インタビュー

“洗える”だけじゃない、独自技術満載の「arrows Be F-04K」開発者インタビュー

動画の自動ズーム、心拍や精神状態のセンシングも

 一定の月額料金が割り引かれる「docomo with」対象機種として、2018年5月25日に発売された富士通製スマートフォン「arrows Be F-04K」。arrowsシリーズのハイエンドモデルであるarrows NX F-01K譲りの多機能指紋センサー「Exlider」(エクスライダー)と、もはや伝統と言ってもいい高い堅牢性を備え、さらに同社のドコモ端末として初めて“洗える”ようにした機種だ。

 2017年に発売されたarrows Be F-05Jの後継モデルで、ミドルレンジという括りではあるものの、それらの装備に加えて、メモリやストレージの大容量化、arrows NXにもない新機能の数々が搭載されている。ミドルレンジの枠を外れるかのような高い充実度を誇る端末と言えるだろう。ハイエンドユーザー向けではないのは想像できるとはいえ、arrows Be F-04Kはどういった狙いと魅力をもつ端末なのか。開発に携わった同社メンバーに話を伺った。

arrows Be F-04K開発者に話を伺った
arrows Be F-04K

国内製の泡ハンドソープ、液体食器用洗剤に対応する“洗えるスマホ”

――arrows Be F-04Kは2017年6月発売のF-05Jの後継機種となる、2代目のarrows Beとなります。手頃な価格で月々の割引額も大きいdocomo with対象機種ですが、今回はどんなコンセプトで開発したのでしょうか。

山田氏
 arrows Beに限らずarrowsシリーズ全体もそうですが、当初より堅牢性、特に画面割れに強いというコンセプトは継承することに決めていました。さらに長期に渡って使い続けるユーザーの多いdocomo with対象機種なので、長く、安心して、きれいに使えるよう、“洗える”という要素も追加しています。

マーケティング、企画などを担当した富士通コネクテッドテクノロジーズ マーケティング・営業本部 山田麻以氏

 長く使える安心に加えて、もう1つの特徴としているのがカメラです。カメラ機能はハイエンド志向ではないユーザーでも普通に使う機能ですから、「暗いシーンが上手に撮れない」という不満の解消を目指しました。具体的には、静止画撮影の暗所への性能アップと、動画撮影に関する新機能です。

 さらに新たに用意したのが「ララしあコネクト」というアプリですね。arrows Beを使っている方が楽しく健康になれる機能として用意しました。あとはarrows NX F-01Kで初めて採用した電源ボタン兼指紋センサーの「Exlider」も搭載して、指1本で画面のスクロールや拡大縮小などの操作ができる機能も入れています。

――ミドルレンジとはいえ、機能としてはハイエンドモデルのarrows NXに近づいた感じがありますね。

山田氏
 ミドルレンジですから、スペック面での取捨選択はもちろんあります。ただ、そのなかでも注力したのがカメラで、Exliderは富士通の独自要素として、この機種でも継承すべきと考えました。前回モデルに比べてメモリやストレージ容量は大きくしていますが、今のスマートフォンのトレンドや使い方を考えると大きくしなければいけない部分でした。また画面解像度については、5インチというサイズにおける見た目の違いや電池もちを考慮して、前モデルと同じHD解像度をキープすることにしました。コストもありますけど、「お客様の価値につながるか」を考えた結果です。

――堅牢性については引き続きMIL規格準拠としています。

徳永氏
 arrows NX F-01Kは筐体が金属で、剛性を高めて画面割れしにくいよう設計していました。今回は樹脂筐体で、かつディスプレイは2.5Dガラスにしています。素材は変えながらも、これまでと同じように“割れない”という点は我々の強みとして継続していこうと考えました。機構設計を担当している身としては、前モデルからの素材違いによる強度や性質の差分をいかに補填するかが一番こだわった部分です。

――ということは、同じMIL規格準拠でも内部構造は変わっているわけですね。

機構設計を担当した富士通コネクテッドテクノロジーズ 開発本部 徳永慎吾氏

徳永氏
 従来のSOLID SHIELD構造をベースに、外側の樹脂との一体感を増すようにしています。筐体に負荷が加わったときも、中のステンレス板が踏ん張って、それで筐体の変形を抑えることで液晶やガラスの割れ、歪みを抑える工夫を盛り込みました。

