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格安SIMの品質が変わる? 総務省で進む「ネットワーク中立性」議論
2019年4月30日 10:00
2018年秋から、総務省で「ネットワークの中立性」に関する議論が進められている。4月には、議論を踏まえた中間報告書が公表されたが、実は将来的に格安SIM/格安スマホとも呼ばれるMVNOのサービス品質に影響を与えそうな内容も含まれている。
議論の対象は、たとえば動画/SNSの見放題サービスや、YouTubeに代表される映像サービスの普及による通信量(トラフィック)の増加が与える影響について議論したもの。議論のきっかけに携わった、前総務大臣政務官の小林史明衆院議員(自民党)の解説を踏まえ、私たちが利用するサービスへどういった影響がありそうか、ご紹介する。
ネットワークの中立性って?
議論の対象となった「ネットワークの中立性」とは、誰に対してもネットが公平に利用できる、といった意味の原則的な考え方だ。
たとえば、一部のヘビーユーザーが莫大な通信を行うと通信帯域の大部分が占有されてしまい、他のユーザーの通信速度が遅くなる可能性がある。基本的にはトラフィックが増えても、それはISPなどが回線増強で対応すべきながら、一部の事業者ではヘビーユーザーに対して、一定期間、通信速度が遅くなるという総量規制方式の通信制御が行われている。
ただ、年々、動画など大容量コンテンツの利用が進み、1ユーザーあたりのトラフィックは増加傾向にある。そこで総務省の議論では、従来よりも柔軟な形で対応できるよう、ISP向けのガイドラインを改定する意見が出ている。
その具体的な内容のひとつが「公平制御」という手法。これは、ヘビーユーザーから順に制限を掛けていくというもの。ごく一部のトラフィックによる混雑をユーザー全体に波及させるのではなく、その大量の通信を行っている部分だけコントロールすることで、ユーザー全体にとっては公平な通信になる……といった形を目指す。
公平制御が実現すれば、たとえば格安SIMや格安スマホと呼ばれるMVNOのサービスを利用する場合でも、より多くのユーザーにとって、一定以上の品質で、通信サービスを利用できると期待できそう。
優先制御、ゼロ・レーティングも
「ネットワーク中立性」に関する議論として、「優先制御」というアイデアも出てきた。特定のサービスを優先して通信しやすくするといったものだ。
ただ自由に優先するサービスを決めていいわけではない。現時点で優先していいサービスと考えられているのは、たとえば遠隔医療や自動走行など、命に関わるサービスだ。
それ以外のサービスについては、合理的な基準や、透明性の確保など適切なルール作りが必要とされており、まだまだこれからだ。
そしてもうひとつ、大きな論点となったのが「ゼロ・レーティング」と呼ばれる考え方。これは、携帯電話会社やMVNOが、特定のサービスの通信量をカウントしないといったもの。
ユーザーにとってはありがたいサービスだが、無料対象外のサービス事業者にとっては利用が減る可能性がある。懸念はありながらも、今回の議論では、まだ始まって間もないことから、ひとまず規制ではなく注視し、問題が起きれば事後的に対応していく形になる方針が示されている。
もし、人気の端末メーカーが自社サービスに関する通信量を無料にして、と携帯電話会社へ要求すればどうなるのか。小林議員は「優越的地位の濫用される懸念があれば公正取引委員会などがしっかり対応する。一方、通信事業者に対しては電気通信事業法で対応する」と解説。事後ながら、何かしら問題があれば対応できる体制であることを説明する。
「ネットワークの中立性」は、一見すると、どんな話なのかわかりづらいかもしれないが、その在り方は私たちが利用するサービスや、その品質へ大きな影響を与える。本誌では、今後の議論のゆくえも、引き続きチェックしていく。