【ワイヤレスジャパン2012】
KDDI田中社長が語る「3M戦略」のインサイドストーリー


KDDIの田中社長

 東京ビッグサイトで開催されている無線通信機器の総合展示会「ワイヤレスジャパン2012」の基調講演セッション「アジアワイヤレスサミット2012」で、KDDIの田中孝司社長は、「3M戦略が目指す世界」と題した講演を行ない、同社の3M戦略がどのようなコンセプトで進められているかを解説した。

 KDDIが進める3M戦略とは、「マルチ・ユース」と「マルチ・ネットワーク」、「マルチ・デバイス」の3つを推し進めること。この3M戦略の第1弾として、今年1月には「スマートパスポート構想」が発表され、推進されている。

国内では3M戦略を進める3M戦略の概要
スマートパスポート構想について
スマートパスポート構想 STEP1の3つの施策

 このスマートパスポート構想とは、「『オープンで、制約のない世界』へのパスポート」というもの。田中社長は、「そのSTEP 1として、『auスマートバリュー』、『auスマートパス』、『au ID』の3つを使い、スマートパスポート構想にドライブをかけていきたい」と語る。

 まず提携FTTHとauのスマートフォンを同時に契約すると、auの1回線あたり月額1480円が値引きされる「auスマートバリュー」については、全国のFTTH事業者47社と提携し、「真の意味でのFMCのサービスを提供しようというのがコンセプト」と紹介する。

 このauスマートバリューのプロモーションでは、家族4人で加入すると1480円が4人分で5920円が値引きされ、固定BB回線がほぼただになる、といったようなアピールをしていることを紹介。田中社長は「こういった新しいことを開始するとき、どのようにアピールすれば良いか悩むが、結果としてこのアピールの仕方がユーザーに届いていると思っている」と語る。

国内47社のFTTH/CATV事業者と提携合計5920円OFFというアピール
auスマートパスについて
auスマートバリューとauスマートパスの初期動向

 続いてauのスマートフォン向けのコンテンツやサービスなどが1つのパッケージとなっている「auスマートパス」についても紹介。田中社長は「私自身が社長になってから、ただのパイプではなく、スマートパイプ、付加価値のあるオペレーターになりたい、と考えていた。auスマートパスはその一つの成果。合計390円ということで、非常に伸びている。スマートフォンでは、キャリアの出るところが少なくなるが、スマートパスというパッケージに入ってもらうことで、前に進めるかな、と思う」とアピールする。

 「auスマートパス」の動向としては、5月頭に100万契約を突破しており、田中社長はプロモーションに使っているフレーズを引用しつつ、「えらべる自由、たのしむ自由が実現できたかな、と思う」と語った。

3M戦略STEP 2のビデオパスとうたパス

 5月15日に発表された「ビデオパス」と「うたパス」については、スマートパスポート構想の次の「STEP 2」として紹介する。このステップでは、スマートフォンだけでなく、タブレット端末やパソコン、さらにテレビにも拡張し、Facebookとの連携も可能になっている。とくに「うたパス」については、「ぼくらの時代は、彼女に聴いて欲しい音楽をカセットに入れて渡していたが、いまはネットを通じて行える。ソーシャルフォローが可能になっているのがポイント」と語り、Facebook連携が重要だという考えを示した。

ビデオパスについてうたパスについて

 こうした3M戦略にあわせて、auはブランドロゴも変更している。田中社長は「あたらしい自由へ、というコンセプトで先に進めていきたい」と語る。

2000年以前の環境

 続いて田中社長は、「なぜ我々がこのように3M戦略をとっているのか、そのインサイドストーリーについてお話ししたい」とし、3M戦略を進める理由について話を展開する。

 まず田中社長は、過去からの情報環境の変化について説明する。2000年以前は、会社に行けばパソコンでメールや文章作成を行ない、たまにインターネットにアクセスしていた。外出先ではケータイで通話をしていた。そして家ではテレビがエンターテイメントや情報収集の中心だった。

2000年代の環境

 続いて2000年代はどうなったかというと、田中社長は「ケータイの力がどんどん強くなり、家の中でもケータイを使うようになった。さらにケータイにメールやWeb、ワンセグなどの機能が搭載され、会社のパソコンでやっていたこと、家のテレビでやっていたことの一部がケータイに取り込まれてきた。簡単に言うと、2000年代は携帯電話がケータイとなり、いろいろな機能が乗っていった、ケータイコンバージェンスの時代になる」と説明する。

 さらに2000年代にはネットワーク側も大きく変わっていて、田中社長はこちらについても、「ケータイのネットワークは、かつては電話を交換する交換網だったけど、この時代の3Gはアクセスネットワーク、インターネットにつなげるためのネットワークになった」と説明した。

