法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
Galaxy Note10シリーズで新しい方向性を模索するUNPACKED 2019
2019年8月15日 06:00
8月7日、米・ニューヨークのBARCLAYS CENTERにおいて、発表イベント「Galaxy UNPACKED 2019」を開催したサムスン。Galaxy Sシリーズと並ぶフラッグシップ「Galaxy Note10シリーズ」をはじめ、Windows on Snapdragon対応パソコン「Galaxy Book S」などを発表した。本誌ではすでに速報記事でそれぞれの発表内容をお伝えしたが、現地の様子などを含め、Galaxy UNPACKED 2019で見えてきた方向性などをレポートしよう。
Galaxy Noteシリーズが切り開いてきた道
さまざまなユーザーのニーズに応えるモデルをグローバル市場で展開し、トップシェアをキープし続けているサムスン。同社の数あるラインアップの中で、スタンダードなフラッグシップモデルとして展開されているのが「Galaxy S」シリーズであり、今年2月には10代目モデルとなる最新機種「Galaxy S10」「Galaxy S10+」「Galaxy S10e」が発表され、国内市場では夏モデルとして、NTTドコモとauから販売が開始された。NTTドコモからは2020年の東京オリンピックを記念した限定モデル「Galaxy S10+(Olympic Games Edition) SC-05L」も発売されている。
そして、もうひとつのフラッグシップに位置付けられるのがGalaxy Noteシリーズになる。2011年10年にグローバル向けに初代モデル「GALAXY Note」が発表されて以来、当初は毎年9月にドイツ・ベルリンで開催される展示会「IFA」に合わせて発表され、近年は毎年8月に米国・ニューヨークに開催する発表イベントでお披露目される形が定着している。
Galaxy NoteシリーズはGalaxy Sシリーズと対となるフラッグシップだが、Galaxy Sシリーズが当初のライバル機種に位置付けられたアップルのiPhoneに対抗するスタンダードな主力モデルとして開発されているのに対し、Galaxy Noteシリーズは大画面、ペンによる手書き入力、大容量バッテリーなどを特長として開発されてきた。なかでもディスプレイサイズは、3.5インチから4インチが主流だった時代に、当時としては『巨大な』5.3インチのディスプレイを搭載し、市場を驚かせた。ペン入力という新しい操作方法も取り入れられていたが、「こんな大きなディスプレイ、こんな大きなボディが受け入れられるはずがない」という声が数多く聞かれたのも事実だ。
しかし、いざフタを開けてみれば、各社揃って、ディスプレイの大型化を推し進め、一時的に『ファブレット』(スマートフォンとタブレットの中間的なサイズの端末)というジャンルとして扱われるなど、大画面ディスプレイがトレンドになり、今や6インチオーバーの機種も当たり前にラインアップされる時代になりつつある。
ディスプレイの大型化はボディサイズに影響する一方、バッテリーの大容量化に寄与し、初代モデルの2500mAhに始まり、今や4000mAhクラスの大容量バッテリーを搭載したモデルも登場している。バッテリーについてはGalaxy Noteシリーズとして、幻のモデルとなってしまった「Galaxy Note7」での製造不具合という失敗が思い起こされるが、その後、同社はバッテリーの安全性向上に積極的に取り組み、Galaxyシリーズの各端末で、着実に実績を積み重ねている。
そんな大画面ディスプレイと大容量バッテリーというコンセプトは、ライバル製品にも大きく影響を与えている。なかでもHUAWEI Mateシリーズはペン入力こそ、対応していないもの、直接的なライバルと捉えられることが多く、両シリーズ共に各地域で人気のフラッグシップモデルとして、高い評価を得ている。iPhoneを展開してきたアップルも2014年発表のiPhone 6シリーズの世代で5.5インチのディスプレイを搭載した「iPhone 6 Plus」をラインアップに加え、後継シリーズでは昨年、6.5インチのディスプレイを搭載した「iPhone XS Max」を投入するなど、何とか追いつこうとしている。
ペン入力については、一部にスタイラスペン搭載機種が投入されているものの、電磁誘導式ペンを採用する機種はほぼなく、スマートフォンでのペン入力は今やGalaxy Noteシリーズの最大の特徴となっている。Sペンでの書き味も世代を追うごとに着実に向上し、連動するアプリも充実している。
