26日、総務省で「モバイルビジネス研究会」の第6回会合が開催された。今回は、海外の携帯電話市場を調査した結果が報告されたほか、総務省側がまとめた主要論点の一次案が公開された。
同研究会は、今後の携帯ビジネスの発展に求められる政策を検討する会合という位置付けだが、これまでの第2回~第5回会合では、キャリアやソフトウェア事業者などから意見を聞き、現状を把握する活動が行なわれてきた。座長を務める東京大学名誉教授の斉藤忠夫氏は、冒頭に「全体としては第6回会合だが、(実質的に)今日が第1回」と述べており、いよいよ構成員による本格的な議論がスタートすることになる。
■ 欧米の携帯事情
会合の前半は、研究会構成員である野村総合研究所 上級コンサルタントの北俊一氏から、欧米の携帯電話市場に関する調査結果の報告が行なわれた。調査対象として紹介されたのは英仏独伊米の5カ国が中心となっている。
まず北氏は、英ボーダフォンの資料をもとに「日本と米国はポストペイドが多い。他の国はプリペイドが多い。ARPUは、各国ともにポストペイドはプリペイドの3~5倍にのぼる」と説明した。国によってプリペイド端末の有効期限が異なるため、単純な比較は難しく、多国間で事業展開するボーダフォンの資料が用いられる形となったが、プリペイドが占める割合を国別に見ると、ドイツは54.4%、イタリアは92.1%、英国は60.6%、アメリカは5.4%と報告された。なおボーダフォンが日本で事業展開していた2005年末に発表した資料によると、当時の日本でのプリペイド端末の割合は10.8%となっている。
販売奨励金(インセンティブ)については、韓国とフィンランドで過去、奨励金を禁止する規制があったものの、韓国は2008年3月に完全自由化し、フィンランドは2005年6月から3G端末に限って、奨励金規制を撤廃した。その他の国では販売奨励金に対する規制はないという。
■ 欧米での端末価格は?
では、各国ではどのような形で携帯電話が販売されているのだろうか。北氏は、国ごとに細部の条件は異なるものの、基本的に「期間拘束型」が主流になっていると指摘する。たとえば英国では12カ月/18カ月/24カ月という契約期間が設けられているほか、高額な料金プランを契約すれば携帯電話本体は安く購入できる。ドイツも同様の方式。フランスは、12カ月/24カ月という契約期間はあるものの、料金プランの選択と端末価格に関連はなく、また米国は24カ月契約が主流で、長期契約する場合は端末価格が安くなるという形だ。
北氏は「3月末に英国を訪ね、キャリアやメーカー、店舗を訪れた。店頭価格を見ると、12カ月以上で月額25ポンド以上というプランであれば端末価格はゼロ。新しく、高機能な機種ほど、高額プランという形。また型落ち、あるいは人気薄の機種はiPod shuffleがセットになったりする。売れ残った機種に対してはインセンティブを増して販売している」と述べた。
店頭での購入時に混乱やトラブルは発生しないのか。同氏は「量販店でボーダフォンのプリペイド端末を購入したいと相談した。すると、『このプランを特別に無料通話分を100分増やそう』と提案してきた。検討したいとその店を辞し、すぐ近くのボーダフォンショップに行って『あの店ではこういうプランを提案してくれた』と言うと、『あなたは騙されている。それは無料通話分が100分多い、高額なプランを契約するという意味だ』と説明してくれた。話を聞くと、契約期間が終了すればキャッシュバックするとのことで、結果的には支払う金額は同じでも、“安くなる”と言うばかりで、きちんとした説明は行なわれていない。安さをアピールするポスターも、小さい字で長期契約が必要と記してある。加熱する競争の中で、トラブルが増加している状況は、日本と変わりない」と述べた。
北氏は「英国の状況を見ると、2001年までは期間拘束なしか、12カ月契約という形態で、端末価格は一定だった。しかし、競争が進み、端末価格と料金プランが連動するようになってきている。市場にあわせて、変化できる環境が日本にとっても重要ではないか」と語った。
■ SIMロックの意義
これまでの研究会でたびたび話題になっているSIMロックについては、英米独は法的な規制は設けられていないものの、拘束期間内はロック(有料解除可能)し、期間終了後は無料で解除できるという。フランスとイタリアでは当局によるSIMロック規制があり、フランスは最大6カ月、イタリアは最大18カ月までロックできる。フィンランドは、3G普及のため、SIMロックを容認している状況とのこと。
北氏は、欧米で主流の期間拘束という形での販売、あるいは端末料金が料金プランに連動する場合は、ある程度販売奨励金が回収しやすい形と分析する。また、現地ではボーダフォンが「Vodafone live」、O2がiモードと、独自サービスを展開しており、各キャリアオリジナルの携帯電話が登場している。そのため、SIMロックをしていなくても、他キャリアに乗り換えれば独自サービスが利用できなくなり、他キャリアに乗り換えるメリットが少なくなるとして、「SIMロックをかける意味が失われつつある」とした。
■ MVNOの動向、そして日本が参考にすべき点とは
MVNOの動向について、まず市場シェアを見ると英国と米国では10%程度、フランスでは1~2%で最近は上昇トレンドにあるという。イタリアでは、3GへのMVNO参入が2011年まで認められていなかったが、2006年末に規制当局(AGCOM)長官の発言によって、キャリアが自発的にMVNO契約を締結しはじめているという。
そのサービス内容は、音声通話がほとんど。北氏は、「現時点ではMVNOが成功した、あるいは失敗したと判断できる段階ではない」とした。
これらの情報をもとに、北氏は欧米はようやく2Gから3G、プリペイドからポストペイドへ移行するという段階に入ったという認識を示した。これは、ローミング料金などに関して当局からの値下げ圧力が強く、データARPUの増加が見込める3Gへ移行することが重要な戦略目標とされているためで、移行促進のために奨励金は高額になる傾向にあるという。同氏は「欧米では期間拘束型プランが主流で、途中解約するとは残り期間に応じた違約金を支払う。日本と比べると、端末をよく買い替えるユーザーとあまり買い替えないユーザー間での不公平感がある程度是正されている。ただし期間拘束のため、自由度は失われている」とした。
同氏は「日本は欧州が目指す先に来ている。これからどうするか、今後の日本にふさわしいモデルは何か、他国を参考にはできない。こういった問題に直面するのは日本が初めてではないか。日本発の独自の道を選ばねばならない」と語った。
北氏からのプレゼンテーション終了後、斉藤氏は、日本市場は欧州が目指している姿という指摘を受けて、「(独特の発展を遂げた日本市場は)ガラパゴスかもしれないが、世界一かもしれない。しかし、どうすればその状況を脱して、国際競争力をつけていけるのか。海外で日本メーカーの端末が売れなくなったという事実がある」と述べた。
■ 今後の論点は?
