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KDDI、屋久島でドローン基地局の実証実験
2017年12月14日 19:05
KDDIとKDDI総合研究所は、災害対応用のドローン基地局を開発し、鹿児島県の屋久島で実証実験を行った。国内の通信事業者としては初となる。
今回の実証実験は、総務省から技術試験事務として「移動型の携帯電話用災害対策無線通信システムに関する調査検討」(2017年7月~)を受託して行われている。当初はヘリコプターに搭載することを想定していたが、基地局システムの小型・軽量化を実現できたことからドローンに搭載して評価試験を実施することになった。
災害時に陸上や海上から携帯電話サービスを提供できないような状況において、上空から一時的に携帯電話を利用できるようにしようというもので、救助要請や捜索活動に効果を発揮することが期待されている。
12月14日に報道関係者向けに公開されたデモンストレーションでは、屋久島西部の永田岬にある屋久島灯台周辺においてドローンを飛ばし、実際にスマートフォンで通信できる様子が披露された。
ドローン基地局で実現するサービスは大まかに2つに分類され、1つは外部と通信せずにドローンに搭載された基地局がカバーできるエリア内(半径1km)での通信を可能にするもの。もう1つは、ドローンからの外部通信路を用意し、通常のネット環境を実現するもの。
前者では、加入者情報を保持して運用すれば、端末のGPS機能を利用して正確な位置を確認できるほか、ドローン基地局のエリア内で相互に音声通話やSMSのやり取りが行える。加入者情報を保持していない場合でも、エリア内の端末の数を数え、避難情報などを一斉配信することはできる。
後者では、通信速度に制約は生じるが、通信事業者のコア設備に接続できるため、スマートフォンで利用できる一般的な通信サービスが利用可能となる。
これらの各ステップは、災害発生の初期段階において、発生直後におおよその被災者数を把握し、一斉配信により避難を促し、第2段階で被災者の正確な位置を把握するとともに個別に連絡を取り、救助を依頼、その後、孤立した地域の通信ニーズに応えるという本格的な復旧までの通信手段確保をイメージしている。
今回の実証実験では、エンルートラボのドローンを使用(今後はプロドローンを使用する予定)。スティック型のPCにモバイルコアを実装し、富士通製の小型のLTE基地局と組み合わせてドローンを基地局化している。基地局ユニットにはドローン用の電源とは別に市販のモバイルバッテリーから電力を供給する。
当初はヘリコプターへの搭載ということで60~80kg程度の重量を想定していたが、モバイルコアとして用意する機能を最低限のものに絞り込むことで100g程度のスティックPCに実装できるようにし、他の機材の見直しとあわせて総重量で3kg程度に小型・軽量化。これによりドローンへの搭載が可能になったという。
エリア内のスマートフォンとは2GHz帯のLTEで通信。外部との通信用には800MHz帯のLTEを使用。今回のデモでは、衛星経由で運用するピコ基地局を灯台の脇に設置し、そこからドローンに向けて電波を吹く形になっていた。
基地局システム自体はモバイルバッテリーにより2時間程度の運用が可能だが、ドローンのバッテリーが20分程度しかもたないため、飛行時間はその範囲内となる。KDDI 電波部 マネージャーの遠藤昌氏によれば、実用性を考えると、30分~1時間程度のフライトを実現する必要があるが、実証実験であれば20分程度でも一定の有用性は確認できるという。
デモンストレーションの実施を前に総務省 総合通信基盤局 電波部移動通信課 課長補佐の村井遊氏は、今回の実証実験を行うことになった背景について、「東日本大震災などの災害を受けて、通信が途絶した際にどうやっていち早く通信エリアを復旧させられるかを考え始めた。その時、陸海空からきちんとエリアを補完しようという話になり、陸は車載基地局、海は船上基地局という形で取り組んできた。最後の空は、土砂崩れした山間部で人も直接立ち入れないという場所で、空から基地局を持っていくことで、被災されている方がいるところを通信エリアにし、110番できるようになったり、そこにどれくらいの人がいるのか判断することで迅速に災害救助・復旧が行える」と説明。その上で「総務省としては、いろんな事業者と一緒に一人でも多くの命を救い、被災者の安心・安全につながる通信を確保できる体制を制度整備等を含めて実施していきたい」(村井氏)としている。