法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「eximoポイ活」ではじまるクレジットカード決済競争

 NTTドコモは7月31日に新しい料金プラン「eximoポイ活」を発表し、8月1日から受け付けを開始した。すでに、本誌では速報記事などが掲載されているが、今回は「eximoポイ活」から見えるクレジットカード決済の主役争いについて、考えてみよう。

最大5000ポイントが還元される「eximoポイ活」

 これまでNTTドコモはデータ通信量3段階に分けつつ、事実上、無制限でも使える主力の「eximo」、データ通信量が中程度以上の若い世代を狙ったオンライン専用プラン「ahamo」、データ通信量が少ないユーザー向けに価格を抑えた「irumo」という3つの料金プランを展開してきた。

 これらのうち、「ahamo」はオンライン専用でメールなどもオプション扱いという建て付けながら、20GBというデータ通信量に加え、80GBのデータ通信量を追加できる「大盛りオプション」を提供することで、好調に契約数を伸ばしているという。この「ahamo」に「大盛りオプション」を追加しているユーザーに対し、今年4月から新たに提供されたのが「ahamoポイ活」だ。「ahamo」+「大盛りオプション」のユーザーが月額2200円の「ポイ活オプション」を追加することで、d払いで決済したときに、最大11%のdポイントを還元する「ahamoポイ活」という料金プランになる。

 これに対し、「eximoポイ活」はその名の通り、「eximo」をベースにした『ポイ活』プランになる。基本的な建て付けは同じ方向性だが、「eximoポイ活」は月々の料金が1万615円という料金プランで、データ通信量が段階制だった「eximo」と違い、データ通信量は無制限(混雑時などは制限がかかる)で利用できるというものだ。

 対象となる決済は、dカード、iD、d払いで、これらのうち、d払いについては支払い方法をdカード、電話料金合算払いに設定した場合に限られる。還元されるポイントはdカードが3%、dカードGOLDが5%に設定されているが、同時にスタートする「「eximo ポイ活」10%ポイント還元キャンペーン」により、キャンペーン期間中は最大10%還元される。還元されるポイントの上限は5000ポイントのため、対象となる決済サービスで5万円を使えば、満額のポイントをもらえる計算だ。

「実質のご利用料金」を「2728円」と表記していいのか?

 7月31日に発表され、8月1日に提供が開始された「eximoポイ活」は、すでに本誌でも速報記事や解説記事が掲載されているので、ここではプランの内容を詳しく説明しないが、「ahamoポイ活」のときに続き、発表内容やNTTドコモのWebページを見ていて、気になる点がいくつかあるので、まずはそこに触れておきたい。

 今回の「eximoポイ活」は、本誌記事などを見てもわかるように、月額料金が「1万615円」の料金プランだ。 しかし、NTTドコモのWebページをはじめ、広告や資料などでは「実質のご利用料金」として、「2728円」という金額が掲げられている 。本来の月額料金に対し、dカードお支払い割で「178円割引」、みんなドコモ割(3回線以上)で「1100円割引」、ドコモ光セット割(home 5Gセット割)で「1100円割引」が適用されると、月額8228円(税抜では7480円)になる。これに対し、「eximoポイ活」で最大5000ポイントが還元されると、「7480円-5000ポイント=2480円+10%(消費税)=2728円」になるという計算だ。

 みんなドコモ割などの割引サービスは、これまでも適用されていた割引なので、まだ理解できるが、「eximoポイ活」で還元される「5000ポイント」は、前述の通り、対象となる決済サービスで5万円を利用したうえで還元される最大値であり、これをいきなり月額料金と差し引きして、「2728円」と表記するのはいかがなものだろうか。確かに、最大限に利用すれば、実質的な負担額はその金額に抑えられるが、 そもそも『支払う金額』と『還元されるポイント』は別のもの であり、これを同列に扱って、計算してしまうのは、かなりの違和感を覚える。

 こうした料金プランの表記については、2020年に携帯電話料金値下げが騒がれたとき、本連載の「どうすれば、携帯電話料金値下げが実現できるのか?」という記事内で、「まずは利用料金の明確化から」という項目で、「割引サービスを適用する前の『素の料金プラン』をきちんと明示し、その上で割引サービスを適用すると、どれだけ安くなるという表記を徹底させるべきだ」という指摘をした。

