インタビュー
進化するシニア向けスマホの課題と将来像
KDDIのシニア向け講座の講師と京セラ製「BASIO3」の開発者が対談
2018年6月25日 12:00
KDDIでは、社会貢献活動の一環として、スマートフォンやタブレットの安全な使い方の講座を全国各地で、年間を通じて開催している。講座は、自治体などが主催する形で一般の参加者を募り、その会場にKDDIのスタッフが訪問して行なう出張講座となっている。
子供や学生、シニア向けの講座を用意しており、そのうち「スマホ・ケータイ安全教室」の「シニア向け講座」は、2017年度実績で年間250回実施。講座には一度で最大20名まで参加できるが、引き合いが多いこともあり、現在は原則として1会場につき年1回限りの開催となっている。
このシニア向け講座で使用されているのが、2018年1月に発売された京セラ製のAndroidスマートフォン「BASIO3(ベイシオ スリー)」。見やすい大きめのボタンを表示するホーム画面、端末下部に備える電話・メール・ホームの物理キー、スライドカバーを開いて起動できるカメラなど、スマートフォンに慣れていない年輩ユーザーでもスムーズに使えるようにするさまざまな工夫が盛り込まれた端末だ。
今回、BASIO3を用いてシニア向け講座を開催した山形県の山辺町(やまのべまち)の大寺公民館を訪問。そこで講師を務めたKDDI東北総支社の大黒晃氏と、BASIO3のマーケティングを担当する京セラ 通信機器事業本部 通信事業戦略部 マーケティング部の原田正夫氏に、シニア向けスマートフォンとしてのBASIO3の狙いや特徴について話を伺った。
新しいことを覚えなくても“いい体験”ができるように
――大黒さんは仙台を拠点に東北6県にまたがって、シニア向け講座の講師として活動されています。このシニア向け講座は主にどういったユーザーを対象にしているのか、改めて教えてください。
大黒氏
おおよそ60~70代のシニアの方で、スマートフォンをまだ持っていない方が多いですが、最近ではスマートフォンをすでに持っている方の参加も増えています。買ってはみたけれど電話とメールにしか使っていないのがもったいない、もっと活用したい、という方ですね。
どちらかというと男性より女性の方が「自ら進んでやりたい」「新しいものを買って使いたい」という意欲が高いようで、今回も女性の参加者が多くいらっしゃいました。半分くらいの方がもうスマートフォンを持っているとのことでしたが、それも女性の割合が高かったですね。音声入力で検索などもしてもらっても、やはり女性の方はすぐ慣れていました。少し驚きましたね。
――講師の立場から見て、端末そのものや講座の進めやすさという点で、BASIO3はいかがですか。
大黒氏
以前の講座では初代「BASIO」を使っていました。BASIO3は、それから比べると操作性がかなり良くなっています。画面はクリアだし、アイコンが大きく見やすい。みなさんに使い方を説明するとき、スマートフォンの画面をビデオカメラで撮ってプロジェクターでスクリーンに映し出しますが、そういうときにも都合が良い。
シニア向けに開発されているということで、電話、ホーム、メールの物理キーがあるのはわかりやすいですし、背面のカバーをスライドさせることでカメラ撮影できるのも、いかにも撮るぞという感じです。
――講座では、参加者のみなさんに対して、スマートフォンに変えることで月々の支払いが増えるかも、という点も正直に話していました。
大黒氏
そうですね。しかし、そこで月々の支払いが増えたとしても、今回講座で紹介したような使い方やアプリで楽しんだりして、価値を感じてもらうことができれば、と考えています。
――京セラとしては「BASIO3」がシリーズ2代目となりますね。シニアに向けた機能として前回から変えた部分、工夫した部分はありますか?
