■ バラエティに富んだラインアップを拡充
1月16日のau、NTTドコモ、1月22日のウィルコムに続き、ソフトバンクモバイルが2007年春商戦向けモデルを発表した。
ソフトバンクモバイルは昨年10月のブランド変更以降、積極的に新端末を投入し、ラインアップを拡充してきたが、今回も高機能端末やスリム端末、カラーバリエーションの豊富なモデル、ビジネス向けモデルなど、バラエティに富んだ機種を発表している。発表した機種数については、発表会で孫社長が14機種とアピールしていたが、一部モデルは派生モデルであり、実質的には10モデルと言えそうだ。なかでも「PANTONEケータイ 812SH」は、多くの時間を使って積極的にアピールし、ゲストに菊川怜、上戸彩を招くなど、演出にもかなり力が入った様子だった。
今回は新サービスやコンテンツなどについての発表はなかったものの、今年はじめに発表されたホワイトプラン向けのオプション「Wホワイト」が発表された。同時に、ニュースリリースでボーダフォン及びJ-フォン時代の料金プランや割引サービスの受付終了についてもアナウンスされた。
発表会の詳しい内容については、発表会の詳細なレポートが掲載されているので、そちらを参照していただきたい。ここでは発表された新端末を筆者が試用した印象をご紹介しよう。ただし、いずれも発売前の機種であり、発売時には最終的な仕様が変更されている可能性があることはご理解いただきたい。
■ 812SH
今回発表された機種の内、ソフトバンクモバイルが「春の主力モデル」と位置付けたのがシャープ製端末「PANTONEケータイ 812SH」だ。「PANTONE(パントーン)と言われても知らない人にはピンと来ないかもしれないが、米PANTONEは商業印刷などの分野において、世界を代表するカラーのメーカーとして知られており、色見本はデザイナーにも広く愛用されている。812SHはこのPANTONEとのコラボレーションによって、20色展開という今までにないカラーバリエーションを実現したモデルだ。実機を見る限り、ボディカラーの発色もたいへんきれいで、トップパネル周囲のメタル調パーツによって、ボディが引き締まって見える印象だ。
型番としては、従来の810/811SHに続くものだが、どちらかと言えば、昨年来、さまざまなバリエーションモデルが追加された705SHの後継に近い位置付けと言えそうだ。ボディカラー以外に特徴的なのは、「アークリッジキー」と呼ばれる緩やかな凹凸を設けたキーだ。キートップそのものが特別に大きいわけではないが、ボタンのタッチも軽く、タイプしやすい。
トップパネルにはハーフミラーのパネルが装備され、その内側に有機ELディスプレイが搭載されており、文字が浮かび上がるように表示される。日時や電波状態だけでなく、サイドキーを利用して、最大10件分の新着メールを確認できる「メール即読機能」も搭載される。
GPSやVGA液晶、AF対応カメラといった派手なスペックはないが、基本的な機能をしっかりと押さえており、他機種のユーザーインターフェイスを再現できる「おなじみ操作」にも対応するなど、カラーバリエーションだけでなく、内容的にも充実した端末と言えそうだ。
■ ホークスケータイ 812SH
812SHの派生モデルのひとつが福岡ソフトバンクホークスのオフィシャルモデル「ホークスケータイ 812SH」だ。ハードウェアのスペックは812SHとまったく同じだが、待受画面やメニュー画面、着信メロディなどのコンテンツに選手のオリジナル画像や応援歌などを採用している。こうしたカスタマイズと言えば、SHシリーズでおなじみのカスタムスクリーン機能でホークスのコンテンツが提供されており、それでも同じようなことができると考えがちだが、説明員によれば、カスタムスクリーンではカスタマイズできない部分にもホークスのオリジナルコンテンツが反映されているという。ホークスファンなら、ぜひチェックしたいモデルだろう。
■ 813SH
812SHをベースに、カメラを非搭載としたのがシャープ製端末「813SH」だ。ハードウェア的なスペックの違いは基本的にカメラの有無のみで、その分、重量が1g軽くなっている。カメラなしモデルについては、工場や研究所など、機密保持が求められる事業所などにニーズがあり、それに応えるモデルだ。こうしたモデルは他社にもいくつか存在するが、単純にカメラを外すだけでなく、マットブラックとパールホワイトのカラーバリエーションも用意しているあたりはソフトバンクモバイルらしい一面と言えそうだ。
■ 813SH for Biz
813SHをベースにしながら、さらにセキュリティ面を強化した法人向け専用モデルが「813SH for Biz」だ。通常モデルとの大きな違いは、内部データの活用をほとんどできなくし、リモートでデータの消去などを可能にするなど、情報漏えいを防ぐ機能が充実している点だ。内部データの活用をできなくしているのは、メールに画像などが添付できないばかりか、赤外線通信をサポートせず、Bluetoothもハンズフリーのみをサポートするという徹底ぶりだ。個々の法人向けにカスタマイズされたモデルが用意されることはあるが、こうした情報漏えいに対する機能を充実させたモデルがラインアップされることは珍しく、法人向け市場に取り組む意欲が感じられるモデルだ。
■ 911T
