レビュー
「iOS 9」ファーストインプレッション
「iOS 9」ファーストインプレッション
iPadのマルチタスキングが最大の目玉
(2015/9/17 08:50)
9月17日未明(アメリカ西海岸時間9月16日)よりiPhone/iPad/iPod touch向けのiOSの最新版、「iOS 9」の配信が開始されている。
iOSのメジャーアップデートは、毎年この時期の定番となっているが、今年のアップデートはやや地味だ。例年アップルは「これまでで最も大きなiOSのリリースです」などと謳っているが、今年はそうしたコピーは謳われていない。しかし地味な使い勝手の進化が見られているので、そのあたりをピックアップしたファーストインプレションをお届けする。
なお、毎度のことではあるが、こうしたメジャーアップデートではアプリなどで不具合が起きる可能性があるので、どうしても使いたいアプリがある場合、iOSアップデート前にそのアプリがiOS 9でも問題なく動くかを確認しておこう。
とくに今回のアップデートではMVNOによるデータ通信に一部問題が生じていることが報告されているので、MVNOでiOSデバイスを運用している人は注意が必要だ。
アップデートはいつも通り簡単
iOS 9へのアップデートに対応するデバイスは、「設定」の「一般」にある「ソフトウェア・アップデート」から無料でiOSをアップデートできる。パソコンのiTunesを使ったアップデートも可能だ。
各種データを削除せずにアップデートできるが、トラブルでデータが消失する可能性も否定できないので、事前にバックアップを取ることをオススメする(普段からiCloudバックアップを使うのがベストだ)。
アップデートには数十分かかることがあるので、時間的に余裕があるときに行おう。ダウンロード中はほかの操作が可能だが、アップデートのインストール中は一切操作できなくなる。
iOS 8.4からのアップデートに必要な空き容量は1.3GB。iOS 7.1からiOS 8へのアップデート時には4.6GBが必要だったが、この必要容量の減少もiOS 9の特徴としてあげられている。ちなみに一部機種ではアップデート情報に容量として「1.2KB」などと書かれているが、さすがにそれは間違いだと思われる。
対応機種はiPhone 4s以降、iPad 2/mini以降、iPod touch第5世代以降。iOS 8と対応機種は変わっていない。iPhone 4sというとデュアルコアになったところなので、ここが一つのスペックの壁になっていると思われるが、2011年発売のiPhone 4sでも最新OSが使えるのはありがたい。
iOS 9に合わせて、パソコンのiTunesや開発キット「Xcode」もアップデートが配信されている。なお、同時期のリリースとされていたApple Watch向けのwatchOS 2は、まだリリースされていないようだ。
目玉はiPadのマルチタスキング。ただし限定的対応
iOS 9の大きな変化としては、iPadにおいて複数のアプリの同時表示が可能な「マルチタスキング」機能が搭載された。iOS 9のマルチタスキングは3つの種類がある。
「Slide Over」は全画面アプリの上に、別の第2のアプリを一時的に表示するというもの。このとき、全画面アプリは一時的にグレーアウトして操作できなくなり、第2のアプリはスケーラブルな表示に対応したアプリに限定される。しかし全画面アプリ側はどのアプリでもOKで、画面の右側からスワイプすることで第2のアプリを表示できる。
「Split View」は「Slide Over」と似ているが、こちらは両方のアプリがスケーラブルな表示に対応しているときに限定される。その代わり、どちらのアプリもグレーアウトされず、同時に操作できる。たとえば両手を使い、左のSafariと右のマップで同時にピンチ操作で拡大縮小を行なうことも可能だ。
このほかにもFaceTimeやビデオの映像の表示中、ホームボタンを押すと、映像を小さくオーバレイ表示したまま、ホーム画面やほかのアプリを操作できる「ピクチャ・イン・ピクチャ」の機能も追加されている。
「Slide Over」や「ピクチャ・イン・ピクチャ」の全画面アプリ側は、ほぼすべてのアプリでOKだが、第2のアプリや「Split View」はマルチタスキング向けに作られたアプリに限定される。現在のところ、このマルチタスキング向けアプリはアップル純正アプリが主だが、たとえば9月14日更新の「ウィズダム英和・和英」アプリも利用できた。
