iPhone 5発表会、今以上の性能を「より薄く小さく、軽く」


ティム・クック氏

 「今日は本当にクールなものを披露する。アップルは今、本当に驚くべき時期にあるといえるでしょう」――米AppleのCEO(最高経営責任者)ティム・クック氏は、説明会に登場するとそう語った。

アップルストア、Mac OSの状況

 これまでの発表会と同様、クック氏はまずアップルが世界で展開する直営店の現状について説明した。オープンしたばかりのスペイン・バルセロナにあるアップルストアの様子を動画で披露し、ほかのアップルストアと同じく、自らを鼓舞しながら利用者を迎え入れるスタッフの様子、そしてその盛り上がりに応えるかのようにオープンイベントを楽しむ顧客の姿を紹介した。

 クック氏は、「アップルストアは地球上で最高の購入体験、最高のカスタマーサービスを提供できる。380店舗、世界12カ国に展開し、13カ国目として金曜日にはスウェーデンの店舗をオープンする。とてもわくわくしている」と述べた。世界のアップルストアは、2012年4月~6月にかけて、8300万人の来客があったという。

 さらに、Mac OSのパソコンについては、7月に投入したMac OS X 10.8 Mountain Lionによって忙しい夏になったと語った。iCloudを組み込んだ初のMac OSは、世界で700万人がアップデートしたという。

 このほかMacBook Proも投入している。個別の販売状況については明らかにせず、MacBook Airの販売と合わせ、米国で3カ月にわたりシェアトップを獲得したと報告した。アップルではMac OS搭載パソコンを「パソコン」とは呼ばずに「マック」と呼ぶ。クック氏は7月にシェアが27%に伸びたと報告するとともに、「マックは、過去6年間に渡ってパソコンを大きくしのぐペースで成長してきた」と話した。



iPad

 iPadは、ポストPC革命をどんどん前進させている。――クック氏は3月に発表した第3世代のiPadについて、非常に好調であることを伝え、2012年4月~6月だけで世界で1700万台を販売したことを明らかにした。iPadの販売数としては四半期最高の数だという。

 1700万台という数値は、パソコンメーカーのパソコンラインナップの全売上げをも上回る台数であるとし、iPadがアップル定義する“ポストPC”の申し子であることを印象づけた。iPadこれまでに世界で8400万台のセールスを記録しており、クック氏は「(iPadが登場する)2年半前まではこの製品のカテゴリがなかったと考えると驚くべき数字だ」と話していた。

 さらに、クック氏は競合他社からさまざまなタブレット型端末を投入されていると紹介し、1年前までiPadのメーカーシェアは62%だったが、現在は68%とむしろ伸びているとする。利用状況を見ると、iPadはタブレット端末のWebトラフィックの91%を占めているという。

 「他のタブレットは一体何をやっているんだ? という話。倉庫に眠っているとか、棚ざらしになっているとか、あるいは誰かの引き出しの奥底にしまってあるとか、iPadは誰もがどこでも使っている」

 クック氏がそう語ると、米国の会場では笑いが起こった。



App Store

 App Storeについて、クック氏は「地球上でもっとも活気のあるエコシステム」と表現した。App Storeで提供されているアプリの数は70万を突破し、このうち25万アプリはiPad用だという。

 「App Storeには欲しいものが必ずある。70万のアプリのうち、90%以上が毎月ダウンロードされる。ユーザーは平均で100以上のアプリを一人で使っている。App Storeはまさに絶対的な革命。新たな現象だ」と話した。

 iOS端末の販売台数は、2012年6月までに累計で4億台を突破した。「なんという数字! 誰も予想できなかった数字だ」などと盛り上げたクック氏、これを次の次元を引き上げるべく「iPhone 5」を投入するとした。



iPhone 5

 iPhone 5については、ワールドワイドプロダクトマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏よりプレゼンテーションが行われた。

 シラー氏は、「これがピッカピカの新しいiPhone 5。まるで宝石、これまで我々が作った中で最も美しい製品だ」と話した。また、「iPhone 5は完全にガラスとアルミだけでできている。厳しい基準で設計され、決して誇張ではなく、我々のチームがこれまでやってきた中で一番チャレンジだった。一番軽く、一番薄い。これがチームが直面した一番のチャレンジだった。iPhone 4Sが持っていたものを搭載した電話で、新機能を加える前に薄く小さく、軽い製品を作れるか。大きな製品は誰でも作れるしチャレンジではない。よりよく、より小さい製品がチャレンジだった」と設計段階での苦労を口にしていた。



ディスプレイ大型化

 iPhoneシリーズは、これまで3.5インチのディスプレイを搭載してきた。今回のiPhone 5から、新たに4インチのディスプレイが搭載されることになり、アプリアイコンの一覧表示は4段から5段へと増えた。ただし、横幅を変更することなく、縦の長さを伸ばし16:9のアスペクト比を実現している。既存のアプリは、黒い帯を上下に表示させることでこれまで同様のアスペクト比を維持できる。

 縦方向に伸ばした点についてはシラー氏は、「電話のデザインの中心は“手”だ。つまり、電話はしっくり手に収まらなければならない。親指でうまくつかいこなせなければならない。そのために設計した」と語った。



