【CES 2020】

ユーザーに代わって人の名前を覚えてくれる「MyMe」

 視覚障碍者向けデバイスなどを手がけるOrCam(オーカム)は、CES 2020では新発表の製品を含む同社のラインアップを展示している。

ユーザーに代わって人の顔と名前を覚えて教えてくれるMyMe

OrCam MyMe。かなり凄い機能を持っているが、デバイス自体は果てしなく小さい

 前年のCESでは開発中モデルの展示だった「OrCam MyMe」は、今回は製品版の実機が展示されていた。こちらはほかのOrCamの製品と異なり、障碍者向けではなく、ビジネスなどの用途に利用できるデバイスとなっている。

 MyMeは人物の顔を識別し、いま自分の目の前に居る人物が誰かをユーザーに教えてくれるというデバイスだ。シャツの胸ポケットなどに装着しておくと、常時、目の前に居る人の顔を識別し、それが誰かわかる場合はスマートフォンアプリが通知を出す。

 未登録の人物の場合も含め、人物をどんどんMyMe内の履歴に記録されていくので、連携アプリで履歴にある未登録の人物に名前を付けて登録すれば、次回その人に会ったとき、その名前をスマートフォンアプリが通知してくれるようになる。

専用の連携アプリのユーザー画面。直近に会った人の仕事関連、家族、友人の割合を表示するというユニークな機能を持っている

 MyMeを身につけておけば、ビジネスシーンなどで人に挨拶されたとき、「えっとこの人は誰だっけ……?」と思いながらも相手の名前がわかっているふりをし続けながら会話をする、ということを避けられる。人の顔と名前を覚えるのが苦手な筆者にとっては、救世主となってくれそうなデバイスだ。

 処理は全部自動で行われるので、胸ポケットなどにMyMeを装着しておくだけで、さりげなく使えるのもポイントだ。その人と会った瞬間にスマートフォンの通知を確認しなければいけないが、スマートウォッチやXperia Ear Duoといった、さりげなく通知を確認できるデバイスを併用すれば良いだろう。

アプリ内のカレンダー上でいつ誰と会ったかを確認できる
履歴の「New」が未登録の人なので、そこで登録すれば、次回会ったときに名前が通知されるようになる

 MyMeの画像認識処理はすべてMyMe内で行われ、利用時にスマートフォンとの接続やインターネット接続は必要ない。非常に小さなデバイスだが、そうした小さなデバイスに高度な画像認識技術を実装し、長時間稼働させられるというのが、OrCamの製品の技術的な特徴となっている。ただしMyMeの場合、人物データを管理したり通知したりするためのスマートフォンが必要になる。

 現時点では顔認識だけだが、OrCamには小さなウェアラブルデバイス上で動作できる文字認識技術や音声認識技術もあるので、将来的にはそれらを組み合わせたウェアラブルAIアシスタントのような存在になっていくことを目指すという。

クリップが付属していて、こんな感じでシャツやジャケットのポケットからカメラだけだして装着する

 MyMeは2019年のCES期間前後にクラウドファンディングが行われ、昨年夏ごろに出資者向けに出荷、そして昨年末に一般向け販売を開始している。

 現時点では一般向けの販売はアメリカとイスラエル限定で(OrCamはイスラエルの企業)、日本から購入することはできない。しかし日本市場にも展開していく予定はあるようだ。MyMeの定価は499ドルだが、現在は399ドルで販売されている。

視覚障碍者向け「MyMe 2」はアップデートで「目の前の文章を検索する」機能を追加

OrCam MyEye 2。こちらもかなり小さなデバイスだ

 新製品ではないが、「OrCam MyEye 2」も展示されていた。

 こちらは視覚障碍者向けのウェアラブルデバイスで、メガネのテンプル(左右のつる)にくっつけて着用・使用する。このデバイスには前方にカメラが搭載されていて、ユーザーの顔を向けた先にある物や人物を認識し、その物の名称や人物の名前、文章、各国の貨幣などを音声を読み上げることで、利用者の視覚を補うことができる。

 MyMe同様、画像認識はすべてMyEye 2内で完結し、通信は必要ない。連携機能やファームウェアアップデートのためにスマートフォンやインターネットと接続することもできるが、基本的には完全なスタンドアローンデバイスとして運用できる。操作は音声コマンドや指差しジェスチャー、側面のタッチ操作で行うが、音声コマンドのための音声認識もMyEye 2単体で行っている。

MyEye 2は装着していても非常に目立たないデザインだ。MyMeと違って音声を使うので、ヘッドマウントデバイスとなっている

 MyEye 2は日本でも販売中だ。ただし障碍者向けという性質上、取り扱い方法のトレーニングが必須。価格も50万円程度と、誰でも気軽に買う一般製品ではなく、補聴器などに近い位置づけの製品となっている。

 MyEye 2自体は新製品ではないが、ソフトウェアのアップデートにより最近、「Intaractive reading」という新しいモードが追加された。こちらは、たとえば博物館のチラシを一度の撮影で文字認識し、「Find fee(料金を見つけて)」と音声コマンドを言うと、チラシの中の「fee(料金)」が含まれる部分から読み上げる、という機能だ。新聞のような長文からも一瞬で検索して読み上げるので、ある意味で健常者の視覚よりも高度な処理が可能になっている。

OrCam Read。OrCamの製品では数少ない非ウェアラブルデバイスだ

 文字読み上げだけに特化した「OrCam Read」というデバイスも展開している(MyEye 2から読み上げ機能だけを抜き出したMyReader 2という製品もある)。Readは文字の認識などが困難なディスレクシア(難読症、失読症、識字障害)などに向けた製品で、ペングリップ型のデバイスの先から出るレーザーマーカーを読みたい本やチラシに向けると、1ページまるごとを一気に認識して音声で読み上げる。

 ほかのハンディタイプの読み上げデバイスと違い、文字をなぞり続けるといった操作が不要で、1ページ単位で読み上げられるのが特徴。Readは日本未発売だが、日本語を含む28言語に対応しているという。

聴覚障害向けのソリューションも開発中

OrCam Hear。ただしコチラはモックアップ

 OrCamでは聴覚障碍者向けに「OrCam Hear」というデバイスも開発中だ。こちらはCESにあわせて発表されたもので、CESのBest of Innovation Awardも受賞している。

 こちらは雑踏の中など周囲の音が大きな環境下で、目の前に居る人がしゃべってる音声を強調して再生するというデバイスになる。仕組みとしては、目の前に居る人の唇の動きをリアルタイムで検出し、マイクが拾った音声の中から目の前に居る人の声以外をノイズとして低減させている。アレイマイクのような指向性マイクの技術は利用していない。

Hearのモックアップ(右)とデモに使われたMyMe(左)。どちらもかなりコンパクトなデバイスだ

 現在開発中のデバイスで、デモンストレーションには既存のデバイスであるMyMeが使われていた。デモンストレーションを体験したところ、確かに雑踏の中でも、カメラに写った人物の音声だけが強調されて聞こえていた。ただし顔認識と音声処理があるため、ほんの少しの遅延が感じられたが、会話には問題ないレベルだった。