総務省側からは、モバイルビジネス研究会で取り上げるポイントが紹介された。その内容は多岐にわたるが、まずは一次案ということで、そこに記された観点が妥当かどうかという点も提起されている。
主要論点一次案は「モバイルビジネスの活性化に向けた基本的視点」「モバイルビジネスにおける販売モデルの在り方」「MVNO新規参入の促進」「モバイルビジネス活性化に向けたその他の検討課題」「モバイルビジネス活性化に向けた施策展開の進め方」と5つの章で構成される。どのような多様性を目指すのか、販売奨励金とサービス多様化の関連、端末とサービスのバンドル、ワイヤレスブロードバンドの進展などについて、現状と今後に向けた課題が記載されている。
一次案の提示後、座長の斉藤氏は、販売奨励金がキャリアの会計上、どのような形で処理されているか、日本のキャリア向け端末でSIMロックを解除した場合、どの程度のサービスが利用できるのかといった点について、次回の会合での説明を求めた。
構成員のガートナージャパン主席アナリストである石渡昭好氏は、「SIMロックと、端末・サービスのバンドルは関連する話ではないか」と指摘。総務省側は「レイヤー間を丁寧にあぶり出す考え方が重要だろう。ネットワークとサービスといった切り分け方はあるが、切り離してモジュール化すれば良いというものでもない」と回答し、検討すべき課題との認識を示した。また同氏は、「どのような販売形態でも、一定の不公平感はあるだろう。しかし、ユーザーからすると費用がどうなっているのか、はっきりと損得がわかり、選択できるようになれば良い」と指摘した。
奨励金関連の観点については、北氏は「不公平感などをなくす方策としては、ソフトバンクモバイルが導入した割賦販売になるだろう。安く端末を購入するならば割賦という形。ただし、誰が一番不公平な立場にあるか、もう少しよく分析したほうが良いのではないか。そういった部分をデータとして持ってから見たほうが良いと思う」と述べた。
今後の技術発展を踏まえた観点として、埼玉大学教授の長谷川孝明氏は「現在のシステムが今後どの程度続くのか。音声のみ、音声とデータと発展してきて、次は音声をデータとしてやり取りする段階になるだろう。基本はネットワークとサービスの分離で、どこを協調し、どこを競争するか、そこを議論するのが肝要ではないか」と述べた。
また博報堂生活総合研究所の藤原まり子氏は「活性化に向けた議論ということだが、今後何を実現するのかという視点を持つべき。SIMロックも重要だが、9月中旬に最終報告書を出すという本研究会のスケジュールを見ると、そこで終止符を打って良いのかと不満が残る。今のビジネスの活性化だけではなく、次のチャンスを必ず物にするための施策を捉えておくべきではないか」と提案した。
構成員からの意見を踏まえ、総務省側は「垂直統合モデルはこれまで成長を実現させたこともあり、悪い仕組みとは思っていない。しかし、垂直統合と水平分業を併存させることで、今後の可能性を残したい。WiMAXなど具体的な技術は現在総務省の別の会合で検討中だが、特定の技術だけを基軸にするのは偏りが出てくるという気がしている。何を実現すべきか、ということも重要な点だ。次回会合に向けて(意見を)整理したい。論点が非常に多く、事前に予定されているものだけでなく、フレキシブルに開催していきたい」と説明した。
次回会合は、5月31日に開催される予定。なお、総務省では4月23日に「ICT国際競争力懇談会」の最終取りまとめを発表しており、その中で携帯電話については、部品産業では高い競争力を保持する一方で、端末自体は国内偏重になっていると指摘し、国際競争力の強化に向けたさまざまな取り組みを提言している。
■ URL
モバイルビジネス研究会 開催案内
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/mobile/
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(関口 聖)
2007/04/26 22:47
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