコライザー目的でHF Playerを利用するのも良いだろう。

アプリだけで気軽にハイレゾを始められる

 すでにiOS機器を持っているならば、HF Playerはハイレゾ音源をデジタル出力できる、もっとも安価なソリューションの一つと言える。

オンキヨーのES-CTI300とIE-CTI300。iOS機器対応のマイク内蔵リモコンが付いていて使いやすい

 ハイレゾ品質で楽しむには、iOS機器がつなげられるDAC内蔵のポータブルアンプと高品質なイヤホンが必要になるが、別途ハイレゾ対応のミュージックプレーヤーを買って持ち歩くのとコストも手間も大差はない。

 ただそれでも、ハイレゾ品質の機器を一通りそろえるとなると、コストもかなりかかってしまう。ある意味、そこそこのオーディオ機器を持っているオーディオファン向けの機能とも言える。

 しかし逆に言うと、安価ながらも高級オーディオ機器と組み合わせられるポテンシャルを持つHF Playerは、これからハイレゾ音源を楽しみたいという人にとって、導入しやすく、将来的にさまざまな高級オーディオ機器を買ったときにも対応できるという優秀なアプリと言える。オーディオ初心者は、いきなりハイレゾ対応機器をそろえるのではなく、まずはこのアプリから入り、少しずつイヤホンなどの機材をグレードアップさせつつ、品質を高めていくのがおすすめだ。

白根 雅彦