また、「Split View」はiPad Air 2とiPad mini 4、iPad Proの3機種でしか利用できない。プロセッサとしてA8X/A8/A9Xを搭載した昨年以降の機種ということになる。一方、「Slide Over」と「ピクチャ・イン・ピクチャ」はiPad Air以降となっていて、iPad mini 2など、A7チップ搭載のiPadでも利用できる。なお、iPhoneは一切対応していない。
基本UIに変更はないが、Spotlight検索とSiriの統合が進む
ホーム画面や通知センター、コントロールセンターなど、基本となるUIに大きな変更はない。いちおう標準フォントが追加されているようだが、英数字、それも「7の斜め線が曲線だったのが直線になった」など非常に細かい違いしかない。
アプリ間遷移のUIが追加されており、何かのアプリから別のアプリを起動した場合、前のアプリに戻るためのUI要素がステータスバーのアンテナ表示の位置に表示されるようになった。Androidでいうバックキーのような使い方が可能になったわけだ。
iPhone内のローカルデータを検索する「Spotlight検索」はネット検索と統合が進み、ローカルデータとネットを同時に検索できるようになった。
Siriとも一部統合されており、「東京の天気」など、Siriと同様に自然文から直接結果を表示できるようになった。株価や計算、単位換算なども可能だ。
Siriも地味に進化。iOS 9からだと日本のプロ野球の結果が検索できるようになっている。自然文によるコマンド命令やローカルデータの検索も強化されていて、たとえば「福岡の写真を見せて」と聞けば、福岡で撮影した写真のサムネイルが表示される。
また、Siriではないが、先読み提案の機能が強化されていて、ヘッドフォンをつなぐと再生する音楽が提案されたり、メールの宛先を入力するといつも同時送信してる人が提案されたりするようになっている。
iOS 8のSpotlight検索は、ホーム画面を下にスワイプして表示させていたが、iOS 9の検索は、ホーム画面1ページ目を右スワイプすることでも表示できる。右スワイプの画面では、文字入力前からニュースやアプリのサジェスチョンが表示される。
基本UIとしてはiPadの標準キーボードがやや進化し、キーボード上の変換候補を表示するラインにショートカットボタンが追加された。また、キーボード上を2本指でスワイプすることでカーソル操作が可能となっている。
また、地味な変化だが、英字キーボードでは入力モードに応じて表示が大文字・小文字で切り替わるようになっている。こちらはiPhoneの方でも変更されている。
ホームボタン2回押しで呼び出すタスクスイッチ画面のデザインも変更されている。従来はよく使う連絡先も表示されていたが、それは前述の検索画面に移っている。別のiOSデバイスやMacで使用中の「Handoff」のアプリは、タスクスイッチ画面の下に表示される。
基本アプリでは「メモ」が大幅に進化
標準搭載されるアプリとしては、「メモ」アプリが大幅に強化され、写真や手書きメモ、サムネイル付き各種リンク、チェックリストなどを本文に入れられるようになった。従来の「メモ」もフォントサイズの変更など、簡単なリッチテキスト機能があったが、ここが大幅に進化している。
ただしこの機能、Macユーザーは注意が必要だ。新しい要素をiCloudで同期するには、iCloud上のデータをアップデートする必要がある。そしてこれをアップデートしてしまうと、新機能に対応しない「メモ」アプリはiCloudで同期できなくなる。Macの「メモ」アプリが新機能に対応するのは、10月1日公開予定の次期バージョン「OS X El Capitan」からなので、それまでMacでメモが扱えないことになってしまう。
「メモ」のiCloudデータをアップデートしない選択もできるので、「メモ」を活用しているMacユーザーは、MacをアップデートするまでiCloudのアップデートを行わない方が良いだろう。
「設定」はバッテリー項目などが追加
「設定」アプリには「バッテリー」という項目が追加となり、iPhoneでは「低電力モード」が追加された。従来は「一般」の「使用状況」から確認できた各アプリのバッテリー使用状況は、この「バッテリー」に表示されるようになっている。低電力モードはバッテリー残量が少ないとき向けの機能で、アプリのバックグラウンド動作が制限されたり、一部のビジュアルエフェクトがオフになったりする。