 ただ、従来のSOLID SHIELD構造でも中にステンレス板があったんですけども、今回は従来と違ってケースと中の板は別の部品です。当初は大きな負荷を加えると、部品の端が外れてしまい、そうするととたんにケースのみの剛性しかなくなって、弱くなることが解析でわかりました。そのため、解析を繰り返して四隅を強化するなどして負荷を軽減していく、といったことを従来以上に細かく対策しています。

左が金属筐体のarrows NX F-01K。右が樹脂筐体のarrows Be F-04K

――2.5Dガラスに変わったことで落下時に破損する可能性が高まるようにも思います。

徳永氏
 画面割れ対策としては、従来はガラスに対して4方向の額縁部分を少し高くして、落下時に画面が直接地面にぶつからないよう守っていました。しかし今回、2.5Dガラスを採用するにあたっては、周りの縁を立ててしまうとせっかくの2.5Dガラスの丸み感、手触りの良さのメリットが薄れてしまいます。そこで、今回は左右両サイドの部分は額縁をなくして、トップとボトムの縁にのみ高さをつけ、持ちやすさを維持しながらガラスの衝突を防ぐようにしています。

2.5Dガラスを採用。そのメリットを活かすため、わずかに立てた縁は左右両サイドではなくし、上下のみに設けた

――なるほど。その耐久性については、さらに「洗える」という新しい要素も追加しましたが、その理由を教えていただけますか。

徳永氏
 ユーザーのみなさんの、「スマートフォンを洗いたい気持ちはあるけれど、電子機器なので洗えない」ジレンマを解消したい、という思いで進めてきたものです。防水の構成要素となっている部品としては、防水テープ、マイク部分などに使われている防水膜のゴアシート、タッチパネルやガラスを貼り付ける接着剤があり、洗剤に含まれる界面活性剤が水よりもそれらに浸透しやすいという問題がありました。そういった点については、これまで培ってきた防水技術のノウハウと基礎評価を行うことで、ハンドソープのほかにも日常的によく使う洗剤であれば、十分防水性を担保できる裏付けをとりました。

――対応するのはあくまでも泡タイプのハンドソープのみなのでしょうか。

山田氏
 国内メーカー製の泡タイプのハンドソープか、国内メーカー製の液体タイプの食器用洗剤を推奨しています。外国製のものは日本製品より“強そう”なものが多いですし、漂白剤や界面活性剤が強いものはパーツへのダメージが大きくなってしまいます。ただ、特定メーカーの製品に限定することもしたくなかったので、国内製品の中で特にメーカーは限定せずにテストを行いました。

泡タイプのハンドソープでの手洗いに対応した

徳永氏
 今回の検証では、国内製のハンドソープで2年間毎日洗う、という想定で行なった試験で問題ないことを確認しています。

洗い方の解説ページへのリンクとなる「洗い方説明」をプリインストール

石川氏
 ただ、我々が一番気にしているのは安全性。洗った後に充電器をつないで感電したり、火事になったりしないかという点です。洗った後はハンドソープの泡や汚れをしっかり落としてほしい、というような内容をお客様にどう伝えるかが難しいんですね。今回はそのための解説ページと動画を用意しました。プリインストールしているアイコンから直接アクセスできるようになっています。

山田氏
 アンケートでは、7~8割の方がスマートフォンを洗いたい気持ちを持っていることがわかっています。そのうち1~2割が汚れていなくても洗いたいと回答しており、日本人はきれい好きなんだなと改めて感心しました。一方で、スマートフォンは実際のところ便座並みに汚れていると言われているのに、時には小さいお子さんにスマートフォンを使わせて、その子供が口に入れていたりするのも目にします。スマートフォンは洗わないと汚い、と気付いていない方に対して、洗った方がいいよ、ということを今後もアピールしていきたいですね。

“一眼レフ技術”で進化したアウトカメラ。インカメラで心拍数を計測する独自技術も

arrows Be F-04Kのアウトカメラ

――カメラ機能は“一眼カメラ”を意識したPRをされています。カメラは今回大きく変わったポイントとのことですが、具体的にどういった点が進化しているのでしょうか。

吉村氏
 まずセンサーを変えています。これまではピント合わせに「コントラストAF」を使っていたんですが、今回は「デュアルピクセルPDAF」に対応した新しいセンサーを採用しているのが特徴となります。これは一部の一眼カメラで使われている技術でして、これにより従来機種よりもオートフォーカスが高速化しています。さらにこれまでのフラッグシップ端末で使っていた処理技術も改良して画質を向上させました。