ユーザーのニーズに応える2モデルをラインアップ
今回のGalaxy UNPACKED 2019で発表された内容については、本誌の速報記事を参照していただきたいが、ここからは発表された新製品の印象を踏まえながら、各製品の位置付けや背景、方向性などについて、考えてみよう。
前述のように、Galaxy Noteシリーズは大画面ディスプレイとペン入力、大容量バッテリーという特徴を持ち、世代を追うごとに完成度が高められてきたが、昨年のGalaxy Note9発表時には「次期モデルがないのでは?」という声も聞かれた。その背景には昨秋の段階で折りたたみディスプレイを採用した「Galaxy Fold」(今年2月に発表)が開発中であると伝えられ、Galaxy Noteシリーズの後継になる予測があった。ただし、Galaxy Foldの折りたたみという構造は日常的な利用において、未知数の部分が多く、近く正式な発売が噂されているものの、まだGalaxy Noteシリーズに取って代わるほどの実力を持っているとは言えない。
そんな中、今回、サムスンはディスプレイサイズの異なる2機種を発表してきた。6.3インチのディスプレイを搭載した「Galaxy Note10」、6.8インチのディスプレイを搭載した「Galaxy Note10+」という2機種になる。この2機種はディスプレイ以外に、カメラ、メモリー、バッテリー容量などの仕様が違うものの、チップセットや他のハードウェアは基本的に共通で、現在、夏モデルとして販売されているGalaxy S10とGalaxy S10+の関係に準じている。
Galaxy Noteシリーズとしては、これまでGALAXY Note4発表時に、はじめてディスプレイを湾曲させたGALAXY Note Edgeをバリエーションモデルとして発表したことがあったが(日本市場はGALAXY Note Edgeのみ発売)、ディスプレイサイズの異なる2機種をラインアップしてきたのは初めてであり、これまでと少し方向性を変えてきた印象だ。ネーミングとしては「Galaxy Note10」と「Galaxy Note10+」となっているが、実質的にこれまでのGalaxy Noteシリーズの流れを継承するのはGalaxy Note10+で、Galaxy Note10が新しい路線のモデルということになる。
Galaxy Note10は、ディスプレイサイズがひと回り小さい6.3インチであるため、ボディサイズもひと回り小さく、ボディ幅は71.8mmに抑えられ、長さも151mmとなっている。これはGalaxy S10と比べ、わずか1~2mm程度しか違わないサイズで、歴代のGalaxy Noteシリーズではもっともコンパクトなモデルになる。こうしたサイズのGalaxy Note10をラインアップに加えてきた背景には、「ペン入力は使いたいけど、ボディが大きすぎて……」というユーザーの声があるとしている。
Galaxy Noteシリーズは前述のように、大画面ディスプレイを搭載する一方、ペン入力を使い、手書きでメモを取ったり、絵を描いたりできることが訴求されてきたが、すべての操作にSペンを使うわけではなく、普段は一般的なスマートフォンと同じように手に持ち、指先でタッチしながら操作する。そのため、手書き入力に興味があるものの、ボディサイズの大きさからGalaxy Noteシリーズを諦めたユーザーがいるというわけだ。実際に、筆者も女性ユーザーを中心に、そういった声を耳にしたことがある。
また、ここ数年のスマートフォンのカメラで撮影した写真をシェアするトレンドの中で、アナログな手書き入力はひとつの楽しみとして定着しており、そういったユーザーにもGalaxy Note10を使って欲しいという狙いがあるようだ。ディスプレイサイズが大きいモデルに比べ、どの程度、小さくするのかなど、調整が難しいところだが、まずはすでに世界中のユーザーから支持を得ているGalaxy S10とほぼ同サイズに仕上げることで、広く普及を狙っていきたいようだ。
ただ、このGalaxy Note10が日本市場に投入されるかどうかは、今のところ、何とも言えない。Galaxy Noteシリーズは現在、NTTドコモとauから販売されているが、保守的と言われる日本のユーザーの動向を反映してか、他のグローバル市場に比べると、それほどGalaxy Noteシリーズの人気が高いわけではなく、安定した人気を保ち続けている状況だと言われている。そのため、国内市場に投入するのであれば、まず、本流のGalaxy Note10+が扱われる可能性が高く、Galaxy Note10は市場の反響次第ということになりそうだ。
