初号機からドコモの変遷を辿るデザイン史「MOBILE TIDE 2010」
MOBILE TIDE 2010の会場 |
NTTドコモは、同社による携帯電話のデザインをテーマとした展示イベント「MOBILE TIDE 2010」を開催している。場所は東京の表参道ヒルズ、地下3階のスペース オー。会期は5月22日~5月30日で、開場時間は11時~21時(日曜のみ20時まで)。入場料などは無料で、誰でも自由に展示を閲覧できる。
MOBILE TIDE 2010は、NTTドコモによる携帯電話デザインをテーマにしたイベント。同社が発売してきたほぼすべての端末が、時代ごとに分類して展示されていて、デザインの変遷を見ることができる。
展示はショーケース形式 | 会場の模様 |
NTTドコモの永田清人部長 |
展示されているのは「携帯電話」と呼ばれるようになってからのもので、自動車電話や可搬型の自動車電話である「ショルダーホン」は含まれないが、NTTの携帯電話やNTTパーソナルのPHSなどが含まれる。また、データ端末や一部の限定モデルなどは展示されていない。
22日の初日、NTTドコモの執行役員 プロダクト部長の永田清人氏が会場内を案内した。今回はそれを元に、各時代の代表的な端末を紹介したい。
■最初の「携帯電話」、「TZ-802B」と「TZ-803B」
TZ-802B(右)とTZ-803B(左) |
会場に展示される最古の端末は、NTTの通信部門であった1987年、初めて「携帯電話」と呼ばれるようになった「TZ-802B」と「TZ-803B」だ。重さ750g、体積500ccと、ちょっとしたノートパソコン並の大きさだが、携帯することを前提に設計された初めての電話機でもある。通信方式はアナログで、端末は買い切り制度が始まる前のレンタル式だった。
永田氏によると、この時代はドコモがデザインを行い、松下通信工業(現パナソニック モバイルコミュニケーションズ)やNECなど、複数のメーカーが製造を担当していたという。設計をNTTが提供することで、どのメーカーが作っても同じモデルになっていたわけだ。この仕組みは、家庭向けの固定回線で使われていた、いわゆる「黒電話」などと同じで、そういった意味で電電公社(現NTT)的であるとも言える。
この時代の携帯電話は、見ての通り非常に分厚い | 1987年ごろについての紹介パネル |
ムーバP。現在の携帯電話にサイズも似ているが、キー配置は大きく違う |
次の時代を代表する端末としては、1991年の「ムーバP」が展示されている。「ポケットに入る」ということが画期的とされた時代だ。また、このころから、メーカーごとに異なるモデルが製造されるようになった。永田氏はこのことについて、「電電公社とは異なる考え方。我々としては大きな転換点だった」と振り返る。
ちなみにムーバPの通信方式はアナログで、端末はレンタル式。「ムーバ」という呼称は、ポケットに入るこの時代の端末から用いられ、やがてドコモのPDC方式サービス「mova」へと受け継がれていった。
メインディスプレイは漢字表示非対応の2行モノクロタイプ | この頃からiモード登場で多機能化するまで、端末の小型化が続いた |
ムーバP II。モダンなデザインに近づいたがまだカーソルキーもなく、電話帳くらいの機能しか搭載していない |
1995年の「デジタル・ムーバP II HYPER」も展示されている。それまでの携帯電話は、みんな黒一色なのだが、この時代からはさまざまなボディカラーが登場するようになった。通信方式はデジタルで、端末も買い切り式である。
通信方式はデジタルになったが、この時代は、iモードの登場以前。インターネット自体が普及していなかった時代でもある。端末の画面は小さく、漢字表示には非対応、カタカナ表記の電話帳が使えるくらいであった。
1995年ごろ、ケータイは一般ユーザーにも使われ始めていた |
■iモードとともに一気に多機能・多様化したドコモ端末
1999年、iモード登場で「話す」から「使う」に変わっていった |
1999年になると、iモード端末が登場する。同時代の代表的な端末として、iモード端末第1世代にして大画面折りたたみ端末の元祖とも言える「デジタル・ムーバ N501i HYPER」と、第2世代にして初のカラーiモード端末「デジタル・ムーバ F502i HYPER」が展示されている。ちなみに初のiモード端末である「デジタル・ムーバ F501i HYPER」も会場内で展示されている。
永田氏は、「メッセージサービスでは、J-フォン(現ソフトバンクモバイル)が先行していた。それを抜くために、パソコンともメールがやりとりできるようにした。インターネットの技術を利用したが、当時は通信速度も遅かったので、データをコンパクトにまとめることに苦労し続けた」と当時を振り返る。
