ケータイ用語の基礎知識

第910回:情報銀行とは?

個人のデータを預けると利子がもらえる「銀行」

 情報銀行とは、利用者個人に関するデータを持つ事業者との契約などに基づいて、個人データを管理するとともに、利用者からの指示や、あらかじめ指定した条件に基づき、データを他の事業者に提供する事業者のことです。

 2019年6月現在、この事業を行う事業者はいません。しかし、可能性は大きく携帯電話関連だけでなくファイナンシャル関連などからも注目を集めているキーワードです。

 「情報銀行」という名前は、通常の銀行が顧客からお金を預かり利子を払うように、この「銀行」がデータを預かり、いくばくかの利用料をデータの持ち主に支払うことから付きました。他にも情報利用信用銀行、情報信託銀行、パーソナルデータバンクなどと呼ばれることもあります。

 また、総務省はこれを「情報信託制度」と呼んで、推進しようとしています。2018年11月より総務省・経産省は合同の検討会を立ち上げ、「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」という資料をとりまとめました。情報銀行を行う事業者を認定する仕組みの整備が整いつつあるので今後、事業化に向けてより本格的な動きがみられるでしょう。

総務省「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」より情報銀行のイメージ。情報銀行は個人に関するデータを他事業者に提供し、直接、または間接的に「利子」(図では「便益」)を還元する

情報銀行が個人情報をとりまとめ買い手企業に売り、利益をユーザーに

 情報銀行は、銀行が提供するPDS(パーソナルデータストレージ・Personal Data Strage)に個人に属するデータをとりまとめます。

 次に、外部への提供可・不可を選択し、情報銀行から他の事業者へデータを提供します。そのデータに応じて事業者から、あるいは銀行から情報に対する利益がユーザーに還元されます。

 情報銀行が集める個人の情報としては、様々なものが考えられますが、スマートフォンで扱えるものが多くなるだろうという予想が大半です。

 ある信託銀行は、「ヘルスケア」として心拍数、基礎代謝、筋肉量、「行動データ」として、睡眠時間、仕事時間、在宅時間、労働時間と収支の比、銀行口座残高と今週、先週の出費、というようなデータを可視化してスマートフォン上で確認できるという試験的取り組みを行いました。また、これらのデータを第三者へ提供しても良いかどうか指定(指定時にはたとえば「年間3000円」というように報酬額も表示される)する……というアプリケーションをスマートフォン用に作成しデモを行いました。

 入手するデータは、ユーザーの日常のデータ「ライフログ」でたとえば、毎日どこの駅から朝何時に出て、どこで降りた、お昼はどこにいった……今日は何歩歩いた、何時間寝た、というような、アクティビティが想定されています。

 現在は、なかなかビッグデータとしても入手できなかった個人情報を、情報銀行が名寄せ統合し、一元データとして提供することで、データの付加価値をさらに向上し、企業のマーケティングの高度化、新規サービスの創出等、様々な便益の向上に使えるようになることが、企業からは期待されています。

インターネット巨人企業からヒントを

 このような仕組みが考え出された背景には、インターネットを通じて収集した個人情報を広告や販売などに活用して巨額の利益を生み出しているGoogle、Facebookといった、現在のインターネット巨大企業の存在があります。

 これらの会社が提供するサービスの多くを、ユーザーは無料で使っています。代わりに、ユーザーは個人情報をこれらの会社に渡しています。

 しかし、我々は本当に個人情報の価値に値するだけの利益を得ているのでしょうか。

 それは、サービスを提供する会社が巨大化し、ユーザーが利益を得たと感じていないことからも明らかでしょう。

 個人データを使う企業が利益を得ているのに対し、そのデータの持ち主である個人には還元されないという不均衡を、情報銀行は是正するでしょう。情報銀行、あるいは情報銀行から個人データを購入した企業は、利用者から提供された情報の提供者に対し、「お金」(あるいは「ポイント」)といった報酬で返すからです。

 収集された情報がどのくらいの価値を生んでいるのかが不透明な現在よりは、納得がしやすい仕組みであるといえるでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)