今回発表されたモデルの内、「PANTONEケータイ 812SH」と並び、注目を集めていたのが東芝製端末「911T」だ。ワンセグ対応、HSDPA対応、ワイドVGA液晶と、現時点でもっとも高スペックのハイエンドモデルと言えそうだ。
東芝としては、先日のauに続くスライド式ボディの端末だが、ディスプレイ部の方向キー周囲を波打つような形状にするなど、特徴的なデザインを採用している。スライド式ということで、操作感が気になるが、ボディそのものがスリムなため、ボタン類の操作感は比較的、スムーズだ。ただ、スライドボディを開くとき、ディスプレイ部側を押す必要があるのだが、方向キー部周辺を押してしまうこともあるため、少し操作に慣れが必要な印象も残った。
ワンセグについては、最長3時間15分の視聴が可能で、1GBの内蔵メモリに録画をすることもできるが、録画はリアルタイム録画に限られており、予約録画ができない。しかも録画したデータを外部メモリカードに持ち出せないなど、2007年向けのワンセグ端末としては、やや力不足感が残った。
また、OAKLEY(オークリー)のBluetooth搭載アイウェア「O ROKR」とのスペシャルパッケージも提供されるが、ソフトバンクモバイルとして、あるいは東芝として、911T向けにA2DP対応のBluetoothヘッドセットが提供されないというのは少し気になる点だ。もちろん、市販品を利用すればいいのだろうが、アイウェアを使わないユーザーも多くいるであろうことを考えると、やはり、キャリアやメーカーとしても何らかの提案が欲しいところだ。
■ コドモバイル 812T
昨年末に発表されたソフトバンクモバイルの子ども向けケータイが東芝製端末「コドモバイル 812T」だ。防犯ブザーや防犯ランプに加え、GPS機能を搭載し、新サービスの「イチなび」に対応する。子どもが持つことを考慮し、丸みを帯びたボディにまとめ、トップパネル側の先端に防犯ブザー&防犯ランプ用のフックが装備される。フックを引くと、防犯ブザーが鳴り、防犯ランプが点滅する。同時に、緊急発信であらかじめ指定した親などのケータイにTVコールで連絡されるが、このとき、端末を閉じた状態でもカメラが動作する。さらに、位置情報も計測され、あらかじめ指定しておいた親のケータイに情報が送信されるというしくみだ。この他にもメニュー画面を利用する年齢層や性別に合わせたものを用意したり、ソフトバンクモバイル側でもYahoo!ケータイの子ども向けメニューを準備したりするなど、機能的にもサービス的にもかなり作り込まれている印象だ。
■ 813T
昨年、発表された811Tをベースに、トップパネルなどの外装パーツをメタル調パーツに変更し、デザインを一新したのが東芝製端末「813T」だ。基本的なスペックは811Tとまったく同じとされているが、キートップのデザインも若干、変更されているようだ。先述したコドモバイル 812Tとの組み合わせで、お母さんユーザーに持ってもらうことを考えた端末という位置付けになる。
■ 706N
昨年、発表された705Nをベースに、トップパネルにハーフミラーパネルを装備するなどのデザイン変更を加えたのがNEC製端末「706N」だ。細かいところでは方向キー周りの操作感の改善もされているという。ボディはコンパクトで持ちやすいが、デザインを見る限り、今ひとつ個性がハッキリと打ち出されていない印象だ。スマートで持ちやすいスタンダードなモデルが欲しいユーザー向けだ。
■ 706P
昨年、発表された705Pをベースに、デザイン面などの改良を加えたのがパナソニック製端末「706P」だ。説明員によれば、ソフトウェアは共通で、パネルデザインやセンターキーの操作感などを改良しているという。実際に持った印象としては、パーツが集中して搭載されている液晶ディスプレイ側が重くなっており、長時間の利用では少し腕が疲れるような心配も残った。パナソニックの携帯電話ではおなじみのワンプッシュオープン機構も継承されており、こうしたオリジナリティを重視するユーザー向けの端末だ。
■ 708SC
ソフトバンクブランドへの変更以降も積極的に端末を展開しているサムスンの最新端末が「708SC」だ。すでに発売されている707SCは折りたたみデザイン、709SCはスライド式でHSDPA対応となっているが、今回の708SCはシンプルなストレートデザインを採用している。ボディは8.4mmと薄いが、707SCなどに比べると、ボタンの操作感はしっかりしており、使いやすい印象だ。
外見で特徴的なのはQVGAサイズの液晶ディスプレイを採用しながら、横が320ドット、縦が240ドットという横長の状態でディスプレイを搭載している点だ。しかし、それによって、ボタン部のスペースが広くなり、操作しやすいサイズのキーを採用できたのだという。注意すべき点としては、JavaによるS!アプリに非対応という点だろう。これは液晶ディスプレイが横長であるが、横長のゲームをそんなに短時間では用意できないという判断のようだ。また、Javaが搭載されないため、Yahoo!mocoaなどのアプリを利用するサービスはすべて非対応となっている。ただ、スリムなボディは持ちやすく、機能もひと通り揃っているため、ビジネスマンなどには支持されそうな印象だ。
■ X01NK
すでに、ノキア・ジャパンからも販売が開始されている「NOKIA E61」のソフトバンクモバイル向け法人専用モデルがノキア製端末「X01NK」だ。QVGAサイズの液晶ディスプレイに、QWERTY配列のフルキーボードが搭載された特徴的なデザインを採用している。無線LANはIEEE802.11gに対応し、オフィスなどではSIPを利用したVoIP端末にできるという。さすがに、通常デザインの端末に比べると、少し大ぶりな印象は否めないが、それでも約14mmと薄いのは魅力と言えそうだ。
