「Xperia」開発者インタビュー

黒住氏に聞く「Xperia」新モデルや今後のソニー・エリクソン


 ソニー・エリクソンは、9日(現地時間)に2012年のフラッグシップモデルとなる「Xperia S」を披露した。1.5GHzのCPUや、720pのディスプレイ、新たなユーザーインターフェイス(UI)を採用しながら、ボディにフローティングプリズムと呼ばれる透明なパーツを用いてシンプルに仕上げており、機能とデザインの両立を狙う。日本では、ほぼ同型の端末が「Xperia NX」としてNTTドコモから発売されることが決定した。

 また、ソニーのプレスカンファレンスで明らかになったように、ソニー・エリクソンはソニーの完全子会社化後に「ソニーモバイルコミュニケーションズ」に名称が変更される予定だ。今後は、Xperiaがソニーグループのコンテンツやサービスと、さらに深く連携することが期待されている。

 このように重要な役割を担うXperia Sだが、一体どのようなコンセプトで開発されたものなのか。ソニー・エリクソンでVice President、Head of UX Product Planningを務める黒住 吉郎氏に、「2012 International CES」の会場で、製品の狙いや今後の展開を聞いた。

Xperia Sについて

ソニー・エリクソンの黒住氏

――最初に、Xperia Sの製品コンセプトを、改めて教えてください。

黒住氏
 今回は、“原点回帰”ということを考えました。というのも、これだけディスプレイが大きくなり、ユーザーさんもスマートフォンでどう楽しめばいいのかということが分かってきています。その中で、ユーザーさんにとって邪魔にならない、だけれどもソニーらしい、ソニー・エリクソンらしい、訴えかける商品にしたいと考えました。元々、Xperiaというブランドを作ったときは、商品というよりお客様に楽しんでいただける場所というイメージがあったので、それにできるだけ近づけるために、色々なものをシンプルにシンプルにしていきました。

 デザインで言うと、今回のXperia Sはそぎ落としすぎてはいますが、透明なフローティングプリズムを配置することで、“抜けている感じ”を出せました。たとえば、CESの会場には全然窓がなく、閉じている感じがしますよね? ここに、1つだけ窓のようなものがあると、人間は外につながっているという、何か違う感覚を持てるんです。これが、デザインの原点です。
 あえてここを透明にしたのには、もう1つの理由があります。Xperia Sはデュアルコアになりましたし、バッテリーもXperia arcより大きい1700mAhです。ディスプレイも4.3インチで720pのHD解像度になりましたが、その半面、どうしても大きく、重くなってしまいます。その中で、軽さをどこで継承するのか。そう考えたときに、生まれたのがこのデザインです。副次的な効果として、こうすることでディスプレイが際立って大きく見えるんですね。そういう点では、この透明な部分自体がフローティングという意味もありますし、ディスプレイがフローティングと言うこともできます。携帯電話は、数ある電気製品の中で、もっともユーザーさんが身につけるものです。ですから、単に美しいだけでなく、ユーザーさんがどう感じるかを考えなければなりません。

――2011年に発売されたXperiaシリーズと比べると、ユーザーインターフェイスにも変化があります。ここにも、今述べられたコンセプトが活きているということですか。

黒住氏
 ユーザーインターフェイスも、できるだけそぎ落としてきました。テーマは「シンプル・ミニマリズム」で、リッチさとミニマルさをどう両立するかということを考えています。たとえば、電話アプリもそうです。「ヒロシ」という人を電話帳から検索する時、「HIR」と打つと結果が絞り込まれていきます。これは、シンプルだけど使いやすいですよね。

 色をどう使っていくかということも、相当考えました。シンプルですが、どうリッチさを出していくか。電話アプリをよく見ていただければ分かるように、背景にカーボンのような細かい模様を入れています。単純なことですが、ここをザラッとさせる質感を持たせることができたのも、ディスプレイに720pの解像度があったからです。

