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モバイルビジネス研究会、NRI北氏「誰が損しているか」調査
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5月31日、総務省で「モバイルビジネス研究会」の第7回会合が開催された。今回は、報告書案で取り上げる論点の第2案が示されたほか、参考情報として別の研究会で進められている話題や、構成員である野村総合研究所の北俊一氏から、ユーザー間の不公平性に関する調査結果が報告された。
■ 誰が損し、誰が得しているか
会合終盤に15分程度で説明されたプレゼンテーションとなったが、まず北氏は「前回会合で、私は“頻繁に携帯電話を買い替える人と、そうではない人で不公平性があるのではないか”と指摘した。これは本研究会の最初の問題意識でもあったと思う。その一方で、研究会が進んでいく中、内外から“それは違うのではないか”という意見があがった。今回、キャリアにも協力してもらい、データを参照した」と述べた。
同氏は、ユーザーを「機種変更の頻度」「ARPU」「機種変更時の購入機種」という3項目で分類した。各項目は大中小で分けられており、機種変更の頻度では、“短い”が12カ月、“平均”が24カ月、“長い”が36カ月と定義され、ARPUは“低い”が3,000円、平均が“6,000円”、高いが“9,000円”となった。機種変更時の購入機種とは、最新かつハイエンドの機種だったり、機種変更期間が短い場合は高値で販売され、型落ち品は1円などで販売されることを踏まえたもので、販売奨励金の金額を最新機種では35,000円、平均的なものでは45,000円、型落ち品では50,000円と定義している。
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ARPUや機種変更の頻度などでユーザーを分類(野村総研資料より引用)
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同氏は、機種変更までの期間が短いが奨励金50,000円の機種を購入するようなARPUの低いユーザーが最も恩恵を受けているとし、逆に機種変更の期間が長く、販売奨励金35,000円程度の機種を購入する高ARPUユーザーが最も損をしているとした。
では、そういったユーザーはどの程度存在するのか。北氏が各キャリアからデータを提供してもらい、作成したグラフによれば、最も得をするユーザーと最も損するユーザーは、買換経験者全体の各2~3%程度になることが明らかにされた。また同氏は「ARPUが低く、機種変更までの期間も長いライトユーザーは、必ずしも損しているわけではない。逆に高ARPUで機種変更を頻繁にするヘビーユーザーが得しているわけでもない」とし、問題の本質は不公平性以前に、販売奨励金がどう回収されているか、恩恵を受けているのかどうかわからない“不透明性”にあると指摘した。
北氏は「現行の携帯電話のビジネスモデルをもう少し透明化すると、ユーザーは気づいて恩恵がないと思えば(それを避ける行動に出て)キャリアや市場の選択ということになるのではないか」と語った。
同氏からは、本研究会が追求する新市場創造、あるいは競争の活性化を実現するモデルという観点について、「たとえば全キャリアが24回払いだけのコースを用意すると、確実に買換サイクルが伸びて販売台数が減る。割賦販売の回数を1回、3回と選べたり、リボ払いにしたりできるなど、多様な販売形式が透明性を維持した上で導入されれば良いのではないか。今後の新市場創設を踏まえると、今の携帯電話に加えて、2台目、3台目の端末の普及を狙う。この分野の担い手としてMVNOが期待できる。MVNO参入促進について、どの程度ポテンシャルがあるか、定量化してみたい」と語り、次回会合で新たな資料を提出するとした。
このプレゼンテーションを受け、埼玉大学教授の長谷川孝明氏は「今後登場するであろう、広域移動無線アクセスは、大きな影響があるのではないか。実際にSkypeを内線電話として使っているが、無線LANがあれば海外にいても内線として使える。音声もデータ通信に含まれるようになる可能性もある。このあたりを大きく考慮した議論が必要ではないか」と指摘したが、東京大学名誉教授の斉藤忠夫氏は「そこを入れるととても話が複雑になる。別の会合を設けた方がよいのではないか」と語ったほか、総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 料金サービス課 課長の谷脇 康彦氏は「基本的な考えとして、“通信経路はいろいろあってサービスもいろいろある”というところで留めておきたい。つまり、できるだけニュートラルな形にして、新たに登場するであろうサービス、技術を制限しない形にしていきたい」と語っていた。
■ 奨励金とSIMロック
総務省からは、販売奨励金とSIMロックについての実態について、説明が行なわれた。まず奨励金については、端末販売用と通信サービス契約用の2つに大別できる。販売用は新規と機種変更で区別され、通信サービス契約用は、新規契約、オプションサービス獲得、1カ月間に獲得した新規回線数などに応じるもの、新規獲得から一定期間支払われるものがある。
決算の資料では、“奨励金”という項目は設けられておらず、いずれも営業費(損益計算書)として計上されている。ドコモが実施している米国会計基準による会計処理では、営業費用の「販売費及び一般管理費」とされている。またソフトバンクモバイルが導入している割賦販売の場合、端末販売が成立するとキャリアが端末代金を立て替え、ユーザーが毎月代金を支払う形だが、会計処理での割賦販売による債権は、貸借対照表の流動資産(売掛金)として計上されている。また、各社のポイント付与制度は、損益計算書では営業費だが、貸借対照表では負債のポイントサービス引当金となっている。さらに、販売奨励金を接続料原価に算入するキャリアもあれば、算入しないキャリアもあるが、その理由までは総務省側では把握していない。
