法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
ASUS「ROG Phone 8」シリーズ、ゲームと日常を勝ち抜くための一台
2024年6月18日 00:00
ZenfoneシリーズやノートパソコンなどでおなじみのASUSからゲーミングスマートフォンの最新モデル「ROG Phone 8 Pro」が発売された。スマートフォンでのゲームが定着し、eスポーツなどが拡大する中、よりゲームに注力した端末にも注目が集まっている。筆者も実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。
世代や環境によって違うゲーム体験
普段、電車やバスなどに乗っていると、スマートフォンで動画を視聴している人をよく見かけるが、ときどき、ゲームをプレイしている人も見かける。どんなゲームをプレイしているのかはハッキリしないが、その多くは移動中のちょっとした隙間時間にプレイしているため、パズルなどを軸にした比較的ライトに楽しめるゲームが多い印象だ。
読者のみなさんは普段、どんなゲームをどんな環境で楽しんでいるだろうか。日本は「ファミコン」や「PlayStation」といったゲーム機が広く普及していたこともあり、元々、ゲーム機で楽しむ人が多いとされていた。しかし、最近はやはり、スマートフォンの高性能化や手軽さが支持され、スマートフォンでゲームを楽しむ人が増えているとされる。プレイするゲームタイトルもライトなパズルゲームだけでなく、R.P.G.やアクション、FPSなどの本格的な大作のタイトルをはじめ、「ポケモンGO」のような位置情報を活かしたゲームも人気が高いとされる。
一方、ゲームを取り巻く環境も徐々に変化し、ここ数年はeスポーツが注目を集め、スマートフォンにおいてもゲームを快適にプレイできることをアピールする機種が増えてきている。ただ、ゲームを前面に押し立てた機種はそれほど多くなく、本連載では一昨年、シャオミが国内向けに発売した「POCO F4 GT」を取り上げたくらいだった。
今回、ASUSから発売された「ROG Phone 8」シリーズは、「勝つための“ゲーミング”スマートフォン」を謳うモデルだ。ASUSと言えば、国内のSIMフリースマートフォンの先駆けとなった「Zenfone」シリーズが広く知られているが、これとは別に、2018年から「ROG Phone」シリーズを展開し、毎年、新製品を市場に送り出している。機種名の「ROG」は「Republic of Gamers」で、直訳すれば、「ゲーマー共和国」という意味になる。つまり、ゲームを存分に楽しみたいユーザーのための一台というわけだ。
「勝つための“ゲーミング”スマートフォン」を謳うだけに、歴代モデルはハイスペックを追求しており、チップセットはその年のフラッグシップに搭載される最新の米Qualcomm製Snapdragon 8xxシリーズを採用し、ゲームプレイ時の見やすさに影響するディスプレイもリフレッシュレートやタッチサンプリングレートを向上させ、大容量のゲームを快適に遊べるように、RAM(メモリー)の搭載量も増やすなど、強化を図ってきた。
今回の「ROG Phone 8」シリーズでは、新たに「ゲームは、日常というフィールドへ」というコピーを掲げ、前モデルで対応した防水防塵を強化する一方、新たにおサイフケータイにも対応し、日常での利用シーンでも便利に役立つスマートフォンに仕上げられている。ゲームのために複数のスマートフォンを持ち歩くユーザーも少なくないが、やはり、本来は1台の端末でゲームから日常まで、あらゆるシーンで活用したいわけで、ASUSとしては今回の「ROG Phone 8」シリーズで、そういったユーザーの声にしっかりと応えた格好だ。
ちなみに、今回発売されたモデルは「ROG Phone 8」シリーズで、メイン機種となる「ROG Phone 8 Pro」のほかに、ストレージ(ROM)を少し抑えた「ROG Phone 8」、RAM/ROMを最大限に搭載し、背面を冷却する外付けクーラー「AeroActive Cooler X」を同梱した「ROG Phone 8 Pro Edition」の3モデルがラインアップされる。最上位モデルの「ROG Phone 8 Pro Edition」は21万9800円と、なかなかのお値段だが、数量限定ということもあり、発売後、まもなく売り切れてしまい、すでに入手が難しいようだ。
「ROG Phone 8 Pro」(17万9800円)と「ROG Phone 8」(15万9800円)については、通常通り、販売されており、「ROG Phone 8 Pro」はau +1 collectionでの一括払い、もしくは24回分割払いでの購入も可能だ。残念ながら、auのスマホトクするプログラム(端末購入サポートプログラム)は利用できないが、約7500円の24回払いで購入できるため、興味のあるユーザーにとって、魅力的だろう。IIJmioのサプライサービスでも取り扱われており、こちらもほぼ同等の金額による分割払いで購入することができる。
