インタビュー

「AQUOS sense plus」開発者インタビュー、“SIMフリー専用”の意図や強みを聞く

 シャープから5月8日に発表された「AQUOS sense plus」は、AQUOSとして初めてのSIMフリー専用モデル。シャープからは「AQUOS sense plus SH-M07」として6月22日に発売されるほか、一部MVNOでの取り扱いも始まっている。

 SIMフリー市場を中心に投入された「AQUOS sense lite」などのヒットを受けて、“あとちょっとの余裕”をプラスしたというのが「AQUOS sense plus」だ。AQUOS senseシリーズのラインナップを拡充するモデルになり、ミドルクラスに位置づけられる。

 端末の詳細は発表時のニュース記事も参照していただきたい。

 本誌では、発売に先駆けてシャープの担当者に話を窺う機会を得た。シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 担当部長の林孝之氏、同主任の坂口昭夫氏の2名にお答えいただいた。

シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 担当部長の林孝之氏(左)、同主任の坂口昭夫氏(右)

SIMフリー向けにもキッチリとしたものを

――「AQUOS sense plus」の企画の経緯やコンセプトを教えてください。

林氏
 「AQUOS sense plus」はシャープとして初めてのSIMフリー専用モデルとして発表しました。環境の変化が激しく起こっていると考えており、SIMフリー向けにもキッチリとしたモノづくりをしたい、という思いが始まりです。

 SIMフリー端末のユーザーは、MNOのユーザーと比較しても、目が厳しく、買い方も違います。店頭で店員に勧められてという形より、自らが選ぶことが多い。価格に非常にシビアで、形状や性能に対しても同様です。シャープにできることは、国内メーカーとして、国内ユーザーのニーズをしっかりと掴んでいくことで、そういうモノづくりを目指しました。

 昨年(2017年)はSIMフリー市場で「AQUOS sense lite」を発売しましたが、これはエントリーモデルとして投入しました。今回はそれより上位の、アッパーミドルで商品作りをしたいというものです。AQUOS senseシリーズはliteとplusの2つのラインナップになり、ラインナップを継続していく上では、ニーズを聞いたり探ったりしながら作っていきたいですね。

――AQUOS sense liteの置き換えではなく、併売ですか?

林氏
 そうです。

――AQUOS sense liteから強化・変更されているポイントはどこでしょうか?

坂口氏
 大きく分けると、IGZO液晶ディスプレイ、通信速度やレスポンス、定番機能の3つです。

 IGZO液晶ディスプレイは18:9の5.5インチで、(指紋センサーをナビゲーションキーとして使える機能があるため)ナビバーを非表示にした状態では、表示面積が23%も拡大しています。「リッチカラーテクノロジーモバイル」で色鮮やかな表現も実現しています。

 チップセットは「SDM630」(Snapdragon 630)でレンスポンスが向上していますし、Wi-Fiは5GHz帯(11ac)をサポートしました。256QAM、キャリアアグリゲーションにも対応して通信速度も向上しています。

 定番機能では防水・防塵、おサイフケータイをサポートしていますし、カメラは高速なハイスピードオートフォーカスで“日常の中でサッと撮れる”ことを意識しました。

あとちょっとの余裕をプラスしたという仕様

――スペックの強化でコストも上がりそうですが……。

林氏
 具体的な価格はお伝えできませんが、SIMフリー端末はコストが価格に直で反映されます。「AQUOS R2」はSnapdragonの800シリーズ、「AQUOS sense lite」は400シリーズで、この「AQUOS sense plus」は600シリーズです。

 OSバージョンアップは2年間サポートしますし、安心して使ってもらえるようにしました。スペックを強化したのは、2年間きちっと使ってもらえるようにという部分もあります。価格に敏感なユーザーにも受け入れられてもらえればと思います。

――SIMフリー端末については、大手キャリアでの契約ように“2年間”にこだわる必要もないように思いますが。

林氏
 一般的には、壊れるまで使いたいという思いがあると思います。それぐらい価格に敏感だと思いますし、そうしたユーザーに対して、安心感やサポートできる体制を整えていることが重要だと思います。

――AQUOS sense liteと並んでラインナップされるということで、AQUOS senseシリーズの定着を図っていくという意図もあるのでしょうか?

林氏
 そうです。AQUOS senseシリーズは、必要なものを絞り込んでモノづくりをしようというものです。ニーズはチーム内でしっかり議論していますし、周りに流されないモノづくりをこのシリーズではしていきたいですね。

――DSDS(デュアルSIM・デュアルスタンバイ)なども、あえて省いた形でしょうか?

林氏
 AQUOS senseシリーズでは、ユーザーに説明しないと分かってもらえない機能は、できるだけ積まないようにしています。

デザイン、アクセサリー展開

――外観のデザインは高級感も増したようです。意識していることは?

