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「半額サポート+」は抜け穴か、5G/eSIMとMVNOの関係はどうあるべきか――総務省のモバイル研究会

 11日、総務省において、モバイル市場の競争環境に関する研究会の第17回が開催された。今回の開催では、主に来春の5Gサービスの開始に向けての主要3キャリアの取り組み、他社設備の共用が拡大した際に2種指定制度が機能するか、はたまた海外では携帯電話にも普及が進みつつある「eSIM」の日本での普及について、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに対しての意見聴取が行われた。後半の質疑応答では、ソフトバンクが発表した端末割引施策「半額サポート+」についての議論が大半を占めた。

ヒアリングのテーマ

 「5G時代におけるネットワーク提供に係る課題についての検討」では、MNOとMVNOとの公正競争確保の観点から、MVNOにおいても利用者に対して円滑に5Gが提供されることが重要とされた。MNOにおける5G利用者への提供予定、MVNOへの開放予定(開始時期、設備改修などのスケジュール、接続料など)を確認し、課題を抽出、適切な対応が必要とされた。

 また、5GサービスがNSA(4Gとセットで運用するモード)からSA(5G単体で運用するモード)に移行する際、ネットワーク仮想化、スライシング、クラウドといったさまざまな事業者間連携などの環境変化をもたらしていくことが考えられる。二種指定制度における規律の観点からも、接続料算定方法やアンバンドル機能などの想定される問題について検討しておく点がないかの確認が求められた。

 加えて海外での「eSIM」の普及に伴い、日本でも今後「eSIM」の需要が高まることが見込まれる。日本国内でもMNOが「eSIM」提供を行う場合、MVNOも同様のサービスが行えるように、適切な機能開放について、検討が必要であるとされた。

NTTドコモ

 NTTドコモからは、企画調整室長 榊原啓治氏が同社の取り組みについてプレゼンテーションを行った。ドコモでは、5Gオープンパートナープログラムにより、他業種含めてさまざまな提供を行っており、その中で多くの形で多様なトライアルを提供している。MVNOへの5G回線提供については、ドコモが5G商用サービスを開始する2020年春の提供を目指して準備しているとした。ただし、実際にMVNOが5Gサービスを開始するにあたっては、MVNO側の準備も必要であり、実際にMVNOが来春に5Gを開始できるかどうかについては直接の言及を避けた。

5Gにおける課題

 5G開始における課題として、MNOとMVNOの併用があるとした。各社が研究開発競争を行っている中で、他社の技術をMVNOの回線に便乗して、享受するということは認められるべきではない、MNOでありながら自社ネットワークの範囲外でMVNOとして展開すべきではなく、自社設備で事業を行うべきであるとした。また、MVNOを通じて他MNOに自社の経営情報などが筒抜けになり、公正な競争が阻害される恐れがあるという問題点を掲げた。

 榊原氏は、MNOとしての事業展開を予定としていながら、MVNOも同時にサービス拡大を図るという企業があることは遺憾だと語った。

eSIMへの対応は

 MVNOに対しての「eSIM」提供について、ドコモとHLR/HSS連携を行っているIIJのように、自らの戦略に基づき創意工夫が必要ではないかとした。また、ドコモにはIIJに続いてHLR/HSS連携の申込みが来ており、承諾しているという。

 また、「eSIM」は、発行する際に個人情報などの機密情報を扱う必要があり、万が一それらが流出した場合は、正規のSIMとまったく同じ情報を持つクローンSIMの作成を許すことにつながるため、慎重な対応が必要だとした。

将来技術を制度で縛るべきではない

 将来技術に係る制度整備については、サービス設計などの直接的な言及はなかったが、イノベーション創出や、国際競争力強化の観点から将来技術に対して硬直的な規制を課すべきではないとした。

【お詫びと訂正 2019/09/12 11:00】
 記事初出時、NTTドコモの5G開始時期を2020年3月としておりましたが、正しくは2020年春です。お詫びして訂正いたします。

KDDI

 KDDIからは、執行役員 渉外・広報本部長の古賀靖広氏がプレゼンを実施。KDDIは2020年3月より5Gサービスを正式に開始する。先んじて今秋からプレサービスとして、高精細映像配信やスタジアムソリューション、ドローン警備などを提供する。2020年にはNSAで大容量モバイルサービスなどが実現し、2021年以降にはSAでの5Gサービスが始まり、スライシング、MECなどを活用する本格的5Gが始まるとした。

5Gではコンシューマ、ビジネスともに新たな体験を

 また、料金に対する考えとして、データ容量上限なしの「auデータMAXプラン」を例に出し、データ容量を気にせず楽しめる安価なプランを用意するとともに、「auスマートパス」のようなサービスなども柔軟に対応できる料金設定で提供するとした。

 同時に、ビジネス向けのソリューションとして「KDDI DIGITAL GATE」を開設、200以上の企業に利用されており、5G時代ならではの体験価値をパートナーとともに開発している。

MVNOとeSIMについての対応は

 MVNOに対する取り組みとしては、L2インターフェースへの接続、IoTプラットフォームなどのKDDIの5Gを活用できる環境整備を計画している。今秋以降にMVNOへの情報提供を開始し、実際のMVNOへの5G提供開始時期については、KDDIの5Gスタートと同じく来春であるとした。

 「eSIM」の普及への対応としては、プリペイド端末、KDDIでは全世界IoT端末向けなど限定的な用途において提供開始しており、MVNOへの提供については、MVNOが自社のeSIMサーバーを用意して対応する方法、MNOが導入するeSIMサーバーを提供する方法の2種類を用意することを考えており、各社の要望を踏まえて検討するという。