「AniMe Vision」のサイバーな演出が楽しいボディ
まず、外観からチェックしてみよう。ここ数年、スマートフォンのデザインはフォルダブルを除けば、ほとんどの製品がフラットなスレート状(板状)のボディを採用し、あまり目立った個性を発揮する機種が少ないが、「ROG Phone 8 Pro」はマット仕上げの背面に斜めのグラフィックをあしらい、背面のやや下よりの位置には「AniMe Vision」と呼ばれるミニLEDによるアイコン表示機能を持つなど、「ゲーミング」というカテゴリーらしいサイバーな演出で仕上げられている。
ボディは幅76.8mmで、「iPhone 15 Pro Max」(77.8mm)や「Pixel 8 Pro」(76.5mm)など、6.7インチクラスの大画面ディスプレイを搭載したモデルとほぼ同じサイズ感にまとめられているが、厚さは従来モデルよりも15.2%の薄型化を実現した8.9mmに仕上げられている。背面側は左右両側端部分をわずかに湾曲させており、ゲームプレイ中にも持ちやすい形状となっている。ただし、重量は225gなので、やや重めの印象だ。
本体の右側面の上下には、「AirTriggers」と呼ばれる超音波式センサーを内蔵したボタンが備えられており、ゲームプレイ中に本体を横向きに持ったとき、人さし指で操作できるようにしている。「AirTriggers」はこの他にも端末を握る操作で、Googleアシスタント(今後はGemini)を起動したり、バッテリー駆動時の動作モードを切り替えることなどができる。
背面中央下部寄りに搭載された「AniMe Vision」は、11×31ドットの341個のミニLEDによって構成され、着信時の通知をはじめ、天気や時刻、セルフタイマーなど、さまざまな表示を可能にする。しかもこれらの表示は自由にカスタマイズすることが可能で、自分ならではの個性を背面で主張できる。
耐環境性能は従来モデルよりも強化され、IPX5/IPX8防水、IP6X防塵に対応する。特に、防水性能がワンランク上の仕様になり、国内で販売される他のスマートフォンと同等レベルになったことで、ユーザーとしてはかなり安心感が大きい。耐衝撃性能は特に謳われていないが、パッケージにはケースが付属する。
ちなみに、今回撮影したモデルは「ROG Phone 8 Pro Edition」で、後述する「AeroActive Cooler X」を装着するために、背面中央部分が開いたケースが同梱されているが、メイン機種の「ROG Phone 8 Pro」には背面のほぼ全体を覆う半透明のカバーが同梱される。
バッテリーは5500mAhで、内部的には本体中央付近にチップセットを配し、その上下に2つの2750mAhのバッテリーを搭載する構造を採用している。バッテリーを2つのセルで構成したのは、発熱を軽減することを狙っている。実際の動作については、一般的な利用で23.8時間、動画ストリーミングで22.7時間、SNSブラウジングで17時間としている。
「システムモード」と呼ばれるバッテリー駆動時の動作モードも用意されており、通常の「ダイナミック」のほかに、ゲームで最高のパフォーマンスを発揮できる「Xモード」、電力消費を可能な限り節約する「超省電力」が用意されており、どちらもネットワークや表示などの動作を細かくカスタマイズできる。
充電は本体下部及び左側面に備えられたUSB Type-C外部接続端子を使い、最大65Wの急速充電が可能で、0%の状態から39分でフル充電ができるとしている。Qi対応のワイヤレス充電にも対応する。
狭額縁仕上げの6.78インチディスプレイを搭載
ディスプレイは2400×1080ドット表示が可能なフルHD+対応6.78インチAMOLED(有機EL)を搭載し、ガラス面はCorning Gorilla Glass VIctus 2を採用する。ディスプレイの対角サイズとしては、従来モデルと変わらないが、上下左右の額縁を狭額縁に仕上げたことで、画面占有率を94%まで高めている。
ピーク輝度は最大2500nitsと非常に明るく、リフレッシュレートは1~120Hzの可変に対応し、表示するコンテンツに合わせ、優れた省電力性能を実現しながら、動画などはなめらかな表示を可能にする。設定を変更することで、最大165Hzでの表示も可能で、動きの激しいゲームプレイにも対応する。
ディスプレイの表示については、有機ELの特性を活かした常時表示の機能として、「Always-on Panel」も搭載される。表示する内容もカスタマイズが可能で、時計だけでなく、ユーザーが指定した画像やテキストなども表示できる。このあたりもユーザーの個性を重視した作り込みと言えそうだ。
ディスプレイにはゲームプレイ時のダイレクトな操作感を重視してか、出荷時に保護フィルムなどが貼られていないが、ASUS公式オンラインストアでは「ROG Phone 8 Pro」に対応した「ROG PHONE 8 Antibacterial Glass Screen Protector」(3480円)が販売されているので、ディスプレイ保護を重視するときはこれを利用するのも手だろう。