 リッチさの表現には色々なやり方があり、ミュージックプレイヤーも工夫しています。1つは、今まではできなかった、アルバムアートをフリックして曲を切り替えることが可能になっています。また、シンプルに新鮮な驚きを入れたかったので、アルバムアートの色に合わせ、プレイヤーの背景の色が薄っすらと変わるようにもしています。イコライザーにはプロフェッショナルな感じを出したかったので、リッチで写実的に仕上げています。実際、スタジオに入ると分かると思いますが、イコライザーのつまみは透明なんですね。なぜかというと、目盛りがきっちり見えなければいけないからです。ここに合わせて、実は、Xperia Sのイコライザーのつまみも透明にしています。

電話帳にも工夫イコライザーのつまみは透明

 音楽に関しては、今回、Xperia X10にあった「Mediascape」に近い概念も入れています。「My Music」という画面がポータルになっていて、今はまだありませんが、今後はここにサービスをプラグインで追加できるようにすることも想定しています。

――そう聞くと、昨年以上にAndroidに手を入れてきた印象を受けますが、方針に変化があったのでしょうか。

黒住氏
 そこは我々が勉強したところです。Xperia Sは、Androidをよく分かってから3周目の機種(Xperia X10からカウントして)になります。Androidを理解したうえで、エコシステムを使い、その上でどうやってソニーらしさ、ソニー・エリクソンらしさを出すかを考えていきました。もちろん、他社がやろうと思えばできることではありますが、それをどういうグラフィックでまとめて、どういう商品にするのかといったところで差別化はできます。

 今お見せしたミュージックプレイヤーも標準のものとは違いますよね。ですが、テクニカルに言うと、フレームワークはそのままです。その上にUIのレイヤーを置き、サービスレイヤーを置いているからです。Androidに機能が追加されたわけではなく、Androidをより理解することで、やり方がわかってきたのだと思います。そうすることで、プラットフォーム側にアップデートがあった時にも、対応がしやすくなりますからね。

――とすると、Android 4.0へのアップデートも期待できそうですね。

黒住氏
 今回、Android 4.0の公開と端末の開発が若干ずれていたので、残念ながらローンチのタイミングではAndroid 2.3です。一方で、今お話ししたように、対応はしやすくなっているので、できるだけ早いタイミングでアップデートは行っていきます。技術的にはXperia arcもAndroid 4.0にできますからね。もちろん、市場によってはキャリアさんとの関係もあるため、時期が遅くなる可能性はありますし、もしかしたらしないこともあるかもしれませんが、我々の意思としてはアップデートには積極的です。

――Xperia SはCPUやメモリもリッチになっていますが、ある程度、新しいプラットフォームを想定していたような印象を受けます。

黒住氏
 含みはあまりないんですけどね(笑)。ただ、メーカーにとって、CPUやメモリを大きくすることは、コストにつながります。では、なぜそこにコストをかけるのか。やはりそれはスピードを上げるためでもありますし、予測しえないプラットフォームの進化があった時に、対応がしやすくなるということでもあります。

――ちなみに、今回、電池パックが取り外せなくなっていますが、何か狙いはあるのでしょうか。

黒住氏
 ユーザーさんにいいものを提供するために、我々ができる最善は何かを考えたときの、1つのソリューションがビルトイン型のバッテリーでした。たとえば、先ほど言ったように、ディスプレイが大きくなり、プロセッサーもシングルコアからデュアルコアになりました。それに伴い、電池も大きくなっています。ただ、それでも小さく、軽くはしたいですよね? 全体を考え、より効率をよくしたかったので、今回はいわゆる“はめ殺し”のバッテリーにしています。

 もちろん、保障や交換が難しくなる、といった難しい問題も出てきます。正直にいうと、これに対するベストな回答はまだ持っていません。ただ、バッテリーの容量をなるべく大きくするというのは、我々ができることですし、電池が切れそうになったらほかのアプリケーションを切って電話だけ使えるようにしたりと、ユーザーさんにはできるだけ不都合がないような形にしていきたいですね。

