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Act.16「美しき“モバイルビジネス”?」
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法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、メール端末、PDAまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindows XP基本編」「できるADSL フレッツ・ADSL対応」「できるZaurus」「できるVAIO Windows XP版」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。iモード用EZweb用J-スカイ用、H"LINK用(//www.hourin.com/H/index.txt)を提供。(impress TV)も配信中。


FOMA試験サービスから1カ月

 ここ数年、常に騒がれてきた次世代携帯電話。多くの人が期待を込めて、その動向に注目していたはずだ。世界の先陣を切って、今年5月30日からNTTドコモが東京を中心に「試験サービス」として提供を開始し、早くも1カ月が過ぎた。当初の予想に比べれば、あまり話題に上らなくなってしまった「FOMA」だが、今回は次世代携帯電話について考えてみよう。


次世代携帯電話サービスの背景

 現在、国内で我々が利用している携帯電話は、PDC(Personal Digital Celluler)デジタル方式、cdmaOne方式という方式を採用している。周波数帯は異なるが、PHSも広い意味での携帯電話の一種と言えるだろう。これに対し、ヨーロッパやアジアの一部などでは、GSM(Global System for Mobile communication)と呼ばれる方式の携帯電話が採用されており、その他の国でも異なる方式を採用した携帯電話サービスが提供されている。

 こうした携帯電話の方式を世界レベルで統一し、国際ローミングなどを実現しやすくしようとしたのが「次世代携帯電話」だ。次世代携帯電話は「ITU(国際電気通信連合)」において、「IMT-2000(International Mobile Communication 2000)」という名称で標準化が進められてきた。このIMT-2000の「2000」という数字には、「2GHz帯(2000MHz帯)」「西暦2000年頃に商用化」という意味合いが込められている。IMT-2000はアナログ、デジタルと進化してきた携帯電話の方式で、3つめの世代に当たるため、「第三世代」などと呼ばれることもある。

 こうして標準化が進められてきたIMT-2000だが、残念ながら最終的に全世界で方式を統一することはできず、5つの方式にまとめられることになった。ただ、全体の方向性として、主に2つの方式が主流になることも見えてきている。そのひとつはNTTドコモやJ-フォンが採用する「W-CDMA」、もうひとつはKDDI(au)が採用する「cdma2000」だ。IMT-2000標準化の経緯やそれぞれの方式の内容については、「ケータイ用語の基礎知識」で大和哲氏が解説しているので、そちらを参考にしていただきたい。

 IMT-2000が注目される理由にはさまざまなものがあるが、最もわかりやすいのは通信速度の変化だ。

方式回線交換パケット通信
PDCデジタル携帯電話9.6kbps9.6/28.8kbps
cdmaOneデジタル携帯電話14.4kbps14.4/64kbps
PHS64kbps32kbps
IMT-2000(FOMA)64kbps384kbps


 この表を見てもわかるように、IMT-2000では通信速度が格段に向上する。ITUで標準化が進められていた段階では、「静止時に2Mbps、歩行時に384kbps、高速移動時に144kbps以上」という技術目標も掲げられていた。もちろん、この技術目標が達成されるのは少し先の話になるのだが、現在の携帯電話よりも高速化されれば、リッチコンテンツのダウンロードやテレビ電話といった使い方も現実的なものになると見られている。

 また、IMT-2000には方式がある程度、共通化されることによるメリットもある。最もよく知られているのは国際ローミングだが、実は端末を構成する部品や基地局などの設備が共通化されることにより、携帯電話事業者のコストダウンが進み、料金の低廉化につながるという側面もある。あるいは、メールやコンテンツ閲覧などのソフトウェアが共通化されれば、世界レベルで同じサービスが提供できたり、利用できる可能性も高くなる。

 こうした技術的なアドバンテージ以外に、次世代携帯電話にはもうひとつ隠された命題がある。それは周波数の利用効率の向上だ。電波は目に見えるものではないため、無限の資源のように考えられがちだが、携帯電話に割り当てられる周波数には制限があり、その帯域を同時に利用できるユーザー数にも制限がある。一定の幅の道路を走ることができる自動車の数が決まっているのと同じことだ。

 次世代携帯電話は、一定の幅の周波数帯域に従来のデジタル携帯電話よりも多くのユーザーを収容し、周波数の利用効率を高めることも目的としている。周波数の利用効率が向上すれば、携帯電話事業者はコストを下げることができ、我々はより安価なサービスを受けられるようになるわけだ。


