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使いやすさの先を目指した「らくらくホンV」
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シニア向けケータイとして、安定した人気を持つNTTドコモのらくらくホンシリーズ。1999年に発売された初代モデル以来、すでに累計1300万台を超える販売を記録しているNTTドコモのベストセラー端末のひとつだ。敬老の日も近いが、筆者も実機を購入したので、レポートをお送りしよう。
■ らくらくホンシリーズのメインモデル
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NTTドコモ/富士通『らくらくホンV』、サイズ:50(W)×108(H)×17.3(D)mm、113g。ゴールド(写真)、ロイヤルブルー、ラベンダーをラインアップ
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らくらくホンIV(左)とらくらくホンV(右)。全体的に突起の少ないスッキリとしたデザインに変更された
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契約数が一億を超え、市場が飽和してきたのではないかと言われる日本のケータイ市場。しかし、そんな中でも着実に販売数を伸ばしているのがNTTドコモのらくらくホンシリーズだ。1999年に当時の松下通信工業(現在のパナソニック モバイルコミュニケーションズ)が開発した初代モデル「P601es」以来、すでに1300万台を超える販売を記録しており、数あるNTTドコモのラインアップにおいて、常に販売ランキングに名を連ねるベストセラー端末のひとつだ。
らくらくホンは二代目モデル以降、一部のモデルを除き、基本的には富士通が開発を担当し、シニアユーザーをはじめ、ケータイのリテラシーがあまり高くないユーザーを対象にモデルを進化させてきた。なかでもムーバ時代に登場した「F672i」は、2003年の発売後、2004年、2005年と二度にわたり、ボディカラーが追加されるなど、国内で販売される端末としては異例とも言えるほどのロングセラーを記録した。正確な数字は明らかにされていないが、おそらくNTTドコモの端末として、もっとも売れたモデルのひとつであることは間違いない
そんな安定した人気を保ち続けているらくらくホンだが、実は昨年あたりから少しずつ方向性を変化させつつある。たとえば、ムーバ世代のらくらくホン(F672iなど)をFOMAへ移行するため、昨年、FOMA端末で同様の使いやすさとやさしさを兼ね備えた「らくらくホン ベーシック(F883i)」を発売し、既存のらくらくホンでは満足できないユーザーのために、今年4月にはおサイフケータイやワンセグ、GSM方式の国際ローミング対応などの高機能を実現した「らくらくホン プレミアム(F884i)」を発売している。これらに加え、通話のみに機能を絞った「らくらくホン シンプル」も2005年から継続して販売されており、ユーザーの幅広いニーズに応えられるラインアップを取り揃えている。
今回発売された「らくらくホンV(F884iES)」は、拡大したらくらくホンのラインアップにおいて、標準的な位置付けになるスタンダードモデルであり、もっとも幅広いユーザーを対象にした主力モデルということになる。ちなみに、らくらくホンシリーズとしては、今年4月に「らくらくホンIVS(F883iESS)」が発売され、現在も店頭に並んでいるが、これは昨年8月に発売された「らくらくホンIV(F883iES)」をバリューコースで購入できるように型番を変えたものであり、今回のらくらくホンはその後継モデルに位置付けられる。
■ オープンアシストボタンを備えたスリムボディ
使いやすさを追求し、進化を続けてきたらくらくホンだが、今回のらくらくホンVは前述のように、ラインアップが拡大していることもあり、今までとは少し違ったアプローチの改良も施されている。
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本体左側面に装備されたオープンアシストボタンにより、スリムボディも片手で開けやすくなった
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オープンアシストボタンを押すとき、反対側に装備された読み上げボタンを押してしまうことがある