■ 805SC
今回はモックアップのみの展示となったが、スライド式ボディでワンセグを搭載しているのがサムスン電子製「805SC」だ。ワンセグだけでなく、HSDPAにも対応する。ワンセグ対応端末については、国内で数社が開発しているが、805SCは初の海外メーカーによるワンセグ対応端末ということになる。
■ 707SC II
昨年から販売されている707SCをベースに、HSDPA対応としたのがサムスン電子製端末「707SC II」だ。今回はモックアップのみの展示だったが、ソフトウェアやボディデザインは基本的に従来モデルを継承する方向だそうだ。
■ 707SCスワロフスキー・クリスタルバージョン
昨年の705SHに続き、707SCでもスワロフスキー・クリスタルを全面に貼ったモデルが登場する。今回はケース内の展示のみで、詳細な仕様は確定していないが、従来モデルの例から考えて、限定モデルとして販売されることが予想される。
■ ラインアップは充実したが……
以上が今回発表された14機種だ。昨年のボーダフォン日本法人の買収以降、積極的にラインアップを拡充してきたソフトバンクモバイルだが、今回も豊富なモデルを2007年春商戦向けに投入することになる。
ただ、発表会レポートなどを読んでいただければ、わかるとおり、実質的にはセカンドモデルやリニューアルモデルと呼べるものもあり、必ずしも全機種が新製品、全機種が今年2~3月の春商戦向けというわけでもない。
これはソフトバンクモバイルに限った話ではなく、昨年秋のMNP商戦以降、各社は発表する端末の数を積極的に競う傾向があるが、どうも無理に数を揃えようとしている印象が否めない。確かに、ユーザーとしては豊富なラインアップが揃い、選択肢が増えることは喜ばしいが、端末を選ぶことだけがケータイのすべてではないはずだ。以前から何度も書いているように、ケータイは「使ってナンボ」のものであり、その意味においても発表モデル数の安易な競争はあまり意味がない。早々と発表されたのはいいが、発売される頃には存在が忘れられ、市場でのインパクトは失われているということも起こりうるだろう。ソフトバンクモバイルに限らず、今一度、ケータイを「使う」ということの意味や市場性を考えたうえで、新端末の発表をして欲しいところだ。ユーザーが求めているのは、必ずしも「数」ではないはずだ。
話を元に戻そう。今回発表されたモデルは、上記のように数を揃えようとした印象が残るものの、PANTONEケータイの812SHやハイエンドモデルの911SH、薄型ストレート端末の708SCなど、魅力的な端末も多い。製品が登場するまでにはもう少し時間があるが、今後、掲載される予定の本誌の新製品SHOW CASEやレビュー記事などを参照し、じっくりと端末を選んでいただきたい。
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孫氏は、新機種に加えて販売店についてもコメント
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また、今回の記者会見では販売施策について、少し気になる発言があったので、付け加えておきたい。ソフトバンクモバイルは買収及びブランド変更以降、販売体制の見直しを進めており、量販店での販売を強化する姿勢を打ち出している。ただ、今回のPANTONEケータイ 812SHのように、カラーバリエーション数が多くなると、どうしても既存の専売店(ソフトバンクショップ)や中小の併売店では在庫として持てる数が限られてしまうため、ユーザーが欲しいカラーのモデルを買えない可能性が出てくる。こうした状況に対する回答として、発表会の質疑応答で孫社長は「小さなショップで全色を揃えるのは難しい」「在庫がなければ、大きな店に行って欲しい」という中小のショップを切り捨てるような発言をしている。
しかし、実際の販売現場ではスーパーボーナスによる販売でわからないことが起きたり、量販店での説明が不十分であった場合、ソフトバンクショップに矛先が向くという状況が起きている。つまり、専売店にとっては、販売は量販店に持って行かれるが、サポートや苦情は自分たちに向いてくるという厳しい状況に立たされるわけだ。いくら販売体制の見直しをしているとは言え、これでは専売店や販売の現場はたまったものではないだろう。過去にソフトバンクモバイル関係者からは「もはやケータイは説明の必要な商品ではない」といった発言も聞かれたが、果たして本当にそうだろうか。ソフトバンクモバイルの販売体制や営業体制の見直しには、大きなひずみが隠されているような気がしてならない。事業を効率的に行なうことは大切だろうが、それが結果的にユーザーの不利益につながるような事態にならないことを願いたい。
■ URL
ソフトバンクモバイル
http://www.softbank.jp/
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(法林岳之)
2007/01/26 13:05
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