動き出したFOMAだが……

FOMAモニター貸出機。左からNEC製の標準的な端末「N2001」、松下製のビジュアルタイプ「P2101V」、松下製PCカード型のデータタイプ「P2401」
 さまざまなメリットを持つ次世代携帯電話に対し、ここ1~2年、異常とも思えるほどの過熱ぶりが見られた。テレビや新聞をはじめとする一般メディアでは、次世代携帯電話が始まれば、誰もがすぐにテレビ電話を利用できるようになり、リッチなコンテンツが好きなように見られるかのごとく報じてきた。まるで現行の携帯電話が過去の遺物になるかのような報道ぶりも見られ、その内容を誤って解釈し、「次世代携帯電話が始まると、今のケータイは使えなくなる?」と勘違いしていた人も少なくないようだ。

 そして、5月30日。NTTドコモの次世代携帯電話「FOMA」の試験サービスは開始された。当初は商用サービスとして提供される予定が、読者のみなさんもご存じのように、約4000人のユーザーを対象にした試験サービスとして提供されている。ケータイWatchのニュースでも紹介したように、NTTドコモとしては「想定外のフィードバックがユーザーから得られるものと見られ、先に試験サービスを実施し、本格的なサービスの品質向上につなげることにした」という考えに基づいた決定だそうだ。


 これをもう少しわかりやすく解釈し、その他の情報を総合すると、事実上の延期になった理由としては次のようなものが挙げられる。まず、NTTドコモがFOMAで採用する「W-CDMA」という方式はNTTドコモが世界ではじめて商用サービスに採用するため、予想を超えるトラブルの発生が懸念されるため、本格的な商用サービスとして提供するには問題がある。また、従来のPDC方式に比べ、CDMA技術を応用した同方式は基地局に微妙な調整が必要になるため、その熟成期間(調整期間)を確保したかったからのようだ。

 W-CDMAによる初の商用サービスである難しさは想像に難くないが、本来、こうした調整やトラブル回避のための試験は、商用サービスを始める前に行なっておくべきことだ。もし、本当に試験サービスとして提供することを検討していたのであれば、もっと早いタイミングでユーザーに対して告知をすべきだっただろう。地域が限定されていたため、大きな混乱は起きていないが、今年はじめには「6月にFOMAが控えてるから、機種変更を控えるつもり」といった妙な誤解をする人も見受けられた。

 また、試験サービスのユーザー公募については、筆者自身はもちろん、ケータイWatchのスタッフ、所属する編集統轄部のスタッフなど、かなりの関係者が応募したが、当選したのは約2名がデータタイプで当選したのみで、その他は見事にすべて外れるという結果になってしまった。試験サービスとは言え、サービスが開始されながら、FOMAを取り上げることができなかった要因のひとつだ。

 公募という方法論については、筆者や編集部もいろいろと考えることがあるが、半分はグチと受け取られ兼ねないので、詳しくは述べない。ただ、試験サービスが開始されながら、それを正当なルートで試用することができない現状は、正常な報道活動が難しくなりつつあることも意味しており、読者のみなさんにはその点をご理解いただきたい。


FOMAの出来はどう?

FOMA端末のビジュアルタイプ「P2101V」。高精細な液晶を搭載しており、テレビ電話として使っても、相手の画像がかなりきれいに見える
 そんな状況の中、筆者と編集部は幸いにもFOMAで提供されている3つのタイプの端末について、非常に短期間ながら、実際に試用する機会を得た。端末を貸与していただいた方々には、この場を借りて、感謝の意を申し述べたい。

 ここで紹介する各端末及びサービスに評価については、あくまでも試験サービス中のものであり、試用期間も短かったという点を十分にご理解いただいた上で、判断していただきたい。また、筆者が試用した後、FOMA N2001は回収が発表されており、通話品質などが改善されている可能性が高いことも付け加えておきたい。

 まず、通話品質は「FOMA N2001」で試してみた。FOMAはW-CDMA方式を採用するため、従来のPDC方式よりも通話品質が向上するとされてきたが、実際に通話をしてみると、音質は独特ではあるものの、現在のPDCデジタル携帯電話に比べると、非常にクリアな音質で会話もしやすいという印象が得られた。PHSに比べると、声の自然さが足りないが、PDCデジタル携帯電話との差は歴然としている。ちなみに、基本技術に同じCDMAを採用しているcdmaOneに比べ、周りの音を拾いやすい点は少し気になった。

