ケータイ用語の基礎知識

第946回:LiDARとは

 LiDARとは、リモートセンシング技術のひとつで、光を使って離れた物体の距離や方向を測定する技術、またその技術を使った装置のことです。読み方は「ライダー」です。名称は、「光による検知と標定」を意味する英語「Light Detection And Ranging」から来ています。

 似たような物に、電波を放ち、跳ね返ってくる反射波を使って、離れた相手の位置を特定する「レーダー(Radar)」という装置があります。LiDARという装置の原理は、簡単に言うと、レーダーの電波を光に変えたものと思えばいいでしょう。発光するレーザー照射に対する反射光を測定し、その発射時刻と観測時刻の差を求めれば対象までの距離と方向を測定できるわけです。

 一般的には、LiDARではレーザー光、つまり波長のそろった光を使います。紫外線、赤外線、近赤外線といった不可視光線を使うのが一般的です。いずれにしてもLiDARが扱うレーザー光は、レーダーが使う電波に比べてもはるかに、光束密度が高く波長が短い電磁波ですので、レーダーに比べて小さな物体や緻密な測定をするのに向いています。

 これによって、LiDARでは、電波を使うレーダーに比べて、高い精度で位置や形状などを検出できます。これは、LiDARには、レーダーでできないこと、たとえば、雲や大気の分子といったものの測定にも利用できるという特徴があることを意味します。反射によって検出できる物体は波長を下回ることができない、という物理的な特性によるものです。

 ちなみに、赤外線レーザー光を使う物を「赤外線LiDAR」、周辺の状況を立体的にするものを「3D LiDAR」などと呼んだりもします。3D LiDARは、ラスタースキャンや、ヘリカルスキャンといった走査線状のスキャンを行い三次元的に「視野」を確保し、三次元的に奥行きを表現するマップなどを作るのに利用されたりもします。

 LiDARの原理・技術自体はさほど新しいものではなく、気象や地理などの分野では1960年ころから利用されてきました。たとえば、気象の分野では、ドップラーLiDARを使いオゾンなどの大気中の微量成分や水蒸気、風、エアロゾル、雲などの分布を測定するのに使われています。パルス状のレーザー光を大気中に発射し、雲やエアロゾルからの反射光を反射望遠鏡で集めて検出、その強さやドップラー速度を測定し、観測しています。

iPad ProにもLiDARが

 もっともよく「LiDAR」という用語を耳にするようになったのは、2015年以降でしょうか。小型化され様々な機械に搭載されるようになってきてからではないかと思います。

 特に、自動運転関係のニュース・トピックなどでよく目にするのではないかと思います。自動運転実現に向けた自動車の実証実験などで、車両にこのLiDARが搭載されていることがよくあります。LiDAR、対象物までの距離はもちろん、位置や形状まで三次元的に、しかも正確に検知できることが特徴としていますから、市街地などでの自動運転には必要不可欠と考えられているのです。

 また、身近な分野では、2020年3月に発表されたAppleの新しい「iPad Pro」にもLiDARが搭載されたことがニュースになりました。このLiDARは、マイクロパルスLiDARと呼ばれるタイプのもので、微弱な赤外線レーザー光を発して周囲約5メートル以内の反射する光を測定します。

 なお、反射光を測定する方式としては、「パルスレーザー光を照射し反射にかかった時間を観測する」ダイレクトTOF(Time Of Flight)方式と、「光の周波数の位相差を時間差に変換し、速度をかけ対象までの距離を計算する」インダイレクトTOF方式があります。

 ダイレクトTOF方式はそのやり方からも分かるようにパルスレーザー光を高精度で計測する必要があるためのハードウェア要件が高くなります。光は秒速30万km、つまりわずか1ナノ秒で30cmも進んでしまうことになります。光が往復するのに1ナノ秒かかることが測れても分解能は15cmにしかならないわけです。

 それに対して、インダイレクトTOF方式は位相のずれを観測すれば良いので、計算は必要となるもののハードウェアの要件的にはダイレクトTOF方式に比べてかなり低くて済みます。

 たとえば家庭用ゲームに搭載されたLiDARなどを初め、多くの民生用LiDARではインダイレクトTOF方式が採用されています。

 しかし、最近発売されたiPad Proでは「ダイレクトTOF方式のLiDARを搭載」していることをうたっています。新しいiPad Proでは、このLiDARによって、屋内でも屋外でも最大5m先の物体の距離を測り、そこにどんなものがあるかを認識できます。

 このiPad Proでは、AR機能の強化のために使うつもりのようです。「シーンジオメトリーAPI」を含むARKitの最新のアップデートが公開される予定になっていますので、アプリケーションプログラマーは、このLiDARの機能を活用しするようなARアプリを開発することもすぐ可能になるはずです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)