 そしてスマートフォンの登場とともに、この変化がさらに加速していったとも語る。田中社長はこの変化として、画面が大きくなり、UIがインターネットに向いたタッチスクリーンとなり、ブラウザもフルブラウザが標準となり、そしてデータ通信量が「とんでもなく多くなった」といったことを挙げる。

2000年代はケータイへの機能集約が進んだスマートフォンで変化が加速
スマートフォンの限界を指摘する

 しかし一方で田中社長は、「3M戦略のスタートとしては、スマホだって限界があるのでは、という疑問からスタートしている」とも語る。

 スマートフォンの限界としてまず挙げるのが、「PCになりきれないスマホ」ということ。会社のパソコンで使っているようなアプリをスマートフォンに載せるのには限界があり、生産性を上げるためにはパソコンが必要になる、と指摘する。

 続いて「TVになりきれいないスマホ」とも指摘する。テレビなどの映像コンテンツがスマートフォンでも見られるようになったが、「きれいな画質で大きな画面、迫力のある音声で映像を見たい、ということがある。あとはソーシャル時代ではあるけど、家族で楽しみたい、という思いもある。そうなると、限界がくるのではないか」と分析する。

PCになりきれないスマホTVになりきれないスマホ
モバイルネットワークの限界

 さらにネットワークの限界についても指摘する。KDDIではこの1年でデータトラフィックが3倍になったことを紹介しつつ、「予測だが、2015年までには25倍になるのでは、と足下の傾向からそのように思っている。モバイルネットワークだけでは求められるデータ転送量を支えきれないということになるのでは」との予測を明らかにする。

3M戦略について

 こうしたことを踏まえて田中社長は、「KDDIのモメンタムを変え、次の時代を見据えた戦略を進めないといけない。これが3M戦略。スマートフォンがオールマイティではなく、TPOに応じて使い分ける。技術の限界が近づいてきているのも事実。マルチにして、やりたいことが簡単にできる、そんなことを戦略の基本に考えた」と3M戦略に至った経緯を説明する。

マルチ・デバイスの4つの施策

 具体的な3M戦略としては、まず「マルチ・デバイス」については、4つの施策を紹介する。施策の1つめは、スマートフォンの品揃えの強化。auではAndroidに加え、Windows PhoneやiPhoneも販売し、スマートフォンの品揃えを強化している。2つめは、デバイスの品揃えの強化。auではスマートフォンだけでなく、タブレット端末やパソコン、テレビにも広げていく。3つめはUIの強化。INFOBARに搭載されている独自UIや発表会などで先行公開しているSTB向けのUIなどを開発している。4つめは価格。分割払いや毎月割、auポイントプログラムなどで、端末を購入しやすい環境を整えている。

マルチ・ネットワークの4つの施策

 3M戦略の2つめ、「マルチ・ネットワーク」についても、4つの施策を紹介する。1つめはネットワークの整備。田中社長は、「3Gは100%近いが、Wi-Fiも積極的に利用し、これからスタートするLTEも、年度末には96%のエリアカバーを目指す。これは基本」とし、ネットワーク整備を重視していることをアピール。2つめは3Gと固定(Wi-Fi)のシームレス化。ハンドオフのスムーズ化や電池消費の半減などの研究開発をしている。3つめはデータのオフロード。スマートバリューの契約者向けにWi-Fiアクセスポイントの「HOME SPOT」を無料レンタルしている。4つめは価格で、auスマートバリューを提供している。

マルチ・ユースの4つの施策

 3M戦略の3つめ、「マルチ・ユース」についても、やはり4つの施策を紹介する。1つめはau IDの活用。au IDだけで、さまざまなサービスにシングルサインオンできるようになっている。2つめは多様な決済手段。携帯電話料金との合算請求だけでなく、じぶん銀行やEdy、WebMoneyなどに対応している。3つめはソーシャル機能。FacebookのOpen Graphとの連携なども進めている。そして4つめは値段で、auスマートパス、ビデオパス、うたパスともに低廉な価格で提供していると紹介する。

3M戦略の次のステップについて

 最後に田中社長は、この3M戦略が今後どのようになるかについて、「春にSTEP 1、夏にSTEP 2と進めてきたが、秋にはSTEP 3を発表する」と説明する。

 田中社長は次のステップについて、「もう少し、マルチ・ユースがいろいろあってもいいよね、と。もう少し強化したいという思いがある。マルチ・ネットワークについても、LTEを本格的に垂直立ち上げでやりたいと考えている。こちらもいつ開始とかは申し上げられないが、結構がんばろうかと思っている。マルチ・デバイスについては、LTEの開始にあわせ、相当気合いをいれて、種類をそろえ、強化したいと思っている」と説明する。さらにテレビとの連携についても、イメージ映像を紹介しつつ、「Smart TV BOXと紹介しているが、従来のCATVチャンネルだけではなく、インターネットや我々のサービスとつながるものを提案したい」との考えを明らかにした。




(白根 雅彦)

2012/5/30 13:56