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TD-CDMA対応のモバイル機器用ルーター「モバイル・ブロードバンド・ゲートウェイ」
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総務省から認定書を受けるアイピーモバイル代表取締役の杉村 五男氏(2005年11月)
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アイピーモバイルは、同社が2007年春にもスタートするTD-CDMA方式の高速モバイルデータ通信サービスに向けて、都内でデモンストレーションを行なった。
2005年11月、総務大臣の竹中平蔵氏(当時)から携帯電話事業への新規参入が認められた企業は、ソフトバンク、イー・モバイル、そしてアイピーモバイルの3社だった。ソフトバンクとイー・モバイルは1.7GHz帯、アイピーモバイルは2GHz帯でそれぞれ認定されたが、その後、ソフトバンクはボーダフォンを買収し、新規に割当てられた帯域を手放した。
既存の携帯電話も含めて、アイピーモバイルが他社と大きく異なる点は、TD-CDMA方式を使ったデータ通信特化型のモバイルブロードバンドサービスを提供するという点だろう。
この方式は、W-CDMAやCDMA2000のように広域をカバーしながら、無線通信の受信(下り)と送信(上り)に同じ周波数を利用するTDD(Time Division Duplex)を採用している。1フレーム(10ミリ秒)を細かく分割し、この中にフレキシブルに上り下りを折り込むことが可能だ。このため、PHS端末のように端末間通信(アドホック通信)も可能となっている。
なお、W-CDMAやCDMA2000ではFDD方式を採用しており、上りと下りでそれぞれ別の周波数帯を設け、間にガードバンドを用意する。
TDDについて、アイピーモバイルのマーケティング・セールス部の小河原文也氏は「IP型のサービスに適している」と話しており、アドホック通信を利用して、人間相手の通信だけではなく、車と車同士の通信といったマシンコミュニケーションも期待できるという。
ベースの技術はこれまでの携帯電話の通信技術と変わらないため、広域性やハンドオーバーといった部分は問題はないとのことだが、直進性の高い2GHz帯を利用するため、FOMAなどと同様にビル内などでは電波を受けにくいといった面もある。小河原氏によれば、こうした弱点も既存の携帯電話会社の同様に中継器などで補っていくという。
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TD-CDMAロードマップ。デモはR99だった。商用化の際にはR5となり、下り最大11Mbpsの通信が可能になる予定
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事業コンセプト
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ADSLユーザーにアピール
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TDDとFDDの違い
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ニューヨークなど、都市部での採用が見込まれるTD-CDMA
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TD-CDMAは繋がりやすい
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なお、TD-CDMA方式は繋がりやすいという特徴があるため、ニューヨーク州の警察や消防の無線通信基盤として採用されている。同州では、9月11日の同時多発テロで当時アナログだった防災系無線が壊滅的な状況になったことを受けて、フルIP化を行なったとのこと。車両内の通信機やカメラなどに活用し、本部と迅速なやりとりができる環境を構築しているという。
ネットワークの目的や活用方法は、クアルコムが進めるフラッシュOFDMと似ている部分もあり、アイピーモバイル側もこれを否定していない。ただし、アイピーモバイルは国内ですでに周波数を獲得している。
■ サービス開始時はCFカード型端末
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商用サービスではCF型データ通信カードが登場する
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同社では、現在ADSLを利用しているユーザーに対し、定額料金でサービスを展開する予定だ。今回、料金については明らかにされなかったが、ウィルコムのPHSデータ通信にひけを取らない料金で提供すると話していた。すでに固定通信の世界でブロードバンド環境を体験しているユーザーに対し、屋外でもこうした通信が行なえるとアピールしていくという。
サービス開始時には、コンパクトフラッシュ型のTD-CDMA方式対応データ通信カードを提供する予定で、これにSIMカードを装着して利用する。同社では現時点でSIMフリーで提供する予定だという。なお、今回のデモンストレーションでは、PCカードタイプの製品で行なわれた。同製品は、海外のTD-CDMAオペレーター向けに製品化されているものだという。
このほか、TDーCDMA方式に対応したブロードバンドルーターなども展開する予定だ。このブロードバンドルーターでは、従来のWANに相当する部分にTD-CDMA方式のデータ通信カードを装着し、屋内は無線LANで接続するというもの。屋内外のデータ通信が1つの通信カードで済むようになるというわけだ。
ブロードバンドルーターを利用することで、例えば、会議などで複数の人が集まった場合に、社内の無線LANにアクセスすることなく、無線LANで通信が行なえるようになる。ほかにも、喫茶店などで導入されれば、気軽にホットスポットのような通信環境を構築できるという。
