LTE向け小型基地局を開発した京セラの戦略


 京セラは、スペインのバルセロナで2月15日から開催される「Mobile World Congress 2010」(MWC)に出展し、LTE向けの小型基地局を紹介する。国内ではこれまでKDDI向けを中心に基地局を展開してきた同社だが、今後は国内だけでなく北米など海外にも力を入れていく方針だ。LTEの登場を機に基地局戦略でシェア拡大を狙う京セラに話を伺った。

 インタビュー取材は、京セラ 執行役員 通信機器関連事業本部副本部長 兼 通信機器統括営業部長の勝木純三氏、機器研究開発本部 横浜R&Dセンター所長の山本高久氏、通信機器関連事業本部 マーケティング推進部 責任者の藤本英明氏の3名に応じていただいた。

 

左から、マーケティング推進部の藤本氏、横浜R&Dセンター所長の山本氏、通信機器関連事業本部副本部長の勝木氏

――まず、LTEの基地局を手がける理由を教えてください。

勝木氏
 KDDI向けに端末を供給し、海外では京セラワイヤレスとして端末を展開しています。2009年からは、三洋電機の携帯部門を買収し世界展開を行っています。PHSも中国で推進してきた実績があります。一方、基地局関連では、iBurstの世界展開や、UQコミュニケーションズのWiMAXレピーター、中国でPHS基地局を展開しています。これまで国内ではKDDIとUQ向けに基地局を提供してきましたが、端末と同時に基地局を開発していくのも我々の目標であり、その一環としてLTEをやろうと、KDDIと共同で研究開発を行ってきました。

――国内のキャリアは採用ベンダーを発表しているところもあります。LTE向けの基地局としては、展開時期が遅いと感じたのですが。

勝木氏
 我々が手がけるのは、他社が展開する大型の基地局ではなく、その周辺で展開される小型の基地局です。

藤本氏
 我々の基地局のポイントは、小型な基地局であるという点です。「Mobile World Congress 2010」で詳細を案内しますが、マクロ型は20リットルで18kg、マイクロ型は12リットルで12kgです。商用化製品もこのサイズを目標に開発を進めています。

勝木氏
 エリアをカバーした後に、こうした小型基地局の需要が出てくると予想していますので、今の時点で展開が遅いとは考えていません。

――他社とくらべて今回の小型基地局が優れている点はどこでしょうか?

山本氏
 小型軽量で低消費電力化を実現している点で、高効率なアンプの開発に注力しています。

――ポイントは小型ということですが、どういった用途でどういった場所に設置できるのでしょうか?

山本氏
 CAPEX(設置コスト)、OPEX(運用コスト)の低減がポイントで、小型・軽量にすることでアタッシュケースのようなサイズを実現し、どこでも取り付けられるというコンセプトです。現行のPHS基地局よりも小型で、電信柱などに容易に設置できます。今後はこういった小型・軽量、低消費電力といった点が重要になってくるでしょう。

勝木
 作業員がひとりで作業できるサイズというのは、コスト面でも重要なことなのです。

――小型の基地局ということですが、カバーできる範囲はどれくらいになるのでしょうか。

山本氏
 マクロ型は通常の携帯電話用基地局に近いイメージです。マイクロ型は半径500mぐらいまでになると思います。マイクロ型はAC電源でも稼働します。

マクロセル向けのLTE基地局(試作機)マイクロセル向けのLTE基地局(試作機)

 

――既存の基地局と同じ場所への設置も想定しているのでしょうか?

山本氏
 最初の展開では、既存の基地局に増設したり、併設したりといった設置になるでしょう。

 しかし、昔であれば音声通話の電波が届けば十分だったわけですが、数Mbpsの通信速度を安定して出す必要がある現在では、マクロセルのゾーン形成では実現できない部分もあります。トラフィックの高いところに手厚くマイクロセルをうっていく段階になると、既存の基地局の設置場所だけでは足らず、今回のような小型化した基地局が必要になってくると考えています。DAS(Distributed Antenna System:分散アンテナシステム)の概念を持ち込むなど、いろいろな運用形態が考えられると思います。

――LTEでフェムトセルのようなものは展開するのでしょうか。

山本氏
 フェムトセルに関しては別のコンセプトだと考えていますが、将来的にピコセルという需要は出てくると考えています。

 我々が重きを置いているのは、「ヘテロジニアスネットワーク」という概念で、マクロ、マイクロ、ピコといったいろいろなノードが混在する中で協調していくシステムです。3GPPでの標準化にも積極的に提案しているところで、こういった異種混合環境での干渉回避技術を強みにしていきたいですね。

――そうすると、基地局同士が通信を行うことになるのでしょうか

藤本氏
 そうですね。これまでは、設置後の調整段階で想定していた性能を発揮できないことが判明する、といった事も起こっていましたので、干渉調整技術は今後重要になってきます。

――資料ではソーラーパネルも合わせて紹介されるようですが、補助電源として訴求していくのでしょうか?

山本氏
 マイクロ型は125Wを目標に開発しており、そのレベルならソーラーパネルを補助電源以外でも使えます。そう遠い未来の話ではないと思いますよ。

――QoSなど帯域制御、帯域制限は基地局側で対応できるものでしょうか。

山本氏
 QoSは可能です。ただ、LTEはやはり遅延の少なさが最大の特徴ですし、ネットワーク上に保存して活用するクラウド環境を活かしたサービスがポイントになるのではないでしょうか。

勝木氏
 京セラはKDDI向けに端末を出していますから、そうしたクラウドに対応した端末も開発を検討していく必要があると思います。

 

海外展開にも注力

――国内では、これまで同様にKDDI向けの供給が中心になると予測できますが、海外展開も考えていますか?

勝木氏
 北米の販売会社を通して話をしていますが、現時点では具体的なものになっていません。本格的な展開はMWC以降になるでしょう。そういった意味でも今回のMWCには期待しています。

――小型基地局の価格は現時点では未定でしょうか。

勝木氏
 部品の価格が、量産時期にいくらなのかまだ分からない段階ですね。ただ、北米を狙っていきたいという考えはあるので、数は見込めるのではないかと思います。

――iBurstを海外で展開していますが、継続されるのでしょうか?

勝木氏
 現在のお客様もありますし、責任を持って継続していきます。

藤本氏
 iBurstはTDDで狭い周波数帯を利用しますから、LTEと棲み分けができると考えています。

――サービス開始前ですが、LTEの普及にどういった感触を持っているのでしょうか。

勝木氏
 NTTドコモ、KDDIはLTEを導入するとはっきり示しているわけですから、始まったらどんどん進んでいくと思います。

――3Gが世界で展開されている最中ですが、思ったよりも各国でGSMが残っている印象です。そうした中、各国でLTEが導入されると、現在のようなばらつきは解消されると思いますか?

藤本氏
 大手キャリアとそれ以外ではスピード感に違いは出てくるでしょう。少なくとも先進国のキャリアはパケット収入が重要になっており、確実に展開されていくと思います。設備投資も必要ですが、大型の基地局はすでにソフトウェア変更のみで対応できるものや、わずかな追加だけでLTEへ移行できるものが登場していますので、そういった意味でも普及に期待しています。

――本日はどうもありがとうございました。

 

(太田 亮三)

2010/2/10 17:53