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過酷な環境で開催されるウインタースポーツを支えるKDDI
5G時代に通信でどんな付加価値を生みだせるのか
2018年1月22日 15:04
1月20日~27日にかけて長野県白馬村においてフリーライドスキー・スノーボード世界選手権「Freeride World Tour Hakuba,Japan 2018 - The Winter Begins」が開催されている。日本初開催となるこのイベントをオフィシャルスポンサーとしてサポートするKDDIだが、冬場の過酷な環境下で開催されるイベントの通信を支えるのは、同社にとって新たなチャレンジになるという。
車載型基地局+バケット車で冬の過酷な環境に対応
会場となったのは、長野オリンピック開催時にアルペン競技の会場となった八方尾根スキー場の最上部にある八方池山荘からさらに尾根を登った先にあるゲレンデ外の未整備エリア。通常は人が立ち入らないエリアをカバーするとともに、多数の観客がいた場合でもライブ中継に影響が出ないように一定の品質を保つ必要がある。
そこで、KDDIでは地元の水道局の敷地内に車載型基地局を派遣。そこに光ファイバーを引き込み、2GHz帯と800MHz帯のLTEの電波を吹き、さらに周辺の基地局をチューニングすることで、会場周辺で安定した通信を行えるようにした。八方池山荘の裏手に設置された中継用のテントからのライブ配信には、このLTE回線が使用されており、安定して6Mbpsを出せることが目安になったという。
車載型基地局の運用を担当するKDDI 技術統括本部 運用本部 運用品質管理部 名古屋テクニカルセンター フィールドグループ グループリーダーの前嶋拓氏によれば、これまでも夏フェスや花火大会などで車載型基地局を派遣することは度々あったが、冬場のイベントをサポートした経験は無かった。車載の伸縮式アンテナポールが凍って稼働しなくなる可能性があるため、別途バケット車を手配。これにより、氷点下でも確実に運用できるようにした。
通信を使って現地の観客に何を提供できるのか
こうした過酷な環境下での通信のサポートにチャレンジする理由について、KDDI バリュー事業本部 バリュー事業企画本部 ビジネス統括部 部長の繁田光平氏は、5G時代に向けてどんな価値を生みだせるかという課題に対してのトライアルの意味が大きいと語る。
繁田氏は「現時点では、映像中継での回線利用に止まっているが、選手や板にセンサーを積むことで心拍数や板の傾斜などのデータを取得するなどすれば、スポーツの魅力が向上し、スポーツ人口の拡大に繋がる」と未来を見据える。
同社では、サッカーや野球のスタジアムでの映像配信にも取り組んできたが、どうしてもエンコードとデコードといった処理に時間がかかり、目の前で見えている状況との時間差が発生するため、現地の観客への見せ方に大きな課題を抱えていた。そこで、遅延の影響をさほど受けないセンサーなどの“軽い”データをXR(AR、MR)の形で重ね合わせることで観客に通信を使った付加価値を提供できる可能性があるという。
トッププロのセンサーデータを選手育成に役立てることができるようになれば、「auユーザーだけサッカーがうまい(笑)とかいうことも起きてくる」(繁田氏)かもしれない。
ワイヤレスでもっと面白くなるフリーライドスキー・スノーボード
一方、同大会を主催するFWT(Freeride World Tour) Management SA CEOのNicolas HALE-WOODS氏は、「通信をこのスポーツにどう生かしていくかを常に考えている。過去には衛星しか通信環境が無いアラスカでも大会を開催したことがあるが、こうした場所での開催は通信会社にとっても良いテストの場になるのではないか。今回の大会の映像を海外に中継することで、日本のテクノロジーの素晴らしさを海外に伝えていきたい」と語る。
実際に大会を運営するにあたっては、中継用のケーブルのオペレーションがかなり負担になっているため、できれば全てをワイヤレス化したいのだとか。また、1km以上離れた場所から双眼鏡を使ってジャッジすることもあり、これが開催場所が制限されてしまう原因にもなっているという。
HALE-WOODS氏は、「公式ジャッジとは別に、ファンの意見を反映させた賞を作ることなども考えていきたい」と、フリーライドスキー・スノーボードというスポーツへの通信技術のさらなる活用に期待を膨らませていた。