林氏
 AQUOS senseシリーズに対して同じ価値観をもってい頂きたいというものです。形状は、持ったときの、持ち心地のよさや指掛かりが良いような形状にしています。

 使い勝手についても同じ価値観になるように、例えば指紋センサーはあえて背面には搭載せず正面に搭載しています。テーブルの上に置いた時や車載のホルダーに装着している時も、正面なら操作しやすいですよね。こうした方針は思想として受け継いでいきたいです。

坂口氏
 指紋センサーは正面に搭載しようとすると、ベゼルの幅が大きくなってしまうのですが、内部構造やパーツの取り付け方を見直して、幅が大きくならないようにするのは苦労した点です。

――指紋センサーの位置は、同時に発表されたハイエンドモデルの「AQUOS R2」と同じですが、構造も同じなのでしょうか?

林氏
 指紋センサー周辺についてですが、「AQUOS R2」と構造的には同じですね

――「AQUOS R」シリーズは放熱に注力していますが、「AQUOS sense plus」でも端末の設計思想は同じですか?

林氏
 端末の設計思想は同じです。温度が上がりパフォーマンスが落ちるのは良くないですし、放熱性能はシャープ全体として取り組んでいることです。ただ、どこまで追い込むかとか、発生する熱量の差もあります。Rシリーズではそれらが顕著に分かるということです。

――MNOは補償サービスもセットで販売していますが、SIMフリー市場では追加コストにもシビアだと思います。端末の堅牢性については?

林氏
 設計思想自体は、AQUOS senseシリーズとして変わっていません。ただ、「AQUOS sense lite」では画面の周囲を立てていましたが、「AQUOS sense plus」では2.5Dのガラスを使っています。ラインナップの中では「AQUOS sense lite」より上位にあたるので、デザイン性を重視した形です。

――最近はアクセサリーの展開やラインナップも充実しているようですね。

坂口氏
 坂本ラヂヲのブランド「GRAMAS」とコラボしたケースも展開します。AQUOSで対応している“フロステッドカバー”に対応しています。ほかにも「DESIGN FOR AQUOS」として数社から対応ケースが発売されます。

林氏
 アクセサリーのラインナップも、ほかのモデルと同じように取り組んでいきます。今はケースを使われる人も多いですし、サードパーティの協力を得ながら継続していきます。

5月8日の発表会で展示されていた、「GRAMAS」とコラボしたケース

強み、カメラ、エモパー

――市場ではライバルも多いですが、強みはどこにあるのでしょうか?

坂口氏
 おサイフケータイに対応している点がひとつ、あとは、ほかのメーカーにもありますが、防水・防塵に対応している点です。スムーズな操作やIGZO液晶ディスプレイの電池持ちなどはアピールできる点だと思います。

林氏
 IGZO液晶ディスプレイは縦横比が18:9で、新規に開発したものです。表示デバイスであると同時に、操作デバイスでもあり、ものすごくこだわりを持っています。カラーフィルターを改善して色再現性を向上したり、タッチパネルなどのパフォーマンスを上げたりしていますし、IGZO液晶は省電力性能にもかなり寄与しています。

18:9でフルHD+のIGZO液晶ディスプレイ。新規に開発されたという

――ライバルとなるモデルはメインカメラを2つ搭載するモデルが増えてきています。

林氏
 今回はあえて、1つにしました。「AQUOS R2」はツインカメラですが、「AQUOS sense plus」では、ギミックなしでキッチリと簡単に撮れるよう、オートフォーカスのチューニングも行っています。多くのモデルで2つのカメラを搭載するようになっているのはもちろん認識していますが、シングルカメラで広角レンズを搭載して、撮りやすさを重視しました。

林氏

――機能を厳選して搭載していますが、エモパーはその中に入っていますね。

林氏
 エモパーは「エモパー 8.0」になって搭載されます。シャープとしての、統一された使い勝手が強みのひとつですし、ほかのモデルと同じ世界観を提供したいという思いからです。

――senseシリーズならではの機能も欲しい気がします。

林氏
 今は価格がひとつのドライバー(人気の原動力)ですが、社内では「価格はひとつのスペック」(に過ぎない)と言っています。ここからもう少し踏み込んで、楽しいことができるといいですね。

――IoTや家電連携などでは、キャリア向けモデルではできない、自由な取り組みもできそうですが。

林氏
 シャープでも、ロボホン、テレビのAQUOS、ヘルシオなど、AIoT化している製品が増えています。家電の商品サイクルは長いので取り組みの難易度は高いですが、少しずつ取り組んでいきたいですね。

――最後に、読者にメッセージなどがあればお願いします。

坂口氏
 AQUOS sense plusは、普段の利用シーンで使いやすさを感じてもらえるよう、端末を開発しました。安心感と、ちょっとの余裕を感じてもらえると思います。妥協ではなく、賢い選択ができたと、良さを実感してもらえたら嬉しいですね。

――本日はありがとうございました。