SIMロックの現状については、NTTドコモとソフトバンクモバイルは、全てのW-CDMA端末で、auはCDMA 1X WINの一部機種にSIMカードが利用され、いずれも他社のSIMカードが使えないようにロックされた形となっている。仮にSIMロックを解除した場合、ドコモとソフトバンクモバイルは、音声、SMS、テレビ電話が利用できる。メールやウェブなどは技術仕様の違いから他社のサービスは利用できない。auは国内に同一方式がないため、海外事業者の回線・端末と想定されたが、ドコモ・ソフトバンクと同じように音声などは利用できるが、コンテンツなどは利用できない。総務省がヒアリングしたところ、W-CDMAとCDMA2000 1xのデュアルモード端末は、SIMカードの互換性がなく、新たに開発することになる。相当の開発費用をかければ技術的には開発できうるが、販売価格などが高くなるとの見通しが示された。
このほか参考情報としては、「IP化時代における通信端末に関する研究会」の検討状況、「電気通信事業分野における競争状況の評価2006」の移動体通信分野の評価結果、広帯域移動無線アクセスシステムの2.5GHz帯割当方針案が紹介された。
構成員からは、5年~10年先を見据え、ネットワークとサービス、端末がそれぞれ別々の企業から提供される場合、どこが相談窓口となるのか、どう責任を分担するのか、といった点について質問が出されたが、総務省側は「他の研究会でもまさに議論になっているところ」などと回答し、今後の検討課題であるとした。
■ 論点整理は……
モバイルビジネス研究会での議論を集大成する報告書案には何が記されるのか。総務省側が主要論点2次案として示したものは、前回会合の1次案と比べ、細かな点で文言が変更されている。案そのものは、「モバイルビジネスの活性化に向けた基本的視点」「モバイルビジネスにおける販売モデルの在り方」「MVNO新規参入の促進」「モバイルビジネス活性化に向けた市場環境整備の推進」「モバイルビジネス活性化に向けた施策展開の進め方」という5つの章で成り立つ。前回と比べると、第4章の名称が部分的に変更された。
それによれば、市場そのものについては「成熟化し、キャリアのシェアは固定しつつある。料金は複雑になり、端末とサービスは一体化して提供されている。またハイエンドモデルが中心となっている。モバイルコンテンツ市場は成長の余地がある」とされている。
その上で、今後の発展に向けて、現行販売モデルだけではなく、多様な選択ができるようにして競争を促進するとされ、ユビキタス化・IP化の進展、ネットワークやサービスなどのレイヤーを組み合わせる柔軟なモデルを実現して、国際競争力やユーザーの利益向上を図るとされている。
そういった改革はどの程度の時間をかけて行なうべきか、現時点ではすぐに取り組む第1フェーズ、2011年の実現を目指す第2フェーズに分け、ソフトランディングを目指す。ただし、詳細な流れを記すと中立性の観点で問題があると考えられることから、そのあたりは今後の検討していくという。
端末販売モデルについては、これまでの実績・役割を評価しつつ、奨励金が通信料で回収されていることが認知されていないこと、奨励金がARPUの1/4程度を占めると推測されることから高コスト構造の一因との指摘が為されている。SIMロックは、W-CDMAとCDMA2000と異なる方式になっていることから、解除しても効果があるかどうか不明としながらも、今後、固定網と携帯網の融合が進むことや、MVNOでの活用などを踏まえると、中長期的には実効性があるとの考えが示されている。競争促進の一環としてMVNOの参入を推進し、既存キャリアと比べて不利な参入条件にならないような環境作りの必要性を指摘している。
このほか、端末プラットフォームの共通化や携帯向けサイトの仕様共通化、メール転送などのアプリケーションに利用できるプッシュ配信の活用なども触れられている。
斉藤座長は「今は、キャリアが自分達の競争のためにやってきたが、エンドユーザーから見れば複雑な状況。端末は、とても簡単な端末、あるいは非常に高度な機種がない」としながらも、ハードランディングではなく、ソフトランディングを目指していくことが重要とした。
座長代理で神戸大学教授の泉水文雄氏は「通常は、内容と品質と対価を見て商品を選ぶが、今の奨励金モデルでは対価がわからず、より良い品質のものだけ選ぶといういびつな構造。端末メーカーが海外に出て行く上で、奨励金制度は商品開発に影響があるのではないか。具体的に記すべきではないか」と指摘した。
総務省の谷脇氏は、「大原則はユーザーの利便性向上。そして透明性と多様化が基本と思っているが、当然のことだから、と執筆しきれていない部分があるかもしれない」と述べ、報告書案に反映する考えを示した。
■ URL
モバイルビジネス研究会 開催概要
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/mobile/
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・ モバイルビジネス研究会、海外のケータイ事情を紹介
(関口 聖)
2007/05/31 19:25
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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