 その後、各社は料金プランの表記を見直し、割引前と割引後の金額を明示するようになったが(最近、また崩れつつあるが……)、今回の「eximoポイ活」と4月からの「ahamoポイ活」では、いずれも「月額料金」ではなく、還元される”かもしれない”「ポイント」を差し引きしているわけだ。総務省や消費者庁は、本来、こうした部分に目を光らせるべきではないのだろうか。

 ちなみに、他社のポイント連動型の料金プランでは、どのように表現されているのかというと、auは「au PAY 残高還元特典」として、「800円相当」が還元されるとしている。ただし、auのWebページの「月々のお支払いイメージ」では、月額料金の「税込合計額」とは別に、「実質税込合計額」(「au PAY 残高還元特典」の800円相当適用後)を明記している。

 ソフトバンクもPayPay利用時にPayPayポイントを最大4000円相当まで還元できる「ペイトク無制限」を提供しているが、料金プランを説明するWebページでは新みんな家族割(3回線以上)で「1210円割引」、おうち割光セットで「1100円割引」、PayPayカード割で「187円割引」で、月額7128円と表記している。ただ、ペイトクのキャンペーンを含んだ説明ページでは、「最大4000円相当/月 貯まる」「基本料に充当すれば」と掲げ、実質ご負担額を「3128円」としている。「eximoポイ活」の表記に近いとも言えるが、説明するWebページを別に分け、「基本料に充当すれば」と表記しているだけでも多少は配慮されている感もある。

 NTTドコモが「eximoポイ活」をスタートさせたことで、3社のポイント連動型料金プランが出揃ったことになる。それぞれの料金プランの損得勘定は、使う人によって、差があり、どれが優れているとは一概に言えないが、さすがに実際のお金を支払う『料金』と、クレジットカードや各社のサービスを利用することで得られる『ポイント』をごちゃ混ぜにして、語ってしまうことは避けるべきだ。本誌のようなメディアが料金プランの解説記事において、「実質的には○○○○円の負担に抑えられる」といった表現をすることはあるだろうが、少なくとも携帯電話会社が料金プランの解説ページで、このような表現をすることは消費者保護の観点からも好ましくない。各社には料金やサービスの内容について、どういう説明がわかりやすく、望ましい方法なのかを今一度、よく考えていただきたい。

「eximoポイ活」の向こうに見えるクレジットカードの仁義なき戦い

 ここまで説明したように、NTTドコモの「eximoポイ活」は、料金プランそのものよりも表現や表記に課題が目立つ印象だが、もうひとつ気になる点がある。それは「dカードでの決済」が最優先されていることだ。

 ところで、読者のみなさんはクレジットカードをどのように使っているだろうか。いつも決まったクレジットカードを使う人も居れば、複数のクレジットカードを駆使するヘビーユーザーも居るだろう。あるいは、「クレジットカードは持たない」「コード決済で十分」「やっぱり、現金」という考えの人も少なくないだろう。

 今年4月にJCBが発表した「キャッシュレスに関する総合調査(2023年版調査結果レポート)」によれば、クレジットカードの平均保有枚数は2.8枚で、もっとも多く使うクレジットカードの月平均利用額は7.4万円になるという。その「もっとも多く使うクレジットカード」の選択理由は、「ポイントやマイルを貯めやすいから」が43%、「年会費が他社と比較して安い(無料を含む)から」が30%となっている。つまり、多くの消費者はポイントやマイルを貯めることをもっとも重視して、クレジットカードを利用しているわけだ。

 こうした背景もあって、各携帯電話会社はポイント還元に連動した料金プランに積極的に取り組んでいるわけだが、今回の「eximoポイ活」は、基本的に「dカード」の利用を前提としている。クレジットカードを持たない(持ちたくない/持てない)ユーザーのために、d払いの電話料金合算払いも対象となっているが、年齢や契約期間によって、電話料金合算払いの利用限度額があるため、やはり、本筋はdカードやiD、dカードを紐づけたd払いということになる。