 次に、移動時の通話品質について試すため、クルマに乗り、移動しながら通話をしてみた。音質についてはあまり大きな違いが感じられなかったが、決定的にダメだったのは途中で通話が切れてしまうという点だ。NTTドコモがどのように基地局を配置しているのかはわからないが、どうもハンドオーバーの失敗という印象が強い。また、符号化した音声データの復元に失敗したのか、移動中に相手の声がまったく意味のないデジタルな音になってしまうというシーンも何度となく見受けられた。


 データ通信については、データタイプの「FOMA P2401」を利用し、インターネットが最も空いていると言われる早朝にダウンロードテストを行なった。FOMAのパケット通信で唯一接続できるmoperaを利用し、プロバイダーのホームページエリアからダウンロードを試みたが、実質的なパフォーマンスは100kbpsに届かず、「最大384kbps」という謳い文句にはほど遠い結果となった。早朝という時間帯にもかかわらず、スループットはあまり安定しておらず、測る度に結果が異なる状態だった。電波状況にもよるのだろうが、モニターユーザーしかいない状況で、混雑しているとは考えにくく、まだ十分なパフォーマンスが得られていないという印象を受けた。

 ビジュアルタイプの「FOMA P2101V」については、残念ながら試用できたのが端末が1台のみで、時間も短かったため、肝心のビジュアル通信を楽しむことはできなかった。当たり前のことだが、ビジュアル通信は相手があるものであり、相手も同じ方式に対応した端末を持っていなければならない。しかし、現状でFOMA P2101Vとビジュアル通信ができるのはFOMA P2101Vしかなく、その他の回線に対しては通常の音声のみに通話になってしまう。つまり、FOMAのビジュアルタイプを普及させるには、家庭用やオフィスの電話にビジュアル通信ができるものを提供するか、最近、話題のブロードバンド回線を利用し、パソコン上で動作するアプリケーションとビジュアル通信を行なうなどのアレンジが必要になる。いずれにせよ、FOMA P2101Vが登場したからと言って、いきなりテレビ電話が普及するわけではない。

 これらのことを総合すると、確かにFOMAは非常に高い可能性を持っているかもしれないが、現時点で商用サービスとして提供するにはやや無理があり、考え方によっては通信料をユーザーが負担して試験サービスを利用することすら問題があるとも言えそうだ。筆者は旧IDOが関東でcdmaOneのサービスを開始したときにもいろいろと試したが、スタート時の完成度はcdmaOneの方がはるかに高かったように感じられる。もっともcdmaOneの場合、旧IDOエリアで開始される前に、旧DDI-セルラーエリアの一部で約10カ月ほど先行してサービスが提供されていたため、一概には比較できない。ただ、それを踏まえたとしても、トップシェアを持つNTTドコモが提供するサービスとしては、試験サービスとは言え、熟成度が足らないという印象は否めない。


有機ELパネル搭載端末の登場

 サービスとして見た場合、まだまだ改善の余地がかなりあるFOMAだが、端末はどうだろうか。

 まず、NECが開発したFOMA N2001だが、この端末に搭載されているディスプレイは一般的な液晶ディスプレイではないようだ。NTTドコモもNECも正式なコメントを発表していないため、確定的なことは言えないが、FOMA N2001にはカラー有機ELパネルが採用されているようだ。有機ELパネルは自己発光をするため、液晶ディスプレイのようなバックライトが不要で、ディスプレイ部分の薄型化や省電力化が実現できるなどのメリットを持つ。

 昨年のCEATEC JAPAN 2000でも三洋電機や東北パイオニアがカラー有機ELパネルを参考出品しており、今後、液晶ディスプレイに代わる表示デバイスとして高い注目を集めていた。ただ、多色表示などがまだ十分ではなく、コストも割高なため、筆者も「いずれは有機ELの時代が来るのだろう」と予測していたレベルだった。FOMA N2001に搭載されているカラー有機ELパネルは合弁会社のNECサムスンが開発したもののようだが、数千台レベルとは言え、いきなり携帯電話に搭載してきた開発力には驚かされた。TFTカラー液晶などに比べると、発色などにまだ課題は残されているが、今後の展開が非常に楽しみだ。

 一方、ビジュアルタイプのFOMA P2101Vだが、これは正直に言って、今ひとつと言わざるを得ない。まず、手に持って驚かされるのがその重量だ。今どきの端末にしては、珍しく150gとヘビー級なのだ。ちなみに、同じPanasonicの端末としては、PDCハーフレート初代機の「P101HYPER(1995年12月発売、155g)」以来の重さ(当時はこの軽さに驚いたくらいだが)であり、折りたたみ式では「N103HYPER(1996年4月発売、160g)」に匹敵する。