特に、日本向けモデルはおサイフケータイやワンセグなど、日本独自仕様が求められるため、各携帯電話会社が扱うのであれば、ある程度のまとまった台数が見込めることが条件になる。安定した人気があるものの、これまでのGalaxy Noteシリーズの売れ行きでは、そのレベルに届かないため、新規参入の楽天への供給やソフトバンクへの供給再開、MVNO各社向けのSIMフリーへの展開を検討しなければ、実現は難しいかもしれない。
Galaxy Note10シリーズの進化ポイント
今回発表されたGalaxy Note10/10+は、従来のGalaxy Note9までのモデルと比較して、さまざまな点が進化を遂げている。
まず、第一に注目されるのは、Galaxy Noteシリーズ最大の特徴であるSペンだろう。Galaxy NoteシリーズのSペンは過去のGalaxy Noteシリーズのレビューなどでも触れてきているように、ワコムのペンタブレットなどに採用されている電磁共鳴(EMR)方式の技術をベースにしており、これまでのモデルではエアコマンドを実現するなど、独自の進化を遂げてきた。なかでも従来モデルのGalaxy Note9ではSペンをBluetoothに対応させることで、カメラ利用時のリモコンとして使えるようにするなど、もはや手書き入力だけではない用途にまで機能を拡大してきた。
そして、今回のGalaxy Note10/10+では、この流れを継承し、Sペンにジャイロセンサーを内蔵することで、カメラ起動時にSペンを動かすジェスチャーで、カメラモードやメインカメラ/フロントカメラを切り替えたり、ズームなどの操作をできるようにしている。実際に操作した印象としては、最初はうまく操作できないものの、コツをつかむと、操作ができるようになり、シチュエーションが合えば、十分に実用になりそうだった。
また、Sペン本来の手書き入力では、Galaxy Notesが手書きで入力した文字のテキスト化を簡単にできるようにした。しかもこの認識は英数字だけに限らず、それぞれの言語をインストールすることで認識するようになるため、グローバル版に日本語環境を整えた状態で試すと、漢字やひらがなもテキストとして認識させることができた。こうして認識したテキストはマイクロソフトのOffice Mobileを使い、WORD文書にも変換することができる。つまり、[手書きでメモ]→[テキスト化]→[WORD文書に変換]という流れを経て、OneDriveなどを経由することで、パソコンなどでの文書作成に活かすことができる。仕事の内容にもよるが、現地で取材していたライター陣の間では、「まるで記者やライター向けのソリューションだ(笑)」と話していたくらいの仕上がりだった。
次の進化ポイントとしては、やはり、カメラが挙げられる。ただし、カメラは基本的にGalaxy S10+とGalaxy S10 5G(日本未発売)のものを継承しているが、Galaxy Note10+に搭載されているToF(Time of Flight)カメラは、今までにない新しい機能を実現している。ToFカメラは最近、ライバルのスマートフォンでも採用例が増えているが、基本的には被写界深度を測るための専用カメラになる。
これを使うことで、いわゆるボケ味の利いた写真を撮ることができるが、今回のGalaxy Note10+ではこれを動画に活用することで、動画でも背景をぼかしたり、ぼかしの効果を適用した撮影を可能にしている。動画でのこうした効果は、一般的にビデオカメラに装着するレンズなどによって、実現しているもので、これをスマートフォンのカメラのみで実現したのはなかなか面白い取り組みと言えそうだ。ソニーのXperia 1ではプロ用ビデオカメラのユーザーインターフェイスを採用したアプリを搭載し、注目を集めたが、Galaxy Note10+では実際に撮影できる動画そのものに特長を持たせてきたことになる。
3つめの進化ポイントとしては、DeXを軸にした環境が挙げられる。サムスンでは従来からGalaxy SシリーズやGalaxy Noteシリーズをディスプレイに接続し、パソコンライクなデスクトップ環境を提供してきた。当初は専用アダプタが必要だったが、現在ではケーブルのみで実現できるようになり、端末本体をタッチパッドとして利用する機能も備えた。同様の機能はライバルのファーウェイも「PCモード」として取り組んでいる。