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TD-CDMA方式対応PCカード型データ通信カードを装着した、ネットギア製のブロードバンドルーター
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こちらのルーターにはSIPフォン用の端子も搭載されている
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■ MBGで「ポケットの中のブロードバンド」を実現
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無線LANやBluetoothに対応するさまざまな製品と接続できる
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SkypeとMBGで携帯電話ライクな利用も可能
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こうした通信スタイルを応用し、同社がモバイルの本命と捉えているのが「モバイル・ブロードバンド・ゲートウェイ」(MBG)と呼ばれる製品だ。前述のルーターには電源が必要となるが、MBGは内蔵バッテリーを搭載し、コンパクトな筐体となる。この製品でTD-CDMA方式の電波を受けて、無線LANやBluetoothでモバイル端末とやりとりする。ポケットに収まるサイズで提供する予定となるため、「ポケットの中のブロードバンド」のキャッチコピーで訴求していくという。PDA端末やPSP、mylo、携帯型のSkype端末などでの利用を想定している。
また、ウィルコムのW-SIMのように、通信モジュールでの提供を検討中だ。
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消費電力を高めるため、ルーターの通信圏内は1m程度になる見込み
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無線LAN機器で通信
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ソニーの「ロケーションフリー」と連携
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■ デモ
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デモはPCカード型の端末で行なわれた
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スループットは1.16Mbps
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デモンストレーションは、東京都千代田区のアイピーモバイルの会議室で行なわれた。商用サービスと同じ10MHz幅を使った。
基地局はビルの屋上に設置されており、1つの基地局で半径1kmのエリアをカバーしているという。GyaOの動画ストリーミングやSkypeなどを試用したが、いずれも途切れることなく利用することができた。
ただし、通常の伝送速度は2Mbps弱としていたが、gooのスピードテストなどでは1Mbps強のスループットとなった。デモを行なった時間がお昼過ぎだったため、アクセス集中タイムであったことを加えておく。通信速度自体は1.8Mbps程度のパフォーマンスと表示されていた。
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PDA端末で動画ストリーミング
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1.8Mbps程度は現状でも出るという
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デモの基地局は1kmをカバー
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デモと商用化の環境
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■ エリアカバー率の問題
同社では、商用化時点でまずCFカード型端末を提供し、それから半年後を目処に先ほどのMBGを提供する予定だ。無線通信環境を用意し、メーカーが自由に端末開発できる環境を構築するという。
また、同社に割当てられた15MHz幅に対し、データ通信サービスは10MHz幅となっている。残りの帯域を使ってパケット型の動画コンテンツ配信サービスなども検討中だ。
ただし、同社自身も認めているのがカバレッジエリアの問題だ。新規参入、つまり後発組となるため、基地局の設置はこれからが本番。サービス開始時に利用できる予定のエリアは山手線の内側となり、以降23区内、国道16号線の内側、東名阪とエリアを拡大していくことになる。現時点で他の通信事業者とローミング契約を交わしておらず、全国展開のサービスとなるには数年の時間が必要な状況だ。こうした点を補うため、MVNO先などからPHSとのデュアル端末が登場することも考えられると語っていた。
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他の通信技術との比較
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動画配信サービスを検討
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■ URL
アイピーモバイル
http://www.ipmobile.jp/
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(津田 啓夢)
2006/11/01 21:10
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