状況の変化を踏まえた制度の見直しを

 これにより、利用したいネットワークを選択でき、MNOとMVNOの関係性にも変化が起きるのではないかと予測する。無線リソースの多様化、事業者間の設備共用の促進なども相まってネットワークレイヤの価値定価、電波の希少性の解消無線リソースの活用方法の進化など、将来の二種指定設備制度については変化を踏まえた検討が必要とした。

 5Gは大都市部はもちろん、地方でも展開することが今後の生活、産業を支えるインフラとして重要だとして、自社での設備展開はもちろん行っていくとした上で、事業者間の設備共用も必要とした。スライシング、仮想化などの技術についても実証を推進しているという。

ソフトバンク

 ソフトバンクからは、渉外本部 相互接続部長の伊藤健一郎氏が説明をした。ソフトバンクも前2社と同様に、2020年3月から5Gサービスを開始予定としている。2021年には低遅延サービスなどが実現、2024年以降にはネットワークスライシングなどが可能な状態に移行、完全な5Gネットワークが開始する。プレサービスとしてフジロック、バスケット日本代表国際試合での取り組みを、ビジネス向けの取り組みとしては5Gを利用したトラックの隊列走行を紹介した。

 5G開始当初はNSAでのローンチ、2021年以降にSAでのサービスを行う形としており、MVNO向け接続料については、従来の帯域単位での提供を見込んでいるが詳細は検討中とした。

将来技術と現行制度はそぐわなくなる可能性も

 将来技術のスライシング、仮想化ネットワークについては、これによりMNOのネットワーク提供形態は多様化し、ひとつのネットワークで多様な品質のサービスが実現可能になるとした。こうした時代では、ネットワークのプラットフォーム化が進み、サービス要件に応じ、ユーザーがネットワークAPIをコントロールする形態になるのではないかとしている。MVNOに限らず、さまざまなユーザーがAPIを通じて5Gを利用するだろうとした。

 それらを踏まえると、既存のアンバンドル機能や、帯域課金などの考え方は実態そぐわなくなる可能性がある可能性がある。多様なビジネスモデルの創出を促す柔軟な制度、複雑化を回避するための標準的な接続構成の整理が必要だという。

eSIMはMVNOの要望次第

 「eSIM」への対応については、ソフトバンクはMVNOへの提供については未定とした。しかし、さまざまな提供形態があり、自前でMVNOのプラットフォームを用意してもらう、またはソフトバンクのプラットフォームから提供する方法が考えられ、今後、ソフトバンクにおいて提携が実現した場合、MVNOの要望に応じて協議するとした。

質疑応答では、ソフトバンクに関する言及が

 質疑応答の中では、ソフトバンクが過日発表した端末割引プログラム「半額サポート+」についての意見が飛び交った。

 「半額サポート+」はソフトバンクが9日に発表した新たな端末割引プログラム。48回払いの割賦と組み合わせて提供されるもので、2年後に端末を返却することで、最大24回分(半額)の残債が免除されるというもの。対象条件は、25カ月目以降の端末買い替え時に「ソフトバンクが指定する方法で指定機種を購入すること」となっている。

 10月に施行される改正法では、通信契約を組み合わせた端末代金の割引は最大2万円までという制限があるが、「半額サポート+」は他社ユーザーが端末のみを購入する場合にも利用できる。このため、ソフトバンクは新法には抵触しないとしている。

 これに対して、野村総合研究所 パートナーの北俊一氏が「報道によれば、総務省は新法の趣旨に合っているので問題ないとコメントしているが、私は趣旨に反しているのではないかと思う。契約による2年縛りをやめて、拘束されなくなったと思ったら、今度は端末で縛られているのと同じではないのか」と意見を述べた。

 総務省 料金サービス課長の大村真一氏は「各社の販売手法の詳細評価については控えるが、従来は通信と端末の料金が混ざり、分かりづらく、端末が安く見えるというロックイン効果が働き、競争が停滞していた。改正法の趣旨はこれを健全化し、競争を活発にしたいというところにある。ユーザーに限らず端末を販売するというのは、改正法の趣旨を理解していると思う」とした。

 北氏は「ソフトバンク端末はSIMロックされている。ドコモユーザーが、ソフトバンクから端末を購入したら100日間端末を寝かせなくてはならない。端末の持ち逃げを防止する100日ルールをユーザーの囲い込みに利用している。eSIM時代を迎えるこれからはSIMロックについても改めて検討すべきではないか」とした。

 加えて北氏は「過去の会合でも申し上げたが、白ロム端末の販売はよくない。(半額サポート+のような)穴をついた手法は量販店が使ってくるのではないかと言っていたが、予想通りのような結果だ」としたうえで「ソフトバンクは自ら率先して、穴に落ちてくれたのか? せっかく落ちてくれたのならば、みんなで埋めてあげないと……」と発言し、これでは代理店主導の値下げ合戦にもつながると懸念を示した。

 大村氏は「こういう売り方が出てくるのではという批判はあったし、それは飲み込む。(ソフトバンクが)穴に落ちてくれたおかげで課題が浮き彫りになったと思う」とした。

 さらに、「SIMロック100日ルールは端末持ち逃げ防止のためだったが、分離時代の今では負の効果が出ているかもしれない。そうだとすると、割賦不払いの防止については再検討の可能性がある」と発言、差し迫った課題であると認識を示した。

 また、情報通信消費者ネットワークの長田三紀氏から「2年間の使用で端末を半額にできるならそれだけ端末で儲けすぎなのではないか」という意見もあったが、これについてソフトバンクはあくまで端末だけでビジネスを成り立たせようとしているということであり、儲けすぎという指摘は当たらない旨を主張した。

【お詫びと訂正 2019/09/12 10:00】
 記事初出時、研究会構成員の北俊一氏のお名前を誤って記しておりました。お詫びして訂正いたします。