法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「moto g64 5G」、コストと機能をバランスさせたFeliCa搭載スマートフォン
2024年8月16日 00:00
国内のオープン市場向けを中心に、数多くの製品を投入するモトローラから普及価格帯のFeliCa搭載スマートフォン「moto g64 5G」が発売された。筆者も実機を試用することができたので、レポートをお送りしよう。
オープン市場向け海外メーカー製端末でもFeliCa搭載が標準に
国内で販売されるスマートフォンの仕様として、必須とも言われる非接触IC「FeliCa」。
2004年にNTTドコモがFeliCaを搭載した携帯電話で利用できる「おサイフケータイ」のサービスを提供して以来、国内では広く普及してきたが、この20年間を振り返ってみると、FeliCa搭載の有無が壁となり、販売を大きく左右してきた面もある。
たとえば、サービス開始当初は主要3社がFeliCaを搭載したおサイフケータイ対応端末を販売していたが、PHSサービスを提供していたウィルコムはなかなか対応端末を商品化できず、ユーザーは2009年に「ウィルコムICサービス」がスタートするまで、待たなければなかった。
スマートフォンが登場したばかりの頃も「おサイフケータイがないから、スマートフォンに移行できない」といった声が聞かれた。
2010年にauがシャープ製端末「IS03」でAndroidプラットフォームにFeliCaを初搭載し、その後、各社が追随したことで、徐々にケータイからの移行が進んだ。
iPhoneも2016年発売の「iPhone 7」シリーズにFeliCaが搭載され、普及に大きく弾みがついた。最近では、オープン市場向けのスマートフォンでも同様のことが起きている。
当初、オープン市場向けのSIMフリースマートフォンにFeliCaを搭載していたのは、国内メーカーの端末に限られていたが、2019年にオウガ・ジャパンが「OPPO Reno A」でFeliCaを初搭載したことをきっかけに、海外メーカー製端末でも徐々にFeliCaを搭載するスマートフォンが増え、今や国内で販売される海外メーカー製スマートフォンの多くがFeliCaを搭載するほどの拡がりを見せている。価格帯もエントリークラスからフラッグシップまで、かなり幅広い選択肢から選ぶことが可能だ。
今回紹介するモトローラも2022年に「moto g52j 5G」で同社製スマートフォンとして、はじめてFeliCaを搭載。昨年6月に発売された後継モデルの「moto g53j 5G」は、オープン市場向けに加え、「moto g53y 5G」として、ワイモバイルでも取り扱われた。
ちなみに、モトローラ製端末として、FeliCa初搭載となった「moto g52j 5G」は意外にロングセラーになり、昨年6月にメモリーを8GBに増量した「moto g52j 5G II」、昨年11月にはストレージを256GBに増量した「moto g52j 5G SPECIAL」をリリースしている。
コストパフォーマンスの高さなどで一定の評価を得ていたモトローラ製端末がFeliCa搭載によって、一気に市場に拡大したわけだ。
今回発売された「moto g64 5G」は、昨年の「moto g53j 5G」の後継モデルという位置付けで、昨年の「moto g53j 5G」や一昨年の「moto g52j 5G」、今年7月に発表された「motorola edge50 pro」と同じように、FeliCa搭載により、おサイフケータイの各サービスに対応する日本仕様を満たしたモデルとなっている。
オープン市場向けに販売される「moto g64 5G」のほかに、ワイモバイルでも搭載メモリーが異なる「moto g64y 5G」も取り扱われる。オープン市場向けの「moto g64 5G」は、3万4800円(モトローラ公式ストア価格)という価格が設定されているが、国内MVNO各社をはじめ、家電量販店、ECサイトなどでも販売される。
ワイモバイルで販売される「moto g64y 5G」は、現金一括価格が2万1996円となっているが、オンラインストアでは7200円の割引(原稿執筆時)が適用されるため、支払い額は1万5000円を切る。
本来の一括価格も含め、FeliCa搭載のオープン市場向けスマートフォンとしては、最安値のモデルということになりそうだ。
スリムでフラットなボディ
まず、外観からチェックしてみよう。ボディは昨年の「moto g53j 5G」「moto g53y 5G」に引き続き、背面をフラットに仕上げたスリムなデザインを採用する。
