俺のケータイ of the Year

ENERUS WX03S

ENERUS WX03S

湯野 康隆編

 ここ数年、携帯電話業界で話題になるのはスマートフォンのことばかり。それはそれで盛り上がって良いのだが、その一方でスマートフォン特有の課題というのも何となく見えてきたように思える。

 最大の課題と言えば、やはり「電池の持ち」である。フィーチャーフォンと比べ、活用の範囲が広がったことで実使用時間が長くなったという側面もあるが、スマートフォンの便利さがバックグラウンドでの自動通信により実現されていたり、リッチコンテンツへの対応やタッチパネルの操作性を高める目的で大画面化が進んだり、より電池の減りが早くなる方向へとユーザーのニーズが移行してきたのだ。

 そんな中、メーカー各社はさまざまな工夫で電池の持ちを改善しようと努力している。CPUのマルチコア化は、もちろんパフォーマンスの向上という側面もあるが、どちらかというとスマートフォンでは電力消費を抑える目的で採用されている。Wi-Fiを含め、通信まわりの最適化も電池持ちの改善につながる。さらに、バッテリー消費の最大の要因となっているディスプレイ周辺での工夫もまた今年のトレンドだろう。とりわけ、シャープのIGZOなんかは、使い方次第ではあるが、電池の持ちを劇的に改善する技術として注目を集めた。

 そうした正攻法ともいえる涙ぐましい努力がある一方で、誰も見たことが無いような変化球として投じられた一球がある。SIIがウィルコム向けに投入した「ENERUS」(WX03S)である。

 ENERUSのアプローチは単純明快で、1700mAhのバッテリーを内蔵し、本体に装備されたUSBポートからスマートフォンに給電できる、というもの。さらに、「SOCIUS」(WX01S)で初搭載されたBluetooth子機機能を継承することで、スマートフォンと組み合わせて使用する2台目としてのポジションを狙うという、半ば自虐的な方向性である。

 ここまで来ると、ちまたのタブレット製品のようにWi-Fiのみのモデルを出してほしいと思えるほど。ウィルコムには失礼な話で恐縮だが、回線契約無しでも便利に使えるというところは、すなわち製品単体としての価値の高さを表しており、この点においては、まさしく類を見ない突き抜けた製品だ。

 SIIというメーカーが侮れないのは、「SOCIUS」と「ENERUS」の間に「PORTUS」(WX02S)というソフトバンクのULTRA SPEED対応のWi-Fiルーター機能を搭載したモデルを投入するなど、的確にニッチな領域を攻めてくるところだ。ユーザーとしてはスマートフォン1台で問題無く使えるという状況が最も幸せだろうし、そうしたニッチな領域がいつまで残っているのかは分からないが、他には無い強烈なアイデアで再び我々を驚かせて欲しい。

湯野 康隆