カメラ機能の開発を担当した富士通コネクテッドテクノロジーズ 開発本部 吉村 潤氏

――他メーカーのスマートフォンではインカメラ強化もトレンドの1つとなっています。そのあたりは検討されなかったのでしょうか。

吉村氏
 コストの問題はありますが、今後について言えば、インカメラにはより広角なレンズを採用していく方向にあると思います。今のところは、シャッター時にカメラに視線誘導するような工夫を従来から継承しつつ、使いやすさというところでこだわっています。美肌補正の機能もarrows Beとしては初めて実装していますね。

――動画撮影では「Live Auto Zoom」というものが搭載されました。これはどういった機能になりますか。

吉村氏
 動画撮影中に被写体をタップするだけで、その被写体を追いかけるようにズームしていく技術になります。この季節だと、運動会のように遠くで動いている被写体を追いかけるときに使えると思います。

「Live Auto Zoom」機能を使うと動画撮影時に自動でズームし、追跡してくれる

山田氏
 通常、動画撮影時にズームするとき、たいていは画面の真ん中部分の拡大になりますけど、指での操作だとズームがぎこちなくなって失敗することもありますよね。Live Auto Zoomだと、追いたい被写体が画面の端にいても、そこが中心になるようにズームできるので、お遊戯会で子供が端の方にいる、みたいなときにも便利です。

 撮影後は別のアプリで動画編集しなくても、そのままで編集したような見栄えなので、すぐにSNSなどにアップロードできるというメリットもあります。この機能は他の機種にも展開していきたいですね。今やスマートフォンでは静止画撮影が当たり前のように使われていますし、InstagramのようなSNSの流行もあって動画を撮る機会も増えていますので。

――冒頭でお話のあったもう1つの新しい機能「ララしあコネクト」について教えてください。

健康アプリをはじめとするソフトウェア開発を担当した富士通コネクテッドテクノロジーズ 開発本部 伊藤隆裕氏

伊藤氏
 我々の最終的なゴールに、「スマホを持っているだけで健康になれる」というのがあります。まずはその第1弾として、健康系の機能を1箇所に集めたのがこの「ララしあコネクト」となります。歩数、歩速、睡眠、心の健康度、心拍数といった内容を測定できます。

 このなかでも特にこだわったのが、より健康になるためのアドバイスです。ただ「こうしろ」とアドバイスされても行動に移すのが難しいと思いますので、いかにやる気を継続させながら次につなげていくか、いかに自然にアドバイスするか、というのにこだわっています。川崎の富士通工場近くに「富士通クリニック」という診療所がありまして、そこの保健師さんにもご協力いただきました。

プロジェクトマネージャーを務めた富士通コネクテッドテクノロジーズ 事業本部 石川雅士氏

石川氏
 ちなみに、歩数、歩速はスマートフォンの加速度センサーを利用して測定する一般的なものですが、心拍数についてはインカメラのみでユーザーの顔のわずかな血流の変化を分析して測定する仕組みになっています。富士通研究所で基礎的な技術を確立して、その技術を取り込みました。他の手法と比較しても精度的に遜色がないことを確認している、今回のウリの1つでもあります。

「ララしあコネクト」アプリの画面
心拍数の測定はインカメラに顔を映して行なう

――スマートフォンでの心拍計測は専用のセンサーやカメラレンズに指を押し当てる、という方法が多いので、珍しい方法ですね。ところで、心の健康度というのはどう診断するのでしょう。

伊藤氏
 「ララしあコネクト」のアプリからマイクに向かって吹き込んだセリフから推測するだけでなく、VoIP以外の音声通話の声質などを分析して診断します。電話で一度通話するごとに自分の元気度を示す「元気圧」がわかりますし、もっと言うと、誰と話すと元気になるかもわかるので面白いんじゃないかなと。

心の健康度をマイクに吹き込んで計測。電話での声質を元に計測することもできる

災害時や高齢者にも最適なワンセグ機能、画面拡大機能

――最近では大阪北部地震があり、その後西日本の豪雨で大きな被害に見舞われるなど、避難を伴う災害が続いています。こうしたなかで、緊急時の情報収集手段として改めてワンセグの有用性が見直されているのではないでしょうか。アンテナ内蔵のF-04Kだと、ワンセグをすぐに受信できるのが大きなメリットなのかなと思います。