 とは言え、日常生活の中で、月に5万円も使うのは、なかなかたいへんだ。前述のJCBの調査では、クレジットカードの利用割合がもっとも多いのはスーパーマーケットだという。家族構成にもよるが、毎週、5000円ずつスーパーマーケットで買い物をしても月に2万円程度だ。そうなると、定期的な支払いも含め、ほとんどの支払いをdカードなどに集約する必要が出てくるだろう。総務省統計局の「家計調査年報」によれば、水道光熱費(電気代、ガス代、水道代)の全国平均は1カ月あたり約2万円弱なので、これを加えて、ようやく4万円だ。もちろん、普段の生活において、外食や宴席などで飲食費をクレジットカードで払えば、何とか目標の5万円を超えることができそうだ。

 しかし、こうした「1枚のカードの支払いを集約して~」という方法は、航空会社のマイルを貯めるためにも広く取られてきた手法だ。おそらく、読者のみなさんの中にもANAやJALのクレジットカードに支払いを集め、貯まったマイルで旅行に出かけたいと考えている人も多いだろう。かく言う筆者もここ十数年は、とにかくマイルを貯めるために、航空会社のクレジットカードに支払いを集約し、貯まったマイルを海外出張や海外旅行などに使ってきたが、いくつか例外もあった。

 そのひとつが各携帯電話会社の料金の支払いだ。改めて説明するまでもないが、NTTドコモはdカード GOLDの会員に対し、NTTドコモの携帯電話料金(ドコモ光を含む)やドコモでんきなどの料金に対して、10%のdポイントを還元するしくみを導入したことで、普段は航空会社などのクレジットカードを使いながら、NTTドコモの利用料金だけはdカードで支払うスタイルが定着していた。同様のポイント還元を実施しているauでも月々の利用料金をau PAYカード GOLDで支払うという人が増え、ソフトバンクもPayPayカード ゴールドの発行が始まり、最大10%のPayPayポイント還元がスタートしたことで、同様のメリットが享受できるようになった。つまり、航空会社や鉄道会社、デパート、ショッピングセンターなどのクレジットカードに支払いを集約している人でもdカード GOLDをはじめとする各携帯電話会社のクレジットカードを『サブカード』的に活用している人は少なくなかったと推察される。

 ところが、今回の「eximoポイ活」では、これまでのようなNTTドコモの利用料金に対するポイント還元ではなく、dカードをメインカードとして使ってもらい、それに決済額を増やすことで、より多くのポイントで還元するという方針に切り替えている。発表時の説明会でも「メインカードとして、利用していただきたい」と明言されていた。

 ただ、さまざまな事業を展開する企業にとって、クレジットカードは顧客接点という意味でも重要だとされている。かつてJALが経営破綻し、さまざまな事業を売却しなければならなかったとき、「JALカードだけは絶対に手放さない」方針だったと言われるほど、重要視されていたという。

 これまでは『サブカード』的な使われ方でも十分だったNTTドコモのdカードがメインカードへの『格上げ』の方針を打ち出したことで、今後、他のクレジットカードを発行する企業との間で、決済額とポイント還元をめぐる争いが激しくなることが予想される。NTTドコモとしては、消費者の決済を『総取り』したいと考えているそうだが、消費者が決済する金額はある程度、限りがあるわけで、その限られた金額を取り合う形になり、クレジットカードをはじめとする決済の勢力図が何年かをかけて、大きく変わるかもしれない。ある企業にとっては、これまで協業するパートナーだと捉えていたNTTドコモがクレジットカードをはじめとする決済の分野では、強力なライバルになってしまうことも考えられる。NTTドコモがこうした状況を踏まえ、どのように他の企業とバランスを取りながら、dカードを軸にした決済を伸ばしていくのかも注目される。

 そして、私たちユーザーもクレジットカードを使うにせよ、コード決済を使うにせよ、どの決済サービスを使い、どのポイントやマイルを得ていくのかをじっくりと考えて、各サービスを選んでいく必要がありそうだ。