7月発売の「motorola edge50 pro」も同じだが、業界全体のトレンドとして、スリムでフラットなボディに仕上げられている。表面は指紋や手の跡が残りにくい仕上げとなっている。
ちなみに、「moto g64 5G」と「moto g64y 5G」は一部の仕様を除き、基本的に同じデザインの端末だが、ボディカラーは「moto g64 5G」がスペースブラックとシルバーブルーの2色展開であるのに対し、ワイモバイル向けの「moto g64y 5G」にはバニラクリームが追加される。
耐環境性能はIPX2準拠の防滴、IP5Xの防塵に対応する。これは昨年の「moto g53j 5G」と「moto g53y 5G」を継承した形だが、2022年の「moto g52j 5G」がIPX8/IP6X対応だったことを鑑みると、スペックダウンした仕様がそのまま引き継がれたことになる。
なかでもIPX2は少量の雨や跳ねた水滴程度であれば、耐えられるものの、水没させたり、シャワーなどの高圧の水に対する十分な保護機能がないため、一般的な防水対応端末の感覚で使うことはできない。
出荷時にはこれまでのモトローラ製端末同様、ボディの背面にクリアタイプのカバーが装着され、購入した直後からカバー付きで使いはじめることができる。
生体認証は右側面の電源ボタン内に指紋センサーが内蔵されており、指紋認証が利用できる。指紋センサーを利用した機能は指紋認証によるロック解除以外に、特に用意されていない。
インカメラを利用した顔認証にも対応するが、今回試用した限りではマスクを装着してのロック解除はできなかった。他製品でも対応が増えていることを考えると、やや物足りない印象だ。
指紋認証を利用するときは、PINやパスワードなどを設定するが、PINを利用するときは、ロック解除時に表示されるPINパッドの表示を毎回並べ替える「PINパッドのスクランブル」も設定できる。
基本的には指紋センサーでロック解除ができるが、PINを入力するとき、周囲から盗み見られて、PINを推測されないようにするには有効な設定だ。
フルHD対応6.5インチ液晶ディスプレイを搭載
ディスプレイは2400×1080ドット表示が可能なフルHD対応6.5インチ液晶ディスプレイを採用する。
昨年の「moto g53j 5G」と「moto g53y 5G」が1600×720ドット表示が可能なHD+対応だったため、より高解像度なディスプレイに変更されたことになる。ディスプレイには出荷時に保護フィルムが貼られていないので、保護したいときは別途、購入する必要がある。
ディスプレイに液晶パネルを採用したのは、おそらくコスト面を考慮してのことだと推察されるが、実機を使ってみると、やや視野角の狭さが感じられる。
基本的に本人の正面に端末があるときなどは気にならないが、机の上に置き、斜めの位置から見ると、画面が暗く見えてしまう。
のぞき見がされにくい面もあるが、もう少し視野角の広いパネルが欲しいところだ。
ディスプレイの縦横比は20:9で、リフレッシュレートは最大120Hzのなめらか表示に対応し、映像コンテンツの再生やゲームプレイなどにも十分、応えられる仕様と言えそうだ。
設定を変更して、リフレッシュレートを60Hzや120Hz固定で動作させることも可能だが、[自動]を選択しておいた方が省電力性能とのバランスがいいだろう。
ディスプレイの上下には、スピーカーが内蔵され、本体を横向きに持てば、ステレオスピーカーとして動作する。Dolby Atmosにも対応しているため、臨場感のあるサウンドを楽しめる。
最近の機種ではあまり対応例が多くないが、本体下部には3.5mmイヤホンマイク端子も備える。
モトローラ製端末にはおなじみの[Moto]アプリが搭載されていて、ディスプレイ関連では[ロック画面]と[親切ディスプレイ]が設定できる。[ロック画面]はロック画面での通知の表示などが設定でき、[親切ディスプレイ]はユーザーが画面を見ているときにスリープにしない設定ができる。
MediaTek製Dimensity 7025を搭載
チップセットは台MediaTek製Dimensity 7025を採用する。昨年の「moto g53j 5G」と「moto g53y 5G」は米Qualcomm製Snapdragon 480+ 5Gが採用され、2022年の「moto g52j 5G」に搭載されたSnapdragon 695 5Gに比べ、ややスペックダウンした印象だったが、今回の「moto g64j 5G」はCPUやGPUなどの性能が強化されている。
ベンチマークテストの値だけでは比較しにくい面もあるが、Snapdragon 695 5Gと変わらないか、それを超えるパフォーマンスが得られている。