ディスプレイの内側には光学式指紋センサーが内蔵されており、画面ロック解除などに指紋認証が利用できる。少し面白いのは、指紋認証によるロック解除時のアニメーションや表示スタイルをカスタマイズできる点だ。一般的な指紋認証では指紋のアイコンや円が表示されるが、「ROGフィールド」や「AniMe Vision」などのアイコンが表示できたり、解除時も「銀河」や「神秘」と題されたアニメーションを表示できる。ちょっとしたことだが、スマートフォンを使う楽しさを演出する機能と言えそうだ。
インカメラを利用した顔認証にも対応しており、スペック表に表記がないものの、マスクを装着してのロック解除も利用できた。
チップセットは最高峰「Snapdragon 8 Gen 3」を搭載
ゲーミングスマートフォンのパフォーマンスを大きく左右するチップセットについては、現時点での最高峰とされる米Qualcomm製Snapdragon 8 Gen 3を搭載する。チップセットがゲームプレイ中など、高負荷の環境で熱を発するため、ゲーミングスマートフォンやゲームを強く意識したフラッグシップモデルでは、熱対策が重要になる。
「ROG Phone 8 Pro」は前述の通り、チップセットを本体中央に置くレイアウトを採用しており、ここにベイパーチャンバーやグラファイトシート、急速冷却用ヒートシンク、窒化ホウ素などを組み合わせることで、冷却性能を向上させている。従来モデル比で20%の冷却性能を向上させているとのことだが、さらに冷却が必要な場合は、オプションとして販売されている外付けクーラーユニット「AEROACTIVE COOLER X」(1万2480円)を本体背面に装着することもできる。
「AEROACTIVE COOLER X」には端末本体側面のUSB Type-C外部接続端子と接続する端子が備えられているほか、クーラーボタンやロック解除ボタン、充電用のUSB Type-C端子、3.5mmイヤホンジャックなどが備えられている。ゲームプレイに特化したオプションという印象だが、底部にはキックスタンドも備えられており、机の上などに置いて、動画視聴時などにも利用できる。ちなみに、「ROG Phone 8 Pro Edition」には「AEROACTIVE COOLER X」が同梱されており、携帯時に便利な専用ケースも付属する。
メモリーとストレージはRAM 16GBとROM 512GBを搭載し、外部メモリーカードには対応しない。スマートフォンで楽しむゲームは、多くのタイトルが数百MB~数十GBの容量を消費するため、やはり、これくらいのストレージは必要になるだろう。
ちなみに、「ROG Phone 8」はRAM 16GB、ROM 256GB、「ROG Phone 8 Pro Edition」はRAM 24GB、ROM 1TBで、それぞれ構成されている。チップセットやディスプレイなどのスペックはほぼ共通のため、これらのメモリーとストレージの仕様の違いが価格差に反映されているわけだ。
モバイルネットワークについては5G NR/4G LTE/3G W-CDMA/GSMに対応し、5GについてはSub6のみの対応だが、NTTドコモの5Gに割り当てられたバンドのひとつである「n79」にも対応しており、NTTドコモ及びNTTドコモ網を利用したMVNO各社のユーザーも安心して利用できる。
SIMカードは2枚のnanoSIMカードを装着することが可能で、eSIMには対応しない。この時期に発売される端末で、eSIMに対応していないのは、やや残念な印象が残る。
Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax(2.4GHz/5GHz/6GHz)に対応し、Bluetooth 5.4をサポートする。Bluetoothについては米QualcommのaptX Adaptive、aptX Losslessに対応する。衛星を利用した位置情報の測位機能は、米GPS、露GLONASS、中国BeiDou、欧州Galileo、日本QZSS(みちびき)、印NavICに対応する。
「ROG Phone 8」シリーズが従来モデルと大きく異なるのは、冒頭でも触れたFeliCa搭載によるおサイフケータイ対応だろう。ゲームを最大限に楽しむためのスマートフォンとは言え、日常生活の中で電子マネーや会員証などのおサイフケータイ対応サービスを利用することは多く、対応を心待ちにしていたユーザーも多いだろう。
原稿執筆時点ではJR東日本が公開している対応機種一覧には、まだ「ROG Phone 8 Pro」が掲載されていないが、同じASUSが販売する「Zenfone 10」などは対応機種として掲載されているので、おそらく問題なく利用できるだろう。ちなみに、FeliCaのスイートスポットは背面左上のカメラ部のちょうど真下あたりに設定されている。