今回のGalaxy Note10/10+では「DeX」これをさらに拡張し、Windowsパソコンと接続し、Windowsのデスクトップ上にDeXのウィンドウを表示することを実現した。これにより、WindowsとGalaxy Note10/10+の間でファイルをドラッグ&ドロップしたり、Galaxy 10/10+の通知をWindowsに表示できるなどの機能が追加された。Windows 10に搭載される「Your Phone」と呼ばれる機能との連携も強化されるなど、ビジネスシーンでの利用を強く意識させる強化を図っている。
この連携を強く後押しさせることを印象づけたのがGalaxy UNPACKED 2019でのマイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏の登壇だろう。元々、サムスンはGalaxyシリーズに、OnDriveやOutlook.comのアプリをプリインストールするなど、マイクロソフトと結び付きを持っていたが、今回、サティア・ナデラCEOがプレゼンテーションに登壇するなど、今まで以上に強いパートナーシップを結んだことを印象づけた。
拡がるGalaxyの世界
そんなマイクロソフトとのパートナーシップを強さをさらにアピールすることになったのがはじめてお披露目されたWindows on Snapdragon(Windows on ARM)搭載の「Galaxy Book S」の発表だろう。
話題としては、僚誌「PC Watch」や「窓の杜」の領域になるが、少しかみ砕いて説明すると、現在、私たちが利用しているWindows 10は、x86(x64)アーキテクチャで動作している。これに対し、AndroidプラットフォームのスマートフォンはCPUに米クアルコム製SnapdragonシリーズをはじめとしたARMアーキテクチャのチップセット(CPU)が採用されている。そのため、アプリをはじめとするソフトウェアには互換性がなく、それぞれの環境に対し、ソフトウェアを開発する必要があるうえ、WindowsにARMアーキテクチャの優れた省電力性能などを活かせないジレンマがあった。そこで、ARMアーキテクチャで動作するWindows RTなどが過去に提供されてきたが、残念ながら普及することがなかった。
Windows on Snapdragonは従来のARM版Windowsから構造を一新したもので、既存x86アーキテクチャのアプリケーションも動作を可能にしたWindowsとなっている。マイクロソフトは米クアルコムとも連携し、Windowsパソコンに搭載するARMコアのSoC(CPU)を開発する取り組みをスタートさせ、昨年12月には「Snapdragon 8cx」と呼ばれるSoCの開発を明らかにしている。
今回、サムスンが発表した「Galaxy Book S」は、まさにこのSnapdragon 8cxを搭載したWindowsパソコンになる。LTEの常時接続をサポートするなど、これまでのパソコンとは違った利用環境を実現する。たとえば、現在のWindowsパソコンではスタンバイから復帰し、インターネットに接続し、メールなどを受信しているが、Windows on Snapdragonの環境ではスマートフォンと同じように、常時、LTEネットワークに接続し、メールなどを受信でき、ノートパソコンを開けば、そこに常に最新情報が表示される環境も実現できるわけだ。
また、この他にも今回のGalaxy UNPACKED 2019に合わせ、サムスンはSペンによる手書き入力をサポートした「Galaxy Tab S6」、UNDERARMOURとのコラボモデルもラインアップするスマートウォッチ「Galaxy Watch Active2」も発表された。Galaxy Tab S6はこれまでのGalaxy Tabのデザインを一新したもので、Sペンを背面にマグネットで固定し、本体からワイヤレス充電をできるようにするなど、ユニークなしくみも備えている。
Galaxy Watch Active2はこれまでのGalaxy Watchで採用されてきた回転ベゼルではなく、タッチパネルでの回転操作を取り入れている。2020年を控え、スポーツに対する関心が高まっていることを考えると、日本市場への展開が期待できそうなモデルだ。
今回発表された各製品はそれぞれの国と地域で、順次、発売される予定で、もっとも早いものでは8月23日からGalaxy Note10/10+が発売される。日本市場向けは各携帯電話事業者の発表会を待つことになるが、今年は改正電気通信事業法の施行により、販売方法が大きく変わり、楽天モバイルの新規参入なども控えていることから、サムスンと各携帯電話会社がどのモデルをラインアップに加え、どのように市場に展開していくのかが注目される。