ケータイ用語の基礎知識

第804回:SIGFOX とは

 SIGFOXは、フランスの通信事業者「SIGFOX」が提供している、IoT向けに特化したLPWA通信規格です。

  LPWAとは、本連載で解説したように、「Low Power、Wide Area」の略です。その名の通り、少ない消費電力で、km単位といった長距離の通信ができる無線通信技術のことを言います。

 日本では、仏SIGFOXから京セラコミュニケーションシステムがライセンスを受け、SIGFOXのネットワークの整備を進めています。そして、2017年現在、KDDIなどいくつかの企業が、SIGFOXの技術を使ってIoT機器を使ったソリューションに利用しようとしています。

 たとえば、本誌では「離島や山の水道を自動検針、KDDIなどがLPWAで」というニュース記事が報じられています。これは将来的に離島や山間部などで、このSIGFOXを使って無人での水道検針にSIGFOXを利用できるよう、「SIGFOX自動検針コンソーシアム」が準備を進めている、という内容です。従来、水道料金徴収のために、離島や山間部も、人が訪問してメーターを読んで水道検針を行っていました。しかし、そのような場所は水道料金の割に、検針員が訪問するためにかかる交通費や人件費が高くついてしまうという問題がありました。SIGFOXを利用すれば、遠隔地にある局まで電波を使って、機械が自動で検針結果を報告してくれるようになり、これまでと比較してぐっと低コストでしかも確実に水道使用量を計測できるようになるでしょう。

 SIGFOXの特徴としては、非常に安価で、低速、小さなデータを、遠距離まで送ることができる通信だと言えます。免許不要な周波数帯(日本では920MHz近辺の周波数帯)を利用し、端末~基地局への上り通信は100bps、下り通信は600bpsと非常に低速な通信を行います。

 各端末からの出力は20mW以下で、一度に12バイトのデータしか送りません。つまり、非常に少ないデータを超低速で送ることになるわけです。そのかわり、端末から基地局までは、最大数十kmといった長距離の通信が可能です。デバイスも非常に省電力です。2017年現在、電池1本あれば年単位で利用できるような装置もあります。

 通信費用も、データ送受信量が少ないこともあって、非常に安価です。数万台といった単位で運用すれば、1端末あたりのコストは年間数百円程度で可能とうたう業者もあります。これは携帯電話のネットワークを利用した通信と比べると桁の違う安さです。

わずか100bpsの超低速通信、しかし、低出力で最大数十kmの通信が可能

 SIGFOXの無線通信は非常に特徴的です。SIGFOXで使用する周波数帯全体は200kHzということになっています。しかし、一度にこれをすべて使うわけではありません。一回の端末から基地局への通信は、100Hz/最大2秒間。この通信を、ランダムに搬送周波数を変えて繰り返し送ります。

 周波数をその時々でランダムに換えることと、同一データは3回繰り返して送ることでほかの通信からの干渉に耐性を持たせています。開発元のSIGFOXでは、複数回送ることで通信内容を確実にする仕組みを「タイムダイバシティ」と呼んでいます。なお、SIGFOX自身がほかの通信への干渉にならないように通信チャンネルの200kHzにわたって5ミリ秒間、ほかの通信がないことを確認する「キャリアセンス」も行っています。

 端末が送った電波は基地局で収集し、クラウドを経由して各サービスやソリューション向けに提供されます。たとえば、先ほどの水道メーターであれば、各家庭のメーターがSIGFOX端末となり、数km離れた基地局に向け発信、数kmもしくは十数km感覚で設置された基地局からインターネット経由で、地元の水道局にこれらメーターが計った水道使用量が送られてくるわけです。

 ちなみに基地局から、各端末への通信は3キャリア伝送で350msの間、複数の端末に向けての指示を送ることができ、データレートは下りの3倍、600bpsの速度を出すことができます。ただし、一度の送信から次の送信タイミングまでは、上り通信を待つため、30秒間以上の間隔が必ず空きます。そのため、各端末へは大きなデータを送ることはできません。なんらかの命令の送信程度が可能な程度です。

 SIGFOXは、たとえば、機器IDと特定の数バイトのデータを数時間ごと、あるいは1日ごとというような単位で間欠的にデータを送るのに向いています。先述の、水道や電気のメーター測定といった用途に向いている方式だといえるでしょう。

 海外では、ほかにも火災報知器などのホームセキュリティ、気象観測やスマートパーキング、放牧した家畜のモニタリングなどにも利用されているそうです。なお、SIGFOXは国によって使用する周波数帯や出力が異なるため、通信できる距離も変わってきます。たとえば、米国や豪州では上り通信902MHz・下り通信928Mhzで最大4Wと出力が大きくなっており、日本での仕様よりかなり通信距離が伸びています。逆に欧州では日本より端末出力は小さくなっています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)