プラットフォームはAndroid 14を採用し、「ROG Phone」シリーズ独自の「ROG UI」を組み合わせ、日本語入力はAndroid標準の「Gboard」を搭載する。基本的なユーザーインターフェイスはAndroidプラットフォーム標準に準じており、ホーム画面を上方向にスワイプすると、アプリ一覧が表示される。ホーム画面の設定を切り替えれば、すべてのアプリをホーム画面に表示する「1レイヤーモード」を設定したり、「グリッドサイズ」で表示するアイコンの数を変更することも可能だ。
基本的な画面デザインが「ゲーミング」を意識しているため黒を基調としているが、Google提供のアプリをはじめ、多くのアプリは通常通りのデザインを採用しているため、アプリ一覧の画面デザインはインストールするアプリが増えると、やや統一感に欠けてしまう。ただ、逆に考えると、後から追加したアプリの多くは、デザインが通常通りであるため、アプリ一覧から見つけやすいとも言える。
6軸ジンバルモジュール搭載のトリプルカメラ
カメラは背面に広角、超広角、望遠のトリプルカメラを搭載する。もっとも大きなカメラがソニー製IMX890を採用した5000万画素イメージセンサー/F1.9の広角カメラ(23.8mm)、内側の上部側に配されているのが1300万画素イメージセンサー/F2.2超広角カメラ(12.7mm)、その下に位置するのが3200万画素/F2.4望遠カメラ(65.3mm)で、メインの広角カメラに対し、望遠カメラは約3倍の光学ズームで、超解像ズームで10倍、デジタルズームで最大30倍の撮影に対応する。
ディスプレイ上部のパンチホール内には3200万画素/F2.05インカメラ(22mm)を内蔵する。インカメラは画素配列がRGGB配列ではなく、RGBW配列のものを採用しており、高画質で明るい撮影が可能だとしている。
撮影モードは「写真」「ポートレート」「動画」「タイムラプス」「スローモーション」「パノラマ」「ライトトレイル」などが用意されており、「その他」を選ぶと、より細かな設定ができる「Proモード」も利用できる。
「ROG Phone 8 Pro」のカメラで、もうひとつ注目されるのは「Zenfone 10」などから継承した6軸ジンバルが挙げられる。一般的な光学式や電子式の手ぶれ補正と違い、本体に内蔵されたジャイロセンサーの情報を基にしながら、カメラモジュールを動かすことにより、撮影時のぶれを抑えることができる。「Zenfone 10」などのレビューでも触れられているが、端末をボディに固定し、トレランやバイク(自転車)などで撮影するときに役立つ。
撮影した写真や動画は、[ギャラリー]アプリで閲覧したり、編集することができる。Googleフォトの[フォト]アプリもインストールされているため、Googleフォトに自動的に写真や動画をバックアップすることもできる。[ギャラリー]アプリでの編集は、サイズ変更やフィルター、描画、モザイク、テキスト追加などの機能が用意されている。残念ながら、「消しゴムマジック」のような機能は実装されていないが、[フォト]アプリで利用できるようになったため、そちらで編集すれば、いいだろう。
「勝つためのゲーミングスマートフォン」を日常生活にも
eスポーツなどが注目を集める中、スマートフォンでのゲームプレイにも注力したことを謳う製品が増えているが、ASUSは2018年からゲームを存分に楽しむための「ゲーミングスマートフォン」として、「ROG Phone」シリーズを展開し、着実に進化を遂げてきた。
今回の「ROG Phone 8」シリーズもゲームを勝ち抜いていくための最高スペックとして、Snapdragon 8 Gen 3や大容量のRAM/ROM搭載をはじめ、バッテリーのデュアルセル化や内部の冷却システム改良、ゲームを楽しむための多彩な機能を搭載し、従来モデルをさらに超える「勝つためのゲーミングスマートフォン」として、仕上げられている。
その一方で、新たにFeliCa搭載によるおサイフケータイ対応、防水防塵対応の強化など、多くのスマートフォンで求められる日常生活に欠かせない機能もしっかりとサポートする方向への進化も打ち出している。これらに加え、独特のボディデザインや「AniMe Vision」による演出など、使うことを楽しくするための個性も発揮できる仕上がりとなっている。
20万円前後という価格は、決して安くないが、同等のスペックを持つ他機種と比べると、わずかにリーズナブルな価格設定とも言える。各携帯電話会社での取り扱いがないため、端末購入サポートプログラムなどが利用できないことは残念だが、au +1 collectionやIIJmioのサプライサービスを利用すれば、24回分割払いでも購入できるため、一時的な出費は少し抑えることができそうだ。
「ROG Phone 8」シリーズはゲームを存分に楽しみたいユーザーはもちろん、スマートフォンで個性を発揮したい、もっと違うフィールドで楽しんでみたいというユーザに、ぜひ一度、手に取ってもらいたいモデルと言えるだろう。