iモードは1999年2月22日に、F501iの発売とともに開始された。当時はまだ、iモードはハイエンド端末向けの機能だった。また、携帯電話・PHS自体は普及し始めていたが、ケータイをインターネット端末に使う人は少数派だった。しかし1999年の年末にかけては、IDO/DDIセルラー(現KDDI)とJ-フォンもEZwebとJ-スカイウェブ(現Yahoo!ケータイ)を開始し、ドコモを追従している。1999年は、日本のケータイがインターネット端末化し始めた最初の年である。
初のカラーiモード端末F502i。表示色数は256色で、画面も小さかった | N501i。続くN502iとカラー化したN502itは大型液晶で人気を博した | F501i HYPER |
R691i。後にカラー液晶搭載で「浮く」モデルのR692iも登場している |
PDC時代のiモード成長期を代表する端末としては、2001年の日本無線製の「R691i GEOFREE」が展示されている。初の防水iモード端末だ。
2001年前後というと、iモードはドコモのケータイの標準機能となり、カラー液晶が標準的に搭載され(ちなみにR691iはモノクロ液晶)、カメラでは後発となったドコモもカメラ付きケータイを発売し、Javaアプリも登場し、さらにドコモの3Gサービス「FOMA」が開始された(モニター試験サービスが2001年の5月から)。ケータイが急激に進化・変化していった時代で、その進化の過程でさまざまな端末が登場している。いわばドコモの携帯電話史におけるカンブリア紀で、多様なデザインを楽しむことができる。
防水端末としては、IDO/DDIセルラーがG'zOneことC303CAで先行していた |
premini。キーが少々押しにくかったが、画期的な小ささが注目を集めた |
P900iV。カメラがヒンジ部に搭載され、ガングリップで撮影する |
続いては3Gサービス=FOMAが普及機に入った2005年ごろの代表的な端末として、2004年の超小型iモード端末「premini」、2004年の2軸ヒンジ型FOMA端末「P900iV」、ちょっと時代が進んで2007年の薄型FOMA端末「N703iμ」の3機種が展示されている。
premini(SO213i)はソニー製のPDC方式のiモード端末で、カメラも搭載していなかったが、69gと当時のケータイとしても小型なデザインが注目を集めた。後にpreminiシリーズを継承したFOMA版「SO902i」なども発売されている。
P900iVはパナソニック製のFOMA端末。2軸ヒンジ形状だが、液晶を90度回転させたところで止めることで、ビデオカメラのような「ムービースタイル」で構えられる独特なデザインを採用している。このデザインは2003年のP2102Vを引き継ぐものだが、ムービースタイルの後継機種が登場することはなかった。
N703iμはNEC製のFOMA端末。多機能化に合わせ大型化していたFOMA端末だったが、その流れを薄型化に引き戻した「μ」シリーズの最初の端末だ。同時発表のパナソニック製「P703iμ」とともに、薄さ11.4mmで折りたたみとしては当時最薄形状だった。
永田氏はこの頃を、「いろいろやった時代」と振り返る。この頃はすでにFOMA中心となり、カメラなど「ケータイが搭載するべきスタンダードな機能」が固まっていた時期だが、デザイン面では今以上に試行錯誤が行われ、さまざまな製品が登場している。
N703iμ。佐藤可士和氏デザインのN703iDも同時に発表されていた | 2004年を振り返るパネル。たった6年前だが、いまとの違いは大きい |
2008年の年末から、5シリーズ制が導入された。デザインも現在とほとんど変わらない |
最後は2008年ごろの端末として、現行と同じ「STYLE」「PRIME」「SMART」「PRO」「らくらくホン」の5シリーズから代表的な端末を紹介している。この頃はすでに端末デザインはいまと大差のないものになっている。
永田氏は「昔は高機能な端末、現在のPRIMEシリーズに相当する端末が売れていたが、今ではユーザーは自分にあった端末を買うようになり、STYLEシリーズが売れるようになった」とニーズの変化を説明し、「当初はPRIMEシリーズが多くラインナップされていたが、今は売れる比率に合わせ、STYLEシリーズが増え、PRIMEシリーズは減っている」と語った。
2008年を振り返るパネル |
さらに会場にはドコモの2010年夏モデルも展示されている。すべてケース内展示となるが、未発売モデルも展示されている。実際に触れることはできないものの、最新モデルも来場者の興味を集めていた。一方で古い端末も、「この端末、持ってた!」と懐かしがる来場者も多かった。
ドコモの携帯電話が一同に展示されることは極めて珍しく、「MOBILE TIDE 2010」はケータイが好きな人にとっても、また、ケータイにあまり詳しくなくても、「懐かしい」と思えるケータイに出会えるだろう。
■アナログ時代からPDC移行期
■iモード以前1995年ごろ
■iモード初期、501i~209iシリーズ
■FOMA初期、PDC成熟期
■FOMA90Xiシリーズ以降
■最新モデル
■会場写真
2010/5/24 15:20