 ただ、今あるものがベストかと言われれればそうではありません。批判も出てくると思います。Xperia arcからなぜデザインが変わったのか、なぜ重量が増したのかといった声も当然あると思います。とは言え、この批判は我々にとっての糧になるので、真摯に受け止めて今後につなげていきたいと思います。

「LTEには積極的に対応していく」

――米国向けにはLTE対応のXperia ionも発売されます。Xperia Sは非対応ですが、LTE需要はどのように受け止めていますか。

黒住氏
 我々としても、LTEに関しては積極的に対応していきたいと考えています。では、なぜXperia SがLTEではないのか。特に日本市場では、まだベストな商品を作れるところまで来ていなかったんですね。Xperia SとXperia ionのサイズの差は、単純に言うとLTEの有無なんですね。アンテナの受信感度やバッテリーを考えると、どうしてもこの大きさになってしまいます。特に日本市場を考えると、これで(Xperia ion)で本当に受け入れられるのだろうかと考えると、今は自信がありません。

――自信がないとおっしゃいましたが、LTEによる新しいユーザー体験を作り出すことができれば、日本でも受け入れられるのではないかと思います。

黒住氏
 (LTEによって)ユーザー体験は、絶対に変わります。ですから、先ほど申し上げたように、LTEに対して今後は積極的に対応していきます。我々も対応製品を作ることで、日本のキャリアさんと一緒に市場を立ち上げていければと考えています。

ソニーとの連携に期待

――Xperia S開発時には、日本市場をどの程度意識しているのでしょうか。

黒住氏
 フィーチャーフォン(従来型の携帯電話)の時代よりも、日本とグローバルの垣根は低くなっています。Xperia Sにはいわゆる三種の神器(ワンセグ、防水、おサイフケータイ)は載っていませんが、日本市場も意識して開発しています。フィーチャーフォンのころは、グローバル向けの製品を開発する際に、日本をまったく意識していませんでしたが、今は逆で、日本を意識するとグローバルでも受け入れられやすくなっています。

――日本向けに特化したXperia acro HDを出していますが、たとえばXperia Sのような1つのデバイスで、仕様を細かく変えていくという可能性はあるのでしょうか。

黒住氏
 それも1つのやり方ですが、メリットとデメリットの両方があります。確かにワンデバイスだと社内の効率はよくなりますが、ソニーおよびソニー・エリクソンがユーザーのニーズを無視して都合を押しつけるよりは、これを提供するにあたってはこのやり方が通用するというのを、模索していきたいですね。

――Xperia Sは、ソニーブランド初のXperiaです。今後、ソニーとどのような連携をしていくのか、黒住さんのイメージを教えてください。

黒住氏
 機能的、組織的に、これから協力関係がもっと強くなっていくと思います。たとえば、Xperia SはPlayStation Certifiedに対応していて、PlayStation Storeからゲームをダウンロードできます。これはグループならではです。また、カメラにしても、ソニーにはCyber-shotがあるので、モジュールやセンサーなどで協力して、よりいいものに仕上げることができます。今回、Xperia Sではオーディオ設計をウォークマンのチームと一緒にやっていますが、彼らは40年以上オーディオに取り組んでいて、音に対してはものすごい感度を持っているわけです。デジタルをアナログで表現することにも長けています。このノウハウを利用しない手はないですよね。

――2011年は、Xperia arcがまず登場して、そこから派生するモデルを続々とリリースしてきました。Xperia Sは2012年の起点という考えでよろしいでしょうか。

黒住氏
 具体的な商品展開については、まだお楽しみにしていてください(笑)。もちろん、我々としては、さまざまなユーザーシーンやマーケットに合った端末を提供していきたいと考えています。

――本日は、どうもありがとうございます。




(石野 純也)

2012/1/13 19:40