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ボディ周りで言えば、オープンアシスト機能もそのひとつだ。Pシリーズでおなじみのワンプッシュオープンとほぼ同じもので、ボタンを押すだけで、端末を開くことができるメカニズムだ。らくらくホンは元々、使いやすさや見やすさを重視するため、ディスプレイを大きくしたり、ボタンを押しやすい形状やサイズにデザインする必要があり、どうしてもボディサイズが大きく厚くなる傾向があった。そこで、ボディのスリム化を考えるわけだが、折りたたみデザインの場合、端末がスリムになると、端末が開きにくくなり、通話やメールの発着信が扱いにくくなってしまう。これを解消するため、オープンアシストにより、端末を開きやすくして、扱いやすくしようとしたわけだ。同様のアプローチは、8月に発売された「N706ie」でも取り組まれている。
オープンアシストの装備により、従来のらくらくホンIVに比べ、端末が開きやすくなったことは確かだ。この機構をはじめて体験するシニアユーザーには開閉が新鮮だろうし、過去にPシリーズのワンプッシュオープンを利用した経験のあるユーザーにも喜ばれそうだ。ちなみに、ケータイ初のワンプッシュオープンを採用した「P504i」(PHSを含めると、九州松下電器の「KX-HV200」が初採用)が2002年だったことを考えると、当時、「P504i」を利用していたユーザーがシニア世代になっていることも考えられる。ただ、実際に使ってみると、オープンアシストボタンの反対側にある「音声読み上げボタン」の位置が気になった。端末を親指と人さし指で挟むように持ち、オープンアシストボタンを押すと、音声読み上げボタンを押してしまうことがあるのだ。端末を閉じているときに音声読み上げボタンを押してもサブディスプレイの表示が変わる程度なので、誤操作になるようなケースはほとんどないのだが、ユーザーの戸惑いを考えると、もう少し位置をずらすべきだったのかもしれない。
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かんたん脈拍計はインカメラに指先を10秒程度、当てて、計測する。結果も保存できる
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歩数計のデータも毎日、記録できる。筆者はたまにしか持ち歩かなかったので、この程度だが、記録の推移がわかるのは楽しい
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来モデルでは位置がわからず、不評だった赤外線通信ポートは、ボタン部背面に装備された。タニタの体組成計などとデータの送受信が可能
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また、他機種にはない新しい機能として、インカメラを利用した「かんたん脈拍計」が搭載された。しくみとしては、外部から指を透過して入ってくる光をインカメラで受け、血管の動きを陰影で捉えるというもので、機能を起動し、約10秒程度、インカメラに指を当てていれば、脈拍を測ることができる。測定結果はあくまでも目安でしかないが、結果を保存して、あとでグラフ表示などで参照できるなど、なかなか実用的かつ楽しめる機能だ。ただ、せっかくのかんたん脈拍計がiアプリの「健康生活日記」に含まれる機能のひとつとして搭載されているため、起動にはメニュー画面から数ステップが必要になるなどの不満もあり、使い勝手の面でもう少し改善を期待したい。
ちなみに、筆者が購入した端末では試していないが、「らくらくホンV」ではタニタ製の体組成計や血圧計で計測したデータを赤外線通信で受信し、FOMAで管理する機能も用意されている。「らくらくホンV」の発表会で試した限りでは、操作も比較的わかりやすく、健康管理に積極的なユーザーには有用な環境と言えるだろう。もっともこういった取り組みは、ユーザー自身に使い続けようとする意思も必要なのが難しいところだが……。
■ 進化を続ける「しんせつ」な通話機能
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ボタン部の背面に装備されたもうひとつのマイク。このマイクで周囲の音を感知し、メインマイクと連携させて、クリアな音声を実現する
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らくらくホンという名前を聞いたとき、多くの人はディスプレイ下に[1][2][3]と並んだワンタッチボタンを思い浮かべるかもしれないが、音声通話をサポートする機能も従来のらくらくホンから受け継がれてきた特徴のひとつだ。今回のらくらくホンVでも音声通話をサポートする機能として、相手の声が聞き取りやすくなる「スーパーはっきりボイス2」、周囲の騒音を自動的にカットする「スーパーダブルマイク」、自分の声が小さいときに自動的に送話音量をアップさせる「はっきりマイク」などが強化されている。
こうした音声通話をサポートする機能というと、どちらかと言えば、年齢を重ねたことで聴力がやや低下したユーザーを対象にしているように考えられがちだが、実は年齢を問わずにメリットがある機能でもある。というのも音声通話をするときの環境は、必ずしも周囲が静かなわけではなく、騒がしいことも多いからだ。