LTE、A6チップ、バッテリー寿命

 また、iPhone 5はLTEをサポートしている。薄く軽く小さくするために、ベースバンドチップを統合してスペースを節約し、iPhone 4Sから導入したアンテナのインテリジェント機能もそれに貢献しているという。

 「LTEを世界中の誰と組んでやるかが重要だった。米国ではAT&TやVerizon、SprintなどがLTEを展開している」と話したシラー氏は、アジア地域の紹介の中でKDDIやソフトバンクの名前を挙げた。また、Wi-Fiについては、IEEE802.11a/b/g/nに対応し、IEEE802.11nについては5GHzもサポートしている。

 また新CPU「A6」は、iPhone 4Sなどに搭載される「A5」チップよりも、処理速度やグラフィック処理性能が2倍に向上するとともに、チップセットのサイズが22%小さくなり省スペース化に貢献する。

 高速通信、高速処理を実現する一方で、バッテリーの性能も向上している。待受時間は225時間、通話およびネットの利用時間は8時間、Wi-Fiによるブラウジングや動画の視聴も10時間、音楽再生も40時間となっている。



カメラ、マイク、コネクタ変更

 「カメラチームにとって、もっとも嫌なことは薄くするということ」と語ったシラー氏、薄型化を要求される中で開発チームはiPhone 4Sと同じかそれ以上の性能を求められたという。

 800万画素の裏面照射型CMOSセンサー採用カメラは、「Dynamic Low Light Mode」と呼ばれる低光量モードが用意される。複数の写真を2重にして光量を確保する。光学レンズのカバーにはサファイアカバーも初採用となる。

 さらに、パノラマ撮影機能も用意される。カメラを起動すると矢印が表示され、ゆっくりと横方向に動かすと、自動的にパノラマ撮影が行える。カメラの移動が速すぎる場合は「ゆっくり」などと案内も表示される。

 撮影した写真をクラウドで共有するサービス「Photo Stream」も用意され、友達同士で写真を共有して「いいね」しあうといった利用が可能になる。

 テレビ電話機能「FaceTime」用に用意されたフロントカメラも新調され、720p撮影を実現する。

 また、iPhone 5には正面と背面、端末下部と3つのマイクが搭載される。FaceTimeでは音による位置の把握が可能で、ノイズキャンセル機能にも使われる。さらに、Siriのアプリケーションなどでも精度向上に貢献する。

 このほか従来のDockコネクタからより小さなLightningコネクタが採用される。Dockコネクタとの変換アダプタも用意される。アダプタタイプとケーブルタイプがある。



iOS 6

 発表会では、iOS 6のいくつかの機能が紹介された。この中で「全く新しいマップ機能」が紹介された。これまでGoogleマップをベースにしたものだったが、新たに地図アプリを開発した。

 ベクター形式の地図となり、地図の拡大縮小や回転にも対応する。検索とも連動しており、店舗情報やルート案内機能(いわゆるナビ機能)も用意されている。

 なお、「マップ」アプリについて会場の説明員は、地図データの提供企業を非公表としていた。発展途上の「マップ」アプリは概ねGoogleマップと似たようなことができ、航空写真なども用意され、クオータービュー表示などにも対応する。ただし、地図を拡大した際の情報は乏しく、発展途上であることをうかがわせた。

 「マップ」アプリの「3D」マークをタッチすると、建物などが3Dオブジェクトとして表示される「Flyover」モードに切り替わる。デモではロンドンのビッグベンをFlyoverで文字通り飛び回るような様子が披露された。なお、この機能の対応地域は限定的で、サービス開始時点で日本は対応していない。説明員は「順次対応すると聞いている」と話していた。

 また、新たな通知センターのデモも紹介され、通知センターからFacebookに投稿する流れが紹介された。ブラウザアプリ「Safari」も更新され、パソコン側のSafariで閲覧していた内容と連携する様子が紹介された。このほか、メールアプリも刷新される。



 このほか発表会では、「iTunes」、「iPod touch」、「iPod nano」などもプレゼンテーションされた。

 プレゼンテーションのラスト、クック氏は発表内をおさらいする形で紹介した。

「全く新しいラインナップになった。世界でもっとも人気のあるミュージックプレーヤー、全く新しいiPod touch、再設計されたiPod nano、全く新しいiTunes、シームレスなミュージックプレーヤーとiCloudとの統合、そして、すばらしい見栄え。iPhone 5はもっと薄く、もっとも軽いベストのiPhoneだ。それを強力にしているのはiOS 6で、世界でもっとも進んでいるOSとなっている。200の新しい機能が待っている」

 さらにクック氏は、「他社を大きく引き離しているのは、アップルだけがソフトウェアとハードウェアとサービスを作ることができ、それらを統合して提供できる。アップルは現在最強の状態にある。それもスタッフから献身的な努力と想像力が届くからだ。彼らは人生で最高の仕事をしている。革新的な製品を提供するということは、人々の生活が変わるということだから」と続けた。

 発表会ではこのほか、音楽のライブ演奏なども行われた。


 




(津田 啓夢)

2012/9/13 18:06