ただ、今回試用した範囲では、グラフィック性能を必要とする一部のゲームで、パフォーマンス不足を感じることがあった。同じゲームが同じMediaTek製Dimensity 7050を搭載したスマートフォンでプレイできていただけに、やや残念なところだ。
メモリーとストレージについては、8GB RAMと128GB ROMを搭載し、最大1TBのmicroSDメモリーカードも装着できる。
ワイモバイルで取り扱う「moto g64y 5G」については、RAMが4GBになっている。ストレージの一部を使い、メモリーを拡張する「RAMブースト」の機能も用意されており、8GB RAMを搭載する「moto g64 5G」は8GBを追加して、最大16GBでどうさせることができる。
バッテリーは従来モデルに引続き、5000mAh大容量バッテリーを内蔵する。充電は本体下部のUSB Type-C外部接続端子を利用し、最大30W TurboPowerチャージに対応する。
ただし、充電器が同梱されていないため、モトローラ公式ストアなどで販売されている「モトローラ ターボパワーチャージャー 30W」(3080円)を購入するか、市販の充電器を利用することになる。
モバイルネットワークは5G NR/4G LTE/3G W-CDMAに対応する。昨年の「moto g53j 5G」と「moto g53y 5G」、2022年の「moto g52j 5G」と比較して、大きく違うのはGSM方式に対応していないことが挙げられる。
国内で利用する限りは、何も問題にはならないが、欧州やアジア圏の一部ではまだGSM方式でしか接続できないエリアもあるため、海外渡航などで利用するときは注意が必要だ。
また、国内での利用は、4社のネットワークに対応する。NTTドコモについては5Gで割り当てられた「n78」に対応するものの、4.5GHz帯の「n79」には対応していない。
NTTドコモは4G向け周波数帯域の5G転用をスタートしているため、実用上はそれほど大きなマイナスにはならないかもしれないが、MVNOの多くがNTTドコモ網を利用したサービスを提供している現状を鑑みると、いつまでも「n79には非対応」のままなのは、やや疑問が残る。
先般の「motorola edge 50 pro」の発表会において、モトローラ・モビリティ・ジャパン代表取締役社長の仲田正一氏に、この点を質問したところ、「パートナーやユーザーの要望に合わせて、検討していきたい」とコメントするにとどまった。
「n79」についてはiPhoneは言うに及ばず、シャープやソニーなどの国内メーカーがサポートしているのは当然だが、ASUSが「Zenfone 11 Ultra」や「ROG Phone 8」シリーズでサポートし、シャオミも「Xiaomi 14 Ultra」で対応するなど、各社の対応状況は徐々に変わりつつある。
アンテナの配置など、端末の基本設計に関わるため、簡単には追加で対応できないのかもしれないが、「日本のユーザーのための仕様をサポート」を謳うのであれば、海外メーカー各社もそろそろ対応を検討して欲しいところだ。
SIMカードについては、nanoSIM/eSIMが利用できるデュアルSIM対応で、DSDVにも対応する。「moto g64j 5G」は最大1TBのmicroSDメモリーカードを装着できるため、nanoSIMカードとmicroSDメモリーカードを1枚ずつSIMカードトレイに装着しながら、もう1回線をeSIMで利用するといった使い方ができる。
Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/ac準拠で、2.4GHzと5GHzで利用できる。Bluetooth 5.3にも対応するが、対応するオーディオコーデックは明記されていない。
衛星による位置情報測位は、米GPS、露GLONASS、欧州Galileo、中国BeiDou、日本のQZSS(みちびぎ)に対応する。
冒頭でも触れたように、FeliCaを搭載しているため、おサイフケータイの各サービスが利用でき、モバイルSuicaについてもJR東日本の対応機種一覧に機種名がすでに掲載されている。
マイナンバーカードの対応については、こちらもすでに読み取り対応機種及びスマホ電子証明書対応機種のいずれにも掲載されており、サービスを利用できる環境が整っている。
便利機能をまとめた[Moto]アプリ
プラットフォームはAndroid 14を搭載し、日本語入力はAndroid標準の「Gboard」を採用する。
モトローラ製端末は「Pure Android」と呼ばれるAndroidプラットフォームの標準にもっとも近いユーザーインターフェイスを採用する。ホーム画面やアプリ一覧の表示、システムナビゲーションなどもユーザーの好みに合わせて、カスタマイズが可能。