また、「設定」アプリに検索機能も追加されている。ありそうでなかった便利機能だ。とくに「設定」アプリにはサードパーティアプリの項目も追加されるので、それらも含めて検索できるというのはかなりありがたい。
細かい点だが、Touch IDと組み合わせるパスコードが6桁に変更されている。アップデート時は以前から使っているパスコードから変更されないが、クリーンインストール時には6桁パスコードの設定が求められる。ただしこれは4桁のパスコードに変更することも可能だ。また、Touch ID非搭載機では引き続き4桁のパスコードとなっている。
クラウド関連が強化されるも、肝心のマップは……
「マップ」アプリではルート検索の際、徒歩+公共交通機関の乗換検索が可能となっている。しかしこの機能、現段階ではアメリカの一部都市、メキシコシティ、ロンドン、中国のみの対応で、日本は利用可能なエリアに入っていない。
各アプリのファイルをクラウド同期させる「iCloud Drive」も少々変更された。といっても、iCloud Drive自体が変更されたのではなく、iCloud Drive上のファイルを閲覧するための新アプリが追加された。このアプリは「設定」の「iCloud」にある「iCloud Drive」で「ホーム画面に表示」をオンにすると表示される。
これまでのiOSでは「アプリありき」でしかドキュメント管理ができなかったところが、パソコンのような「ファイルありき」の管理も可能になるので、パソコン慣れしてる人には便利な変更だ。
iOS 9では北米など主に英語圏向けに「News」という新アプリが追加されているが、日本では追加されていない。あとは標準アプリの「Passbook」が「Wallet」という名前に変更されている。
Apple初のAndroidアプリ? 移行ツールも提供
iOS 9の公開と同時に、Android端末からiOS端末への移行をサポートするアプリ「Move to iOS」がGoogle Playにてリリースされている。iOS 9では初回起動時あるいはフルリセット後、バックアップからの復元を選択する画面に「Androidからデータを移行」という項目が追加されており、ここでAndroid上のアプリを連携させることで、各種データの移行が可能となる。
ちなみに夏から開始してる「Apple Music」も今秋よりAndroidに対応予定なので、その際にもアップル製Androidアプリがリリースされると思われる。
マルチタスク以外は地味なアップデート
iOS 6→iOS 7では見た目が一新され、「すげー変わった!」という印象が強かった。iOS 7→iOS 8では見た目の変化がほとんどなく、「あまり変わらないかな?」とも思えたが、システムを拡張するようなアプリがサードパーティに開放されるという、かなり大きな変更があった。
そうした過去のメジャーアップデートに比べると、今回はiPad向けのマルチタスキング機能は大きな変化ではあるが、それ以外のポイントは、比較的地味という印象を受ける。とくにマルチタスキング機能が追加されなかったiPhoneでは実感しにくいメジャーアップデートだ。
あえていうと、SiriとSpotlight検索の統合が進み、「なんでもとりあえずSiriに聞くか検索画面に入力」という使い方が進化しているのが注目ポイントと言えるだろう。iOSが先読みをして、いろいろな提案をするという機能が強化されているのも面白い。
「秘書化」あるいは「執事化」はパーソナルデバイスの本質でもあるので、今回の機能強化がどのくらい実用的か、しばらく使って見定めたいところであり、今後の継続的な進化にも期待したいところだ。
その一方で、iOS 9はグラフィックAPI「Metal」を基本UIにも使ってパフォーマンスを向上させるなど、基礎部分もいろいろ改善が施されているという。ヘタに実用性の低い新機能を追加されるくらいなら、こうした基礎部分の改善に力を入れてもらった方が、使っている側としては嬉しいところでもある。
サービス関連の日本対応がどこまで進むかも注目だ。「Apple Pay」に加え、「マップの乗換検索」や「News」など、日本対応待ちリストはどんどん追加されている。日本のプロ野球対応は、先祖代々ベイスターズファンの筆者としては大歓迎だが、それだけではちょっとさみしいので、対応待ちリストが次のiOS 10を待たずに消化されていくことを期待したい。
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