山田氏
 arrows Beは「安心」を大切なキーワードの1つとしていますので、より広く安心を届けるということにこだわってワンセグアンテナを内蔵しています。テレビ機能のあるスマートフォンを持っていても、アンテナを内蔵しておらず、必要なときにすぐ見られないのでは意味がありません。アンテナ付イヤホンケーブルを持ち歩くことは少ないですから。

 災害時はインターネットもありますが、年齢層の高い地域だとインターネットよりもテレビやラジオに頼りたい方が多いようで、そういった方々に対して情報が届きにくいという報道もあります。普段からワンセグを見るユーザーは少ないかもしれないですが、アンテナ内蔵のarrows Beだと、災害時の安心感という意味でもメリットは大きいのかなと思います。

内蔵ワンセグアンテナ

――高齢者向けという面では、「Exlider」や文字見やすくするいくつかの機能を用意しているのも特徴ですね。これはユーザーニーズとしても高いのでしょうか。

山田氏
 そうですね。50~60代の方は、若い頃からインターネットがあるのでスマートフォンの使い方に困ったり、リテラシーが低い方は少ないと思います。その一方で、加齢で小さな文字が見えにくいという方は一定数存在していると思っています。そういった意味でも、通常のモデルで「見やすさ」に取り組むのは大事なことだと考えています。

電源ボタン兼指紋センサーのExlider。指でなぞったりタッチすることで画面の拡大縮小、スクロールなども可能

――今回は具体的にどんな形で“見やすさ”を実現していますか。

山田氏
 まずExliderでは、ボタンをなぞるだけで、アプリなど通常拡大できないような画面も拡大できます。見やすさ関連でほかに継続して採用している機能としては、表示や文字サイズなどをワンタッチで大きくする「はっきり文字」があります。それとは別に、新たに「くっきり表示」機能も追加しています。

 これをオンにするとナビゲーションバーにボタンが表示されて、ボタンに触れている間だけ画面が大きく引き延ばされ、同時に独自の技術による高解像化と明るさ調整がされます。地図の細かい道路が見にくいとき、もしくは小さくて見にくいというよりコントラストが弱くて見にくいときなんかに使えるかと思います。

 見やすさとは違いますが、操作性にかかわるところとして、Exliderに「触れて操作」というモードを追加しました。右利きだけれど、画面を見ながらメモするのにスマートフォンを左手で操作する、みたいな場面があると思います。そんなとき、Exliderのボタンをなぞるのではなく、下半分に触れたら縮小や下スクロール、上半分に触れたら拡大や上スクロールと、簡易的に操作できる仕組みです。

「くっきり表示」では画面が拡大するとともに、コントラストや明るさも見やすく調整される

価格と機能のバランスを吟味、“洗える”幅の拡大も

――多数の機能が詰め込まれた感のある今回のarrows Be F-04Kですが、最後に改めて、みなさんが力を入れた注目してほしいところを教えていただけますか。

石川氏
 値段と機能のバランスを吟味して作った端末です。例えば開発の観点から言うと、デザイン性と堅牢性との両立というところで、2.5Dガラスは開発初期からかなり気を使ってリスク管理しています。コンクリート落下試験できちんと耐えられるかも最後まで確認していました。カメラ周りの機能についても、自信をもっておすすめできるものに仕上がったと思います。

吉村氏
 カメラについては簡単にきれいに撮れること、暗いところでのフォーカスの速さにこだわりました。Live Auto Zoomのような新しい動画撮影機能もありますし、これからも新しい機能を追加していきたいですね。

徳永氏
 機構設計の担当としては、arrows NXの金属筐体から樹脂筐体にして低コストにしながらも、堅牢性とarrows Beらしい手軽さを維持しているところに注目していただければと。今後も画面割れしない頑丈さや洗えるというところは、arrowsのこだわりとして進化させていきたいですね。

伊藤氏
 ララしあコネクトのこだわりのアドバイスで、自然と継続するモチベーションが沸いてくるはずです。ユーザーのみなさまにはぜひ楽しく健康になっていただければ。

――本日はありがとうございました。