 注目のカメラユニットは蝶つがいの部分に装備され、回転する構造になっている。カメラユニットを背面側に向けると、液晶ディスプレイには上下が反転した状態が映し出されるため、ボタン操作でこれを反転する仕組みになっている。こうしたカメラはパソコンにも内蔵されているが、VAIO C1の内蔵カメラは回転する途中で上下が自動的に反転し、背面側にカメラを向けても正しい状態で液晶ディスプレイに映し出される。こういった機構をFOMA P2101Vにも取り込んで欲しかったところだ。少なくともVAIO C1の半額程度のコストが掛かった商品であることを考慮すれば、決して実現不可能ではないはずだ。


 最後に、モバイルユーザーが注目するデータタイプのFOMA P2401だが、これも今ひとつ使い勝手が良くない。FOMAのパケット通信を行なうには、データ通信カードのドライバを組み込んだ後、「W-TCP環境設定ソフト」というユーティリティをインストールしなければならない。詳しい説明は省くが、W-TCP環境設定ソフトはWindowsのレジストリの一部を書き換える上、他のデータ通信カードを利用するときには設定を元に戻さなければならないという仕様になっている。ユーティリティ上で設定をワンタッチで切り替えられるが、使い勝手の面ではかなりマイナスだ。

 この他にもいろいろと気になる点は多いのだが、今回は試用期間も短かったため、これ以上の評価は差し控えておこう。10月に正式サービスが開始されれば、端末を購入し、編集部共々、しっかりとしたレビューをお送りするつもりなので、それまでお待ちいただきたい。


本当に欲しいものは何?

 さまざまな期待感を込めて報じられてきた次世代携帯電話だが、いざフタを開けてみれば、熟成がまだ不十分であり、現行の携帯電話サービスから乗り換えるにはまだリスクが大きすぎることもわかってきた。おそらく、読者の中には「なんだ、実は次世代携帯電話って、そんなものだったのか」と感じる人も少なくないだろう。

 確かに、現時点でのFOMAの仕上りはあまり芳しくない。しかし、高品質なサービスや周波数の利用効率向上のために、各社の次世代携帯電話のサービス提供は確実に進められていくはずだ。「今、FOMAがダメだから、次世代携帯電話はみんなダメ」というわけではない。この部分は勘違いをしないようにしたい。

 ただ、アナログ方式からデジタル方式に移行した当時と違い、携帯電話はかなり幅広い層に利用され、ユーザーのニーズも多様化している。そのため、次世代携帯電話への移行はゆるやかで、PDCデジタル方式などもかなり長期間に渡って、共存していく可能性が高い。もしかすると、第4世代が見えてきた頃でもPDCデジタル携帯電話などを使っているかもしれない。つまり、ユーザーとしては、本当に必要と感じられたときに移行すればいいというわけだ。何もリスクを負ってまで、急いで移行する必要はない。

 むしろ、我々がしっかりと目を向けなければならないのは、現行のサービスがどれだけきちんと提供されているかという点だ。過去、この連載では「端末の不具合」や「迷惑メール」について紹介したが、これらの問題は未だに抜本的な解決ができていない。たとえば、端末の不具合による交換では、相変わらずダウンロードしたコンテンツが消えてしまい、迷惑メールもいくつかの対策が講じられたものの、実際に携帯電話事業者が迷惑メールの発信元に対して、何らかのアクションを取ったり、具体的な成果を挙げたという報道はない。

 こうした問題を抱えた状況のまま、次世代携帯電話のサービスに移行したとして、果たしてユーザーは安心して買うことができるだろうか。使うことができるだろうか。やはり、現在の携帯電話のサービスにおいても目先の技術や宣伝文句に踊らされることなく、本当に自分に必要なサービスは何なのか、何が便利なのか、何が得なのかをしっかりと見極め、着実な選択をする必要がある。これができなければ、次世代携帯電話が本当に「買い」と言える時期は来ないのかもしれない。


・ NTTドコモのFOMAサイト
  http://foma.nttdocomo.co.jp/

FOMA試験サービス、スタンダードタイプ「FOMA N2001」を交換へ
NTTドコモ、「FOMA試験サービス」を5月30日より開始
第45回:FOMAとは
第6回:W-CDMAとは
第5回:IMT-2000とは
第51回:有機ELディスプレイとは


(法林岳之)
2001/07/11 00:00

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