たとえば、電車のホームや飲食店のような場所はかなり騒々しいため、発着信のいずれの環境でも音声通話で相手の声が聞こえにくくなってしまうが、そのような環境でもらくらくホンVなら、通常の端末よりも快適に通話ができる。特に、FOMA端末は周囲の音を拾いやすく、騒がしい場所に敏感な傾向にあるが(あくまでも筆者の感覚にすぎないが……)、実際に通話を試したところ、通常のFOMA端末に比べ、若干、独特の音質になる感が残るものの、確かに聞きやすく、こちらの音声も伝わりやすい印象だ。ちなみに、富士通が開催したらくらくホンVの発表会レポートでも触れられているが、現在、らくらくホンはフォーミュラニッポンのドライバーとピットの間の通話にも使われている。
また、らくらくホンシリーズは大きなフォントを採用したユーザーインターフェイスも特徴的だ。たとえば、メニュー画面などもリスト形式の一覧表示がおなじみだが、実は従来モデルから一般的なケータイにもよく採用されているマトリクス表示のアイコン形式が選択できるようになっており、通常のケータイから乗り換えたユーザーにもなじみやすい環境を整えている。
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らくらくホンシリーズではおなじみのリスト形式のメニュー画面。テキストのみで構成される
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アイコンを使ったマトリクス表示のタイル形式のメニュー画面。[ガイド](右ソフトキー)を押せば、選択項目の説明が表示される
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タイル形式のメニュー画面では第2階層もタイル形式で表示される。画面のツールメニューはタイル形式選択時、待受画面から[決定]ボタンのみでも表示される
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テキストのみで構成されたタイル形式のメニュー画面。表示される文字サイズも大きいが、文字ばかりなのは好みが分かれるところ
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ただ、「らくらくホンV」では機能が追加されたこともあり、メニュー画面の構成が少し変更されており、従来モデルからの乗り換えユーザーは少し戸惑いそうな印象だ。たとえば、「らくらくホンIV」では「脳力ストレッチ」や「地図ナビ」がiアプリで実現されていたものの、正式にはiアプリに対応していなかった(ダウンロード不可)のに対し、「らくらくホンV」は正式にiアプリに対応し、メニュー画面からも起動できるようになっており、サイトからiアプリをダウンロードして、利用することもできる。
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「らくらくホンIV」では[決定]ボタンにiチャネル、方向キーの[↓]に伝言メモが割り当てられている
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「らくらくホンV」では[決定]ボタンでツールメニュー、[戻る]キーにiチャネルが割り当てられている(非表示も選択可)
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これに伴い、ボタンの配置なども従来から変更されている。たとえば、従来は中央の[決定]ボタンでiチャネルを表示できたが、今回は[戻る]ボタンに割り当てられている。方向キーの[↓]も従来は伝言メモだったの対し、らくらくホンVではiモードのメニューが表示される。
発表会では「従来モデルからのユーザーインターフェイスの継続性こそがらくらくホンの生命線」といった発言が聞かれたが、実はよく見てみると、今回の「らくらくホンV」はかなりユーザーインターフェイスにも手を入れているという印象だ。
もちろん、従来モデルのユーザーが戸惑いそうな仕様変更ばかりではなく、[メニュー]ボタンを押して、[0]を押したときに表示される「自分の電話番号」も従来モデルは電話番号が表示されるのみで、メールアドレスなどの情報は自分で入力する必要があったが、「らくらくホンV」ではメールアドレスをサイトから自動取得して登録できるようにしている。[メニュー]-[0]で電話番号とメールアドレスも表示される仕様は、従来からauが実現しているが、それ以外の事業者ではショップなどでも「自分のメールアドレスがわからない」といった質問も多く、ケータイのリテラシーが高くないユーザーには喜ばれる機能だろう。
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[メニュー]-[0]で表示される「自分の電話番号」画面では、メールアドレスを自動取得して、登録することも可能