原田氏
前提として、年輩の方の視力や聴力の衰えに配慮した、見やすい・聞きやすい端末であること。このあたりは以前のBASIOでも頑張ってきた部分ですが、シニアの方がより使いこなせるように、BASIO3では、BASIO3でできることを紹介する動画をプリインストールしています。
スマートフォンを買ったけれど、何をやったらいいのかわからない、という人が増えています。フィーチャーフォンからスマートフォンに変えて月々の料金が上がったのに、結局やっていることは電話とメールです、という方も少なくない。それに対して、「スマホってこんなに便利なんだよ」ということがわかるような動画を、BASIO3にはプリインストールしました。スマートフォンでやりたいことがまだ見つかっていないけれど、スマートフォンを持ちたい人、初めてスマートフォンを使おうとする人を応援する動画でもあります。
――動画の、テレビショッピング風の演出は編集部でも話題になりました。
原田氏
基本的な操作や設定の方法は、紙でじっくり読みたい人が多いことが事前のインタビュー調査でわかっていました。でも、スマートフォンでやりたいことを見つける、自分の気持ちを盛り上げる、といったときに、動画は効果的です。年輩の方にとって親しみのある、テレビショッピングのようなテイストで機能を紹介したらどうだろう、と考えたんです。
メーカーである私たちとしても、せっかくスマートフォンに変えたのに、今までのフィーチャーフォンと同じ使い方しかしていなくて、もう一度フィーチャーフォンに戻りたい、と話される方には本当に申し訳ないと思います。BASIO3では、新しいことを覚えなくても、たくさんの機能が使えて、いい体験ができるように、という思いで作りました。
――そのあたりの機能面での工夫やこだわりを教えてください。
原田氏
今回の講座参加者の中に、前モデルのBASIO2を使っている方がいましたが、ステータスバーの通知が大量に溜まったままになっていました。クリアの仕方どころか、通知エリアをフリックで引き下げる操作を知らない方が、シニア層には多くいるんですね。
それをもう少しやりやすくするために、「通知を見る」というアプリをプリインストールしています。これをタッチするだけで通知エリアが下がってくるというものです。そういった細かな機能に“気付く”きっかけとなる要素をBASIO3ではいくつか用意しています。
あと、ユーザー本人が意識しない間にタッチパネルに触れて設定絡みのボタンを押してしまい、機内モードに変わってしまったり、Wi-Fiをオフにしてしまって、ネットに接続できないというトラブルもあります。そこで、何か動作がおかしいなと思ったときに自分で診断して修復できる「スマホの健康診断」というアプリを用意しました。
――カードにスマートフォンをかざして起動するユニークなアプリですね。
原田氏
そうなんです。同梱の「かざして診断カード」にBASIO3をかざすことでアプリを起動できるようになっています。年輩の方の中には、プリインストールであっても、知らないアプリを起動するとお金を取られそう、だからアプリを起動しない、という人が多いんです。つまり、せっかくたくさんアプリをプリインストールしていても結局使ってもらえないことがあるということ。だから、アナログ的な安心感という意味で、カードにかざしてアプリ起動する導線を用意しました。お守りみたいなものですね(笑)。
――アプリ名や機能名は、標準とは違う言葉で言い換えているところも見受けられます。
原田氏
例えば「ブラウザ」といっても年輩の方にはなかなか伝わりません。そういった名称も「インターネット」とすることで、分かりやすくしています。その「インターネット」アプリも、独自にカスタマイズして「ホーム」というボタンをつけました。初期画面に戻りたいと言う方が多くいらっしゃって、あらかじめ登録しているホームページや初期画面に一発で戻れるようにしたものなんですが、これくらいわかりやすくしないといけない。
――プリインストールでさえそういう状況だとすると、新しいアプリのダウンロードまでたどり着くのは1つの壁ですね。
大黒氏
そういう意味では、今回の講座のなかでもみなさんに試していただいた「Touch the Numbers for Android」のような脳トレゲームは、すごく食いつきがいいんですよね。ゲームを楽しみながらタップ操作を練習するのは、スマートフォンを持っていてもやっていない方が多いみたいなんです。今回は休憩時間もプレーしている方がいらっしゃいました。
原田氏
さっそく自分のスマートフォンにダウンロードしたいという人もいました。我々の調査では、特に女性のシニアの方で料理レシピを動画で見る方は顕著に増えてきていますし、スマートフォンで“楽しめる”というのは大事ですよね。
――今回のシニア向け講座で、今後の端末の企画のヒントとなりそうな新しい発見などはありましたか。
原田氏
YouTubeで全画面表示に手間取ってしまう方もいらっしゃいました。そのためのアイコンが画面に表示されていても認識できていなかったりして、ユーザーがすぐに気付けないものはいっぱいあるんだなと感じましたね。音声入力でインターネット検索をしていたときも、その後にどうしたらいいかわからない、という戸惑いがあるようで、やるべきことを迷わずに進められるUIをもっと突き詰める必要があると気付きました。
それと、BASIO3ではカメラカバーを開けるだけでカメラアプリが起動するようになっているんですけど、ユーザーにアンケートを取ると、その手順を知らないという方が非常に多い。カメラアプリを起動してから、その後にカバーを開ける、というように、反対に手数が増えてしまっているんです。そこはもう少し案内の仕方を改善していかないと、と考えています。
――大黒さんの視点で、こういったスマートフォンの使い方講座は今後どうなっていくと思いますか?
大黒氏
あくまでも個人的な予測としては、はじめてのシニア向けのスマートフォン教室のようなものは、あと5年から10年もすれば需要が減っていくと思っています。今のところはフィーチャーフォンからスマートフォンに移行する人が多いですけど、現在50代前後の方は、すでに普通にスマートフォンを使っているわけですから。
その代わり、LINE、Instagramのようなアプリの世界をどう楽しむか、というところに変わっていくのかもしれないですし、スマートフォンを安全に、正しく使うための教育も重要性が増してくるかもしれません。まさしく、今我々がやっている「スマホ・ケータイ安全教室」の「青少年向け講座」の内容にもなっているような、事件やトラブルに遭わないための講座が、年齢を問わず必要になってくるのかなと考えています。
――ありがとうございました。今後にも期待しています。
世界に先駆けて高齢化が進んでいる日本では、今後も、変化していくシニアユーザーのニーズをいち早くサービスや端末開発に活かしていく必要がある。今回の取材で分かったKDDIと京セラの取り組みは、直接シニアユーザーに向き合う機会をしっかりと活用しており、実際の使い方や課題を改善していく上で重要なアプローチだと感じられた。
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