モトローラ製端末には独自の機能を集めた[Moto]アプリが用意されており、各機能が「カスタマイズ」「ジェスチャー」「Moto Secure」「ヒント」「ディスプレイ」「プレイ」にグループ分けされている。
各機能はチュートリアルで動作を確認しながら、各機能を設定できる。これらのうち、「ジェスチャー」のグループには実用的な機能が登録されている。
たとえば、端末の背面をダブルタップして、特定のアプリを起動する「クイック起動」、端末を握ったまま、2回振り下ろすとライトが点灯する「簡易ライト」、端末を持ちながら、手首をすばやく2回ひねると、カメラが起動できる「クイックキャプチャー」、よく使うアプリを登録しておくことが「サイドバー」などが用意されている。
ただし、[設定]アプリ内にも[ジェスチャー]という項目があり、その内容が同じではないため、どちらに何の機能が登録されているのかは少し意識する必要がある。
モトローラ製端末の「Pure Android」と呼ばれるユーザーインターフェイスは、Androidプラットフォーム標準に近く、シンプルでわかりやすいことが評価できる点だが、少し気になるのはホーム画面のアプリが標準の[Moto App Laucher]しかなく、文字やアイコンを大きく表示したり、ホーム画面にアプリをパネル状に並べる『シンプルモード』のようなものがない。
こうした価格帯の製品は、はじめてスマートフォンを使うユーザーやシニア層のユーザーが購入することも多いため、そういった点を考慮したユーザビリティを検討して欲しいところだ。
デュアルカメラでマクロ撮影にも対応
カメラについては「moto g53j 5G」と「moto g53y 5G」から大きく仕様が変わっていない。背面には5000万画素イメージセンサー/F1.8のメインカメラ、200万画素イメージセンサー/F2.4のマクロカメラを搭載する。
メインカメラはPDAF(Phase Detection Auto Focus/位相差検出オートフォーカス)に対応し、光学手ぶれ補正も搭載する。マクロカメラはスペック表に撮影距離の表記がないものの、画面内のガイドによれば、被写体に4cm程度で近づいて撮影できる。
ディスプレイ上部のパンチホール内には、1600万画素イメージセンサー/F2.4のインカメラが内蔵され、セルフィーは標準とワイドで撮影を切り替えることができるほか、目や鼻、肌の滑らかさを調整する機能も備える。
撮影モードは標準で「スローモーション」「動画」「写真」「ポートレート」「プロ」「詳細」が利用でき、「詳細」を選ぶと、「タイムラプス」「スポットカラー」「ナイトビジョン」など、より凝った撮影モードも選べる。
撮影した写真や動画は、Googleフォトの[フォト]アプリで確認できる。[フォト]アプリは今年から「Pixel」シリーズでもおなじみの「消しゴムマジック」が利用できるようになったため、プレビュー画面上に表示された[消しゴムマジックを試す]ボタンをタップすれば、背景に写り込んだ不要な人物やオブジェクトを簡単に消去できる。その他にも「ぼかし」や「ボケ補正」、「カラーフォーカス」などの機能が利用できる。
お手頃価格でおサイフケータイ対応端末が欲しい人に
スマートフォン選びをするうえで、FeliCa搭載は重要なチェックポイントのひとつだ。
かつてはオープン市場向けの海外メーカー製SIMフリースマートフォンは、FeliCaが搭載されず、選択肢から外れることが少なくなかったが、今や多くの製品がFeliCaを搭載し、おサイフケータイの各サービスを利用できる。
今回の「moto g64 5G」もそういったFeliCa搭載端末のひとつであり、モバイルSuicaやマイナンバーカード関連の対応機種一覧にもいち早く掲載されており、安心して利用できる。
ただ、耐環境性能が防滴防塵レベルにとどまっていたり、NTTドコモの5G向けバンド「n79」に未対応のまま、ホームアプリに初心者向けのシンプルモードがないなど、細かい点に不満が残る。
3万円台半ばと、お手頃価格に抑えられているものの、正直なところ、あと1万円ほど、追加すれば、より日本仕様をしっかりサポートしたライバル機種も視野に入ってくるだけに、もう少し進化を感じさせる内容にして欲しかったところだ。
今さらながら、2022年発売の「moto g52j 5G」が耐環境性能を含め、完成度が高かっただけに、物足りなさを感じてしまうのかもしれない。
とは言うものの、モトローラ製端末としての使いやすさとコストをバランスさせたしあがりなので、リーズナブルなFeliCa搭載スマートフォンを求めるユーザーにはチェックして欲しい端末と言えそうだ。