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従来モデルに引き続き、GPSにも対応。ダイヤルボタン左下の[テレビ電話]ボタンを長押しすれば、現在地の地図表示ができる
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このほかにも従来モデルから継承したGPS機能による位置情報サービス、海外でも利用できる3G国際ローミングサービス(GSM方式は非対応)、端末を持ち上げたときに自動的にバックライトが点灯する背面ディスプレイ、騒音や揺れに反応して着信音量が大きくなる「おまかせでか着信音」など、細かい部分まで配慮が行き届いた機能が用意されており、NTTドコモが掲げる「しんせつ」「かんたん」「見やすい」をきちんと具現化した端末として、仕上げられている。
■ らくらくホンの存在を受け入れるか否か
最後に、「らくらくホンV」の「買い」のポイントについて、考えてみよう。らくらくホンシリーズは初代モデル以来、使いやすさとわかりやすさに配慮してきた端末であり、NTTドコモの定番的な位置付けをキープしてきたモデルだ。あまり知られていないが、海外にはこういった位置付けの端末がなく、海外の事業者や端末メーカーからもらくらくホンは注目される存在にあるという。昨年来、モバイルビジネス研究会をはじめ、国内メーカーの世界市場での不振ぶりが議論されたが、日本には日本のケータイの良さがあり、らくらくホンシリーズはまさにそれを体現した優れた日本のプロダクトと言えるだろう。
ただ、その一方で「らくらくホン=シニア=高齢者向け」といったイメージが強すぎるため、「いかにも……という感じなので、らくらくホンは持ちたくない」というユーザーも存在する。あまりこういった表現は望ましくないのかもしれないが、中高年以上の層に「アンチらくらくホン」的なユーザーが増えてきているように見えるのだ。それに対するアンサーが今春発売された「らくらくホン プレミアム」であったり、今夏に登場した「706ieシリーズ」ということになるのだろう。他事業者でもauがオトナのユーザーを意識したデザイン性の高い「URBANO(アルバーノ)」を投入するなど、にわかにシニアユーザー向けの端末市場は活気を帯びてきている。
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らくらくホンIV(左)と少し方向性を変えてきた印象のらくらくホンV(右)。どこまでユーザーに違いが浸透するかがカギだ
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「らくらくホンV」は、これまでのらくらくホンシリーズが築き上げてきた使いやすさやわかりやすさに対する配慮を継承しながら、こうした市場動向も踏まえ、単なるシニア向けというより、今一度、原点である「ユニバーサルデザイン」の方向性を再確認した修正が加えられているように見受けられた。たとえば、かんたん脈拍計はシニアを意識した機能なのだろうが、オープンアシストや音声入力メール、スーパーはっきりボイス2、スーパーダブルマイクなどは、ユニバーサルデザイン指向の機能であり、これらもきちんと強化が図られている。
ただ、それでも既存のらくらくホンシリーズのイメージは強く、実際に購入するユーザー、あるいはプレゼントされるユーザーがらくらくホンシリーズに対し、どういうイメージを持つのかが最終的な「買い」の判断をするポイントになりそうだ。機能的にはほぼ申し分なく、使い勝手もたいへん優れていることは間違いないが、やはり、端末そのもののイメージがユーザーによって、受け取り方が異なるため、どんなにおすすめしても「らくらくホンはちょっと……」と言われてしまうケースもありそうだ。
全体的に見て、非常に完成度の高い端末であり、らくらくホンというブランドが気に入っているユーザー、シニア向けのイメージが気にならないユーザーなら、素直に「買い」と言えるが、「いかにもシニア向けは持ちたくない」という微妙なオヤジゴコロ(オンナゴコロ)を持つユーザーは706ieシリーズや他の端末と比較してみることをおすすめしたい。特に、プレゼントをするような場合は、相手のプライドを傷つけることにもなり兼ねないので、きちんとご意向をうかがった方がより確実だろう。
■ URL
製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/product/easy_phone/foma_rakuraku5/
製品情報(富士通)
http://www.fmworld.net/product/phone/f884ies/
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(法林岳之)
2008/09/10 14:37
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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